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第3章:使命
第22話
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「アスールがここに居るの、すっごい違和感あるなぁ...。」
「そうか~?騎士団の制服着とると、いつもよりかっこよく見えるで?」
私はローゼとアルトゥンに連れられ、城の中へとやって来た。街の外や自室の窓から眺めた事はあったが、こうして中に入るのは今日が初めてだった。
シュヴァリエメゾンとおおよその構造は似ているが、廊下の長さも扉の数も比べ物にならないくらい規模が大きかった。
「アスール。今日は俺等と一緒に、仕事頑張ろーな?」
私がここへ来たのは、魔族討伐から帰って来た兵士達の怪我を治療をする為だった。
魔族討伐とは、探し出した彼等の住処に大勢の兵士を送り込み、魔族を退治するというものだ。騎士である彼等も稀に参加する事があるようで、実際に参加した事があるというグリに、その話を教えてもらった。
「...ちゅまほ、頑張る。」
「ええ意気込みや!」
「ちょっとー?頑張りすぎて、倒れたら意味無いんだからね?」
「頑張りすぎても大丈夫なように、俺等がついてきとるんやろ?」
「まーね。アルは何の為に来てるか分からないけど。」
「俺やって、それなりに魔力はあるで!?」
「供給するには、肌に触れる必要があるの忘れたの?アスールは、アルに触れるの嫌がってたでしょ?」
「みんなより、一緒に居る時間は多いと思うんやけどなぁ...。なぁアスール…俺の事、まだ怖いか?」
私は首を横に振り、彼に向かって手を伸ばした。過ごす時間が多かった影響か、手を握っても恐怖や嫌悪は感じなかった。
「...アルト、ご飯くれる。」
「アスール...!」
「え...いいの?ご飯に負けてるよ?それ...。」
「勝ち負けなんて関係あらへん!認めてもらえたら、それでええんよ!」
「無理しなくていいんだよ?嫌なら嫌って言っても...」
「...嫌ない。」
「よっしゃ!ほんなら肩車で、現場に急行するで!」
彼は私の脇の下を掴み、肩の上に担ぎ上げた。視点が高くなり、先程まで見えなかった廊下の端がここからでもはっきりと見える。
「出発進行や!」
「...しんこー。」
「ちょっとぉ!危ないからやめなってばー!」
あっという間に目的地へ辿り着き、扉を叩いてローゼが部屋に足を踏み入れる。彼の後に続いて部屋に入って行くと、人の唸り声と血の匂いが部屋を充満してた。
「こりゃ酷いわぁ...。」
「前回よりも多いんじゃない?この人数...アスール1人で治しきれるのかな?」
「騎士様...!」
1人の男性がこちらへ駆け寄り、胸に手を当てて背筋を伸ばした。それは、以前ユオダスが見せた事のある動作だった。
「ご苦労様。この人達が怪我人?」
「はい!彼女が...青女様でいらっしゃいますか?」
「そう呼ばれとるらしいわ。俺等は呼んだ事あらへんけど。」
「呼び方なんてどうでも良いよ。アスール。あの人から治療してみて。」
「...分かった。」
ベッドに横たわる男性の側に歩み寄り、傷付いた胸元へ手を伸ばす。目を閉じると手が温かくなり、しばらくしてローゼが私の手に触れた。
「アスール。もう大丈夫。」
「すごい...これが青女様の力...。」
「感心して見とる場合ちゃうで?他に重症な人は居らへんの?」
「こ、こちらです...!」
傷を治しては手を繋ぎ、治癒魔法と魔力供給を繰り返しながら、兵士達の治療は進められた。
休憩の時間に私は部屋を抜け出し、トイレを探して廊下を歩いて行く。先程アルトゥンに担がれていた時に見つけていたので、迷う事無く辿り着きトイレを済ませた。
来た道を戻って行き、扉を開けて中に入ると...そこは、兵士達が寝ていた部屋では無かった。いくつ扉を開いても先程の部屋は見つけられず...私は城の中を彷徨い歩く。
しばらくして、廊下の先に見覚えのある人影を見つけた。
「...アルト。」
「ん?」
後ろを振り返った彼は、先程着ていた服と別の服に着替えていた。黒い服に赤い布...昨日私の元へやって来た、ガルセク王子と似たような服を身にまとっている。
「えっと...誰ッスか?」
「...アスール。」
