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第一節 鋼色の空21
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だが彼女もまた、実にそ知らぬふりをして、掌で包んだ紅茶カップ)に口を付けるのである。
「まったく・・・ネデラのヤツ・・・っ」
心底不愉快気にそう呟くと、ジェスターは、その凛々しく端正な顔を苦々しく歪めて、うっとうしそうに湿った栗色の前髪をかき上げたのだった。
そんな彼の反応に、リーヤは、思わず可笑しそうに笑う。
この礼儀知らずで口の悪い、しかし、すごぶる腕の立つ魔法剣士の青年にも、そんな時代があったのかと、半ば感心したのも事実・・・・
今や、正に無敵とも言うべき彼とて、産まれながらにして最強の戦人であった訳ではない・・・と、そう言うことだ。
リーヤは、未だに難しい表情をしているジェスターを、晴れ渡る空の色をした紺碧の両眼で仰ぎ見ると、その秀麗な顔を、不意に、真顔に変えたのだった。
そして、白く綺麗なその頬に張り付く、瞳と同じ色をした、艶やかな長い巻き髪をさりげなく片手で払いながら、彼女は、静かな口調で言うのである。
「・・・・ネデラから、少し、貴方の師であった人の事を聞きました・・・・」
その言葉に、群青の衣を纏う広い肩を小さく震わせて、ジェスターは、ゆっくりと視線を動かすと、床の上に座り込むリーヤの秀麗な顔を顧みたのだった。
燃え盛る炎のような鮮やかな緑玉の瞳が、どこか切なそうに細められる。
片手に握ったままでいた金色の大剣を長椅子に立てかけ、静かに前で腕を組むと、彼は、何も言わず、濡れた前髪の隙間から、異形と呼ばれるその鮮やかな緑の瞳で、ただ、彼女の紺碧色の瞳を見つめるだけだった。
リーヤは、紅茶の入ったカップを床の上に置くと、毛布の中で両膝を抱えるようにして、言葉を続ける。
「随分と器量の大きな人だったようですね・・・・」
ふと、そう言った彼女の脳裏に、今や【忘却の街】と呼ばれるアーシェ一族の古都、アシェ・ギヴィ・シム(炎の結晶の街)で彼が見つめていた、荒野の墓標のことがよぎっていった。
あの時、彼の鮮やかな緑玉の瞳が、胸が詰まるほどの悲哀に満ち溢れ、その眼差しの先には、何も刻まれていない一本の石柱が建っていた・・・
あれは、そのバースと言う人の墓標であったのではないか・・・と、今更ながらリーヤは思う。
「ファルマス・シア(忘却の街)にあった、あの墓は・・・・・・
もしかしたら、その人の・・・・」
「・・・・ああ」
彼女の言葉に短く答えた彼の両眼に、ふと、あの時のように、どこか切なく、そして深い悲しみに満ちた輝きが灯った。
轟々と低い唸りを上げる暴風雨が、激しく窓を叩いている。
その音を広い背中で聞きながら、彼は、静かにその唇を開いた。
「・・・・・・バースを殺したのは・・・・・・この俺だ」
「・・・え・・・・!?」
淡々とした様子で紡がれた、彼のその短い言葉に、リーヤは、思わず、大きなその瞳を殊更大きく見開いてしまう。
深い悲哀に満ちた、燃え盛る炎の如き緑玉の瞳が、激しい風と雨が叫び声を上げる窓の外へと向けられた。
一瞬言葉を失って、驚いたような表情をするリーヤの両眼が、ただ、真っ直ぐに彼の端正な横顔を見つめ据える。
その晴れ渡る空の色をした紺碧の瞳に映るのは、深い悲しみに彩られた、しかしどこか鋭い彼の表情。
「それは・・・・・・一体、どういう事・・・なのです?」
そう聞いた彼女の声が、驚きのせいか僅かにかすれた。
そんな彼女を振り返る事もなく、ジェスターは、いつになく落ち着き払った低い声で言葉を続けたのである。
「魔剣を・・・・このアクトレイドス(告死の剣)を得るための試練だと・・・
バースは言っていた・・・この剣の元の保持者は・・・バースだ・・・・」
ふと、そう言ったジェスターの脳裏を鮮やかに掠めていくのは、あの日、鋭い眼光で真っ直ぐに彼を見つめすえていた、師であり父代わりでもあった、気高き賢者の姿・・・
『・・・・どんなに抗おうと、そなたは、朱の獅子(アーシェ)の忌み子・・・その運命に逆らうことはできない・・・だから、強くなれ・・・・この私の屍を越えてでも強くなって見せろ・・・っ!
