青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第3章:使命

第33話

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「ガルセク様~!」

商人と話を終えた私達の元へ、遠くの方からアウルムが駆け寄って来た。

「どうしたアウルム。1人か?」
「それが…ローゼの姿が、どこにも見当たらないんッス。」
「一緒に搬送をしていたはずではないのですか?」
「搬送を終えて、こっちと合流する為に街を歩いてたんッスけど…気が付いたら1人になってて…。」
「手分けして探しましょう。俺はアスールと、北の方から探してみます。」
「じゃあ、俺はガルセク様と南の方を見て回るッス!」

2手に別れ、街の中で姿を消したローゼを探し始めた。あちこち歩き回ったが、彼の姿はどこにもなく…やがて、長椅子が置かれた広場に辿り着いた。

「丁度良いな。少し休もう。」

長椅子に座る彼の隣に腰を下ろし、中央で吹き上げる水溜まりをぼんやりと眺める。

「アスール。さっきは助かった。」
「…さっき?」
「商人の女に触られそうになった時、お前が阻止してくれただろう?」
「…ユオアス、困惑してた。」
「ありがとう。」

彼は、私の頭上に腕を伸ばす。手を開くが触れる事はせず、そのまま腕を引っ込めた。

「全く…ローゼはどこに行ったんだ?」
「…お腹空いた?」
「あいつにそんな食い意地は無い。離れるとしたら何か理由がありそうだが…。」
「…服?」
「俺よりは興味がありそうだが…。アウルム様の側を離れてまで、買おうとはしな…」

突然、彼はその場に立ち上がり、後ろを振り返った。視線の先に、ドレスのような長い服を着た女性が立っている。

「あいつは…。」
「…ロゼ?」

女性かと思われた人物は、女性物の服を着たローゼだった。彼は右手に、長い槍を握りしめている。

「どこへ行っていた?」
「…。」

彼は目を閉じたまま、無言でこちらへゆっくりと歩み寄る。ユオダスは背中の剣を掴み、私の前に立ちはだかった。

「…ローゼじゃないな。」
「…ロゼじゃない?」
「下がっていろアスール。」

私が後ろに下がろうとしたその時、ローゼは槍を構えてその場から駆け出した。目をつぶっているにも関わらず、ユオダスを目掛けて一直線に槍を突き刺す。彼は背中の剣を引き抜き、ローゼの槍を弾き飛ばした。
彼が身体をくるりと回転させると、服の裾が風を受けてフワリと広がる。ユオダスは再び迫る槍を受け流し、下から持ち上げるように剣を振り上げた。
彼の剣は私の身長よりも長く、脚よりも太い。見るからに重そうな剣の一撃を受けたローゼは、その衝撃で身体が吹き飛ばされた。咄嗟に槍で受け止めたおかげで、怪我はしていないようだ。
無言で見つめ合う2人の元に、アウルムとガルセク王子が駆け寄って行く。

「あ、ローゼ!ここに居…」
「離れて下さい!こいつは今、正気じゃありません!」

ローゼは後ろを振り返り、王子に向かって槍を振りかざした。すると、隣に立っていたアウルムが彼の槍を殴り飛ばし、身体に拳を押し当てた。ローゼは再び吹き飛ばされ、近くの茂みに倒れ込む。

「本当に正気じゃないみたいッスね。」
「と言うか…何故、女の服を着ているんだ?」
「そう言われるとそうッスね…。似合いすぎてて、全然違和感無かったッス。」
「何者かに操られて居るようです!術者が近くにいるはず…俺が探してみます!」
「了解ッス!こっちは任せるッスよ~。」
「アスール。お前は俺と来い。」
「…分かった。」

彼に手を捕まれ、ローゼに背を向けて走り出す。その場に立ち上がった彼は近くに落ちた槍を拾い上げ、私達を追いかけて来た。
ユオダスは私を抱きかかえ、すぐそこまで迫った槍を剣で弾き飛ばす。

「流石に寝すぎッスよ!?そろそろ起きてもらわないと困るッス!」

後ろからやってきたアウルムがローゼの腕を掴み、彼の顔を殴りつけた。

「…ロゼ、怪我!」
「今は我慢してくれアスール。治療は、あいつが正気に戻ってからにしろ。」

彼の腕に抱えられたまま、私はローゼが殴られるのをただ見ているだけしか出来なかった。嫌悪のような、嫌な感情で胸が締め付けられる。

「うぅ…。」

地面に倒れ込んだローゼが呻き声をあげ、閉じたままだった目をゆっくりと開いた。

「お?やっと目覚めたッスか?」
「痛ってて…あれ?アウルム様…?ここは?」
「何も覚えてないッスか?」
「え?は、はい…。」
「そんなに可愛い服を、いつどこで着たかも?」
「なっ…!可愛…えぇ!?何この服!」

ユオダスの腕を離れ、私はローゼの元に駆け寄った。しゃがみ込み、すぐさま魔法の力で治療を試みる。

「あ、ありがとう…アスール。」
「殴って悪かったッス。本気で槍を振り回すもんだから、手加減出来なかったんッスよ。」
「そんなに本気でしたか…?アスールは怪我してない?大丈夫?」
「…ユオアス、守ってくれた。」
「なら良かった…。」
「おい!居たぞ!」

