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チョコレィト編-修道服を着ているから、修道士なのではない
第三十一話 好敵手
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「情けないですね。仮にも、チョコレィトさんの墓前でしょう」
炎閃、一文字。
ショコラの前の人影は、胴を両断された。短剣を振ろうとしていた上体は、コマのように回って、そして滑り落ちる。その背後に立っていた人物にショコラは目を見張った。
「クーリ、グラス……?」
「よしてくださいよ。やめたんです、それ」
栗色のポニーテールをなびかせた、冒険者然とした立ち姿。胸部の大きく膨らんだ板金鎧に、金属の板を二枚張り合わせたような異様な剣を提げた彼女は、ショコラにとっては確かにクーリ・グラスだ。彼女は剣を肩に担ぎ、不機嫌な金属音とともに言う。
「ジェラート。今の私は、そっちってことにしてるんです」
「それって、どういう」
「どうって、どうでもいいんじゃないんですか?」
ショコラは無意識に半身を引き、警戒を見せるのだが、ジェラートの視線からは敵意は感じられず。だからといって友好的にも思えない。そのどちらより、もっと冷たい感情を感じていた。
「やめたんですよね、殺し。つまり復讐も」
「……っ」
「なんですかその顔。何か悪いことでもしたんですか? 違いますよね」
ジェラートに問われ、ショコラは歯噛みする。
そうだ、決めたのだ。自分は悪い子で、悪い子は当然、悪いものだ。周りのだれも、私に悪い子になってほしいなんて思っていない。だったら、悪い子でいていいわけがないから。
わたしは、良い子のいなるのだと。
心はなぜか、じくじくとしているが、それが自分の決意。ショコラはジェラートをきっと睨みつけ。
「えぇ、えぇそうよ。わたし、悪いことはやめたの」
「ですよね。それなら、私からのお願いは決まりました」
ジェラートはショコラの言葉を聞いて目を伏せる。
「あなたは、そこの男の子でも守っていてください。これは私のまいた火種ですから」
ショコラの視線なんて、ジェラートには一つも届いていないようだった。彼女はショコラに背を向けて、いつの間にか彼らを取り囲んでいる黒ずくめの人影に向き合っていた。
ショコラも鈍くはない。ジェラートの言葉が何を示しているのか、そのぐらいはわかっている。あれは、あなたは役立たずだと、そういう意味だ。
確かに、もう人を殺すことはしない。ショコラにとって、それは誓い。悪いことをしている自分をでも、心配してくれる人たちがいて。その人たちの思いに応えるための、贖罪の誓い。
「さて、待たせてしまいましたね、クリオロ。私みたいないい女が、お誘い通りに来てあげたんです。まさか相手をしてくれないなんて、言いませんよね?」
「……」
「あぁ、そうですか」
ジェラートは返事をしない人影たちへの苛立ちを言葉に乗せ、そしてそれは熱気として彼女の身体から噴出する。
「なら、そのゆるっゆるなマナー、私がしっかり焼き直してあげますよ」
すべてを焼き尽くさんとする、火の魔力の予兆。
――最初の一撃で、片をつける気だ。
嫌な記憶が、ショコラを自分の内側から引きずり出した。あの黒ずくめが火薬玉を放った時のまま、スフレを囲っている土壁に駆け寄る。手を触れ、泥水へと戻すことでそれを解き。今度はショコラとスフレを囲うように、練り直していく。そうして出来上がっていく、漆黒の壁。今のショコラにはそれがどうしようもなく頼りなく見えてしまった。急かすように腕を振って、二重三重に土壁を展開。ドーム状に成型し、シェルターを作る。
隙間なく全周囲を覆った結果、中は完全な密閉空間だ。星一つない夜を思わせる暗闇、一緒に閉じ込められた熱気の断片が、じっとりと張り付いてくる。自分の荒い息の隙間に、ショコラはスフレの穏やかな呼吸音を聞く。はっとして、彼女は彼の身体をくまなくまさぐるが、どうもナイフで刺されたりはしていないらしい。