「アスール?初めて聞く名前ッスけど...こんな所で、子供が何やってるッスか?」
彼の言動がいつもと違う事に気が付き、首を傾げる。
「...アルトじゃない?」
「誰かと俺を、間違えてるんッスか?アルト...あぁ!もしかして、アルトゥンの事ッスか?」
私が首を縦に振ると、彼は身体の前で腕を組み、首を傾げた。
「アルトゥンに、女児の知り合いが居たなんて...。まぁ、これだけそっくりな人間がいたら、困惑するのも無理ないッスね。」
「...こんあく?」
「知らないッスか?よく分からなくて、困る事を困惑って言うッスよ。子供なら知らなくても仕方ないッス。」
私は初めて出会った彼から、【困惑】の感情を教わった。
「ところで...アスールは、どこから来たんッスか?」
「...シュゾン。」
「ど、どこッスかそれ...。えーっと...聞き方が悪かったッス!ここへは、何しに来たんッスか?」
「...仕事。」
「そりゃそうッスよね。騎士の制服着てるんだし...。じゃ、じゃあ...何の仕事をしてたんッスか?」
「...ちゅまほ。」
「ちゅ...?何ッスかそれ...。」
「...怪我、治す。」
「あぁ...治癒魔法の事ッスね。...ん?もしかしてあんた...。」
「...アルト、ロゼ待ってる。へーし寝てる部屋、どこ?」
「それなら案内してあげるッス。こっちッスよ。」
差し出された手を握り、私は彼について行った。
「あ、アス...」
先程の部屋で、椅子に座っているアルトゥンの姿を見つけた。彼は私の名前を呼びかけ、言葉を詰まらせる。
「やっぱり居たッスね。」
「...何であなたがここに居るんですか?」
「何でって...ここが俺の仕事場ッスから。」
見れば見る程、彼等は顔がそっくりだった。しかし、似ているのは顔だけで明らかに違う部分がある。
白い服を着ているアルトゥンは、髪の1部が黒くなっているのに対し...黒い服を着ているアルトゥンそっくりな青年は、全体が金髪である。それに加え、後頭部に髪を結える程の長さも無かった。
「いつまで手ぇ握っとるんよ!」
彼は声を荒げ、私の腕を掴んで引き寄せた。
「そんな大きな声を出さなくても、ちゃんと聞こえるッスよ~。何を怒ってるんッスか?」
「…別に怒ってません。」
「ところで…ローゼは?」
「あなたには関係ありませんよね?俺達に構ってないで、そろそろ仕事に戻った方がいいんじゃないですか?」
「じゃあ、戻る途中で見かけたら声をかけとくッス。仕事、頑張って下さいッスねアスール。」
「...分かった。」
彼は私に向かって片目を閉じると、赤い布をなびかせながら部屋から立ち去って行った。
「アスール...!一体どこに行っとったんや?俺もローゼも心配しとったんやで?」
話し方が、普段の彼に戻っていた。彼にそっくりな青年と話をする時のアルトゥンは、まるで別人のようだった。
「...トイレ。」
「黙って行かへんで言ってくれたらええのに~。そしたら、あいつと会う事無かったのに...。」
「...アルト似てた。誰?」
「もう会う事もないから、知らんでええ。今日会ったのはたまたまや。」
どんなに説明の難しい事でも、身振り手振りで教えてくれる彼が、私の問いに答えない事にどこか違和感を感じた。
その理由を考えていると、後ろの扉が開いてローゼが部屋に戻って来た。
「もー!勝手にどっか行かないでって言ったのにー!」
「トイレに行っとったんやって。迷子になってしもーたみたいやけど。」
「アウルム様から聞いたよ。彼が連れて来たって話もね。」
どうやら先程の青年は、アウルムという名前らしい。
「...誰?」
「アルの双子の弟だよ。ガルセク王子の親衛隊の人。」
「...双子?」
「顔がそっくりだったでしょ?同じタイミングで産まれた兄弟の事を、双子って...」
「そんな話しとったら日が暮れるで?アスール、今度はあの人の治療を頼むわ。」
「...分かった。」
怪我人全員の治療を終え、街の警備へ向かう彼等と共にシュヴァリエメゾンへ帰って来た。
部屋に戻って着替えを済ませ、廊下を歩き出す。風に乗ってやって来る甘い匂いに誘われ、そのまま調理場へと足を運んだ。
「...ユオアス?」
「む?アスールか。仕事は済んだようだな。」
彼は調理場のテーブルの前で、木のヘラを手にしていた。彼がエプロンを身につけている姿は、初めて見る。
