17 / 43
第一節 開戦の調べ16
しおりを挟む
*
「陛下!陛下!大変です!陛下!!」
慌てふためいた様子で、一人の武将が黒き水牛の旗が掲げられた天幕の中に飛び込んできた。
サングダ―ル国王デルファノ二世は、部下のその異様な顔つきに、ふと、怪訝そうに眉根を寄せて、豪華な椅子の肘掛からその腕を離したのである。
「なんだ、騒々しい・・・」
額から脂汗を垂らしながら、部下はすかさず床に片膝を着くと、まくし立てるように早口で言ったのだった。
「恐れながら申し上げます!沖合に控えていた我が軍の艦隊が・・・先程、全滅いたしました!!」
「なんだと!?それはどういうことだ!?」
デルファノ二世はギョッと目を剥いて、その頬を僅かに引きつらせながら、金色の甲冑姿のままがたりと椅子を立った。
部下は、さらに言葉を続ける。
「大魔法使いが・・・
ロータスの大魔法使いが現れたようです!それだけではありません!!
大魔法使いの他にも、魔法剣士が!魔法剣士が二人!」
「何!?魔法剣士だと!?あの女魔法使いはどうしたのだ!」
異国の無粋な王が、烈火の如き怒りでその顔を歪め、そう大きく声を張り上げた時だった・・・・
にわかに、天幕の向こう側から、けたたましい悲鳴が上がったのである。
『ぎゃぁぁぁ――――っ!!!』
それと同時に、紅蓮の炎を上げた一人の兵士が、天幕の入り口から中へと転がり込んでくる。
幕僚たちがどよめいた・・・・
今、眼前で、甲冑を溶かしながら自国の兵士を燃やし尽くす紅蓮の炎。
その焔が、天幕を焦がさんばかりに大きく揺らめきたった。
「なんだ!?」
デルファノ二世は、苦々しい顔つきをしたまま驚愕の声を上げた
背後に控えていた護衛達が、とっさに武器に手をかけた・・・
正にその時・・・
「マイレイなら、さっき俺が解放してやったぜ・・・・」
実に流暢なサングダ―ル語の台詞と共に、引き裂かれた天幕の入り口が緩やかに揺れると、そこから、金色の大剣を広い肩に担ぐようにして、一人の青年が姿を現してきたのである・・・・
すらりとした長身と、若獅子の鬣の如き見事な栗色の髪・・・
揺れる前髪の隙間から覗く二つの瞳は、燃え盛る炎の如き鮮やかな緑玉であった。
額に飾られた金色の二重サークレット。
それは、この青年が魔法剣士と呼ばれる最強の戦人であることを、明白に物語っている。
凛々しい唇でニヤリと不敵に笑うこの青年の顔に、デルファノ二世は、覚えがあった・・・・
「貴様・・・・ジェスター・ディグか!?」
驚愕を隠しきれないサングダ―ルの国王が、苦々しくその名を呟く。
「あの時は世話になったな・・・・デルファノ二世陛下?物覚えの悪いおまえが、この俺を覚えているとはな?」
そう言うなり、魔法剣士ジェスター・ディグは、その端正な顔を、ますます不敵な表情で満たすと、肩に担いでいた妖剣の切っ先を、ゆっくりとデルファノ二世に向けたのである。
一国の王の顔に、言い知れぬ緊張が張り詰める。
忘れるはずもない・・・・まだ、彼が王太子であった三年前・・・・
アスハ―ナ内海を隔てた北方の国オズロース帝国と、内海の利権を巡って戦が起こったことがあった。
その時、自国の傭兵として雇い入れられていたのが、この魔法剣士の青年ジェスターだ・・・・
まだ歳若い彼が、この金色の妖剣を操り、次々と敵国の船団を炎上させていったあの地獄のような光景は、今でも、デルファノ二世の脳裏にこびりついて離れることはない・・・・
その腕を見込んで、王太子付きの将軍に取り立てると言った申し出を、彼は、きっぱりと断ってサングダ―ルを後にした・・・・
無粋にして最強の戦人・・・・
「この私に、またしても楯突くつもりか!?ジェスター・ディグ!」
「ご挨拶だな・・・・おまえに楯突くつもりはない・・・・ただ、俺は、俺が思うままに動いているだけの話だ・・・・」
「相も変わらず、なんと生意気な者か・・・・・っ!」
デルファノ二世が、咄嗟に後方に飛び退いた。
同時に、辺りを囲んでいた護衛の一人が、白刃を振りかざしてジェスターに踊りかかってくる。
揺れる前髪の下で、その鮮やかな緑玉の両眼が、研ぎ澄まされた刃の如き鋭さに満たされ、背筋が寒くなるほどの冷酷さを持って輝いた。
空を薙ぐ鋭い音が広い天幕の内部に響き渡り、光の速さで翻された色の斬撃が、瞬きも許さぬ僅かな間で、正面に迫った敵兵の首を虚空に撥ね飛ばす。
両断された頚動脈から鮮血が吹き上がる細い音が、実に不気味な響きを持って天幕の中にこだまし、体から切り離された生首が天井に当たってぼたりと絨毯の上へと転がった。
「陛下!陛下!大変です!陛下!!」
慌てふためいた様子で、一人の武将が黒き水牛の旗が掲げられた天幕の中に飛び込んできた。
サングダ―ル国王デルファノ二世は、部下のその異様な顔つきに、ふと、怪訝そうに眉根を寄せて、豪華な椅子の肘掛からその腕を離したのである。
「なんだ、騒々しい・・・」
額から脂汗を垂らしながら、部下はすかさず床に片膝を着くと、まくし立てるように早口で言ったのだった。
「恐れながら申し上げます!沖合に控えていた我が軍の艦隊が・・・先程、全滅いたしました!!」
「なんだと!?それはどういうことだ!?」
デルファノ二世はギョッと目を剥いて、その頬を僅かに引きつらせながら、金色の甲冑姿のままがたりと椅子を立った。
部下は、さらに言葉を続ける。
「大魔法使いが・・・
ロータスの大魔法使いが現れたようです!それだけではありません!!
