青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第3章:使命

第28話

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気が付いたら、私は自室のベッドで目を覚ました。机の上には、昨日書庫で読んでいた本が置かれている。
着替えを済ませて廊下を歩き出すと、背後の扉が開く音が聞こえた。

「アーちゃんおはよう。よく眠れた?」
「…ビズ?」
「これからご飯でしょ?僕も一緒に行くよ。」

ヴィーズは私の側へ歩み寄り、手を差し伸べた。私は彼の手を握りしめ、共に食堂へ向かう。
グリが用意してくれた料理を食べながら、彼の話に耳を傾けた。

「って事だから、今日は僕達と一緒に城へ行こう。」
「ガルセク王子からの呼び出しですか…。一体…何の要件でしょう?」

後から食堂へやって来たルスケアの声は、少し震えていた。彼は心配な事があると、こうして表情を曇らせてしまう事がある。

「そんなに心配しなくても、僕が居るから大丈夫だよ。」
「それが心配なんです。前みたいに突然斬られたりしたら…。」
「怪我してもアーちゃんが治してくれるでしょ?魔力が足りなくなったら、供給してあげられるし。」
「それはそうですけど…。」
「とにかく、出来るだけ穏便に済ませられるように、早めに準備して出発しよう。」

こうして私は彼等に連れられ、城へとやって来た。ここへ来るのは2度目だが、相変わらずどこを歩いているのか分からなくなる広さだった。
ヴィーズが扉を叩くと、中から男性の声が聞こえてくる。部屋に足を踏み入れると、椅子に座るガルセク王子と隣に立つモーヴの姿が見えた。
膝をついて頭を下げる彼等の真似をし、私はその場にしゃがみ込んで頭を下げる。

「思ったより早かったな。」
「お待たせして申し訳ありません。」
「青女の成長ぶりに免じて許そう。モーヴ、説明を。」
「かしこまりました。」

ガルセク王子の要件と言うのは、最近街で起きている放火事件の調査をしろとの事だった。
色々と分からない部分が多いのはいつもの事なので、詳しい話は後で騎士達に聞く事にした。

「被害に遭った貴族の一覧は、こちらにまとめた。ルスケアなら、見れば分かるな?」
「は、はい。お預りします…。」
「貴族共からの苦情がうるさくて敵わん。さっさと収束させてくれ。」
「はい。全力を尽くします。」
「話は以上だ。」
「それでは失礼致します。」

扉の前で再び頭を下げ、長い廊下を歩き出した。

「モーヴ様は放火と仰ってましたけど…。何者かが仕組んだ証拠があるんでしょうか?」
「憶測だけど…被害にあってる貴族達に、何か共通点があるのかも。貴族の家だけって言うのも、どこか変だしね。」
「確認してみます。」
「…ほーかって何?」
「誰かが建物に火をつける事だよ。たまたま火がついて燃えてしまう火事と違って、誰かが故意に悪い事をし…」
「あっ!」

少し後ろを歩いていたルスケアが、大きな声を出してその場に立ち止まった。

「どうしたの?」
「ど、どうやら…私の家も、被害遭っていたみたいです…。」
「え!?そうだったの?」
「わざわざ私に知らせたりはしないでしょうから…私も今知りました。」
「話を聞きに行ってみない?もしかしたら、何か分かるかもしれないし。」
「…分かりました。」

ルスケアは心配そうな表情を浮かべながら、私達の後ろを歩き出した。
彼の手元の資料によると、放火の被害に遭っているのは、ルスケアの家であるコデマリ家と関わりのある貴族達ばかりだと言う。
彼の家に辿り着いた私達は、黒い服を着た女性に導かれ、とある男性の元にやって来た。

「久しいなぁルスケア。お前の方から、ここへ来るとは思わなかった。」
「お久しぶりです…お兄様。」

どうやら彼が、ルスケアの家族らしい。目元はどことなく似ているが、髪色は真逆だった。全体的に鮮やかな赤色をしていて、毛先がほんのり茶色に染っている。

「ルブルム様。突然押しかけしまい、申し訳ありません。最近頻繁に起こっている、放火事件について少々お話を聞かせて頂けないでしょうか?」
「なるほどその件か…。良いだろう。座りたまえ。」

彼は席を立ち、部屋の中央に置かれたソファーへ座るよう促した。

「そちらの少女は…妹さんかな?」
「いえ。彼女も僕達騎士団の仲間です。」
「こんな幼い子供が…?」
「子供ではありません。我々にとって、欠かせない存在です。」
「…そうか。では、本題に入ろう。」

彼は、この家が放火された日の事を語り始めた。火が発生したのは、建物の裏手にある煙突と呼ばれる場所だと言う。
それが何を意味するのか…私にはさっぱり分からなかったが、話を聞く彼等もまた…不思議そうな顔をしていた。

「何故…煙突から発火を?」
「それは私にも分からない。火元はそこだと断定されたが、未だに火種は見つかっていない。」
「火種が無い…なんて事が有り得るのですか?」
「有り得るかどうかは重要じゃない。普通なら燃えるはずのない場所から、突然発火したと言う事が重要だ。そんな場所が燃えるなんて、人の手が加えられたと言う…何よりの証拠だ。」
「お話は分かりました。ちなみに、犯人に心当たりはありますか?」
「恐らく、この家に恨みを持つ者だろう。…例えばお前とかな。」

