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一章.
10話.行方の果てに
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「保護者会……出席しなくてよかったんですか?」
「私が保護者を名乗るのは憚れる空気が漂っている中にいたくはないんだよ」
「ともちゃんセンセーは喜ぶんじゃないですか?」
学院からの帰りの道すがら。日和に皮肉や不満を容赦なく投げつけられていた。
「……。日和、友達いたんだな」
「照望さん!いますよぉ!高等部に進んでも、皆んな同じ学院内なんですから。友達を作らないのは、利口的では無いですし……気づいたら四、五人できてました」
「そういうものか。家じゃあ、殆ど学院のことは話さないじゃないか」
「聞かれないだけですぅーーだぁぁあ!」
私の上着の裾を掴んで引っ張りながら、日和は駄々をこね始めた。
「でも、照望さんだって、お仕事で突然出かける時に私たちには何も言わないじゃ無いですか」
「急用が多いんだ。黙認してくれたらありがたい」
「黙認してあげてるじゃないですかぁ」
日和の声のトーーンが少し上がった。日和が機嫌を持ち直してきた。
「私のこと大事ですか?」
「ああ、大事だ」
当たり前だ。現在、日和以上に大事な存在はいない。
「本当に本当ですか?」
日和の大きな瞳が私を覗き込んだ。日和の口元が緩んだ。
「ちょっと、もう一度言ってもらっていいですか?録音するんで」
完全に本調子へ戻ったようだ。
「到着したら、金髪美少女ちゃんをしっかりと紹介して下さいね」
「無論だ」
「そういえば、照望さんが体を張って守った清香さんは、目を覚ましたでしょうか?」
「あの天才娘が、今日中には目を覚ますと言っていたんだ。既に目を覚ましていても、おかしくはないさ」
私は今日の朝、窓から清香を放り投げた張本人に彼女の容態と、いつ頃に意識取り戻すのかを尋ねていた事を思い出す。
「何で、あんなに酷いことを金髪ちゃんは……やったんでしょうか?」
「アイツは、科学者だ。九十九パーセントを信じない。一パーセントでも、私が人間じゃない確証があれば実験をして確かめる」
「でも、やりすぎじゃないですか?清香さんを二階から放り投げるだなんて……それが実験だなんて」
「私が昔の私であるかどうかにも、興味があったそうだ」
染毬の知っている私であるかどうかを、確認しようとしたのだ。
道路側に姿勢が傾く日和の肩に手を添えて、歩道側に誘導しながら元廃ビル━━私たちの住居を眺めた。昨日割られた、窓ガラスは何事も無かったかのように元どおりだ。
「学院に行く前、総一郎に連絡をしたんだ。清香の特殊課としての必要経費で、業者に修理させた。そして、ちょっとばかし言いずらいのだが……明日から少しの間、留守にしようと思う」
「別に……言えばいいってわけじゃ無いです」
警視庁にいる総一郎と染毬が、電話によって接触した。その際、総一郎から染毬の欲していた情報を得ることが出来た。そのことで、少しばかり遠くに行かなくてはならない事情が出来たのだ。考えようによっては、今日が日和の授業参観の日で有難いと思った。親代わりでは無いにしても、彼女を引き取り養っている身としては、学院での日和の生活や彼女を取り巻く環境に興味があったからだ。
「分かりました。気をつけて下さいね」
「一応、私がいない間、清香は一階に健在だろうから。仲良くしてくれ」
「清香さん、優しいから大丈夫でーす!」
私は二階へ、日和は荷物を置きに三階の自室へテンポ良く階段を上がった。
二階の扉を開くと、バネが依然と飛び出したままのソファに金髪天才少女━━王色 染毬と、相変わらずワイシャツを着た監視者の堂川 清香が雑談をしていた。
「あ、おかえりなさい!」
「清香、具合は大丈夫か?」
「はい。おかげさまで。昨日は何だかんだ、助けていただき有難うございます」
被害者と加害者が同じソファで会話に花を咲かすという構図は、異様でしか無いが、被害者である清香が真っ当に会話をしているのなら、心配はあるまい。
「清香さーーん、体調は大丈夫ですか?」
三階から、突っ走ってきた日和が清香にソファの後ろから抱きつく。
ここまで、自身の負わせた一時的な傷害の用件について会話が繰り広げられているにも関わらず、染毬は相変わらず罪悪感すら感じていないようだ。
「そうですよ!照望さん、彼女の紹介を!」
「あぁ、そうだったな」
私は端正な顔立ちの、仮初の表情を浮かべた元人間の側腹部をツンツンと突っついた。素っ頓狂な声で喘いでから、しぶしぶ染毬は首肯する。
「ヒャッ。別りましたよ」
染毬はギシリとソファを軋ませ、勢いよく立ち上がった。軸のぶれない一回転をすると昨日の半裸とは様変わりした、ゴスロリドレスのスカート丈を掴み深々と礼をした。
