青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

文字の大きさ
9 / 88
第1章:黒髪の少女

第8話

しおりを挟む
大通りの側にある建物の扉を開き、中に足を踏み入れた。様々な色と形の服が並んでいて、部屋中に服が飾られている。

「...服、いっぱい。」
「気になる物はあるか?」

ユオダスに服を選ぶように言われ、近くにあった橙色の服を指さす。

「...これ。」
「これは大きすぎる。もう少し小さい方がいい。」
「...じゃあこれ。」
「これは男物じゃないか?」

あれこれ指をさしてみるものの、どれも私が着る服では無いらしい。

「...分からない。」
「困ったな...。女児の服はどう選んだらいいんだ?」
「団長には姉が居なかったか?」
「居るにはいるが...。どんな服を着ていたかまで覚えていない。そう言うジンガはどうなんだ?」
「孤児院の服は全て院長が選んでいるから...女物の服はよく分からない。」
「こういう時に、ヴィーズやローゼが居たらな...。」
「いらっしゃいませ~。何かお探しですか~?」

私達の元に、見知らぬ女性がやってきた。ユオダスが私に歩み寄り、彼女に話しかける。

「この子の服が欲しいんだが、何着か選んでもらえないだろうか?」
「可愛らしいですね~。娘さんですか~?」
「ま、まぁ...そんなところだ。」
「そうですね~...この子の身長でしたら~...。」

彼女は辺りを見渡しながら、飾られた服に次々と手を触れていく。ユオダスはその場にしゃがみ込み、私の耳元に顔を近付けた。

「アスール。彼女が服を取って、これはどうだ?と聞いたら...とりあえず首を縦に振っておけ。」
「...分かった。」
「これなんていかがでしょう~?」

彼女は桃色の服を手に取り、私に問いかけた。
言われた通り、首を縦に振る。

「他にもあるか?」
「はい~!他にはですね~...」

女性が服を手に取るたびに、私は何度も首を振った。彼女が選んだ服が机の上に積み重なり、両手の紙袋は私の服でいっぱいになった。

「さすがに多過ぎたんじゃないか...?」
「これだけあれば困らないだろう。また選べと言われたら大変だからな...。」
「片方持つか?」
「いいや平気だ。それよりも、お前にはアスールを見て...」