私はそなたを腑抜けに育てた覚えはない、死ぬ覚悟でかかって参れ・・・!
男なら、朱の獅子の者であるのなら・・・・躊躇うな、アランデュ―クっ!』
そう言って、揺れる栗色の前髪の下で、青き瞳を鋭く見開くと、師である者は、利き手に構えた妖剣アクトレイドスの鋭い切っ先を、戸惑う彼の眼前に突きつけたのだった・・・
あの時、喉も張り裂けんばかりに発した自らの絶叫が、今でも、悲鳴のようにその心を掠めて通る。
あの日も、こんな激しい雨の日であった。
前で腕を組んだ姿勢のまま、ジェスターは、その燃え盛る炎の如き美しい緑玉の瞳を、長椅子に立てかけてある、 禍々しくも神々しい金色の大剣に向けた。
「バースと戦って勝つこと・・・・それが、あの時、俺が成すべきことだった・・・・・・・だから、殺した・・・・・」
「・・・・・・・・・」
淡々とした、やけに冷静な声と口調で紡がれたその言葉が、何故か、今、リーヤの胸に重くのしかかる。
口が悪くて礼儀知らずであるこの豪胆な青年が、旅の道すがらで時折見せていた、胸が締め付けられる程の切なく悲しいあの表情・・・
それは、無敵とも言うべき戦人である彼が、此処に至るまでに歩んで来た道筋の過酷さを、明白に物語っていたのかもしれない・・・・
彼は、ランドルーラで、かつて愛したすら、その手に掛けねばならなかった・・・
それ以前にも、深く思い慕った、師であり父代わりであった人を、自らの手で殺めねばならなかったというのか・・・
そして、これから・・・・彼が成すべきことは・・・他でもない、唯一血を分けた兄弟をも、その手に掛けること・・・・
この青年の背負っている宿命は、余りにも重く残酷なものだ・・・・
今更ながら、そんなことに気が付いて、リーヤは、綺麗な眉をひどく切なそうに潜めると、彼にかける言葉が見つからずに、晴れ渡る空の色を映した紺碧色の瞳を、静かに瞑目させたのである。
長く艶やかな巻き髪が、なだらかな肩から音もなく胸元へと滑り落ちた。
窓の外の暴風雨は、雷鳴を轟かせながら、いまだ止む気配を見せない。
激しい雨の音を聞く彼女の心が、ずきりと痛んだ。
まるで、その心に滴るように、暗黒の空から降り落ちてくる大粒の雨。
ゆっくりと瞳を開いたリーヤは、毛布を羽織ったままの姿で、その場に立ち上がり、荒れ狂う暴風と豪雨が叩く窓の外を見つめたままでいる彼の隣に、静かに歩み寄ったのである。
そして、何を思ったか、彼女は、こちらを振り向くことのないその広い肩に、自らが羽織っていた毛布をふわりとかけると、唇だけで小さく微笑んだのである。
その時初めて、怪訝そうな顔つきをしながら、湿った栗毛の前髪から覗くジェスターの鮮やかな緑玉の瞳が、彼女の秀麗な顔を顧みたのだった。
そんな彼の異形と呼ばれる美しい両眼を見つめながら、いつになく穏やかな口調でリーヤは言う。
「貴方も、寒いかと思っただけですから・・・・・・」
彼女は、決して、その体が寒いだろうと、そう言った訳ではなさそうだった・・・
「・・・・・馬鹿か?何を言ってる?おまえ?」
ジェスターは、ますます怪訝そうな顔つきになって、桜色の唇で微笑むリーヤを、まじまじと見つめすえた。
「貴方より私の方が大人ですから」
そう答えた彼女は、くるりとジェスターに背中を向けると、その広い背中にとんっと、紺碧色の巻き髪が揺れるしなやかな背を凭れかけたのだった。
ランドルーラで、彼が、愛した人を手に掛けたあの日の夜のように・・・・
いぶかしそうに形の良い眉を潜めて、ジェスターは、肩越しにそんな彼女の後ろ姿を凝視する。
その視線に気付きながらも、リーヤは、振り返らぬまま言うのであった。
「慰めてあげるのは、これが二度目です」
「だから、そんな事誰も頼んでねーだろ?」
そんなジェスターの反論は全く無視しきって、彼女は、そ知らぬふりで言葉を続けた。
「しっかり恩は売りましたから、後で、スターレットが何処へ行ったのか、ちゃんと私に教えるのですよ」
「押し売りの恩に礼をする義理はない、馬鹿か・・・・・・」
「・・・まったく、相変わらず、礼儀を知らない人ですね?貴方は?」
