神在(いず)る大陸の物語~月闇の戦記~【第一章】

坂田 零

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第二節 白銀の守り手 青珠(せいじゅ)の守り手8

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 高く昇った天空の太陽が、きちんと結い上げられた紺碧色の髪に、金色の光の断片を描き出している。
 リタ・メタリカの美しき王女リーヤティアは、晴れ渡る空の色をそのまま映したような紺碧色の両眼で、先程から、ずっと黙ったまま眼前で騎馬の手綱を取る青年の後ろ姿を見つめていた。

 リタ・メタリカの民族衣装を象った、彼の纏う鮮やかな朱の衣の長い裾が疾風に棚引いている。
 王都リタ・メタリカから北西の国々に伸びる大街道、銀楼の道(エルッセル)。
 二頭の騎馬の馬蹄が、日々多くの旅人が辿る石畳の街道に高らかに響き渡って行く。
 白く棚引く雲を引き連れて、青い空を渡る風の音。

 魔法を司る者にしか聞こえない、風の精霊達の不穏な歌声が、鋭敏な彼の聴覚を掠め通っている。
 若獅子の鬣のような見事な栗毛の髪が、疾走する騎馬の馬上で揺れていた。
 凛々しく端正なその顔立ちと、燃え盛る緑の炎のような緑玉の瞳。
 その眼差しに捕らえられた者は、運命すら変えられてしまうと言われる、鮮やかで神秘的な緑の両眼を僅かに細め、彼は、風の精霊達が伝える事柄にその凛々しく端正な顔を鋭く歪めたのだった。

 広い額で輝く金色(こんじき)の二重サークレットは、たった一人で騎兵二万と同じ力を持つと言われる、最強の戦人(いくさびと)、魔法剣士たる者の証。

 そんな彼は、自らをジェスター・ディグと名乗っている。
遥か古の人にあらざる言語で『名を棄てた者』という意味を持つその名を、魔法に携わったことのない美しきリタ・メタリカの王女は知る由もない。
 そして、何故彼がそのような名を名乗るのか・・・今の彼女がその真意を知りうる訳もない。
リーヤティアが、このジェスターと名乗る魔法剣士と、皆がまだ寝静まっている早朝、王都の居城を抜け出したのはつい数日前の事であった。

 今ごろ、城中の者が血眼になって彼女の行方を探しているだろう。
 彼女が城を出たことを知っているのは、宮廷付き魔法使いの長である者の愛弟子、ウィルタール・グレイぐらいなものである。
 もちろん、慌てふためく彼に口止めはしてきた。
 幼い頃よりずっと城で育ったリーヤティアが、見知らぬこの魔法剣士と共に城を出たのには訳がある。

 魔王と呼ばれる魔法使いが、城に攻め入って来たあの日、魔王を追って姿を消した、宮廷付き魔法使いの長たる者、ロータス一族の大魔法使いスターレットと再会するためだった。
 今の彼女の中には、それ以外の理由は他に無い。
 幼い頃より、宮中で顔を合わせていたスターレットはよく自分を理解してくれる兄のような存在だった。

 しかし、それ以上に、彼女の中での彼は、愛しいと言うにふさわしい大きな存在でもあるのだった。
 そんな彼が、自分を置いてどこかへ消えた・・・・
 気性の激しい彼女が、黙って彼の帰りを城で待てる筈もない。
 リーヤティアは、眼前で騎馬を駆るジェスターの背中にどこか苛立ったような声色で言うのだった。

「これからどこへ向かおうと言うのです!?」

 そんな彼女の声に気付いて、ジェスターは僅かに騎馬の手綱を引いて彼女の騎馬の隣に並んだ。
 見事な栗色の前髪の下から覗く、燃え盛る炎のような緑玉の瞳をちらりと、怒ったような顔をするリタ・メタリカの姫に向けて、相変わらずの無礼な口調で彼は言う。

「ファルマス・シア・・・・まぁ、お前にはそれがどこだかわからないだろうが」

 微笑みもせずぶっきらぼうにそう言った彼の言葉に、リーヤはますますその秀麗な顔を怒りに歪める。
ファルマス・シアとは、古いリタ・メタリカ語で『忘却の街』という意味を示す言葉だった。
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