ユオダスの言葉を遮り、ジンガが私の前に飛び出した。右手を後ろに回し、腰に下げた棒を握りしめる。

「ねぇねぇ~。お兄さん達、ちょっと寄って行かない~?」

私達の前に現れた2人の女性を見て、ジンガは棒から手を離した。

「すまないが、俺達は...」
「も~!そんな釣れない事言わないで~?」

女性はジンガの腕を掴み、耳元に顔を近付ける。

「いっぱいサービスしてあげるわよ~?」
「サービスとやらに興味は無い。行こう。」

彼は女性を振り払い、私を呼び寄せた。彼の元へ駆け寄ると、彼女は後ろに立っていたユオダスにも声をかける。

「そちらのお兄さんはどうかしら~?」
「生憎だが、あなたの相手をする暇は無い。失礼する。」

彼女の横を通り過ぎようとする彼の腕に、女性が腕を伸ばしてしがみついた。

「ちょっとくらい...」
「離せ!」

彼は声を荒げ、女性を払い除ける。彼の顔は、今までに見た事が無いくらい強ばっていた。
そのまま何事も無かったかのように女性に背を向け、大通りを歩き出す。

「な、何よ~...!怒鳴らなくても良いじゃない~!」

後ろから聞こえる女性の声に見向きもせず、歩き出す彼等の後をついて行った。



「買い出しはこれで十分だな。」

大通りの店を何軒か訪れ、ジンガの手に握られた袋が食べ物でいっぱいになった。

「...食べ物、沢山。」
「調理師に頼まれていた物だ。今日の夕飯の材料だろう。」
「...これ、ご飯?」
「グリは街で購入した食材を使って、料理をするのが仕事だ。」
「...ジガは?」
「俺は、動物の世話と伝令を届けるのが仕事だな。」
「...でんれー?」
「外からの情報を皆に伝えたり、俺達の出来事を外に伝えたりする。」
「...ユオアスは?」
「俺は団長だから...決まった仕事は無いが、強いて言うなら皆をまとめるのが俺の役割だ。」
「...まとめる?」
「俺達に指示を出す役だな。」
「...仕事、色々。」
「そうだ。細かい仕事は色々あるが...騎士の仕事は、大きくわけて3つだ。警備、依頼、護衛だ。」
「...けーび...いあい...ごえー...?」

道を歩きながら、彼は騎士の仕事について説明してくれた。
警備は、城や街を見て回り、不審者や魔族が居ないかを確認する。依頼は、様々な内容があるらしいが、頼まれた仕事をこなすのが目的になる。護衛は、対象となる人物を危険から守る。
これが彼等、ビエント騎士団の仕事だ。



「調理師、ただいま戻った。」

ユオダスに荷物を任せ、私はジンガと共に食堂の奥にある調理場へやって来た。彼は食べ物の入った袋をテーブルに置き、中から材料を取り出しながら並べていく。

「思ったより早かったな。もっと遅くなるかと思ってたぜ。」
「治癒士が即決してくれたおかげだ。」

彼は私を見て、ほんの少し目を細めた。

「治癒士?あぁ...アスールの事か。」
「...私?」
「ジンガは、お前の事を治癒士と呼びてぇらしい。」
「ダメ...だったか?」

彼は眉を下げ、首を傾げた。彼の問いに、私は首を横に振る。

「...ちゅしでいい。」
「なら、今後もそう呼ばせてもらう。」
「買い漏れは無さそうだ。ありがとなジンガ。」
「いつも食事を作って貰ってるんだ。これくらいはしないとな。」
「...ご飯、これから作る?」
「あぁ。」
「じゃあ、俺は部屋に戻る。」

そう言い残し、ジンガは部屋を出て行った。

「お前も部屋に戻ってろ。飯が出来たら呼ぶくらいはしてやるよ。」
「...手伝う。」
「は?手伝う?」
「...何かやる。」
「料理に興味持ってくれんのは嬉しいけどよ...。お前には難しいと思うぞ?」
「...ダメ?」

私は眉を下げ、首を傾げてみせた。

「お前...ジンガみたいに頼めば良いと思ってんだろ。」
「...ダメ?」
「ダメっつっても、どうせ言い続けるんだろ?仕方ねぇな...邪魔だと思ったら、すぐ追い出すからな?」
「...わかった。邪魔しない。」
「手伝うのか手伝わねぇのかどっちかにしろよ...。」
「...手伝う。」