遠くの方から王子の声が聞こえて来た。彼の手元には銃が握られ、その先は見知らぬ少女に向けられていた。
彼女はローゼと同じような可愛らしい服を着ていて、両手で大きな猫のぬいぐるみを抱いている。

「ガルセク様!誰ッスかその子!」
「俺達が探していた術者だ。そこの茂みに隠れていたから、こいつで間違いないだろう。」

少女と言っても、私よりも年上に見える彼女は、目元を布で覆い隠していて、不審者か魔族かは分からなかった。

「その辺の子供だったらどうするんッスか!民間人に銃を突き付けるなんて、不審者のやる事と同じッスよ!?」
「貴様の心配はそっちか!?しかも…俺よりも青女を優先して助けるとは、従者として恥ずか…」
「…何で?」

彼女は、ポツリと言葉を呟く。

「なんだ?貴様が術者ではないのか?」
「…どうして?」
「どうもこうも…。怪しいから捕まえた。それだけだ。違うと言うなら、その茂みで隠れていた理由を述べろ。」
「…ボクはただ、遊びたかっただけなのに。」
「俺達は遊びに来た訳ではない。貴様の遊びに付き合っている暇など…」
「…皆、バラバラになっちゃえば良いんだ!」
「…何?」
「ガルセク様、後ろ後ろ!」

彼の背後から、空飛ぶハサミが迫って来た。銃を構えた方の反対側の手を腰に回し、下げていた鞘から剣を引き抜く。彼の剣はハサミを弾き飛ばし、地面に叩きつけられた。

「一体…どこからハサミを…。」
「…もっと遊んでくれるよね?」

少女の言葉に反応し、地面のハサミが再び彼の元へ飛んで行く。今度は銃でハサミの柄の部分を撃ち抜くと、又しても地面に叩きつけられた。

「ガルセク様!下がってて下さいッス!」
「こんなハサミ程度に、傷付けられたりはしない。」
「心配するなって言ったり、心配してくれって言ったり…本当に、世話が焼けるッスねー。」
「うるさい。心配ならさっさと終わらせろ。」
「了解ッス。ガルセク様を傷付けようとするなら、女でも子供でも容赦しないッスよ?」

再び浮かび上がったハサミは、少女の背後に回り込んだ。姿が見えなくなったと思ったら、ハサミは大きく刃を広げ、彼女の首を一思いに切り取った。

「なっ!?」
「ぎゃー!!!」

ローゼは大きな悲鳴をあげ、床に倒れ込んだ。名前を呼びかけて身体を揺するが、気を失っているのか反応はない。
地面に転がった少女の首はその場に起き上がり、宙に浮かび始める。頭を失った身体もその場に立ったまま、片方の腕を前方に伸ばした。

「…遊んで?もっと。」

ハサミは更に少女の片腕を切り落とし、彼女の腕が勢いよくアウルムの方へ飛んで行く。彼は容赦なくそれを殴り飛ばし、次々迫る頭やハサミも全て地面へ叩きつけていく。

「しつこいッスね…。遊んでる暇は無いはずなんッスけど…。」
「これだけバラバラに動かれては、捕まえる事も難しいな。」
「そもそも疑問なんッスけど、何で浮いてるんッスか…ね!」

アウルムが飛んでくる頭を地面に叩きつけても、何度も何度も起き上がる。

「俺に聞かれても知らん。そもそも何故生きている?腕はともかく、首を切ったら普通は死ぬだろ…う!」

王子が剣を何度振っても、切り傷が増えるばかりでその勢いは変わらない。

「そもそも、布が邪魔で目が見えてないはずなのに、どうやって動かしてるんッスかね?」
「俺達の常識の範囲を超えているな。普通に戦っていては、収集がつきそうもない。」
「じゃあどうするんッスか?後はもう魔法くらいしか手がないッスよ?」

ローゼと私の側を離れられないユオダスは、彼等の戦いを眺めながら何かを考え込んでいた。

「…ユオアス?」
「ん?あぁ…。どうしたものかと考えていた。あの少女は、どう見ても人間ではなく魔族だ。しかし、いくら斬られても死なないのであれば…厄介だな。」
「…魔族、何嫌い?」
「そうだな…。確か、強い光に弱かったと思うが…。」
「…光、やってみる。」
「何?おい、ちょっと待っ…」

私は目閉じ、身体の前で両手を伸ばした。
治癒魔法はいつもこうやって強く念じれば、傷や怪我を治すことが出来ていた。強い光を放つ、そのイメージで手に集中すれば、きっと光を放つ事も出来るはず…。

「わっ!何かアスールが光り出したッス!」
「なるほど…そういう事か…!」
「…熱いぃ!熱いよぉぉぉ!」

しばらくしてそっと目を開けると、悲鳴をあげる少女の顔が炎に包まれ、目元の包帯が地面に燃え落ちていた。
彼女へ向かって手を伸ばす王子の姿が視界に映り、彼の手元に火の粉が舞っているのが見える。

「…目がぁぁぁ!光がぁぁぁ!」

悶え苦しむ彼女の姿が徐々に見えにくくなり、私の目の前は真っ暗になった。
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