青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第3章:使命

第21話

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「でやぁー!」
「はっ...!」

窓の外からローゼとジンガの声が聞こえ、廊下を歩き出す。中庭で2人が棒をぶつけ合い、甲高い音が鳴り響いていた。私が初めてここへ来た時に、同じような光景を見た事を思い出す。

「わ!アスール!?危ないからあんまり近付かないでよ!」
「...危ない?」
「少し休憩しよう。」
「あーうん。そうだね。」

私の存在に気が付いた彼等は、こちらへゆっくりと歩み寄って来た。

「...ジガ、剣2つ?」
「剣は剣でも、これは双剣だよ。普通の剣よりも軽く小さめに作ってて、両手に1本ずつ持つ物なの。」
「...ロゼ、棒長い。」
「棒じゃなくて槍。形状は棒と似てるけど、先が尖ってるでしょ?」
「...武器ぶつける、危ない。何でする?」
「訓練だ。」
「...くんえん?」
「訓練。僕達は騎士だから、魔族と戦う事もあるでしょ?その時、魔族を退けられるように、武器の扱いを練習しておかないといけないんだ。」
「ローゼの槍は、狙いが的確でリーチも長い。」
「...イーチ?」
「遠くても届くって事。槍は長いから、その分振りは遅くなるけど、相手から距離を取って攻撃出来る所が利点なんだ。」
「...距離取って攻撃、ビオレタもしてた。」
「そう言えば...昨日、魔族に遭遇したそうだな。」
「ビオレータさんが持ってる武器は、銃って言うんだ。槍よりも離れた所を狙えるのは利点だけど...。弾は必要になるし、扱うのが難しいから、そう簡単に使える物じゃないよ。」
「...ビオレタ、凄い。」
「あんまり騎士っぽくないけどね。」
「しかし、王子も銃を持っていなかったか?」
「え?そうだっけ?」
「...おーじ?」
「王様の子供で、この国で2番目に偉い人。あの人も色んな所に行くから、僕達みたいに武器を持ってるんだ。」
「...おーじも訓練する?」
「どうだろ?多分すると思うけど...。たまーにしか会わないから、見た事ないや。」
「整備士、そろそろ再開しても良いか?」
「あーうん。いいよ。アスールはここに居たら危ないから、見るなら廊下で見てて。」
「...分かった。」

中庭を離れて廊下へ戻ると、書庫の方から大きな物音が聞こえてきた。音のする方へ歩いて行くと、部屋の前が大量の本で埋め尽くされている。

「あ、アスールくん。散歩してるの?」
「...本、沢山。」
「あー...これ?書庫の掃除をしてるんだ。ビオレータさんに頼まれてね。」
「...ビオレタ、書庫いる?」
「うん。中で仕事してるよ。」

彼の横を通り過ぎ、私はビオレータの元へ向かった。

「何しに来たんですか?読書なら、部屋で...」
「...仕事、手伝う。」
「...そう言えば、そんな約束をしていましたね。」
「...何したらいい?」
「それでしたら、ルスケアさんと一緒に書庫の掃除をお願いします。何をしたらいいか彼に聞いて下さい。」
「...分かった。」

再び廊下へ戻ると、窓の外で本を叩くルスケアの姿があった。

「...ルスキャ。そーじ、手伝う。」
「え?手伝ってくれるの?それは嬉しいけど...。」
「...ビオレタの仕事手伝うって、ゆびきいした。ビオレタ、そーじ手伝えって。」
「ビオレータさんがそう言うなら、手伝ってもらおうかな。じゃあ...これを使って、窓の外でホコリを落としてくれる?」

彼は手に持っていた本と、棒状の道具を私へ差し出した。

「...これ何?」
「これはハタキっていう掃除用具だよ。布が付いてる所で本を叩くとホコリが取れるんだ。」
「...やってみる。」
「本を落とさないように気を付けてね?私は書庫から本を運んで来るよ。」

窓の外に手を伸ばし、ハタキを使って本を叩く。すると、白っぽい粉が風に乗り、空高く運ばれて行った。視線の先で、ローゼとジンガが訓練している様子が見える。

「2人共、推薦組なのに頑張り屋さんだよね。」
「...ロゼ、腕良い。ジガも腕良い?」
「彼は、王様に剣の腕を認められたんだよ。普通なら、試験を受けて騎士になるものだけど...。彼の剣さばきは、その辺の兵士と比べ物にならないくらい優れていたんだ。」
「...ビオレタ、何の腕良い?」

ローゼやアルトゥンも知らなかった疑問を、彼に問いかけてみた。

「ビオレータさんは...何だろう?腕と言うより、頭が良いからじゃないかな?」
「...腕良く無くても推薦される?」
「それで言うと、ヴィーズ様も魔法の才能を認められて騎士団に入ったからね。腕が良いって事以外でも、推薦される事はあるみたいだよ。」

彼は私の手から本を奪い取り、薄ら白くなった別の本を差し出した。再び窓の外へ手を伸ばし、本を叩く。

「他の皆は、試験を受けて騎士になったんだ。私が加入した頃には、推薦組の4人とユオダスさんが居たんだけど...団長のユオダスさんが推薦組じゃ無い事を知った時は、衝撃だったなぁ。」
「...しょーげき?」
「驚いたって事だよ。王様に推薦された人は、それだけ優れてるって事でしょ?そんな人達を差し置いて、騎士をまとめる立場に立つっていうのは...普通じゃ考えられないんだ。」
「...ユオアス、凄い。」