むしろ、そうして腕を動かすたびにショコラの背中の傷が痛む。自分一人では、止血をすることも難しい。
「わたし、何してるのかしら」
答える者はいない。
ショコラはスフレの手の位置を探り、握りしめた。昼間は温かかったその手に。祈るように、すがった。
◇◆◇
少ししてショコラが気付いたことは、これでは外の様子が全く分からないということだった。だからといって、変に穴をあけた結果、そこから入った炎で窯焼きにされましたなんて、笑えないにもほどがある。
ならどうするかと考える合間にも、ショコラの背中からは血がじくじくと流れていく。痛みに散漫とする思考は少しずつ霞がかって、彼女は根拠もなく、そろそろ外に出てもいいんじゃないかと思い始めていた。よどんだ空気と、不快な汗。
その時、黒一色の中に光が差し込んだ。実際には、弱弱しい月明かりであるのだが、ずぅっと暗闇にならされた目にはそれすらまぶしい。すぐに土壁は四角く切り取られて、人が通れるくらいの出口が開く。
「まったく、どれだけ厳重に作ってるんですか。すっかり夜になっちゃいましたよ」
「……くーり?」
「ジェラートだって言いましたよ。あぁもう、そんなに顔白くして」
むわっとした空気を感じてか、顔をしかめて入ってきたジェラートは、ショコラを見るなりそう言った。ショコラは本当に顔が白いのか確かめようとして右の頬に触れるのだが、当然わかるはずもない。それも、火傷ゆえの不自然な凹凸をなでただけなのだから尚更だ。
ジェラートはその仕草を見て、右手に遊ばせていた仕込み剣を土壁に立てかけた。そうして空けた手をショコラに差し出す。
「ほら、立ってください。つらいでしょうけど、私、その子も担がないといけないので」
「えぇ、もちろん。もちろん立つわよ」
「威勢はいいですけど、手は借りるんですね」
「……うるさい」
「うん。そのくらいが年相応でかわいいですよ」
十も年が違わないくせに、よっぽど年長者のように話すジェラートだが、それにとやかく言う気分ではショコラはなかった。大人しく彼女の手を握って、自分で作ったシェルターから出る。やはりといえばやはりなのだが、あたりは焼き払われてしまって、灰の匂いが彼女の鼻をくすぐった。
それでも、秋の涼やかな夜気は彼女の身体を洗いなおすようだった。
「よいっ、しょ」
声がしたとショコラが振り返れば、ジェラートがスフレを負ぶって出てきたところだ。板金鎧の堅い感触を感じたのか、スフレがうぅんと呻く。もうすぐ目も覚ますに違いない。
けれど、この後はどうしようか。体が冷えて、多少なりとも頭の回るようになったショコラだったが、結論を出すまでもなくジェラートが口を開く。
「それじゃ、案内はお願いしますよ」
「案内?」
「何すっとぼけてるんですか。パティスリーですよ」
「本当に、言ってるの?」
スフレを担いだまま、器用に仕込み剣を拾いなおし、腰の金具に引っ掛けるジェラートは、あっけらかんと言う。
ショコラからすれば、予想外もいいところだ。
まさかただのお菓子屋さんだと思って、そう言っているのではないだろう。あぁもタイミングよく表れたのだから、ある程度尾行はされていたろうし、つまりはショコラとスフレがパティスリーで暮らしていると知っていても不思議はないが。
そういう、いったん家で落ち着きましょうという意味合いにおいて、わざわざ店名を出すとは思えない。というか、それなら案内されなくても、彼女は所在を知っているに違いない。
ならば、この場合の『案内』は。パティスリーの裏の顔である裏ギルドに用があるのだと、そういうことなのだろう。彼女を殺す依頼を出した、パティスリーに。
「パティスリーを、どうするつもりよ」
「嫌ですね。助けたばかりじゃないですか。悪いことはしませんよ」
「どうかしら。助けてくれたから、何も言わなかったけれど。わたしとあなただって敵同士のはずじゃない」
「敵だなんて、今更ですね」
これ見よがしに右手を見せつけて、語気を強めるショコラ。ジェラートはめんどくさそうにため息をつく。
