神在(いず)る大陸の物語~月闇の戦記~【第四章】

坂田 零

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第一節 開戦の調べ16

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「陛下!陛下!大変です!陛下!!」

 慌てふためいた様子で、一人の武将が黒き水牛の旗が掲げられた天幕の中に飛び込んできた。
 サングダ―ル国王デルファノ二世は、部下のその異様な顔つきに、ふと、怪訝そうに眉根を寄せて、豪華な椅子の肘掛からその腕を離したのである。

「なんだ、騒々しい・・・」

 額から脂汗を垂らしながら、部下はすかさず床に片膝を着くと、まくし立てるように早口で言ったのだった。

「恐れながら申し上げます!沖合に控えていた我が軍の艦隊が・・・先程、全滅いたしました!!」

「なんだと!?それはどういうことだ!?」

 デルファノ二世はギョッと目を剥いて、その頬を僅かに引きつらせながら、金色の甲冑姿のままがたりと椅子を立った。
 部下は、さらに言葉を続ける。

「大魔法使いが・・・
ロータスの大魔法使いが現れたようです!それだけではありません!!
大魔法使いの他にも、魔法剣士が!魔法剣士が二人!」

「何!?魔法剣士だと!?あの女魔法使いはどうしたのだ!」

 異国の無粋な王が、烈火の如き怒りでその顔を歪め、そう大きく声を張り上げた時だった・・・・
 にわかに、天幕の向こう側から、けたたましい悲鳴が上がったのである。

『ぎゃぁぁぁ――――っ!!!』

 それと同時に、紅蓮の炎を上げた一人の兵士が、天幕の入り口から中へと転がり込んでくる。
 幕僚たちがどよめいた・・・・

 今、眼前で、甲冑を溶かしながら自国の兵士を燃やし尽くす紅蓮の炎。
 その焔が、天幕を焦がさんばかりに大きく揺らめきたった。

「なんだ!?」

 デルファノ二世は、苦々しい顔つきをしたまま驚愕の声を上げた
 背後に控えていた護衛達が、とっさに武器に手をかけた・・・

 正にその時・・・

「マイレイなら、さっき俺が解放してやったぜ・・・・」

 実に流暢なサングダ―ル語の台詞と共に、引き裂かれた天幕の入り口が緩やかに揺れると、そこから、金色の大剣を広い肩に担ぐようにして、一人の青年が姿を現してきたのである・・・・

 すらりとした長身と、若獅子の鬣の如き見事な栗色の髪・・・
 揺れる前髪の隙間から覗く二つの瞳は、燃え盛る炎の如き鮮やかな緑玉であった。
 額に飾られた金色の二重サークレット。

それは、この青年が魔法剣士と呼ばれる最強の戦人であることを、明白に物語っている。
 凛々しい唇でニヤリと不敵に笑うこの青年の顔に、デルファノ二世は、覚えがあった・・・・

「貴様・・・・ジェスター・ディグか!?」

 驚愕を隠しきれないサングダ―ルの国王が、苦々しくその名を呟く。

「あの時は世話になったな・・・・デルファノ二世陛下?物覚えの悪いおまえが、この俺を覚えているとはな?」

 そう言うなり、魔法剣士ジェスター・ディグは、その端正な顔を、ますます不敵な表情で満たすと、肩に担いでいた妖剣の切っ先を、ゆっくりとデルファノ二世に向けたのである。

 一国の王の顔に、言い知れぬ緊張が張り詰める。

 忘れるはずもない・・・・まだ、彼が王太子であった三年前・・・・
 アスハ―ナ内海を隔てた北方の国オズロース帝国と、内海の利権を巡って戦が起こったことがあった。

 その時、自国の傭兵として雇い入れられていたのが、この魔法剣士の青年ジェスターだ・・・・
 まだ歳若い彼が、この金色の妖剣を操り、次々と敵国の船団を炎上させていったあの地獄のような光景は、今でも、デルファノ二世の脳裏にこびりついて離れることはない・・・・

 その腕を見込んで、王太子付きの将軍に取り立てると言った申し出を、彼は、きっぱりと断ってサングダ―ルを後にした・・・・
 無粋にして最強の戦人・・・・

「この私に、またしても楯突くつもりか!?ジェスター・ディグ!」

「ご挨拶だな・・・・おまえに楯突くつもりはない・・・・ただ、俺は、俺が思うままに動いているだけの話だ・・・・」

「相も変わらず、なんと生意気な者か・・・・・っ!」

 デルファノ二世が、咄嗟に後方に飛び退いた。
 同時に、辺りを囲んでいた護衛の一人が、白刃を振りかざしてジェスターに踊りかかってくる。
 揺れる前髪の下で、その鮮やかな緑玉の両眼が、研ぎ澄まされた刃の如き鋭さに満たされ、背筋が寒くなるほどの冷酷さを持って輝いた。

 空を薙ぐ鋭い音が広い天幕の内部に響き渡り、光の速さで翻された色の斬撃が、瞬きも許さぬ僅かな間で、正面に迫った敵兵の首を虚空に撥ね飛ばす。
 両断された頚動脈から鮮血が吹き上がる細い音が、実に不気味な響きを持って天幕の中にこだまし、体から切り離された生首が天井に当たってぼたりと絨毯の上へと転がった。
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