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第二節 落日は海鳴りに燃ゆる5
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リーヤの怒り発端・・・・
恐らくそれは、つい今しがたそこで起こった、ほんのささいな出来事だったのであろう・・・
サーディナに侵攻してきたサングダ―ルの援軍が、ほんの僅かな間で壊滅し、提督府の兵が生き残った敵兵を捕縛し始めた時のこと、リーヤは、ラレンシェイと共に港に残ったスターレットを気にかけつつ、シルバとそしてウィルタールと共に、このサーディナ提督府を訪れていた。
スターレットが敵戦艦から救出してきた、クスティリン族の乙女たちが此処に保護されていたためであった。
それは、リーヤがこの城壁の前に辿り着いた時の事だ。
そこに姿を現したのは、一人の少女をその腕に抱え、傍らに、小柄だが実に美しい女性を伴ったジェスターだったのである。
銀糸の髪を海風に揺らすその美しい女性こそ、サングダ―ルに囚われていたクスティリン族の魔法使い、マイレイ・カーラ・デルーソフだった。
リタ・メタリカの姫を出迎えに来たサーディナ提督に、サングダ―ル国王の首が入った皮袋を投げるように渡しながら、ジェスターは、相変わらず飄々とした物腰で、ふと、傍らに立つマイレイを顧みたのである。
そして、徐にリーヤを振り返ると、若獅子の如き見事な栗毛を海風に揺らしながら、こう言ったのだ。
「おいリーヤ、クスティリン族をカシタ―シュ公国まで送れと、そう提督に口添えしてやってくれ、皆、女ばかりだからな」
頼みごとをしているとは思えない横柄なその口調に、ムッとしながらも、リーヤは、いつもの事だとため息をつきながら、眼前に立つサーディナ提督に、彼女等をカシタ―シュ公国まで送り届けるよう指示を出したのである。
その時、ふと、ジェスターの腕の中で目を醒ました少女が、自分が置かれている状況に気がついて、あたふたとしながら顔を真っ赤に染め上げたのだった。
「あ・・・あの!申し訳ありません!!あの、お、下ろしてください!!」
慌てふためく少女の顔を、実に愉快そうな眼差しで顧みて、ジェスターは、静かに彼女を石畳の上に下ろしてやった。
頬を紅色に染めたまま、その少女ディーテルは、ひどく照れたようにさっとマイレイの背中に隠れてしまう。
そんな弟子の様子を、銀水晶の綺麗な瞳でちらりと見やり、マイレイは、愉快そうな顔つきをしながら、体ごとゆっくりと、前で腕を組んだ姿勢で立つ、ジェスターの長身を仰いだのだった。
銀糸の如き優美な髪が、太陽の日差しを受けて、まるで金剛石のようにきらきらと輝きながら揺れている。
その瞳が見つめる先には、異形と呼ばれる鮮やかな緑玉の瞳があった。
若獅子の鬣のような見事な栗毛と、すらりとした長身が纏う朱の衣の長い裾が、跳ね上がるように虚空に棚引いている。
艶やかに微笑むマイレイの唇が、囁くように彼に言った。
「そなたには、心から礼を言う・・・・」
「いや・・・・」
凛々しい唇だけが不敵に笑うと、ジェスターは、そんなマイレイの瞳を見つめすえたまま、小さく小首を傾げたのである。
「今宵・・・そなたの宿命が動き出す・・・・」
「・・・・・・・・」
「朱き獅子(アーシェ)の者よ・・・・・・その名を棄てし者よ・・・そなたに、ヤーオのご加護を・・・・」
そのしなやかな両手が、ふと、ジェスターの広い両肩にかかり、かかとを上げた彼女の妖艶な唇が、前で腕を組んだままでいる彼の唇にそっと重ねられた。
さして驚いた様子もなく、彼は、その緑玉の瞳を僅かに細め、身動ぎもせぬままその接吻(くちづけ)を受け止める。
その様子を見ていたマイレイの弟子ディーテルと、シルバの傍らに立つウィルタールは顔を真っ赤に上気させ、シルバは実に愉快そうに微笑し、そして、リーヤは・・・・何ゆえか、鬼気迫る怒りの形相でその秀麗な顔を歪めたのである。