「復讐、やめたんでしょう? なら今のあなたは、私にとって敵でも何でもないんですよ。コンディトライは、抜けましたし」
「……え?」
「あれ、結構大きくやらかしたんで、ヌガーさんは知ってるかと思ったんですけどね」
「聞いてない」
「うーん、そうですか」
ジェラートは当てが外れたとばかりに首をひねる。ショコラは、その動作が自然なように思えた。
そも、ショコラは彼女を嘘偽りの得意な人間であるとは思っていない。あっさりとヌガーに正体を見破られていたのもそうだし、姿も声も魔法で隠していたのは、魔法以外に隠す手立てを持たなかったからだろう。
そこまで考えて、少しふらつく。脳の血管がさぁっと冷える感覚。出血を早く止めないことには、結局戦っても負けるだけだ。
「いいわ。案内してあげる」
「ありがとうございます。これで手間が省けますよ」
どうせ、パティスリーに帰ってジェラートが対面するのは、あのビスキュイなのだ。ジェラートが何をしようと、ケーキナイフで串刺しにされて終わるだけ。店を荒らすことになるから、死ぬほど怒られるだろうけど。
そうとは知らず表情を緩めたジェラート。ショコラは一応建前として、要求を述べておくことにした。
「ただし、歩きながら、いろいろ話してもらうわ」
「それはいいですけど」
「けど、何よ」
てっきりするりと通ると思っていたショコラは、わずかにジェラートがにやついているのも気にせずに聞き返す。
「もう見るからにグロッキーですけど、そんなんで話、聞けるんですか?」
「聞けるわよ!」
「うわっ、すぐ足ださないでくださいよ! あなたの恋人背負ってるんですよ?」
「恋人じゃないっ!」
「あ、顔色戻りましたね。真っ赤」
「ああああああ、もうっ!」
なにより自分からからかわれに行ってしまったうかつが悔しくて、ショコラは地団太を踏んだ。踏んで、自分の体調を忘れて騒いだものだから、不意に転びそうになる。そんな彼女を、ジェラートは空いている片手でだが、確かに支えてくれる。
「ありがとう」とお礼を言えば、「いえ。その火傷のぶんくらいは、助けるつもりです」と返される。
あぁ、本当に。
自分は彼女の敵ではなくなったのだと、ショコラは理解した。
炎閃、一文字。
ショコラの前の人影は、胴を両断された。短剣を振ろうとしていた上体は、コマのように回って、そして滑り落ちる。その背後に立っていた人物にショコラは目を見張った。
「クーリ、グラス……?」
「よしてくださいよ。やめたんです、それ」
栗色のポニーテールをなびかせた、冒険者然とした立ち姿。胸部の大きく膨らんだ板金鎧に、金属の板を二枚張り合わせたような異様な剣を提げた彼女は、ショコラにとっては確かにクーリ・グラスだ。彼女は剣を肩に担ぎ、不機嫌な金属音とともに言う。
「ジェラート。今の私は、そっちってことにしてるんです」
「それって、どういう」
「どうって、どうでもいいんじゃないんですか?」
ショコラは無意識に半身を引き、警戒を見せるのだが、ジェラートの視線からは敵意は感じられず。だからといって友好的にも思えない。そのどちらより、もっと冷たい感情を感じていた。
「やめたんですよね、殺し。つまり復讐も」
「……っ」
「なんですかその顔。何か悪いことでもしたんですか? 違いますよね」
ジェラートに問われ、ショコラは歯噛みする。
そうだ、決めたのだ。自分は悪い子で、悪い子は当然、悪いものだ。周りのだれも、私に悪い子になってほしいなんて思っていない。だったら、悪い子でいていいわけがないから。
わたしは、良い子のいなるのだと。
心はなぜか、じくじくとしているが、それが自分の決意。ショコラはジェラートをきっと睨みつけ。
「えぇ、えぇそうよ。わたし、悪いことはやめたの」
「ですよね。それなら、私からのお願いは決まりました」
ジェラートはショコラの言葉を聞いて目を伏せる。
「あなたは、そこの男の子でも守っていてください。これは私のまいた火種ですから」
ショコラの視線なんて、ジェラートには一つも届いていないようだった。彼女はショコラに背を向けて、いつの間にか彼らを取り囲んでいる黒ずくめの人影に向き合っていた。
