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メンヘラちゃんの七つの悩み

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「もうまぢ無理……筆折れる……」

 PCの前でそう呟くメンヘラちゃん。
 髪はボサボサで、お気に入りの地雷系の服ではなく白いTシャツワンピースを着用し、暗い自室で目の下に隈を浮かべている。
 彼女はワナビであった。
 人間関係が嫌になって学校を辞め、ネット上でSNSインフルエンサーや配信者を目指し__しかし、親に反対された為、SNSもその活動も止めた__親のスネをかじり、カウンセラーにメンタル回復のためにと勧められた接客業のバイトをする少女だった。
 しかし、自分を発露して認めてもらいたいという欲が強いメンヘラちゃん。
 そんな少女が始めたのが……小説を書くことだった。
 自分の要素を持ち合わせた、自分から生まれた世界観やキャラクター。
 それをブックマークや評価されるだけでも、その日は眠れずギンギンだった。
(メンヘラちゃんは自分の作品を見てもらう場を増やすためにマルチ投稿も行っている)
 承認欲。
 それを絞り作り出すインターネットとは罪なものだ。

 さて、そんなメンヘラちゃんが夜中に参っている主な理由は以下だ。
1.感想・評価がつかない
2.評価がついても低評価
3.自分に才能ない気がしてきた
4.次の展開が思いつかない
5.新しい話を思いついてそっちを書きたくなる
6.アクセス解析をずっと見てしまう
7.眠れない

「助けて、神様……」

 彼女には、メンタルがやばくなった時期から神の声が聞こえるようになった。

『やあ、呼んだ?』

「もうやだリスカしたい」

『駄目だよ。せっかく傷が治ってきたんだから。もったいない』

 リスカ痕は、「残っていると精神性を疑われてしまうので社会に出るとき不利だよ」と母に言われた。神様との対話で衝動性を抑えるのだ。

『さてさて、君が悩んでいるのは上記の七つだね。一つずつ解決していこう』



1.感想・評価がつかない

『そもそも、読者はサイレントマジョリティーだ』

「え……?」

『じゃあ、聞くけどメンヘラちゃんは小説を読んだ後わざわざコメントする? 評価つける?』

「しないよ。面倒くさいし」

『それが普通なんだ』

「そっか……」




2.評価がついても低評価

『やっとついた評価が低評価だったら、確かに悲しいね。でも、評価をつけたのは他人なんだから仕方ないよ。誰かの性癖は誰かの地雷だ』

「しんどい」

『知っているかい?ポジティブはネガティブに負けるんだ。だから、感想欄や評価が荒れてんなと思いながらそっとじしたり、それでも負けないでと、公の場で発言しなくても念じるファンがいるはずだよ』

「私にファンがいるとでも……?」

『いると信じよう。なんなら、将来できるから。筆を折らないかぎり』

「筆折りたい」

『じゃあ、二週間だけ筆を折ってみよう。そしたら書きたくなってくるはずだから』

「どんな確証があってそれを言ってんの?」

『小説を書こう! って思っている人は多少の差はあれど皆そうだからだよ』

「小説って結構書くのに力使うんだよ。今、実際苦痛に思っているし」

『じゃあ、次を解決しよう』




3.自分に才能ない気がしてきた

『なぜ、そう思っているんだい?』

「だって、絶賛されない理由としては私の文章が拙くて、ストーリーが面白くないからに決まってんじゃん」

『あちゃ~、そういうフィルターがかかちゃっているね』

「何? 実際は面白いの?」

『作品の面白さは読む人によって変わってくるけども……君は、この作品最初から書いていて苦痛だった?』

「………………ううん。」

『それは良かった』

「ねえ、作品は苦痛の末に仕上げるのがいいんじゃないの?」

『おおっと、作品を書くことに前向きになったのかい?』

「嫌、まだ休ませて。疑問に思っただけだし」

『そうだなあ。そこは人……運命によるしか。ただ、その苦痛の末に仕上げた人も、ちゃんと仕上げているんだ。書くことを諦めない事が大切だよ。メンヘラちゃんは苦痛だから筆を折りたいんだよね? だから、筆を延命させるために苦痛に思っていることから離れるのも大事なのさ』

