不死身の遺言書

未旅kay

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一章.

9話.ですわ

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 人間を模された元人間━━王色 おうしょく染毬そまりは、道を外した科学者、技術者にいて知らないものはいない有名な天才科学者だった。道を外していなくとも、生命科学を目指す者にとっては、尊き憧れやいやしい憎しみを抱く対象であっただろう。両手で数えられる年齢の頃には、米国のとある名高い大学の上席研究員であり、多くの功績を挙げてきた。
 しかし、ある時から彼女は表舞台から姿を消滅した。出る杭は打たれるのだ。彼女の場合は、打ち付けられた場所が腐っていた。後々のちのち、腐り果てた木材は原型を保てずに崩れ、杭も共に奈落へと堕ちるのだ。



 私が光世橋女学院に出向いている間、人間を模したソレ━━王色 染毬は三階の私の部屋に座っていた。染毬は無言で私の寝床に横たわる清香の手を握ったまま目を閉じる。

 「脈拍正常。異常なしだわ」

 森閑しんかんの中で染毬の呟かれた音声だけが、空気の波を揺らした。

 「彼を調査する為にわざわざ、……ここまで来たのが天才の私の好奇心を満たすためが故なら仕方がないですわね」

 約一日、意識を失っていた清香がゆっくりと瞼を開いた。清香は純白のシーツを、フワリと掛けられた我が身を目視する。扉から吹き込む隙間風が敷布シーツと胴の間を通り過ぎると、肌をかすめる布との接触面積に違和感を感じ始めた。恐る恐る、敷布シーツめくり中を覗き込んだ。一糸纏わぬ自身の肌を視認する。清香は、慌てず天井を仰いだ。

 「あーーーー。……はぁ」

 「叫ばないのかしら?」

 染毬は統計的に、警視庁からの監視者が絶叫するのではないかと予測していたが、短い吐息を漏らす彼女の反応に疑問を抱くのみだった。天才の彼女も人間の行動パターンまでは、推測しかねるのかもしれない。

 「……まぁ。しょうがないのかなぁって、思ってね。そりゃあ、涼川カレは不死身なだけじゃなくて、不老らしいし、あたしの歳と彼の止まっちゃった肉体の年齢って大した変わらないっぽいから……必然だったのかも」

 清香は、しくも火照ほてり始めた自身の肌を両手で大きくこすり始めた。染毬はこのまま、清香の誤解を放置するのもやぶさかではないと思案するも、自身の所為で約一日間、昏睡状態にさせてしまった事に何も思うところがない訳でも無かった。ほんの少しは申し訳ないという気持ちがあったのだ。

 「涼川……照望には貴方は何もされていないですわ」

 「……え?」

 「貴方の貞操を奪えるほど、この建物の環境セキュリティーは無粋ではなくてございます。何より、照望の引き取りがいるのだから」

 「えええええぇ!じゃあ、逆に何であたしは裸ァ!それよりも、あなたは結局、誰なんですか!」

「最終的には、……叫ぶのですわね」

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