ショコラも鈍くはない。ジェラートの言葉が何を示しているのか、そのぐらいはわかっている。あれは、あなたは役立たずだと、そういう意味だ。
確かに、もう人を殺すことはしない。ショコラにとって、それは誓い。悪いことをしている自分をでも、心配してくれる人たちがいて。その人たちの思いに応えるための、贖罪の誓い。
「さて、待たせてしまいましたね、クリオロ。私みたいないい女が、お誘い通りに来てあげたんです。まさか相手をしてくれないなんて、言いませんよね?」
「……」
「あぁ、そうですか」
ジェラートは返事をしない人影たちへの苛立ちを言葉に乗せ、そしてそれは熱気として彼女の身体から噴出する。
「なら、そのゆるっゆるなマナー、私がしっかり焼き直してあげますよ」
すべてを焼き尽くさんとする、火の魔力の予兆。
――最初の一撃で、片をつける気だ。
嫌な記憶が、ショコラを自分の内側から引きずり出した。あの黒ずくめが火薬玉を放った時のまま、スフレを囲っている土壁に駆け寄る。手を触れ、泥水へと戻すことでそれを解き。今度はショコラとスフレを囲うように、練り直していく。そうして出来上がっていく、漆黒の壁。今のショコラにはそれがどうしようもなく頼りなく見えてしまった。急かすように腕を振って、二重三重に土壁を展開。ドーム状に成型し、シェルターを作る。
隙間なく全周囲を覆った結果、中は完全な密閉空間だ。星一つない夜を思わせる暗闇、一緒に閉じ込められた熱気の断片が、じっとりと張り付いてくる。自分の荒い息の隙間に、ショコラはスフレの穏やかな呼吸音を聞く。はっとして、彼女は彼の身体をくまなくまさぐるが、どうもナイフで刺されたりはしていないらしい。
むしろ、そうして腕を動かすたびにショコラの背中の傷が痛む。自分一人では、止血をすることも難しい。
「わたし、何してるのかしら」
答える者はいない。
ショコラはスフレの手の位置を探り、握りしめた。昼間は温かかったその手に。祈るように、すがった。
◇◆◇
少ししてショコラが気付いたことは、これでは外の様子が全く分からないということだった。だからといって、変に穴をあけた結果、そこから入った炎で窯焼きにされましたなんて、笑えないにもほどがある。
ならどうするかと考える合間にも、ショコラの背中からは血がじくじくと流れていく。痛みに散漫とする思考は少しずつ霞がかって、彼女は根拠もなく、そろそろ外に出てもいいんじゃないかと思い始めていた。よどんだ空気と、不快な汗。
その時、黒一色の中に光が差し込んだ。実際には、弱弱しい月明かりであるのだが、ずぅっと暗闇にならされた目にはそれすらまぶしい。すぐに土壁は四角く切り取られて、人が通れるくらいの出口が開く。
「まったく、どれだけ厳重に作ってるんですか。すっかり夜になっちゃいましたよ」
「……くーり?」
「ジェラートだって言いましたよ。あぁもう、そんなに顔白くして」
むわっとした空気を感じてか、顔をしかめて入ってきたジェラートは、ショコラを見るなりそう言った。ショコラは本当に顔が白いのか確かめようとして右の頬に触れるのだが、当然わかるはずもない。それも、火傷ゆえの不自然な凹凸をなでただけなのだから尚更だ。
ジェラートはその仕草を見て、右手に遊ばせていた仕込み剣を土壁に立てかけた。そうして空けた手をショコラに差し出す。
「ほら、立ってください。つらいでしょうけど、私、その子も担がないといけないので」
「えぇ、もちろん。もちろん立つわよ」
「威勢はいいですけど、手は借りるんですね」
「……うるさい」
「うん。そのくらいが年相応でかわいいですよ」
十も年が違わないくせに、よっぽど年長者のように話すジェラートだが、それにとやかく言う気分ではショコラはなかった。大人しく彼女の手を握って、自分で作ったシェルターから出る。やはりといえばやはりなのだが、あたりは焼き払われてしまって、灰の匂いが彼女の鼻をくすぐった。