「ねえ、私の作品っておもしろいの?」

『面白いよ。作者が一瞬でもそう思ったならね』

「え……?」

『人生も、作品も。良かったかどうか決めるのは他人じゃない。君自身なんだ。』

 神様はメンヘラちゃんに質問した。

『君は、世界の名作と言われている作品が全部面白いと思うことはできたかい?』

「ううん、くそつまんねえなって思った作品もある」

『だろう?』

「はは、そうだね。でも、世間の人は私の拙い文章を見て笑うと思うよ」

『文章なんて、伝わればいいんだよ。大半の人間は気取った文章よりも物語が好きさ。物語が主食、文章はトッピングだ。そもそも世間なんて幻想だよ』

「……もっと頑張ってみようかな」

『偉い! 流石だ』



4.次の展開が思いつかない

「でも、こうなんだ」

『メンヘラちゃん、真面目だねえ』

「え?」

『小説なんて、最初はセリフとト書きだけでいいんだよ』

「私、台本形式を書きたいんじゃないんだけど……」

『チッチッチ。これは骨組みだ。後から肉付けしたりする。絵だって、最初から色を塗り始めたりはしない。下書きを書くだろう』

 メンヘラちゃんは爪を弄った。

『さっきも言っただろう。最低、伝わればいいとね』

「怒られない……?」

『誰が怒るもんか。例え批判する者がいたとしても、それは怒るとはいえないよ』

 死にはしないんだからもっと無敵でいこうぜ、と神様は言う。

「危険思想だあ」

『違うよ、君の味方さ』

 神様は一拍置いて。

『とりあえずまあ、筆の乗るシーンや決まっているシーンを数行で表してみようよ』

「……やる」

 ……しかし、メンヘラちゃんは数分で燃え尽きた。




5.新しい話を思いついてそっちを書きたくなる

「もう無理……新作書きたいです……」

『ああ、そのパターンを繰り返すとエタになるよ』

「なんと」

『気を付けようね。我慢しよう』

「じゃあ、この想いは封印?」

『うーん、メモって残すぐらいなら良いかも。今書いている作品が完結したときに、次作のアイデアになるかもだから』

「らじゃ」



6.アクセス解析をずっと見てしまう

「ああ~、相変わらず書けなーい。」

 メンヘラちゃんはへへへ、と笑いながらアクセス解析ページを開いた。

「あ、私の作品また一人見てくれている。うれぴ」
 or
「ああ……誰も見てくれてない。クソが」

 こうやってアクセス解析画面で、手軽に承認要求を満たそうとするのであった。

「知ってるもん……本当は時間の無駄だって」

『そうだね、作品をみてくれるか、そしてその読者に刺さるかはまさに”ご縁”だ』

 メンヘラちゃんは、机に突っ伏した。



7.眠れない

「なんで書けないのぉ……私ってやっぱ生きてる価値無いんだ」

『もう! 生きている価値はこの世の誰にも計り知れないことだよ!』

「……つまり?」

『メンヘラちゃんが死んだら世界が滅亡するって思うことだ。メンヘラちゃんが生きていた世界が終わるんだよ』

「へん」

『そもそも、書けないのは眠れていないせいじゃないか?』

「んん?」

「脳が疲れている時は創造性が高まりアイデア出しに良いと科学的に証明されている。ぐぐってごらん。__でも、小説を書くのは確かに創造だけど、アイデア出しとはやっている作業が違う」

「つまり?」

『小説を書くのは、一つずつ積み重ねる職人作業なんだ。寝不足で出来るわけないじゃん』

「つまり、寝れば……」

『解決だ』

「無理。眠れないもん」

『何故?』

「眠れないから。強いて言えば明日が来るのが怖い」

『ああ~、思春期だねえ』

「朝がくる前に死んじゃうんじゃ、って考える。または世界が私に不利な世界になるんじゃっ、て」

『それはまあ、運だね。なんとでもなれって無敵になっちゃえ』

「もやだ」

『でもさ、君が幸せになるのが正史なんだ。困難は、人生という物語を盛り上げるハードルにすぎないんだよ』

「私……幸せになれるの?」

『なれる。だからまずは、自分にやさしくしなよ』

「??? 自分にやさしくって、意味わかんないよ。私は充分怠けてるのに」

『うーん、日本人だ』

 眠れるようになるには……。
①お風呂に肩まで使って入る
②ブルーライトを極力浴びない
③脳の切り替え力を育成するために、ベッドでは寝るとき以外ゴロゴロしない
④日中は可能な限り動く
⑤いざというときは病院で睡眠薬を処方してもらう

「眠薬、飲んでくる」

『そうだね、あの名作家もその名作家も、早朝に執筆していたらしいし。日光には、メンタル回復効果が期待できるし、朝型早寝早起きが得だね』

「……本当?」

『実際には人に寄るけど。大半の人間は日光を好むし君には夜より朝が向いているよ』

「そか。おやすみ」

『おやすみ』
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