「悪かったな」
そんな会話をしながらも、お互いに、決して険悪な口調と態度で無い事は、言うまでもなかった。
「まったく・・・ネデラのヤツ・・・っ」
心底不愉快気にそう呟くと、ジェスターは、その凛々しく端正な顔を苦々しく歪めて、うっとうしそうに湿った栗色の前髪をかき上げたのだった。
そんな彼の反応に、リーヤは、思わず可笑しそうに笑う。
この礼儀知らずで口の悪い、しかし、すごぶる腕の立つ魔法剣士の青年にも、そんな時代があったのかと、半ば感心したのも事実・・・・
今や、正に無敵とも言うべき彼とて、産まれながらにして最強の戦人であった訳ではない・・・と、そう言うことだ。
リーヤは、未だに難しい表情をしているジェスターを、晴れ渡る空の色をした紺碧の両眼で仰ぎ見ると、その秀麗な顔を、不意に、真顔に変えたのだった。
そして、白く綺麗なその頬に張り付く、瞳と同じ色をした、艶やかな長い巻き髪をさりげなく片手で払いながら、彼女は、静かな口調で言うのである。
「・・・・ネデラから、少し、貴方の師であった人の事を聞きました・・・・」
その言葉に、群青の衣を纏う広い肩を小さく震わせて、ジェスターは、ゆっくりと視線を動かすと、床の上に座り込むリーヤの秀麗な顔を顧みたのだった。
燃え盛る炎のような鮮やかな緑玉の瞳が、どこか切なそうに細められる。
片手に握ったままでいた金色の大剣を長椅子に立てかけ、静かに前で腕を組むと、彼は、何も言わず、濡れた前髪の隙間から、異形と呼ばれるその鮮やかな緑の瞳で、ただ、彼女の紺碧色の瞳を見つめるだけだった。
リーヤは、紅茶の入ったカップを床の上に置くと、毛布の中で両膝を抱えるようにして、言葉を続ける。
「随分と器量の大きな人だったようですね・・・・」
ふと、そう言った彼女の脳裏に、今や【忘却の街】と呼ばれるアーシェ一族の古都、アシェ・ギヴィ・シム(炎の結晶の街)で彼が見つめていた、荒野の墓標のことがよぎっていった。
あの時、彼の鮮やかな緑玉の瞳が、胸が詰まるほどの悲哀に満ち溢れ、その眼差しの先には、何も刻まれていない一本の石柱が建っていた・・・
あれは、そのバースと言う人の墓標であったのではないか・・・と、今更ながらリーヤは思う。
「ファルマス・シア(忘却の街)にあった、あの墓は・・・・・・
もしかしたら、その人の・・・・」
「・・・・ああ」
彼女の言葉に短く答えた彼の両眼に、ふと、あの時のように、どこか切なく、そして深い悲しみに満ちた輝きが灯った。
轟々と低い唸りを上げる暴風雨が、激しく窓を叩いている。
その音を広い背中で聞きながら、彼は、静かにその唇を開いた。
「・・・・・・バースを殺したのは・・・・・・この俺だ」
「・・・え・・・・!?」
淡々とした様子で紡がれた、彼のその短い言葉に、リーヤは、思わず、大きなその瞳を殊更大きく見開いてしまう。
深い悲哀に満ちた、燃え盛る炎の如き緑玉の瞳が、激しい風と雨が叫び声を上げる窓の外へと向けられた。
一瞬言葉を失って、驚いたような表情をするリーヤの両眼が、ただ、真っ直ぐに彼の端正な横顔を見つめ据える。
その晴れ渡る空の色をした紺碧の瞳に映るのは、深い悲しみに彩られた、しかしどこか鋭い彼の表情。
「それは・・・・・・一体、どういう事・・・なのです?」
そう聞いた彼女の声が、驚きのせいか僅かにかすれた。
そんな彼女を振り返る事もなく、ジェスターは、いつになく落ち着き払った低い声で言葉を続けたのである。
「魔剣を・・・・このアクトレイドス(告死の剣)を得るための試練だと・・・
バースは言っていた・・・この剣の元の保持者は・・・バースだ・・・・」
ふと、そう言ったジェスターの脳裏を鮮やかに掠めていくのは、あの日、鋭い眼光で真っ直ぐに彼を見つめすえていた、師であり父代わりでもあった、気高き賢者の姿・・・
『・・・・どんなに抗おうと、そなたは、朱の獅子(アーシェ)の忌み子・・・その運命に逆らうことはできない・・・だから、強くなれ・・・・この私の屍を越えてでも強くなって見せろ・・・っ!