それでも、秋の涼やかな夜気は彼女の身体を洗いなおすようだった。
「よいっ、しょ」
声がしたとショコラが振り返れば、ジェラートがスフレを負ぶって出てきたところだ。板金鎧の堅い感触を感じたのか、スフレがうぅんと呻く。もうすぐ目も覚ますに違いない。
けれど、この後はどうしようか。体が冷えて、多少なりとも頭の回るようになったショコラだったが、結論を出すまでもなくジェラートが口を開く。
「それじゃ、案内はお願いしますよ」
「案内?」
「何すっとぼけてるんですか。パティスリーですよ」
「本当に、言ってるの?」
スフレを担いだまま、器用に仕込み剣を拾いなおし、腰の金具に引っ掛けるジェラートは、あっけらかんと言う。
ショコラからすれば、予想外もいいところだ。
まさかただのお菓子屋さんだと思って、そう言っているのではないだろう。あぁもタイミングよく表れたのだから、ある程度尾行はされていたろうし、つまりはショコラとスフレがパティスリーで暮らしていると知っていても不思議はないが。
そういう、いったん家で落ち着きましょうという意味合いにおいて、わざわざ店名を出すとは思えない。というか、それなら案内されなくても、彼女は所在を知っているに違いない。
ならば、この場合の『案内』は。パティスリーの裏の顔である裏ギルドに用があるのだと、そういうことなのだろう。彼女を殺す依頼を出した、パティスリーに。
「パティスリーを、どうするつもりよ」
「嫌ですね。助けたばかりじゃないですか。悪いことはしませんよ」
「どうかしら。助けてくれたから、何も言わなかったけれど。わたしとあなただって敵同士のはずじゃない」
「敵だなんて、今更ですね」
これ見よがしに右手を見せつけて、語気を強めるショコラ。ジェラートはめんどくさそうにため息をつく。
「復讐、やめたんでしょう? なら今のあなたは、私にとって敵でも何でもないんですよ。コンディトライは、抜けましたし」
「……え?」
「あれ、結構大きくやらかしたんで、ヌガーさんは知ってるかと思ったんですけどね」
「聞いてない」
「うーん、そうですか」
ジェラートは当てが外れたとばかりに首をひねる。ショコラは、その動作が自然なように思えた。
そも、ショコラは彼女を嘘偽りの得意な人間であるとは思っていない。あっさりとヌガーに正体を見破られていたのもそうだし、姿も声も魔法で隠していたのは、魔法以外に隠す手立てを持たなかったからだろう。
そこまで考えて、少しふらつく。脳の血管がさぁっと冷える感覚。出血を早く止めないことには、結局戦っても負けるだけだ。
「いいわ。案内してあげる」
「ありがとうございます。これで手間が省けますよ」
どうせ、パティスリーに帰ってジェラートが対面するのは、あのビスキュイなのだ。ジェラートが何をしようと、ケーキナイフで串刺しにされて終わるだけ。店を荒らすことになるから、死ぬほど怒られるだろうけど。
そうとは知らず表情を緩めたジェラート。ショコラは一応建前として、要求を述べておくことにした。
「ただし、歩きながら、いろいろ話してもらうわ」
「それはいいですけど」
「けど、何よ」
てっきりするりと通ると思っていたショコラは、わずかにジェラートがにやついているのも気にせずに聞き返す。
「もう見るからにグロッキーですけど、そんなんで話、聞けるんですか?」
「聞けるわよ!」
「うわっ、すぐ足ださないでくださいよ! あなたの恋人背負ってるんですよ?」
「恋人じゃないっ!」
「あ、顔色戻りましたね。真っ赤」
「ああああああ、もうっ!」
なにより自分からからかわれに行ってしまったうかつが悔しくて、ショコラは地団太を踏んだ。踏んで、自分の体調を忘れて騒いだものだから、不意に転びそうになる。そんな彼女を、ジェラートは空いている片手でだが、確かに支えてくれる。
「ありがとう」とお礼を言えば、「いえ。その火傷のぶんくらいは、助けるつもりです」と返される。
あぁ、本当に。
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