団長という立場がよく分からなかった私は、彼の話を聞いてその凄さを知る事が出来た。
それからしばらく本を叩き続け、廊下に積まれた本は綺麗になって次々と書庫へ戻っていく。

「貴様が青女か?」

どこからともなく、声が聞こえた。見知らぬ人物が廊下に立ち、私の顔をじっと見つめている。
1人はルスケアよりも色の薄い茶髪の青年で、騎士団の制服と似た構造の黒い服を着ている。彼の上着の肩から、赤い布が垂れ下がっていた。

「...せーじょ?」
「ガルセク王子。彼女がアスールです。」

後ろに立っていたヴィーズが、薄茶髪の青年を王子と呼んだ。彼はこちらへ歩み寄り、私の腕を掴んで側へ引き寄せる。青年は色とりどりな色彩を放つ瞳で私を見下ろし、眉間に皺を寄せた。

「こんな子供が青女だと?冗談だろ?」
「いいえ。彼女がそのように呼ばれていた事は知りませんでしたが...騎士団で保護した少女は、彼女で間違いありません。」
「ガルセク様。彼女の瞳はシトリンアイでございます。年齢はともかく...光の属性を宿している事は間違いないかと。」

彼等の後ろに立っていた青年が、私の瞳を見ながらそう口にした。彼の髪色はビオレータと似ているが、王子と同様に淡い色をしている。

「それくらい知っている!馬鹿にするな。」
「ガ、ガルセク王子...!いらしてたんですか...!?」

書庫から戻って来たルスケアがこちらへ駆け寄り、床に片膝をついて頭を下げた。

「なんだ?俺がここへ来たら、何か問題でも?」
「い、いえ!こんな所まで足をお運びになるとは思っていませんでしたので...。」
「まあいい。貴様...アスールと言ったか?今ここで、治癒魔法を使って見せろ。」

何故魔法を使わなければならないのか、言葉の意味が分からず首を傾げる。

「ガルセク王子...!彼女はまだ、魔法の扱いが未熟で...」
「ルスケア。口を慎みなさい。」
「す、すみません...モーヴ様...。」

薄紫髪の青年が、青みがかった緑色の瞳で彼を睨みつける。

「どうした?出来ないか?」
「...怪我してない。ちゅまほ、要らない。」
「ほう...そう来るか。ならば、自らが痛い思いをすれば、使う気になるか?」

薄茶髪の青年が、腰に下げた剣を引き抜く。私に向けられた刃が、目の前に現れたヴィーズの腕を切り裂いた。飛び散った液体が、私の頬を赤く染める。

「っ...!」
「ヴィーズ様!」
「ヴィーズ。誰が邪魔をして良いと言った?」
「も...申し訳...ありません。」

傷を抑える彼の手が、みるみるうちに赤くなっていく。私は腕を伸ばし、目を閉じた。

「アーちゃん...もう大丈夫。ありがとう。」

目を開くと、敗れた服の隙間から彼の白い肌が見える。

「なるほど...それがお前を青女と呼ぶ由縁か。目の前で人が斬られても、顔色1つ変えないとは...面白い。」
「ガルセク様。そろそろ、王様がお戻りになります。城へ帰りましょう。」
「せっかく見に来てやったのに...。まぁいい。戻るぞヴィーズ。」
「...はい。」

廊下を歩き出した彼等を見送り、魔法を使った反動で眠気に襲われた私は書庫で仮眠をとる事になった。
しばらく眠った後、目を覚ました私はソファーの上で身体を起こす。

「目が覚めましたか?」

離れた所で仕事をしていたビオレータが私の側へ歩み寄り、隣に腰を下ろした。

「ガルセク王子が来ていたそうですね。」
「...あの人、怖い。」
「怖い人と、そうでない人の見分けがつくようになったのは良い事です。ですが、それを本人に言ってはいけません。」
「...何で?」
「彼が王子だからです。」
「...偉いから?」
「そうです。我々騎士団は、王様の命令で動いています。その息子である王子の言う事も、聞かなくてはいけません。」
「...嫌でも?」
「それが我々の仕事ですから。」

彼等の仕事は、やりたい事や人の為になる事をするものだと思っていた。しかし、やりたくない事や人の為にならない事もしなければならないという事を知った。

「彼は怖い人ですが、可哀想な人でもあります。」
「...かわいそー?」
「王の血筋を持つ者は、魔を滅する力がある...つまり、ガルセク王子は魔王を討伐しなければならない使命があるんです。」
「...しめー?」
「絶対にやり遂げなければならない事です。例え、自らの命を落とす事になっても。」

騎士と同じように王子もまた、やりたくない事をしなければならない。その事を知った時、私は彼の事を怖いとは思わなくなった。
そこでふと、部屋のあちこちに置かれていた本が少なくなっている事に気が付く。

「...本、少ない。」
「あぁ…。床に置いたままになっていた本は、ルスケアさんが片付けてくれました。それらの本が綺麗になっているのは、あなたが頑張った結果です。」

ソファーを降り、棚から本を抜き取る。隣の本も、その隣も...横に並んでいる本の全てが、本来あるべき姿を取り戻していた。

「満足ですか?」
「...満足?」
「物事をやりきった後の満たされたような気持ち、それが満足...達成感と言うものです。」

私は彼の仕事を手伝い【満足】という感情を知った。
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