青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第3章:使命

第23話

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「お前もそろそろ、風呂くらい1人で入れるようになれ。」
「...何で?」
「俺達が毎回付き合える訳じゃねぇだろ?それに、お前くらいの歳だったら1人で入った方が良い。」 
「......何で?」
「何でじゃねぇ。1人で入れ。」
「...分かった。」

彼は両腕を広げ、私の隣でお湯に浸かっている。
眠っている時と同じような表情をしている今なら、あの話を聞けるかもしれない。私は彼に向かって、問いを投げかけた。

「...グイ。殺すって何?」
「お前...。...その話は忘れろつったろ。」
「...何で?」
「何でじゃねぇ。忘れろ。」

先程はここで引き下がってしまったが、今回ばかりはこの疑問を聞かずにはいられなかった。

「...分からない、知りたい。」
「世の中、知らなくて良い事もある。そんな言葉、覚えねぇ方が良い。」
「...ルスキャ言ってた。正しい言葉、正しく使わないと...人傷付ける。怪我させる、したく無い。」
「その傷付けるは、怪我じゃねぇよ...。まぁ...そうだな。お前がこの先、怪我人の治療をしてたら…死に直面する場面もあるか…。」
「...死?」
「殺すって言うのは、生きてる生き物を死なせる事だ。動物も、植物も、人間もだ。」
「...グイの親父、死んだ?」
「あぁ。」

殺すという事が、生き物を死に追いやる行為だとは分かったが…彼が家族を死に追いやる意味が、私には理解出来なかった。

「...何で?殺す意味、分からない。」
「殺したい程憎いから殺した。ただそれだけだ。」
「...憎い?」
「お前が無くした感情の1つだ。」
「...知りたい。」
「あんまり長風呂してっと、ユオダスが心配するぞ。飯が終わったら話してやるから、後で俺の部屋に来い。」

彼は私を風呂場に残し、扉を開けて出て行ってしまった。



食堂へ戻ると、ユオダスが作っていた料理を運んで来た。器に盛り付けられた黄色い紐の上に、先程の赤いソースがかけられている。

「なんで俺はボロネーゼなんだ?」

グリの料理は、私の器と別の料理が盛り付けられていた。見た目は似ているが、赤ではなく茶色いソースがかかっている。

「...ロゼ?」
「違ぇよ。ボロネーゼは料理の名前だ。」
「ミートソースを失敗したからだ。」
「はぁ?一体何をしたら失敗すんだよ...。」
「甘すぎたから、お前の口には合わないと思ってな。」
「あぁ...。てめぇは甘党だからな。」
「...あまとー?」
「甘い食いもんが好きって事だ。意外だろ?」
「...意外?」
「俺に似合わない事は分かっている。しかし、好きな物は好きなのだから...仕方がないだろう。」

フォークを使って紐を絡め取り、口いっぱいに頬張る。ユオダスの料理を口にしたのは、これが初めてだった。

「アスール。お前のそれ、俺にも1口食わせてみろ。」
「や、やめておけ...!流石の俺でも、美味いとは思え...」
「...分かった。」

赤いソースをたっぷり付け、グリに向かって腕を伸ばす。彼は身を乗り出し、それを口に含んだ。

「甘ぁ...!?」
「だから言っただろう?」
「ユオダスてめぇ!どんだけ砂糖を入れやがった!」
「す、すまない...。甘い方が美味しいと思って...。」
「限度っつーもんがあんだろ!」
「...甘い。美味しい。」
「...こんなガキに気ぃ遣われていいのかよ?騎士団長様。」
「...面目ない。」

食事を終えてユオダスに片付けを任せ、私はグリと共に彼の部屋へ向かった。



部屋の中はあちこちに服が散乱していて、物で溢れかえっていた。

「...服、いっぱい。」
「散らかってて悪ぃな。その辺、適当に座ってろ。」

座れと言われ、比較的物が少ないベッドの上に腰を下ろした。

「そこに座んのかよ...。」
「...その辺って言った。」
「まぁいいか。」

私の隣に腰を下ろし、彼はベッドの上に寝転がる。

「殺す意味を知りたがってたな。部屋に来いとは言ったが...正直、ガキに話すのは気が引けるな。」
「...引ける?」
「躊躇う...。言い難い...。言うのに抵抗がある...。どれかは分かるか?」
「...何となく。」
「それでも知りたいか?」
「...知りたい。」

