青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第3章:使命

第27話

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「よし…出発しよっか。」 

制服に身を包んだ私は、ルスケアとグリに連れられ、街の警備の仕事へ向かった。

「アスールくん。アリファーン帝国はどうだった?」

大通りを歩きながら、ルスケアが私に問いかける。

「…暑い。」
「ありふれた感想だな。」
「…ありふれた?」
「よくある普通の感想だ。他には何か無かったのか?」

今度は周囲を見渡しながら歩くグリに、問いを投げかけられる。

「…不審者、逃げられた。」
「もはやアリファーンと関係ねぇな…。」
「夜は…ちゃんと寝られた?」
「…アニとお話した。そしたら寝てた。」
「パニ様と話…?一体、何の話すんだよ…。」
「…ロゼの話。」
「あぁ…。パニ様は、ローゼくんの事をすごく気に入ってるもんね…。」
「そいやそうだったな。散々、可愛いだの綺麗だの褒めちぎってて、あいつ困惑してたっけ。」

可愛いと言われて困惑した事がなかった私は、グリに疑問を問いかける。

「…可愛い、困る?」
「ローゼは女扱いされたり、子供扱いされたりするのを嫌がるからな。でも、パニ様に言われちゃ嫌とは言えねぇし。」
「…アニ、偉い?」
「ガルセク王子の親衛隊だからね…。王子の次だから…3番目に偉い事になるのかな?」
「なぁアスール。お前まさか、ガルセク王子まで呼び捨てにしてるんじゃねぇだろうな?」
「…おーじ。」
「王子様な?親衛隊の奴等はともかく、ガルセク王子には「様」を付けろ。」
「…分かった。」
「まぁ…アスールくんはまだ子供だし、そんなに気にする事は無さそ…」
「おいテメェ!今何つった!」

賑やかな声に混ざり、どこからともなく怒鳴り声が聞こえてきた。声のする方へ向かうと、身体の大きな男性と身体の小さな男性が言い争いをしている様だった。

「もういっぺん言ってみろジジイ!」

身体の大きな男性が、相手に向かって拳を振り下ろす。殴られた反動で、身体の小さな男性が地面に倒れ込んだ。

「やめて下さい!」

ルスケアは大きな声を上げ、倒れた男性の元へ駆け寄った。私も彼の後を追いかけ、側にしゃがみ込む。殴られた頬が赤く腫れ、口の端から赤い液体が垂れていた。

「…一体何事ですか?」

私達と男性との間に立ち塞がったグリは、いつもより丁寧な口調で男性に話しかける。

「この男が、俺を見て邪魔だと言いやがったんだ!」
「それで腹を立てたんですか?ただそれだけの事で?」
「あぁん!?テメェも痛い目を見てぇようだなぁ!」

男性はグリに向かって拳を振りかざした。彼はそれを軽く躱し、男性に殴り掛かろうとした。しかし、彼の拳は男性の目の前でピタリと動きを止める。

「喧嘩してぇなら付き合うぜ?」
「騎士だからって、調子に乗りやがって…!」

彼とグリの攻防はしばらく続いたが、どちらも殴る事が出来ないまま、男性はその場に尻もちを着いた。

「はぁ…はぁ…。なんなんだ…コイツ…。」
「んだよ…。もう終わりか?つまんねぇなぁ。」
「テ、テメェ…本当に騎士か…?」
「役所の不味い飯を食いたくなかったら、さっさと失せろ。」
「ひ、ひぃ…!」

彼に睨みつけられた男性は、大きな身体を揺らしながら大通りを走り去って行った。

「ちょっとグリくん!民間人にあんな態度取ったらダメでしょ!?」

普段は温厚なルスケアが、珍しく声を荒らげる。

「んだよ。殴ってねぇからいいだろ?」
「そういう問題じゃ…!」
「すみません騎士様…。手間を取らせちまって…。」

治療を終えた男性は、その場にゆっくりと立ち上がった。

「い、いえ!これが私達の使命ですから…。」
「ん…?あんたは、ローゼの…。」
「え?…あ!ローゼくんのお父様でしたか…!」
「いつも倅が…世話になってます。」

髪の色や長さは違うが、瞳はローゼと同じ黄緑色で背丈も彼と同じくらいに見える。

「こちらこそ…!いつもお世話になっております。」
「あなたが青女様か?怪我を治してくれて、ありがとうな。」
「お店までお送りします。怪我が治ったとはいえ…無理はなさらないほうが…」
「いやいや…どうぞお構いなく。では、俺はこれで。」

重い足取りで立ち去る彼を見送り、私達は再び警備の仕事に戻った。

「ローゼくんのお父様、お店を離れて何してたんだろうね?」
「買い出しとかじゃねぇの?必要なもんでもあったんだろ。」
「…お店?」
「ローゼくんの家は鍛冶屋をしてるんだ。師匠であるお父様から鍛冶を教わって、彼も修行を積んだんだよ。」
「…しゅぎょー?」
「鍛冶師ってのは、そう簡単になれるもんじゃねぇ。師匠の技術を自分のものに出来るまで訓練しなきゃならねぇんだ。」
「…ロゼ凄い。」

