溺愛展開を信じるには拾い主が怪しすぎる

蟹江カルマ

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24 ふたりきり※

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 午後七時をまわり、あたりはもう暗くなっていた。

「今日はもう帰って大丈夫だよ、明日からもよろしく」
「はい。ご指導ありがとうございました。明日からもどうぞよろしくお願いします」

 店を出た恭弥は、夫妻に頭を下げた。

「じゃあな霜山。またのご来店をお待ちしてやる」
「うん。ぼく、明日も来るから」
「いいですって」

 恭弥はあわてた。

「どうせ無職の身だもん、好きなところで暇をつぶしたっていいじゃない」
「やめとけ。過保護だよ」

 サボは笑った。

「お前、榛名くんまでダメ人間にする気かよ。懲りねぇなあ」

 恭弥の知らない誰かについて、サボは話しているようだった。

「したかったけど、恭弥くんはなってくれないんだ。じゃあね」

 アランはひらひらと手を振った。

「ダメ人間って……?」

 恭弥は思わず尋ねていた。
 
「あいつ自身のことでしょ? 在学中、お金がないってよくたかられててさ。ぼくもお節介だからつい。悪いやつじゃないんだけど、輪をかけてだらしなくなっちゃった」

 はぐらかされたのだろうか。アランの軽い口調だと、よくわからない。
 
「いい奥さんが見つかってよかったよ」

 恭弥も深入りしたくなかった。昔の恋人につながる話は、やっぱり聞きたくない。

「いい方たちでしたね。俺なんかの雇い主にはもったいねぇぐらい」
「サボなんかには、恭弥くんはもったいない、の間違いでしょ」

 アランはぽんと恭弥の頭を撫でた。

「苦労したね」

 恭弥は困惑して俯いた。自分にとってはふつうだったことでこんなに同情されるのは、不思議な感じがした。
 
「ぼくは恵まれてるから、恭弥くんの気持ちがわかるわけじゃないけど。自分がいる環境が間違っていたとして、そこから逃げ出すのは簡単なことじゃないって、ぼくは知ってる。
 他人からみた異常って、たいてい当事者にとっては日常だ。違和感に気づくことすら難しいこともある」

 アランは優しく微笑んだ。
 
「知らないみたいだけどさ、このぼくに捕まったからには、君には幸せになる義務があるんだ。今度はほんとうに、嫌なら逃げたっていい。よく覚えておきなさい」

(あったけぇ)

 この手のためなら、恭弥はなんだってできる。恭弥は少し泣きそうになった。
 
「……さて、と」

 アランは急にいつもの表情に戻り、恭弥にウインクした。

「帰ったらかわいそうな恭弥くんのこと、いっぱい慰めてあげなきゃ」
「なっ」

 恭弥はかっと赤くなった。
 
『帰ったら、しましょう……』

 あんなこと、言わなければよかった。
 アランがどうやって慰めてくれるつもりなのか、わかってしまったからだ。
 


 帰宅して玄関に入ると、アランはうしろから恭弥の身体に腕を巻き付けた。
 
「ま、待ってください、家政婦さんが」

 アランの体温が背後から恭弥を包み込み、感じやすい肌を震わせる。快感を覚えてしまったうしろがじんと甘く疼いた。

「いるわけないよ。よしえさんは七時には帰っちゃうからねぇ。ほら、靴、ないでしょ」 

 玄関にあった女性ものの靴がなくなっている。ほんとうに家政婦は仕事を終えて帰ったようだ。

「というわけでさ」

 遊ぶように、恭弥の唇を弄ってくる。細長い指の下で、恭弥の皮膚感覚は高められていく。じわりと恭弥の目が潤んだ。

「ふたりきりなわけ」

 ささやき声が恭弥の鼓膜をくすぐる。水が触れたら一瞬で蒸発しそうに、耳が熱くなる。
 
「お兄さんが慰めてあげよう」

 と、そのとき。
 ごす、と丸い何かが足に衝突する。
 
「なーん」

 グレーの猫がアランと恭弥の脚に懸命に身体をこすりつけている。

「ルディ……」

 異口同音に、恭弥とアランはつぶやいた。
 気まずい空気が漂ったのち、

「ぷっ……はは……!」

恭弥は思わず笑いだしてしまった。

「全然ふたりきりじゃねぇ」 
「もう。いいとこだったのに」

 アランは頬を膨らませた。

「今夜も泊まりじゃないかって、心配してたのかもしれません。ねー、ルディ」

 恭弥はルディの顎を撫でた。ルディは大きな音で喉を鳴らし、首を思いきり伸ばして恭弥に差し出している。
 さすが、霜山家でいちばん人懐こい猫。一日でもうこんなに懐いた。

「まあ、恭弥くんの笑顔が見られたから、いいとしよう」

 アランはため息をついた。
 
「飯と風呂、先にしよっか。よしえさんが用意してくれてるはずだよ」




 一度なごんでしまったわりに、その日の風呂と夕飯はおそろしく早く終わった。

「恭弥くん、早食いはよくないよ」

 よしえが用意した具沢山の味噌汁に飯を入れて掻きこんでいると、アランがたしなめた。

「あ、亜蘭さんこそ。酒ばっかでろくに食ってないじゃないですか」
「ぼくはほら、ほかにもっと食べたいものがあるし?」

 アランはにこにこと恭弥を見つめている。

「こ、こっち見るんじゃねぇ」
「だっておいしそうなんだもん」

 猫が乱入してこなければ、意識してしまうのは目の前の男のことだ。
 
(してぇ)
 
 恭弥は狂おしい気持ちで皿の後片付けをした。
 中途半端に昂った恭弥の身体は、時間が経てば経つほど強く不満を訴えていた。
 
(してぇ、してぇ、してぇ)
 
 アランも同じだったのかもしれない。
 そろそろ洗い物が終わりそうなところで、背後からアランが抱きついてくる。
 
「っ……」
 
 恭弥は息を詰めた。
 
「ごめん。終わるまで我慢できなくて。新妻感すごいんだもん」
 
 風呂上がりに着ていたパジャマは、いつものジーンズよりもはっきりと恭弥のかたちを目立たせてしまう。
 
「すぐ勃っちゃうんだね。かわいい」

 くすくすと笑うアランの吐息が、恭弥の腰を重くしていく。
  
「恭弥くんの部屋に行こう。猫ちゃんたちに邪魔されないように」

 
 
「っ……ぁ……」

 部屋の襖が閉まった途端、抱きしめられる。アランの指がパジャマの上から恭弥の乳首をかりりと引っ掻いた。

「や……ぁ……」
「一生懸命勃ってるから、服の上からでもわかっちゃった。こんなちっちゃいのに」

 すりすりと繊維の上から粒を擦り撫でられ、ひどい痺れが恭弥を襲った。
 
「こりこりしてる。わかる?」
 
 ズボンの布地に、じゅわっと蜜が染みていく。
 
「ぁ……あ……」
「心配だなぁ。まだ二日目なのに、こんなに乳首ぴん勃ちさせてるなんて。これからどうなっちゃうんだろうね?」

 かりり、すりり。
 指が蠢くたびに快感が強くなっていって、終わりがない。
 
「ぁあ……はあ、ぁ……っ」

 逃れるように上体を倒して、恭弥は喘ぐ。脚に力が入らない。


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