彼は少し黙った後、独り言を喋るかのように言葉を呟いた。

「...俺の親父は、人に暴力を奮う奴だった。家族だった俺とお袋にも、容赦なく手をあげた。お袋は殴られる俺を、いつも庇ってくれた。だから俺は...強くなって、お袋を守ってやりてぇと思った。」

月が雲に隠れ、薄暗い部屋の中が更に暗くなる。

「それから俺は、腕っ節が強くなるように色んな奴と喧嘩した。」
「...喧嘩?」
「殴ったり蹴ったり...怒りの感情をぶつけ合って争う事だ。親父と似たような体型の相手を選んで、その辺の相手に次々と喧嘩を吹っ掛けた。あの頃の俺は、とにかく荒れてた。」

腕を曲げ、彼は目元を覆い隠した。顔の上半分が見えなくなり、どんな顔をしているのか分からなくなる。

「ある日、家に帰るとお袋が床に倒れてた。殴られた痕があったから、すぐに親父の仕業だと分かった。俺は怒りの感情に身を任せ、親父に殴りかかった。殴り、殴られ...蹴り飛ばされながら、何とか親父に食らいついた。夢中になって殴り続け、気が付いたら親父は死んでた。」

死という言葉は、彼をどんな感情にさせるものなのだろう。色々と気になる事はあったが...話を聞きたいという気持ちが込み上げ、私は口を閉ざした。

「怒りと憎しみで拳を奮い、親父を殺した。俺が親父を殺した理由は、お袋を助ける為だ。」
「...助ける、良い事。殺す、悪い事?」
「理由はどうあれ、人を傷つける殺人行為は罪...悪い事だ。だが、牢屋に入るはずだった俺の代わりに、お袋が罪を被った。」
「...罪、被る?」
「身代わりになったんだ。それからしばらくして...お袋は死んだ。牢屋の中でな...。俺のせいで、親父もお袋も...居なくなっちまった。」
「...家族居ないから、ここ来た?」
「それもあったが...。1番は、お袋がそれを望んでたからだ。」
「...望んでた?」
「騎士になって欲しかったんだ...俺に。それが死んだお袋の、最後の願いだった。だから俺は騎士になった。」
「...よく分からない分かった。」
「...変な言葉を覚えてんじゃねぇよ。」
「...分からない多い。だから知りたい。」
「興味があるのは悪い事じゃねぇけど、何でもかんでも、首を突っ込むのは良くねぇと思うぜ...。」
「...首、突っ込む?」

私はグリの隣に寝転がり、近くの布団に首を突っ込んだ。

「...何やってんだ?」
「...違う?」

ベッドから身体を起こし、彼は私から布団を剥ぎ取った。

「あのなぁ。そういう事じゃねぇんだよ。いや...それも間違っては居ねぇんだけど...。」
「...違うのに間違って無い?...よく分からない。」
「言葉は複雑だからな。少しずつ教えてやるよ。」

彼の手が私の頭を撫でた。少々荒々しいが、そこが彼らしいと思った。

「...話おしまい?」
「そーだな。そろそろ寝た方が良いだろ。部屋に戻ってさっさと寝ろ。」
「...グイ、火付けられる?」
「俺が宿してるのは、地の属性だから無理だ。」
「...地のぞくせー。何出来る?」
「そもそも魔法が苦手...って、待て。話し出したらキリがねぇだろ。また今度話してやるから、部屋に戻...」
「...アロマ無いと寝れない。」
「おいおい嘘だろ...。」
「...夜暗い。1人、怖い。」
「好きな物の事とか、楽しみな事とか考えれたら良かったんだろうけど...。まだ分からねぇもんな...。1人じゃ無かったら寝れそうか?」

私は首を縦に振った。すると彼はベッドに横たわるよう指示した。横たわった私に布団をかけ、彼はベッドの縁に腰を下ろす。

「めんどくせぇから、もうここで寝ろ。俺はこの辺で適当に寝る。」
「...ルスキャ、子守唄してくれた。」
「は?俺は歌なんて歌わねぇぞ。」
「...分かった。」

私は静かに瞼を閉じ、グリの匂いに包まれながら眠りについた。
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