私はそなたを腑抜けに育てた覚えはない、死ぬ覚悟でかかって参れ・・・!
男なら、朱の獅子の者であるのなら・・・・躊躇うな、アランデュ―クっ!』
そう言って、揺れる栗色の前髪の下で、青き瞳を鋭く見開くと、師である者は、利き手に構えた妖剣アクトレイドスの鋭い切っ先を、戸惑う彼の眼前に突きつけたのだった・・・
あの時、喉も張り裂けんばかりに発した自らの絶叫が、今でも、悲鳴のようにその心を掠めて通る。
あの日も、こんな激しい雨の日であった。
前で腕を組んだ姿勢のまま、ジェスターは、その燃え盛る炎の如き美しい緑玉の瞳を、長椅子に立てかけてある、 禍々しくも神々しい金色の大剣に向けた。
「バースと戦って勝つこと・・・・それが、あの時、俺が成すべきことだった・・・・・・・だから、殺した・・・・・」
「・・・・・・・・・」
淡々とした、やけに冷静な声と口調で紡がれたその言葉が、何故か、今、リーヤの胸に重くのしかかる。
口が悪くて礼儀知らずであるこの豪胆な青年が、旅の道すがらで時折見せていた、胸が締め付けられる程の切なく悲しいあの表情・・・
それは、無敵とも言うべき戦人である彼が、此処に至るまでに歩んで来た道筋の過酷さを、明白に物語っていたのかもしれない・・・・
彼は、ランドルーラで、かつて愛したすら、その手に掛けねばならなかった・・・
それ以前にも、深く思い慕った、師であり父代わりであった人を、自らの手で殺めねばならなかったというのか・・・
そして、これから・・・・彼が成すべきことは・・・他でもない、唯一血を分けた兄弟をも、その手に掛けること・・・・
この青年の背負っている宿命は、余りにも重く残酷なものだ・・・・
今更ながら、そんなことに気が付いて、リーヤは、綺麗な眉をひどく切なそうに潜めると、彼にかける言葉が見つからずに、晴れ渡る空の色を映した紺碧色の瞳を、静かに瞑目させたのである。
長く艶やかな巻き髪が、なだらかな肩から音もなく胸元へと滑り落ちた。
窓の外の暴風雨は、雷鳴を轟かせながら、いまだ止む気配を見せない。
激しい雨の音を聞く彼女の心が、ずきりと痛んだ。
まるで、その心に滴るように、暗黒の空から降り落ちてくる大粒の雨。
ゆっくりと瞳を開いたリーヤは、毛布を羽織ったままの姿で、その場に立ち上がり、荒れ狂う暴風と豪雨が叩く窓の外を見つめたままでいる彼の隣に、静かに歩み寄ったのである。
そして、何を思ったか、彼女は、こちらを振り向くことのないその広い肩に、自らが羽織っていた毛布をふわりとかけると、唇だけで小さく微笑んだのである。
その時初めて、怪訝そうな顔つきをしながら、湿った栗毛の前髪から覗くジェスターの鮮やかな緑玉の瞳が、彼女の秀麗な顔を顧みたのだった。
そんな彼の異形と呼ばれる美しい両眼を見つめながら、いつになく穏やかな口調でリーヤは言う。
「貴方も、寒いかと思っただけですから・・・・・・」
彼女は、決して、その体が寒いだろうと、そう言った訳ではなさそうだった・・・
「・・・・・馬鹿か?何を言ってる?おまえ?」
ジェスターは、ますます怪訝そうな顔つきになって、桜色の唇で微笑むリーヤを、まじまじと見つめすえた。
「貴方より私の方が大人ですから」
そう答えた彼女は、くるりとジェスターに背中を向けると、その広い背中にとんっと、紺碧色の巻き髪が揺れるしなやかな背を凭れかけたのだった。
ランドルーラで、彼が、愛した人を手に掛けたあの日の夜のように・・・・
いぶかしそうに形の良い眉を潜めて、ジェスターは、肩越しにそんな彼女の後ろ姿を凝視する。
その視線に気付きながらも、リーヤは、振り返らぬまま言うのであった。
「慰めてあげるのは、これが二度目です」
「だから、そんな事誰も頼んでねーだろ?」
そんなジェスターの反論は全く無視しきって、彼女は、そ知らぬふりで言葉を続けた。
「しっかり恩は売りましたから、後で、スターレットが何処へ行ったのか、ちゃんと私に教えるのですよ」
「押し売りの恩に礼をする義理はない、馬鹿か・・・・・・」
「・・・まったく、相変わらず、礼儀を知らない人ですね?貴方は?」
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