「...料理?」
「あぁ。いつもグリに任せてばかりだから、今日は俺が作ろうと思ってな。」
「...甘い匂い。」
「何?そんなに甘いか?」
彼はフライパンの中身をスプーンですくい取り、口へ運んだ。
「おかしい...こんなはずでは...。」
「...食べたい。」
スプーンを受け取り、赤い液体を口へ運ぶ。つぶつぶとした食感と共に、甘みが口の中で広がる。本来あるはずのトマトの酸味が感じられず、ただただ甘いソースだった。
「どうだ?」
「...甘い。」
「砂糖を入れ過ぎたか...?はぁ...。作り直そう。」
フライパンを手に取り、洗い場へ向かう彼の服の裾を掴む。
「...これ食べる。」
「正気か?わざわざ気を遣わなくていいんだぞ?」
「...気を遣わ?」
「...いいや。なんでもない。食べるなら、夕飯の時にしよう。お前はグリと一緒に、風呂に入って来ると良い。」
「...グイどこ?」
「恐らく部屋にいると思う。探してみてくれ。」
「...分かった。」
再び2階へ戻り、次々とドアノブを回していく。沢山ある部屋の中で扉が開いたのは、鍵をかけ忘れたアルトゥンの部屋と自室だけだった。
階段を降り、廊下を歩き回る。書庫にビオレータの姿はあるものの、グリの姿は見当たらなかった。
いつもの場所で寝ているだろうと言うビオレータの助言を頼りに、私は中庭へ向かう。
「...グイ。」
木の側で寝転がるグリに声をかける。前にも似たような事があった事を思い出す。
私は隣に横になるのではなく、彼の身体に触れて小さく揺らした。
「お...くろ...。...う...こし...かせ。」
「...うこし?」
「...いて...かな...。」
寝返りをうつ彼の頬に、1粒の雫が流れ落ちる。上を見上げるが、空は快晴で雨が降っている様子は無い。濡れた頬に手を触れ、雫を拭き取る。
「んん...。」
彼は目を覚まし、私の手を払い除けて身体を起こした。
「何してた?」
「...濡れてた。」
「は?」
目元に手を触れ、袖口で顔を擦る。その場に立ち上がり、服に付いた草を手で払い除けた。
「気のせいだろ。...で?俺に何か用か?」
「...一緒にお風呂。」
「ユオダスがそう言ったのか?」
私が首を縦に振ると彼はため息をつき、風呂場の方へ歩き出した。
「そうか~?騎士団の制服着とると、いつもよりかっこよく見えるで?」
私はローゼとアルトゥンに連れられ、城の中へとやって来た。街の外や自室の窓から眺めた事はあったが、こうして中に入るのは今日が初めてだった。
シュヴァリエメゾンとおおよその構造は似ているが、廊下の長さも扉の数も比べ物にならないくらい規模が大きかった。
「アスール。今日は俺等と一緒に、仕事頑張ろーな?」
私がここへ来たのは、魔族討伐から帰って来た兵士達の怪我を治療をする為だった。
魔族討伐とは、探し出した彼等の住処に大勢の兵士を送り込み、魔族を退治するというものだ。騎士である彼等も稀に参加する事があるようで、実際に参加した事があるというグリに、その話を教えてもらった。
「...ちゅまほ、頑張る。」
「ええ意気込みや!」
「ちょっとー?頑張りすぎて、倒れたら意味無いんだからね?」
「頑張りすぎても大丈夫なように、俺等がついてきとるんやろ?」
「まーね。アルは何の為に来てるか分からないけど。」
「俺やって、それなりに魔力はあるで!?」
「供給するには、肌に触れる必要があるの忘れたの?アスールは、アルに触れるの嫌がってたでしょ?」
「みんなより、一緒に居る時間は多いと思うんやけどなぁ...。なぁアスール…俺の事、まだ怖いか?」
私は首を横に振り、彼に向かって手を伸ばした。過ごす時間が多かった影響か、手を握っても恐怖や嫌悪は感じなかった。
「...アルト、ご飯くれる。」
「アスール...!」
「え...いいの?ご飯に負けてるよ?それ...。」
「勝ち負けなんて関係あらへん!認めてもらえたら、それでええんよ!」
「無理しなくていいんだよ?嫌なら嫌って言っても...」
「...嫌ない。」
「よっしゃ!ほんなら肩車で、現場に急行するで!」
彼は私の脇の下を掴み、肩の上に担ぎ上げた。視点が高くなり、先程まで見えなかった廊下の端がここからでもはっきりと見える。
「出発進行や!」
「...しんこー。」
「ちょっとぉ!危ないからやめなってばー!」