恐らくそれは、つい今しがたそこで起こった、ほんのささいな出来事だったのであろう・・・
サーディナに侵攻してきたサングダ―ルの援軍が、ほんの僅かな間で壊滅し、提督府の兵が生き残った敵兵を捕縛し始めた時のこと、リーヤは、ラレンシェイと共に港に残ったスターレットを気にかけつつ、シルバとそしてウィルタールと共に、このサーディナ提督府を訪れていた。
スターレットが敵戦艦から救出してきた、クスティリン族の乙女たちが此処に保護されていたためであった。
それは、リーヤがこの城壁の前に辿り着いた時の事だ。
そこに姿を現したのは、一人の少女をその腕に抱え、傍らに、小柄だが実に美しい女性を伴ったジェスターだったのである。
銀糸の髪を海風に揺らすその美しい女性こそ、サングダ―ルに囚われていたクスティリン族の魔法使い、マイレイ・カーラ・デルーソフだった。
リタ・メタリカの姫を出迎えに来たサーディナ提督に、サングダ―ル国王の首が入った皮袋を投げるように渡しながら、ジェスターは、相変わらず飄々とした物腰で、ふと、傍らに立つマイレイを顧みたのである。
そして、徐にリーヤを振り返ると、若獅子の如き見事な栗毛を海風に揺らしながら、こう言ったのだ。
「おいリーヤ、クスティリン族をカシタ―シュ公国まで送れと、そう提督に口添えしてやってくれ、皆、女ばかりだからな」
頼みごとをしているとは思えない横柄なその口調に、ムッとしながらも、リーヤは、いつもの事だとため息をつきながら、眼前に立つサーディナ提督に、彼女等をカシタ―シュ公国まで送り届けるよう指示を出したのである。
その時、ふと、ジェスターの腕の中で目を醒ました少女が、自分が置かれている状況に気がついて、あたふたとしながら顔を真っ赤に染め上げたのだった。
「あ・・・あの!申し訳ありません!!あの、お、下ろしてください!!」
慌てふためく少女の顔を、実に愉快そうな眼差しで顧みて、ジェスターは、静かに彼女を石畳の上に下ろしてやった。
頬を紅色に染めたまま、その少女ディーテルは、ひどく照れたようにさっとマイレイの背中に隠れてしまう。
そんな弟子の様子を、銀水晶の綺麗な瞳でちらりと見やり、マイレイは、愉快そうな顔つきをしながら、体ごとゆっくりと、前で腕を組んだ姿勢で立つ、ジェスターの長身を仰いだのだった。
銀糸の如き優美な髪が、太陽の日差しを受けて、まるで金剛石のようにきらきらと輝きながら揺れている。
その瞳が見つめる先には、異形と呼ばれる鮮やかな緑玉の瞳があった。
若獅子の鬣のような見事な栗毛と、すらりとした長身が纏う朱の衣の長い裾が、跳ね上がるように虚空に棚引いている。
艶やかに微笑むマイレイの唇が、囁くように彼に言った。
「そなたには、心から礼を言う・・・・」
「いや・・・・」
凛々しい唇だけが不敵に笑うと、ジェスターは、そんなマイレイの瞳を見つめすえたまま、小さく小首を傾げたのである。
「今宵・・・そなたの宿命が動き出す・・・・」
「・・・・・・・・」
「朱き獅子(アーシェ)の者よ・・・・・・その名を棄てし者よ・・・そなたに、ヤーオのご加護を・・・・」
そのしなやかな両手が、ふと、ジェスターの広い両肩にかかり、かかとを上げた彼女の妖艶な唇が、前で腕を組んだままでいる彼の唇にそっと重ねられた。
さして驚いた様子もなく、彼は、その緑玉の瞳を僅かに細め、身動ぎもせぬままその接吻(くちづけ)を受け止める。
その様子を見ていたマイレイの弟子ディーテルと、シルバの傍らに立つウィルタールは顔を真っ赤に上気させ、シルバは実に愉快そうに微笑し、そして、リーヤは・・・・何ゆえか、鬼気迫る怒りの形相でその秀麗な顔を歪めたのである。
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