神在(いず)る大陸の物語~月闇の戦記~【第四章】

坂田 零

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第二節 落日は海鳴りに燃ゆる11

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 その姿を睨むように見たジェスターが、形の良い眉を眉間に寄せる。
 彼の肢体を取り囲む紅蓮の爆炎が、轟音を上げて灼熱の焔を散した。
 ゆらゆらと揺れる朱の前髪の下で、燃え盛る炎の如き緑玉の両眼が、恐ろしいまでの冷淡さ持って、鋭く細められる。
 いつもの彼なら決して用いる事のない、低く鋭利で威厳ある声が、鋭くも冷静な響きでこう言った。

「【鍵たる者】を迎えにいく・・・・・後は、任せる・・・・」

 その短い言葉から発せられた、心を直接震わすような凄まじい威圧感が、一瞬、白銀の守護騎士たるシルバと、そして、ロータスの大魔法使いたるスターレットをも圧倒する。
 厳しい顔つきをしながらも、思わず言葉を失った二人の視界の中で、真実の闇を持つ者が、鮮やかな朱の衣を翻し、街の東へ向かって静かに歩み出した。
 薄い闇と、紅き炎を纏う死人が支配する街中に、彼の纏う紅蓮の炎が、煌々と輝きながら揺れている。
 もはや、立っていることすらままならないウィルタールが、がくがくと膝を震わせながら、あどけない顔を蒼白に変えて、搾り出すような声で言うのだった。

「い、い、一体・・・・何が、何が起こっているのです!?スターレット様!?」

「・・・・・・ウィルト・・・真実の闇が・・・・目覚め始めている・・・・」

 深紅の瞳を鋭利に細め、遠ざかっていく爆炎の魔王の背中を見つめたまま、スターレットが、低めた声でそう答えた。
「・・・・え?」

 その言葉の意味がすぐに理解できなくて、ウィルタールは、ぴくりと華奢な肩を震わせたのである・・・
 真実の闇が目覚め始めている・・・・・・・
 敬愛する主人は、今、確かにそう言った。
 真実の闇・・・・?
 その時、ふと何かに気が付いて、彼は、驚愕したようにその両眼を大きく見開いたのである。

「まさか・・・・・!?スターレット様・・・・・っ!?
それは・・・・まるで・・・・・ジェスター様が、ラグナ・ゼラキエルだというような言い方ではありませんか!?
だってラグナ・ゼラキエルは・・・・!!」

「別にいたはずだと言いたいか?」

 冷静で沈着な声色でそう言ったのは、白銀の守護騎士シルバ・ガイだった。
 驚愕の表情のまま、ウィタールは、咄嗟にシルバの鋭い横顔を仰ぎ見た。
 漆黒の長い髪を虚空に揺れる。
 広い肩に羽織られた純白のマントを、たゆたうように虚空に棚引かせながら、彼は、こちらを振り返らぬまま言葉を続けた。

「おまえが見ただろうゼラキエルは・・・・意思と記憶の一時的な受け皿、『目覚めさせる者』カイルナーガ・・・・・・あいつの弟だ・・・・」

「弟・・・・!?ジェスター様の弟!?」

「そうだ・・・・」

 その答えを聞いて愕然とするウィルタールを尻目に、シルバは、紫水晶の如き隻眼で、ふと、傍らに立つスターレットを顧みたのだった。

「さて、スターレット・・・・この死人の群を片付けねばな・・・・・で、こいつらはどうやって倒せばいい?殺すと言っても、もう死んでいる者達だ・・・・」

 広い肩で大きく息を吐きながら、その場に張り詰めた緊張をほぐすかのように、シルバは、どこか愉快そうな口調でそう言った。
 その言葉に、スターレットもまた、先程までの緊迫した表情を僅かに緩め、少年のようにあどけなく微笑したのである。

「さぁ・・・・私とて、死人を相手にするのは、これが初めて故・・・・」

 そんな二人の会話を聞いていたウィルタールが、思わず言葉を失って、その顔色をますます蒼白にしていく。 
 重い足音を立てて迫りくる死人の隊列・・・・
 此処からの距離も随分と狭まってきていた。
 スターレットとシルバは、互いに背中を合わせるようにして立つと、ぐるりと辺りを見回したのだった。
 薄闇に支配された天空を渡る風の精霊が、けたたましい警告の声を発したと思うと、次の瞬間・・・・
 にわかに街全体がぐらりと大きく震え、突然、辺りに凄まじいばかりの轟音が響き渡ったのである。

どおぉぉぉぉ――――――――んっ!!

「!?」

 その場にいた全員が、咄嗟にそちらを振り返った。
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