あっという間に目的地へ辿り着き、扉を叩いてローゼが部屋に足を踏み入れる。彼の後に続いて部屋に入って行くと、人の唸り声と血の匂いが部屋を充満してた。
「こりゃ酷いわぁ...。」
「前回よりも多いんじゃない?この人数...アスール1人で治しきれるのかな?」
「騎士様...!」
1人の男性がこちらへ駆け寄り、胸に手を当てて背筋を伸ばした。それは、以前ユオダスが見せた事のある動作だった。
「ご苦労様。この人達が怪我人?」
「はい!彼女が...青女様でいらっしゃいますか?」
「そう呼ばれとるらしいわ。俺等は呼んだ事あらへんけど。」
「呼び方なんてどうでも良いよ。アスール。あの人から治療してみて。」
「...分かった。」
ベッドに横たわる男性の側に歩み寄り、傷付いた胸元へ手を伸ばす。目を閉じると手が温かくなり、しばらくしてローゼが私の手に触れた。
「アスール。もう大丈夫。」
「すごい...これが青女様の力...。」
「感心して見とる場合ちゃうで?他に重症な人は居らへんの?」
「こ、こちらです...!」
傷を治しては手を繋ぎ、治癒魔法と魔力供給を繰り返しながら、兵士達の治療は進められた。
休憩の時間に私は部屋を抜け出し、トイレを探して廊下を歩いて行く。先程アルトゥンに担がれていた時に見つけていたので、迷う事無く辿り着きトイレを済ませた。
来た道を戻って行き、扉を開けて中に入ると...そこは、兵士達が寝ていた部屋では無かった。いくつ扉を開いても先程の部屋は見つけられず...私は城の中を彷徨い歩く。
しばらくして、廊下の先に見覚えのある人影を見つけた。
「...アルト。」
「ん?」
後ろを振り返った彼は、先程着ていた服と別の服に着替えていた。黒い服に赤い布...昨日私の元へやって来た、ガルセク王子と似たような服を身にまとっている。
「えっと...誰ッスか?」
「...アスール。」
「アスール?初めて聞く名前ッスけど...こんな所で、子供が何やってるッスか?」
彼の言動がいつもと違う事に気が付き、首を傾げる。
「...アルトじゃない?」
「誰かと俺を、間違えてるんッスか?アルト...あぁ!もしかして、アルトゥンの事ッスか?」
私が首を縦に振ると、彼は身体の前で腕を組み、首を傾げた。
「アルトゥンに、女児の知り合いが居たなんて...。まぁ、これだけそっくりな人間がいたら、困惑するのも無理ないッスね。」
「...こんあく?」
「知らないッスか?よく分からなくて、困る事を困惑って言うッスよ。子供なら知らなくても仕方ないッス。」
私は初めて出会った彼から、【困惑】の感情を教わった。
「ところで...アスールは、どこから来たんッスか?」
「...シュゾン。」
「ど、どこッスかそれ...。えーっと...聞き方が悪かったッス!ここへは、何しに来たんッスか?」
「...仕事。」
「そりゃそうッスよね。騎士の制服着てるんだし...。じゃ、じゃあ...何の仕事をしてたんッスか?」
「...ちゅまほ。」
「ちゅ...?何ッスかそれ...。」
「...怪我、治す。」
「あぁ...治癒魔法の事ッスね。...ん?もしかしてあんた...。」
「...アルト、ロゼ待ってる。へーし寝てる部屋、どこ?」
「それなら案内してあげるッス。こっちッスよ。」
差し出された手を握り、私は彼について行った。
「あ、アス...」
先程の部屋で、椅子に座っているアルトゥンの姿を見つけた。彼は私の名前を呼びかけ、言葉を詰まらせる。
「やっぱり居たッスね。」
「...何であなたがここに居るんですか?」
「何でって...ここが俺の仕事場ッスから。」
見れば見る程、彼等は顔がそっくりだった。しかし、似ているのは顔だけで明らかに違う部分がある。
白い服を着ているアルトゥンは、髪の1部が黒くなっているのに対し...黒い服を着ているアルトゥンそっくりな青年は、全体が金髪である。それに加え、後頭部に髪を結える程の長さも無かった。
「いつまで手ぇ握っとるんよ!」
彼は声を荒げ、私の腕を掴んで引き寄せた。
「そんな大きな声を出さなくても、ちゃんと聞こえるッスよ~。何を怒ってるんッスか?」
「…別に怒ってません。」
「ところで…ローゼは?」
「あなたには関係ありませんよね?俺達に構ってないで、そろそろ仕事に戻った方がいいんじゃないですか?」
