神在(いず)る大陸の物語~月闇の戦記~【第三章】

坂田 零

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第一節 鋼色の空12

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           *
 何者をも寄せ付けぬ暗黒の結界に包み込まれた城。
魔王と呼ばれる青年の居城たるこの城を、人は幻の城(ロイヤー・カークス)と呼ぶ。

 昼も夜もなく漆黒の闇に閉ざされたその城の一室で、見事な赤毛を揺らす美しき女妖は、深き青のドレスを纏った姿で薄闇に曇る窓辺に立ち、その妖艶な唇をなにやら実に性悪に歪めていたのである。

 『流石に大分弱ってきたようね・・・・?異国の野蛮な剣士殿?
ほら、感じますでしょ?そなたの愛しい蒼き狼(ロータス)の者の気配があるわ・・・・
次にそなたが目覚める時には、あの美しい男の首を目の前に差し出して上げましょう・・・ねぇ?』
 魔王と呼ばれる闇の魔法使いラグナ・ゼラキエルの妻となるはずだった者、邪眼のレイノーラは、さも可笑しくて

 仕方ないと言うようにその紅の唇を三日月型に歪め、彼女の内にいよう本来のこの体の持ち主、エストラルダ帝国のアストラ剣士ラレンシェイ・ラージェを嘲笑ったのだった。

~ 黙れ魔物!貴様の思い通りにはさせない!

 その脳裏に響き渡るのは、レイノーラの内に閉じ込められたままでいるラレンシェイの勇ましく鋭い叫び声であった。

 しかし、彼女は、レイノーラに乗っ取られたその体を、以前のように自分の意志で動かすことなど出来なくなっていた。

 その魂が、魔性に呑まれかけているのである。
 それを知っているレイノーラは、愉快そうに、本来ならラレンシェイのものである美麗なその顔を邪に綻ばせたのだった。

『あらあら・・・・相変わらず諦めの悪い嫌な女だこと・・・
まぁ、いいわ・・・・そこでそうして吼えていなさい、どうせもう後少しで、そなたも私の一部となるのだから・・・・
【息吹(アビ・リクォト)】を取りに行くついでに、あのロータスの大魔法使いとも少し遊んで差し上げなければ・・・・ねぇ?そなたはそこで、あの男が何も出来ぬまま死んで行く姿を見ているがいいわ・・・・』

 ふふふ・・・と笑いながら、レイノーラは、見事な赤毛の前髪の下でその茶色の瞳を実に邪悪な表情で細めたのである。

 今、【息吹(アビ・リクォト)】を持つ青珠の守り手の傍には、レイノーラの同胞、幽幻六部衆が一人、魔物使いアルアミナが潜んでいるはずだ。

 レイノーラは、しなやかな右手を虚空に持ち上げると、その掌に黒炎と共に大きな水晶球が現れてくる。

『さて・・・・・ゆっくりと見物させて頂きましょう・・・・アルアミナ・・・・
そなたが失敗などすれば、この私が出向くことになるのだから・・・・
私が城の外に出れば、あのロータスの者も、間違いなく姿を現すのでしょうね?
実に愉快ですわ・・・・』

 千里を映す妖の水晶球を禍々しく歪む茶色の眼光で見つめながら、レイノーラはゆったりと長椅子に横たわり、赤く染まる妖艶な女妖の唇で、実に性悪に微笑むのだった。

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