手伝いを申し出た私に、彼は白い布を手渡した。

「これはエプロン。服が汚れねぇように、料理をする時に付けるもんだ。」
「...分かった。」

エプロンを身につける彼を見ながら、真似をして首からエプロンを下げた。

「包丁は危ないからぜってぇ触るなよ?」
「...ほーちょー?」

彼は、先の尖った光る棒を握りしめる。

「食材を斬る為に使う。これは俺がやるから、お前はするな。いいな?」
「...分かった。」
「よし。じゃあ、まずは手を洗え。」

彼が捻った蛇口から、勢いよく水が流れ落ちた。水に手をかざし、擦り合わせる。

「ちゃんと石鹸も使えよ?」

近くに置かれた白い固形物を手に取り、擦り合わせて泡立たせる。それには風呂場に置かれたものと、同じ模様が書かれていた。

「...洗った。」
「じゃあ次はこれだ。玉ねぎの皮を向いてみろ。」

渡されたのは、茶色の丸い食材だった。先がほんの少し尖っていて、パリパリとした皮に包まれている。

「少しずつ捲りとって、白くなれば良い。」

茶色の皮を2枚ほど捲ると、玉ねぎは白色に変化した。

「そしたら俺がこれを斬る。」

彼は包丁を手に取り、玉ねぎに刃を立てた。あっという間に玉ねぎは粉々になり、小さなつぶつぶになってしまった。

「次はこれを混ぜてみろ。」

今度は、様々な食材が入った丸い器を渡された。赤と白が混ざったつぶつぶと白い粉、黄色の丸い塊と先程粉々にした玉ねぎが入っている。

「...混ぜる?」
「手で...こうやって、揉みながら混ぜる。」

彼の指示に従い、器の中に手を突っ込んだ。手の中で、固いものと柔らかいものがぐちゃぐちゃと音を立てて混ざり合う。

「じゃあ、最後は形を作るか。このくらいを手に取って...両手で丸めながら潰して、小判型に成形する。」

言葉で説明しながら、彼は平たく丸い形を作ってみせた。真似をして、同じような形を作ってみる。

「お前、意外と器用だな。料理のセンスがあるんじゃねぇか?」
「...センス?」
「才能つったら分かるか?初めてやった事でも、上手く出来る奴の事を言う。」
「...もっとしたい。料理。」
「時間があったらな。今日お前が手伝えるのはここまでだ。」
「...料理、名前何?」
「これはハンバーグだ。この丸めたやつをフライパンで焼いて、ソースをかけたら完成だ。」
「...ハンバーグ。」
「焼くのも油がはねて危ねぇから、少し離れて見てろ。そこの椅子に座っとけ。」
「...分かった。」

彼が料理をする光景をしばらく眺め、ハンバーグという料理が完成した。私が初めて手を加えた料理という事もあって、いつもとは違う感情が込み上げてくるような気がした。



「えー!?これ、アスールも一緒に作ったの!?」
「すごいな...。俺より料理が上手いんじゃないか?」

目の前に置かれた料理を見て、食堂へやって来たローゼとジンガは声を上げた。

「アルトゥンよりは確実に上手いぞ。」
「あはは!言えてるー。」
「お前はいつも食べるの早ぇから、もう少しゆっくり噛んで食べろ。」
「...早いのダメ?」
「確かー...よく噛んだ方が胃の負担が少ないんだっけ?」
「...負担?」
「よく噛んだ方が身体にも優しいし、消化しやすいって事ー。上手く消化しないとお腹痛くなるから、よく噛んだ方が良いって訳。」
「...分かった。」

自身の手で丸めたハンバーグを、フォークで切り分けながら少しずつ口へ運ぶ。

「アスール。今日は誰とお風呂入る?僕かジンガさんか。」
「...グイ。」
「はぁ?俺?」
「大丈夫大丈夫。身体も自分で洗えるし、髪の乾かし方も昨日教えておいたから...滑って転んだり、溺れたりしないように見とけばいいよ。」
「俺と風呂に入りてぇなら、片付けも手伝って貰わねぇとな?」
「...手伝う。」
「冗談のつもりだったんだが...本気みてぇだな...。」
「治癒士が成長する姿は、見ていて面白いな。」
「うわ...ジンガさんがヴィーズさんと同じような事言ってる...。そう言う事、言わない人だと思ってたのに...!」
「てめぇの偏見はいつも偏り過ぎなんだよ。」
「治癒士。食事が終わったら、手を合わせてご馳走様と言うんだぞ。」

彼の仕草を真似て、身体の前で手を合わせる。

「...ごちそーさま。」
「それじゃ、せっかくだから手伝ってもらうか。この器は落としたら壊れるから、少しずつ慎重に運べよ?」
「...分かった。」
「なんだか見ていてハラハラするな...。」
「それなら見なきゃいいのに。」

両手で器を包み込み、奥の調理場へ運ぶ私を見守るジンガに、ローゼは小さくため息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...