彼の腕が王様に認められている事は分かっていたが、彼がどれだけ大変な思いをしたのかを改めて知る事が出来た。

「でも、お父様は騎士になる事を…反対したんだったよね?」
「そうだったか?」
「ほら、ローゼくんの家は跡継ぎが彼しか居なかったから…。」
「あぁ…そう言われりゃそうだな。」
「…跡継ぎ?」
「家業…家族皆でやってる仕事を次にやる人の事…って感じかな?」
「…ロゼ次だったのに、やらなかった?」
「そういう事だ。ま、俺等が口出すような事じゃねぇけどな。」

グリの言葉に、先程ルスケアが声を荒らげていた理由を問いかける。

「…ルスキャ、グイに口出てた。なんで?」
「え?どういう事?」
「さっきてめぇが怒った事だろ。民間人に対して口が悪ぃってな。」
「あー…あれは…。」
「こいつ、喧嘩したり競い合ったり…とにかく争う事が嫌いなんだよ。」
「…競い合う?」
「競走つったら分かるか?どっちが早く走れるかーとか、どっちが上手く作れるかーとか…自分と相手を比べる事だ。」
「…比べるの嫌?」
「ううん。比べる事自体が嫌な訳じゃないんだ。私が嫌なのは…不毛な争いだよ。」
「…ふもー?」
「無駄で無意味で必要ない争いの事。さっきの喧嘩がまさにそう…。喧嘩するくらいなら、話し合えばいいのにって思うんだ。人には、考える為の頭があって…話す為の口があるんだから。」
「喧嘩っつーもんは、拳で語り合うんだよ。」
「拳には口が無いでしょ…!?」

グリの反論に、ルスケアは再び声を荒らげた。

「ごちゃごちゃうるせぇなぁ。俺は俺のやり方、てめぇはてめぇのやり方でやりゃあ良いだろ?」
「それはそうだけど…!私達は王様に選んでもらった騎士なんだから、やり方以前に礼節って物が…」
「あのなぁ!俺達全員が、てめぇと同じように考えられる訳じゃ…」

声を荒らげる2人の服を掴むと、彼等は揃って私の方を見下ろした。

「…言い争い、ふもー。」
「ご、ごめん…アスールくん。」
「…もう警備は十分だろ。そろそろ帰ろうぜ。」

街の警備を終えてシュヴァリエメゾンに帰って来た私は、着替えをする為自室へ戻った。

「おかえりなさい。今日は少々遅かったですね。」

ビオレータが私の部屋へやって来るのは、これが初めてだった。彼は椅子に座っていて、手元には1冊の本が握られている。

「…何で居る?」
「あなたが帰って来るのを待っていました。色々と話す事があるので。」
「…着替えて良い?」
「どうぞ。俺は先に食堂へ向かっているので、終わったら来て下さい。」

着替えを終えて食堂へ向かうと、テーブルの上には料理…ではなく、数冊の本が積まれていた。

「座って下さい。」

彼に促されて椅子に座ると、1冊の本を目の前に差し出した。

「先日、アリファーン帝国へ行った時の話をモーヴ様から聞きました。そこで、あなたにもっと教育が必要だと指摘を受けました。」
「…指摘?」
「注意されたという事です。要するに、もっと勉強しろという事ですね。」
「…何を?」
「あなたに必要なものは色々ありますが、まずは…」

私の前に置かれた本に指をさそうとした瞬間、調理場からアルトゥンが姿を現した。

「おかえりアスール!待っとったでー!」
「…アルトもべんきょー?」
「彼には協力して貰います。まずは、テーブルマナーを勉強しましょう。」
「…テーウルアナー?」
「飯を食べる時の約束事やね。色々あるから、少しずつ覚えたらええけど、綺麗に飯を食べられるようになると、大人に一歩近づけるで!」
「…大人なりたい。」
「まぁ…この際理由は何でもいいでしょう。では、アルトゥンさんに料理を運んで貰いますから、実際に食べながら勉強しましょう。」

次々と運ばれてくる料理の食べ方を教わりつつ、今日の食事を終えた。
それから風呂を済ませ、部屋に戻る途中で私は書庫を訪れた。

「どうかしましたか?」
「…分からない聞きたい。」
「色んな事に興味を持つのはいい事ですが、仕事の邪魔はしないで欲しいですね。」
「…仕事見ていい?」
「黙って見ているなら構いませんが…。何の為に見学を?」
「…見たら文字分かるかも。」
「難しい言葉ばかりなので、参考にはならないかと。」
「…じゃあ本見る。」
「どうぞお好きに過ごして下さい。邪魔をしなければ、何をしても構いませんよ。」

私は沢山ある本棚の中から、1冊の本を抜き取った。それを持ってソファーへ向かい、腰を下ろして表紙をめくる。
書かれている文字を理解する事は出来ないが、ぼんやりと絵を眺める。様々な色で描かれた絵だったが、今までに見た事のない物体だった。
ページをめくっているうちに瞼が重くなっていく。
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