彼はルスケアの方に向かって、視線を送った。

「私がそんな事をして、何の意味が…!」
「ムキになる辺り…ますます怪しいな。」
「例え恨みがあったとしても、彼が放火をしても何の得もありません。」
「何故そう思う?私がルスケアをこの家から追い出した事は、あなたも知っているはずだ。」
「仮に…彼が放火をしたとします。ですが、騎士という身元がハッキリしている彼が犯人では、すぐに捕まるでしょう。恨みは果たせても、自分の居場所を無くすような真似を…彼がするとは思えません。」
「魔法の力を使えば、火種が無くとも燃やせる。証拠を残さずに放火する事は、可能だと思わないか?」
「それはあなたも同じです。彼に限った話ではありません。」
「…私の話は以上だ。そろそろ帰ってもらえるか?」
「最後に1つだけ…。屋敷の周辺を、見て回ってもよろしいでしょうか?」
「好きにしろ。」
「ありがとうございます。それでは、失礼致します。」

彼に向かって頭を下げ、私達は建物の外へ向かった。建物の周りは沢山の植物が生い茂り、色とりどりの花が咲いている。

「ヴィーズ様。庇っていただいて…ありがとうございました。」
「当然の推測しただけで、あんなのは庇うって言わないよ。」
「それでも…嬉しかったです。」
「…煙突、どこ?」
「屋根の上にあるから…アスールくんには見えないかもしれないね。」
「僕が持ち上げてあげるよ。…よっと!」

彼に抱えられ、私は建物の上を見上げた。目線が高くなった事で、屋根から突き出す四角い塔が見える。

「あの飛び出ているのが煙突だよ。」
「…高い。」
「そうだよね。あんな所、燃えやすい場所でもないし…普通なら燃えないはずだし…。」
「引っかかるのは…どうしてコデマリ家を狙ったのかと、燃やした場所が煙突だったのか。」
「前者は、被害に遭った家を見た所…同じ階級の、取引が多い貴族ばかりでした。犯人には、ここを狙う理由があったように思えます。」
「後者は?」
「…すみません。全く検討もつきません。」
「うーん。犯人の手掛りになりそうな物は、とっくに調べてるだろうし…。ここでは収穫無しかな。別の場所に移動しよう。」

高い目線が下へさがって行く瞬間、私は茂みの影にキラリと光る赤い物を見つけた。

「…キラキラ。」
「え?キラキラ?」

地面に落ちていたのは、小さな赤い石だった。石は陽の光を浴びてキラキラと光り、光る紐がぶら下がっている。

「これは…イヤリングでしょうか?」
「…イアリグ?」
「僕が前に着けてたピアスと同じように、耳につけるアクセサリーの事だよ。これはルビーかな?女性物みたいだけど…もしかして犯人の落し物?」
「宝石が付いたアクセサリーなら、使用人の物では無さそうです。こんな所に落ちているなんて…怪しいですね。」
「買った人が誰なのか、いつ購入したのか…詳しく調べてみよう。」

犯人の物と思われるイヤリングを手に、私達は街へ向かった。

「アスールくん。沢山歩いたけど、疲れてない?」
「…へーき。」
「ルーくんは優しいね。でも、君の方が疲れてない?なんだか元気も無いみたいだけど…。」
「家に行ったからでしょうか…昔の事を思い出してしまって。」

彼はそう言いながら、不思議な顔で笑っていた。

「…ルスキャ、家追い出した?」
「追い出したのはルブルム様だよ。確か…ご両親が長男であるお兄様に、跡を継いだ時だったよね?」
「…おにーさま、跡継ぎ?」
「うん。お兄様が領主になって、1番最初にした事が…私を家から追い出す事だったんだ。追い出されて行き場を失った私は、先に家を出ていたお姉様に会いに行った…。」

彼は歩みを進めながら、ぽつりぽつりと言葉を呟く。

「でも…お姉様はどこにも居なかった。街中探し回ったけど、全然見つからなくて…。」
「そこで僕達と会ったんだよね?」
「…はい。私はてっきり、お姉様が騎士になっていると思って…騎士団の制服を着てたヴィーズ様に、お姉様の事を聞いたんだ。そしたら、女性は騎士になれないんだって…そこで初めて知ったよ。」 
「…何で騎士ダメ?」
「理由は分からないけど…昔から男性だけって決まりがあるんだ。多分、女性より男性の方が優れていると思ってるからじゃないかな?僕は、女性の方が優れてる部分もあると思うけどね。」
「王様の決定ですから、こればっかりは従うしかありません。そこで、騎士に憧れていた私は…ヴィーズ様に、騎士学校を勧められたんだ。そこなら住む場所にも、食べる物にも困らないからってね。」
「そしたらあっという間に騎士になっちゃうんだからビックリしたよ。かなり早かったよね?」
「幼い頃から、お父様やお姉様の訓練を受けていたので…。って、すみません!ついつい話し込んでしまいました…!」
「いいよいいよ。話をするだけでも、少しは気分も違うだろうし。」
「そう…ですね。ありがとうございます。」
「…お店、着いた?」
「うん。多分ここだと思う。」

話をしている間に、目的の店へ辿り着いたらしい。ヴィーズは先陣を切って前へ進み、キラキラと光る店の扉を開いた。
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