「昨日は意識不明にさせてしまって申し訳ないわ。私は王色 染毬。宜しくですわ」
数秒後、女性二人のキュン死体が出来上がった。
「私が保護者を名乗るのは憚れる空気が漂っている中にいたくはないんだよ」
「ともちゃんセンセーは喜ぶんじゃないですか?」
学院からの帰りの道すがら。日和に皮肉や不満を容赦なく投げつけられていた。
「……。日和、友達いたんだな」
「照望さん!いますよぉ!高等部に進んでも、皆んな同じ学院内なんですから。友達を作らないのは、利口的では無いですし……気づいたら四、五人できてました」
「そういうものか。家じゃあ、殆ど学院のことは話さないじゃないか」
「聞かれないだけですぅーーだぁぁあ!」
私の上着の裾を掴んで引っ張りながら、日和は駄々をこね始めた。
「でも、照望さんだって、お仕事で突然出かける時に私たちには何も言わないじゃ無いですか」
「急用が多いんだ。黙認してくれたらありがたい」
「黙認してあげてるじゃないですかぁ」
日和の声のトーーンが少し上がった。日和が機嫌を持ち直してきた。
「私のこと大事ですか?」
「ああ、大事だ」
当たり前だ。現在、日和以上に大事な存在はいない。
「本当に本当ですか?」
日和の大きな瞳が私を覗き込んだ。日和の口元が緩んだ。
「ちょっと、もう一度言ってもらっていいですか?録音するんで」
完全に本調子へ戻ったようだ。
「到着したら、金髪美少女ちゃんをしっかりと紹介して下さいね」
「無論だ」
「そういえば、照望さんが体を張って守った清香さんは、目を覚ましたでしょうか?」
「あの天才娘が、今日中には目を覚ますと言っていたんだ。既に目を覚ましていても、おかしくはないさ」
私は今日の朝、窓から清香を放り投げた張本人に彼女の容態と、いつ頃に意識取り戻すのかを尋ねていた事を思い出す。
「何で、あんなに酷いことを金髪ちゃんは……やったんでしょうか?」
「アイツは、科学者だ。九十九パーセントを信じない。一パーセントでも、私が人間じゃない確証があれば実験をして確かめる」
「でも、やりすぎじゃないですか?清香さんを二階から放り投げるだなんて……それが実験だなんて」
「私が昔の私であるかどうかにも、興味があったそうだ」
染毬の知っている私であるかどうかを、確認しようとしたのだ。
道路側に姿勢が傾く日和の肩に手を添えて、歩道側に誘導しながら元廃ビル━━私たちの住居を眺めた。昨日割られた、窓ガラスは何事も無かったかのように元どおりだ。
「学院に行く前、総一郎に連絡をしたんだ。清香の特殊課としての必要経費で、業者に修理させた。そして、ちょっとばかし言いずらいのだが……明日から少しの間、留守にしようと思う」
「別に……言えばいいってわけじゃ無いです」
警視庁にいる総一郎と染毬が、電話によって接触した。その際、総一郎から染毬の欲していた情報を得ることが出来た。そのことで、少しばかり遠くに行かなくてはならない事情が出来たのだ。考えようによっては、今日が日和の授業参観の日で有難いと思った。親代わりでは無いにしても、彼女を引き取り養っている身としては、学院での日和の生活や彼女を取り巻く環境に興味があったからだ。
「分かりました。気をつけて下さいね」
「一応、私がいない間、清香は一階に健在だろうから。仲良くしてくれ」
「清香さん、優しいから大丈夫でーす!」
私は二階へ、日和は荷物を置きに三階の自室へテンポ良く階段を上がった。
二階の扉を開くと、バネが依然と飛び出したままのソファに金髪天才少女━━王色 染毬と、相変わらずワイシャツを着た監視者の堂川 清香が雑談をしていた。
「あ、おかえりなさい!」
「清香、具合は大丈夫か?」
「はい。おかげさまで。昨日は何だかんだ、助けていただき有難うございます」
被害者と加害者が同じソファで会話に花を咲かすという構図は、異様でしか無いが、被害者である清香が真っ当に会話をしているのなら、心配はあるまい。
「清香さーーん、体調は大丈夫ですか?」
三階から、突っ走ってきた日和が清香にソファの後ろから抱きつく。
ここまで、自身の負わせた一時的な傷害の用件について会話が繰り広げられているにも関わらず、染毬は相変わらず罪悪感すら感じていないようだ。
「そうですよ!照望さん、彼女の紹介を!」
「あぁ、そうだったな」
私は端正な顔立ちの、仮初の表情を浮かべた元人間の側腹部をツンツンと突っついた。素っ頓狂な声で喘いでから、しぶしぶ染毬は首肯する。
「ヒャッ。別りましたよ」
染毬はギシリとソファを軋ませ、勢いよく立ち上がった。軸のぶれない一回転をすると昨日の半裸とは様変わりした、ゴスロリドレスのスカート丈を掴み深々と礼をした。
「昨日は意識不明にさせてしまって申し訳ないわ。私は王色 染毬。宜しくですわ」
数秒後、女性二人のキュン死体が出来上がった。
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