儚い雪に埋もれる想い

雪莉月花

文字の大きさ
4 / 17
第一章「逃れられない呪縛」

無意識の告白

しおりを挟む
だが性格上、被虐的に思っていても、口にはできない。ただ、それだけの事だ。



「だけど、この本たちの中に彼女たちが眠っているかのようで。彼女たちに抱く、複雑な思いも一緒に。だから、それを他人の経験で書き足したくない。…ううん、伽耶は他人なんかではない。大切な後輩。だけど、その貴方すら私は嫌だと思ってしまった。だから、もっと誰かとの思い出を増やして、今描こうとしているこれを未完成ではない、完成作品として世の中に出したい」 




息継ぎ。そんなことをしている暇などない、といわんばかりに、長々と噛まずに言ってのける。


その姿は冷静で、無頓着とも、間違えたら言ってしまうかもしれない。


しかし、それと相反するように、落ち着きという欠片もなく、美空から目を離せなくなってしまっている。 



「それはまぎれもなく、自分の思い出が書いたものにしないとだめなの。だからお願い。私に飛び切りの思い出を頂戴」



思い出。


 そんな代物、今ここで簡単に作れるわけがない。


それを承知の上で、美空はいっているのだろう。それは、間接的な外に出たいという意思表示だろう。


それを見抜いた百瀬は、こんな言葉をかけた。



「先輩、だったら今からでも外に出ますか。
まだお昼前だし、今日だけでも思い出は、案外作れるものですよ」



 まるで何かに勧誘するかのように、はきはきとした表情で百瀬は言う。

しかし、先ほどの表情と正反対な顔で美空は答える。


「無理だと思う。だって、外に行くのが怖いのだから」


はぁ、とため息を百瀬はついた。



「先輩、そんな感情なんて捨ててください。昔の先輩は、怖いと言って怖気づく様な人ではなかった」
 


 ぴくっと、美空が反応する。「昔」とあえて、使ったのは彼女が反応するからだろう。


「いついかなるときも、その光は鈍ることなく、いや、くすんだときもあったかもしれない。だけど、それはいつも、輝きを取り戻していた。僕は、俺は」



一人称が変わっているのにも気づかない百瀬は、先輩と後輩という立場を無いものとみて、言葉を伝えてきた。


「そんな美空に好かれた。だから、いつまでもそんな美空でいろよ。美しい空、そんな名前のように。雨が降っても、どんなに崩れた天気でも、いつかは太陽が照った、雲一つない天気をみせてたじゃん。もっと自分に自信を持ってくれ」



告白じみたそれは、両者の頬を赤らめた。


その恥ずかしさを、押し切った百瀬は最後に悲鳴に近い声で訴えた。





「あぁ、もうっ。だから、大丈夫だって。何も怖くない。俺を信じろよぉっ。そんなに俺、頼りねーのかよぉぉぉぉっ」





 今までみたことのないくらい、百瀬は怒気に満ちていた。けど、どこか顔が固い気がする。



そう、まるでこの状況に緊張しているかのように、顔が強張っていたのだ。



その姿は今の美空よりも、何かに怖がっているようにも見えた。




幽霊に怖がっている、子供というべきだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...