「じゃあ、戻る途中で見かけたら声をかけとくッス。仕事、頑張って下さいッスねアスール。」
「...分かった。」
彼は私に向かって片目を閉じると、赤い布をなびかせながら部屋から立ち去って行った。
「アスール...!一体どこに行っとったんや?俺もローゼも心配しとったんやで?」
話し方が、普段の彼に戻っていた。彼にそっくりな青年と話をする時のアルトゥンは、まるで別人のようだった。
「...トイレ。」
「黙って行かへんで言ってくれたらええのに~。そしたら、あいつと会う事無かったのに...。」
「...アルト似てた。誰?」
「もう会う事もないから、知らんでええ。今日会ったのはたまたまや。」
どんなに説明の難しい事でも、身振り手振りで教えてくれる彼が、私の問いに答えない事にどこか違和感を感じた。
その理由を考えていると、後ろの扉が開いてローゼが部屋に戻って来た。
「もー!勝手にどっか行かないでって言ったのにー!」
「トイレに行っとったんやって。迷子になってしもーたみたいやけど。」
「アウルム様から聞いたよ。彼が連れて来たって話もね。」
どうやら先程の青年は、アウルムという名前らしい。
「...誰?」
「アルの双子の弟だよ。ガルセク王子の親衛隊の人。」
「...双子?」
「顔がそっくりだったでしょ?同じタイミングで産まれた兄弟の事を、双子って...」
「そんな話しとったら日が暮れるで?アスール、今度はあの人の治療を頼むわ。」
「...分かった。」
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部屋に戻って着替えを済ませ、廊下を歩き出す。風に乗ってやって来る甘い匂いに誘われ、そのまま調理場へと足を運んだ。
「...ユオアス?」
「む?アスールか。仕事は済んだようだな。」
彼は調理場のテーブルの前で、木のヘラを手にしていた。彼がエプロンを身につけている姿は、初めて見る。
「...料理?」
「あぁ。いつもグリに任せてばかりだから、今日は俺が作ろうと思ってな。」
「...甘い匂い。」
「何?そんなに甘いか?」
彼はフライパンの中身をスプーンですくい取り、口へ運んだ。
「おかしい...こんなはずでは...。」
「...食べたい。」
スプーンを受け取り、赤い液体を口へ運ぶ。つぶつぶとした食感と共に、甘みが口の中で広がる。本来あるはずのトマトの酸味が感じられず、ただただ甘いソースだった。
「どうだ?」
「...甘い。」
「砂糖を入れ過ぎたか...?はぁ...。作り直そう。」
フライパンを手に取り、洗い場へ向かう彼の服の裾を掴む。
「...これ食べる。」
「正気か?わざわざ気を遣わなくていいんだぞ?」
「...気を遣わ?」
「...いいや。なんでもない。食べるなら、夕飯の時にしよう。お前はグリと一緒に、風呂に入って来ると良い。」
「...グイどこ?」
「恐らく部屋にいると思う。探してみてくれ。」
「...分かった。」
再び2階へ戻り、次々とドアノブを回していく。沢山ある部屋の中で扉が開いたのは、鍵をかけ忘れたアルトゥンの部屋と自室だけだった。
階段を降り、廊下を歩き回る。書庫にビオレータの姿はあるものの、グリの姿は見当たらなかった。
いつもの場所で寝ているだろうと言うビオレータの助言を頼りに、私は中庭へ向かう。
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木の側で寝転がるグリに声をかける。前にも似たような事があった事を思い出す。
私は隣に横になるのではなく、彼の身体に触れて小さく揺らした。
「お...くろ...。...う...こし...かせ。」
「...うこし?」
「...いて...かな...。」
寝返りをうつ彼の頬に、1粒の雫が流れ落ちる。上を見上げるが、空は快晴で雨が降っている様子は無い。濡れた頬に手を触れ、雫を拭き取る。
「んん...。」
彼は目を覚まし、私の手を払い除けて身体を起こした。
「何してた?」
「...濡れてた。」
「は?」
目元に手を触れ、袖口で顔を擦る。その場に立ち上がり、服に付いた草を手で払い除けた。
「気のせいだろ。...で?俺に何か用か?」
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