大魔法使いの他にも、魔法剣士が!魔法剣士が二人!」
「何!?魔法剣士だと!?あの女魔法使いはどうしたのだ!」
異国の無粋な王が、烈火の如き怒りでその顔を歪め、そう大きく声を張り上げた時だった・・・・
にわかに、天幕の向こう側から、けたたましい悲鳴が上がったのである。
『ぎゃぁぁぁ――――っ!!!』
それと同時に、紅蓮の炎を上げた一人の兵士が、天幕の入り口から中へと転がり込んでくる。
幕僚たちがどよめいた・・・・
今、眼前で、甲冑を溶かしながら自国の兵士を燃やし尽くす紅蓮の炎。
その焔が、天幕を焦がさんばかりに大きく揺らめきたった。
「なんだ!?」
デルファノ二世は、苦々しい顔つきをしたまま驚愕の声を上げた
背後に控えていた護衛達が、とっさに武器に手をかけた・・・
正にその時・・・
「マイレイなら、さっき俺が解放してやったぜ・・・・」
実に流暢なサングダ―ル語の台詞と共に、引き裂かれた天幕の入り口が緩やかに揺れると、そこから、金色の大剣を広い肩に担ぐようにして、一人の青年が姿を現してきたのである・・・・
すらりとした長身と、若獅子の鬣の如き見事な栗色の髪・・・
揺れる前髪の隙間から覗く二つの瞳は、燃え盛る炎の如き鮮やかな緑玉であった。
額に飾られた金色の二重サークレット。
それは、この青年が魔法剣士と呼ばれる最強の戦人であることを、明白に物語っている。
凛々しい唇でニヤリと不敵に笑うこの青年の顔に、デルファノ二世は、覚えがあった・・・・
「貴様・・・・ジェスター・ディグか!?」
驚愕を隠しきれないサングダ―ルの国王が、苦々しくその名を呟く。
「あの時は世話になったな・・・・デルファノ二世陛下?物覚えの悪いおまえが、この俺を覚えているとはな?」
そう言うなり、魔法剣士ジェスター・ディグは、その端正な顔を、ますます不敵な表情で満たすと、肩に担いでいた妖剣の切っ先を、ゆっくりとデルファノ二世に向けたのである。
一国の王の顔に、言い知れぬ緊張が張り詰める。
忘れるはずもない・・・・まだ、彼が王太子であった三年前・・・・
アスハ―ナ内海を隔てた北方の国オズロース帝国と、内海の利権を巡って戦が起こったことがあった。
その時、自国の傭兵として雇い入れられていたのが、この魔法剣士の青年ジェスターだ・・・・
まだ歳若い彼が、この金色の妖剣を操り、次々と敵国の船団を炎上させていったあの地獄のような光景は、今でも、デルファノ二世の脳裏にこびりついて離れることはない・・・・
その腕を見込んで、王太子付きの将軍に取り立てると言った申し出を、彼は、きっぱりと断ってサングダ―ルを後にした・・・・
無粋にして最強の戦人・・・・
「この私に、またしても楯突くつもりか!?ジェスター・ディグ!」
「ご挨拶だな・・・・おまえに楯突くつもりはない・・・・ただ、俺は、俺が思うままに動いているだけの話だ・・・・」
「相も変わらず、なんと生意気な者か・・・・・っ!」
デルファノ二世が、咄嗟に後方に飛び退いた。
同時に、辺りを囲んでいた護衛の一人が、白刃を振りかざしてジェスターに踊りかかってくる。
揺れる前髪の下で、その鮮やかな緑玉の両眼が、研ぎ澄まされた刃の如き鋭さに満たされ、背筋が寒くなるほどの冷酷さを持って輝いた。
空を薙ぐ鋭い音が広い天幕の内部に響き渡り、光の速さで翻された色の斬撃が、瞬きも許さぬ僅かな間で、正面に迫った敵兵の首を虚空に撥ね飛ばす。
両断された頚動脈から鮮血が吹き上がる細い音が、実に不気味な響きを持って天幕の中にこだまし、体から切り離された生首が天井に当たってぼたりと絨毯の上へと転がった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる