青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第1章:黒髪の少女

第4話

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「...ル。ア......ール...。」

遠くの方から、私の名前を呼ぶ声が聞こえる。ゆっくり瞼を開くと、視界の端で桃色の長い髪が揺れた。

「あ、おはよー。ちゃんと眠れたみたいだね。」

身体を起こし、目を擦りながら彼女の方を向いた。

「...ロゼ?」
「ローゼね?」
「...ロゼ。」
「まぁ...ロゼでいっか。今日でお別れかもしれないし。」

彼女に手を差し出され、握り返して床に足を着く。

「まずは着替えね。どっちが良い?」

彼女は右手に黄色の服、左手に赤色の服を持ち、私に選択を委ねた。

「...こっち。」
「はい。じゃあ着替えて。」

来ていた服を脱ぎ、差し出された黄色の服に着替える。

「後は、顔を洗って...ご飯食べて...それからー...」

ぶつぶつと言葉を呟きながら、部屋を出ていく彼女の後を追いかける。風呂場で顔を洗い、食堂へやって来ると、椅子に座るアルトゥンの姿があった。彼は私がやって来たことに気付き、右手を上げる。

「お!おはようさん!ちゃんと起きられて偉いやん~。」
「起こしたのは僕だよ?褒めるなら僕を褒めてよね。」
「なんでお前を褒めなあかんの?大人だったら起きて当たり前やろ。」
「僕はこれから仕事なの!起こしに行くだけなら、アルでも出来たじゃん!」
「そんなん言われたって、ヴィーズがお前に頼んだんやろ?俺が悪い訳ちゃうもーん。」
「何その言い方!ムカつく~!」
「仕事前に訓練でもしとくか?俺は休みやから、それでも構わ...」
「うるせぇぞてめぇ等。騒ぐなら外でやれ。」

奥の部屋から、木の板を持ったグリがやって来た。

「僕が頼まれてたのはここまでだから、もう仕事行くからね!」
「はいはい。行ってらっしゃいやで~ローゼ。」
「...ムカつく!」

勢いよく扉を開き、ローゼが部屋から立ち去って行った。

「朝から元気やなぁローゼは。」
「てめぇも大概だろ。ほら、飯だ。」

グリは、私の目の前に白い器を置いた。平たい器の中央に、四角い黄色の固形物が乗っている。

「アスール。今日、一緒に役所に行こな?」
「...役所?」
「あー...役所っちゅうのは...。何て言ったらええかな...。」
「お前の家族を探しに行く。役所って場所に行けば、何か分かるかもしれない。」
「そうそう!そういう場所なんよ。アスールを探してる人がおるかもしれんから、会いに行くんやで。」
「...グイも?」
「あぁ。俺も一緒に行けって言われたからな。お前がこれを食べ終わって、片付けが済んだらな。」
「...食べる。」
「せやな。よーく噛んで、いっぱい食べるんやで。」

アルトゥンに見守られながら、光る棒を手に取る。スプーンと色は似ているが、その先端は4つに分かれて尖っていた。

「フォークも使った事あらへん?スプーンと同じように使うんやで。」

フォークを使い、固形物の中央に突き刺した。持ち上げて、口元へ運んでいく。

「おぉ...。随分ワイルドな食べ方やな...。」
「そう思うなら止めてやれよ。…ちょっと貸してみろ。」

歯型のついた固形物を器に戻し、フォークを彼に差し出す。すると彼はフォークの脇を固形物に押し当て、口に入る大きさに切り取った。

「こうやって、1口大に切って食べた方が食べやすいぞ。」
「...分かった。」
「グリが子供の面倒を見てる姿は新鮮やね~。」
「揃いも揃って同じ事を...。そんなに意外か?」
「今まで見た事あらへんもん。そういう事は、ヴィーズとかルスケアの専門やろ?」
「まぁそうだな。そこは否定しねぇよ。」
「...食べた。」
「え、早!」
「あのなぁ。柔らかいからって...ま、いいか。片付けるからちょっと待ってろ。」

木の板に器を乗せ、グリは奥の部屋へ姿を消した。

「グリって、案外優しいとこあるやろ?」
「...優しい?」
「優しいちゅうのはー...。そうやなぁ...。」

身体の前で腕を組み、アルトゥンは首を傾げた。

「相手の立場に立って、考えられる...っちゅう事かな?」
「...立つ。」

椅子から飛び降り、テーブルの脇を通って彼の隣に立つ。

「...優しい?」
「ちゃうちゃう!隣に立てばええって訳やないんよ。なんちゅうかー...。んー。説明するんは、ちと難しいなぁ。」

身体の前で腕を組み、私は首を傾げた。

「...何やってんだ?」



奥の部屋から戻って来たグリとアルトゥンに連れられ、私は初めて建物の外へ出た。吹き抜ける風を全身に受け、服の裾がヒラヒラと揺れる。

「いいか?ここから先は、俺達と絶対に離れるなよ?勝手にどっか行くのも、知らない奴について行くのもダメだ。いいな?」
「...分かった。」
「グリが手を離さなければ大丈夫ちゃう?」
「てめぇはこいつから目を離すなよ?」
「わ、分かっとるって...!」

彼に手を引かれ、土の道を歩き始めた。次第に道は石へと代わり、人影が増えていく。風の音や鳥の声は小さくなり、人の声と馬の足音が大きくなっていった。

「俺、捜索願いって見た事無いんやけど、どこに行ったら見られるん?」
「俺も知らねぇよ。役所の人間に聞けば大体分かるだろ?」
「何や不安になってきたなぁ...。」
「何でてめぇが不安がるんだよ。...1番不安なのは、こいつだろ。」

私の手を握る彼の手が、ほんの少し強くなった気がした。
人混みをかき分けながら街中を進んで行き、大きな建物の中へ足を踏み入れた。アルトゥンは近くに立っていた女性に話しかけ、グリとその様子を見守る。しばらく話し込んだ後、彼はゆっくりと私達の元へ戻って来た。

「どうだった?」
「...ダメやった。捜索願い、誰のも出とらんって。」
「マジかよ...。本当なんだろうな?」
「嘘ついてどうするんよ。俺だって、アスールの家族を見つけてやりたいと思っとるで?」
「なら、俺等の足で聞いてまわるしかねぇな。」
「せやね。このまま帰る訳には行かへんよ!」
「アスール。歩くのに疲れたら、腕を引っ張って教えろ。」

私が首を縦に振ると、建物を出て大通りを歩き出した。

「行く宛てはあるん?」
「とりあえず、海に行ってみる。」
「ヴィーズがアスールを見つけた所やね。」
「そこで見つかったからって、近くに住んでるとは限らねぇが...。ま、行ってみりゃ分かるだろ。」
「まー...その辺を歩き回ってるよりは可能性あるわな。」
「...海?」
「せやでー。海っちゅうのは、水がぎょーさんある所でな?広くてデカくて大きいんや!」
「広いもデカいも大きいも同じだろ。」
「細かい事はええんよ。とにかくデカい!それが海なんや。」
「...デカい。」
「大きい...な?変な言葉教えてんじゃねぇよ。」
「変な言葉やあらへんよ。これも一種の感情表現や。大きいより、デカいの方がより一層大きく感じるやろ?」
「そうかぁ?」
「...デカい。大きい。」
「な?アスールも気に入ったやろ?」
「俺にはついていけねぇ...。」
「海はデカいだけやないで?魚もぎょーさんおるし、こーんなでっかい...」

身振り手振りで話すアルトゥンと、反論しつつもしっかりと話を聞いているグリ。彼等の間に挟まれながら歩く時間は、長時間歩いた事を忘れる程あっという間に過ぎていった。

「ほれ、見てみぃ!あれが海や。」

彼が指さす先に、視界いっぱいの水が広がっていた。遠くの方に見える水面が1本の線のようになっていて、空と海を2つに分けている。

「...デカい。海。」
「せやろー?デカいやろー?」
「遊びに来たんじゃねぇぞ?俺はこいつと聞き込みするから、てめぇは近くの家で情報を集めて来い。」
「了解やで。ほんなら、昼頃にまたここで集合しよか。」

アルトゥンは私達の元を離れ、遠くの方にある建物に向かって走り出した。あっという間に彼の姿は小さくなっていった。

「ここに来て、何か思い出せる事はあるか?」

グリの言葉に、辺りを見渡した。水が音を立てながら、こちらに向かって溢れ出す。こちらへ来たかと思った矢先、地面の砂を引き連れて、私達から離れていく。

「海も知らないんじゃ、分かる訳ねぇか...。」
「...水、動いてる。」
「まぁ...海だからな。」
「...生きてる?」
「水は生き物じゃねぇよ。それ以上、俺には分からねぇからビオレータに聞け。」
「...ビオレタ、分かる?」
「あいつは博識だからな。聞けば大体分かるだろ。」
「...博識?」
「物知りって事だ。分からない事は、聞けば大体答えてくれる。」
「...人。」
「あ?人だぁ?」

水に浮かぶ人影を見つけ、海の方を指さす。

「っ...!アスール。お前はここにいろ!」

彼は私の手を離し、海へ向かって走り出した。柔らかい地面が抉られ、彼の靴から砂がこぼれ落ちる。
そのまま水に向かって飛び込み、大きな水しぶきをあげた。水に浮かぶ人を引き寄せ、水をかき分けてこちらへ戻って来る。
砂の上に男性を寝かせ、胸元に両手を添えた。

「おい!しっかりしろ!」 

彼の呼び掛けに、男性は微動だにしない。全身を使い、男性の胸を強く押し始める。一定のリズムでしばらく押した後、胸元に顔を近づけた。

「くそ...どうすりゃ...」

私は彼の側に駆け寄り、男性の隣にしゃがみ込んだ。両手を重ね、彼の真似をして胸元に手を添える。

「おい...邪魔すんな!お前は離れ...」

目を閉じ、手元に意識を集中させる。男性の濡れた服に触れた手が、じんわりと温かくなっていくのを感じた。

「げほっ...ごほっ...!」

男性がむせ返る声が聞こえた。しかし、その後男性がどうなったのか、私はよく覚えていない。
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