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ACT3  ローマは一日にして成らず、そう言った先人まじすげー8

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 ゆっくり部屋でビールを飲もうと思ってたんだけど・・・・

 何故か俺は今、ホテルのBARにいる。
 丸の内を見下ろす素晴らしく高級なそこに、自分がいることに違和感しか感じない・・・・w
 なんでここにいるかっていうとだな・・・

「てっちゃんが作ったカクテルのほうが美味しいかも」 

 俺の隣のソファにはあおいが座ってる。
 いつもは白い頬が、アルコールのせいでピンク色になってる。
 瞬きすると、ぱさぱさ音がしそうなほど長い睫毛。
 日本人離れした綺麗な顔立ちのあおいが、やけに潤んで見えるヘーゼルの瞳でじーっと俺を見た。
 迂闊にどきっとした俺は、慌てて目をそらすとビールを飲んでみる。

「そんな訳ないだろw
高級店のバーテンと庶民の店のバーテンじゃ、どう考えても高級店のバーテンのが腕がいいはず!」

「そうかなぁ?」

「そうだよw」

 俺はそう答えて、大きな窓の向こうに広がるきらびやかな東京の夜景を見た。

 うん・・・
 これを見たって、違和感しかないわww
 自分がここにいることにwww

 明日のスケジュール開始は、CDのジャケット撮影で15時というあおいも、実は今夜、このホテルに泊まるんだそうだ。
 少し羽根を伸ばしたかったのか、あおいが、この見るからに高級なホテルのBARに誘ってくれた訳だ。
 あおいは、『花椿』を飲みながら、なんとなく俺の肩に寄りかかるようにして笑う。

「そういえば、てっちゃん今日のインタビューもめっちゃ堂々と答えてたね?
あたしね・・・うれしかった」

「ん?なにが???」

「えー?てっちゃんがさ『Marinが自分の歌を本気で唄うなら、俺もMarinのために本気で唄う』って言ってくれたこと・・・あたし、ほんとに嬉しかった・・・」

 そう言ってあおいは、ぺたっと俺の腕にくっついてくる。
 服を通して感じるあおいの体温が、なんとなく熱い気がして、俺は思わず、あおいの綺麗な顔を見る。

「いや・・・なんも考えずに、あれは素で言った・・・・
ってか・・・おまえ、熱でもあるんじゃないか?なんか体熱くね??」

「え?ああ・・・ちょっと疲れてるのかも
過労かさむとね・・・熱出しちゃうんだよ」

「は?だったらもう寝ろよwww明日仕事なんだろwww」

「仕事だけど・・・っ
でも・・・もうちょっと羽根のばしてたいの・・・・っ
だから大沢さんにも帰ってもらったんだし・・・・!」

「わーwwwwあくどいなww」

「そんなことないよ!失礼な!」

 そう言いつつも、あおいは、たいして怒った風でもなく言葉を続けた。

「ねぇねぇ、てっちゃん」

「なんだ??」

「てっちゃんはさぁ」

「うん?」

「きぃちゃんのことどう思ってんの???」

 唐突にそう聞かれて、俺は飲んでたビールを吹き出しそうになった。
 思わずむせながら言う。

「どうもこうもwwwきなこだと思ってるwww」

「なによそれぇ?意味わかんない!
きぃちゃんは、ほんとにてっちゃんのこと好きなんだと思うんだけどな・・・・」

「そうかな??あいつの行動は意味不明だからな」

「変なとこで鈍いんだからてっちゃんは・・・・っ!」

 あおいが、そう言った時だった。
 背中の方で「いらっしゃいませ」とバーテンが言ったのが聞こえてきた。
 新規で誰か客が来たらしい。
 他人にまったく興味がないんで、俺はそんなの気にしてなかったんだが・・・・

 その時、不意に、俺とあおいの背中の方から、聞きなれないやつの声が聞こえてきたんだ。

「あれ・・・?まりん???」

 その言葉にハッとして、あおいも俺も後ろを振り返る。
 そこに立っていたのは、多分有名だろうと思うけど、名前が思い出せない、なんだか芸能人ぽい奴だったんだ。

 そいつの顔を見た瞬間、あおいの表情がこわばった。
  
 

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