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第4章︰迷い
第47話
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目覚めた私が真っ先に目にしたのは、騎士が不在のテントだった。ユオダスが寝ていたベッドには布団が畳まれ、グリが寝ていたベッドには彼の荷物が置かれ、ジンガが寝ていたベッドには布団が散乱している。
私は身支度を整えてテントを出ると、隣に建てられたテントをそっと覗き込んだ。そこに居るはずのパニやアウルム、ガルセク王子までもが居なくなっていて、私は頭を悩ませる。
ここで待つべきか、彼等を探しに行くべきか...。私の考えは、思いの外すぐにまとまった。
「おはようございます。何かご用ですか?」
私はテントを離れ、役所へ足を運んだ。
騎士達が居ない事も気になるが、私の興味は彼等よりもバイラールへ向いていた。受付と思われる女性に、声をかける。
「...昨日連れてきた、バイラルに会いたい。」
「申し訳ありません。彼は罪人ですので、お会いする事は出来ないのです。」
「...何で?」
「何故と申されましても...。それが決まりで...」
「あ...あなたは、昨日いらっしゃった騎士様のお連れ様ですよね?」
私の元へ、一人の男性が現れた。彼は昨日、バイラールを奥の部屋へ連れて行った人だ。
「え?そうなんですか?」
「お会いしたいのでしたら、私がご案内しますよ。こちらへどうぞ。」
男性の案内で奥の部屋へ向かうと、鉄の棒で仕切られた小さな部屋が沢山並んでいた。中には人の影があり、ベッドに横たわる者や静かにこちらを眺める者など...様々だった。
「彼の部屋はこちらです。中には入れませんが、お話するくらいなら出来ると思います。」
「...ありがとう。」
男性は私をその場に残し、立ち去って行った。棒の奥で横たわるバイラールの姿をみつけ、私は声をかける。
「...バイラル。」
「ん?あ...アスールちゃん...!何でここに...。」
「...様子見に来た。」
「もしかして、俺の事を心配してくれたのかい?」
「...心配?」
「違うのか...。まぁ...最後に君の顔が見られただけで良かったよ。」
彼女の言葉の意味が分からず、私は首を傾げる。
「...最後?」
「もうすぐ俺は死ぬからね。」
「...怪我してる?」
「いいや?至って元気だよ。」
「...じゃあ何で?」
「人間に捕まった魔族がどうなるか、君は知らないのかい?」
「...お空行く。」
「なんだ...ちゃんと分かってるじゃないか。...それが死ぬって事だよ。」
ヴィーズから聞いた話では、捕まえた魔族は空へ見送ると言っていた。それが死とどう結び付くのか、私には全く理解出来ない。
「...空じゃ生きられない?」
「空に行くというのは、死後の魂が空に昇るという意味さ。」
「...天族も死んでる?」
「天族?空にはそんなものが居るのかい?」
「...多分。」
「それは興味深いね。その天族とやらが、踊り好きな種族だと良...」
「何故お前がここにいる!」
部屋中に、ユオダスのものと思われる男性の声が響き渡った。私は両耳を塞ぎ、声がした方を振り向く。彼の隣にはガルセク王子の姿もあり、2人は揃って私を睨みつけていた。
「貴様...何をしている?」
「...話してた。」
「俺達の不在に、勝手に出歩...」
こちらへ伸びる彼の手を避け、後ろに後退る。彼は手を引っ込めると、バイラールが閉じ込められている小部屋の扉に鍵を差し込んだ。
「おや...彼女を迎えに来たんじゃないのかい?」
「いいや。お前に用があって来た。」
「俺に?一体何の...」
「貴様は昨日、神官様と踊った...そう言ったそうだな?」
「そうだよ。儀式の舞を踊るって言うから、ご一緒しようと思ってね。」
「その舞を再現することは可能か?」
「まぁ...彼女の舞は一通り見たし...。出来ると思うけど?」
「ならば、その舞とやらをアスールに教えてくれ。」
ユオダスは、突然私の名前を口にした。何の事だかさっぱり分からない私は、何をどう問いかけていいのかすら分からず黙り込む。
「どうして俺がそんな事しなきゃいけないの?もうすぐ殺されるっていうのにさ。」
「我々に従うのであれば、ここから出してやってもいい。」
「なるほど...取引しようって訳か。」
「魔族と取引だと...?貴様の命は、俺達が握っているという事だ。履き違えるな。」
「おー怖い怖い...。なら、俺は君達の手の平の上で踊ってみせよう。このまま死ぬくらいなら、彼女に踊りの楽しさを...知ってもらってからが良いしね。」
私の知らない所で話は進められ、彼等と共に儀式の祭壇へと向かった。
「...という訳で、お前に神官様の代わりを務めてもらいたい。」
昨日、バイラールに連れされてしまったルムア様は、長時間踊り続けた疲労により気を失ってしまった。それが原因で彼女は眠り続け、未だに意識が戻らないのだと言う。
そこで、儀式の舞を踊る彼女の代役を私に任されたのだ。舞を踊る神官は、光の属性を宿す女性に限られている為、アウルムやパニでは代わりを果たせないらしい。
儀式の舞は、歴代の神官に受け継がれるもので、詳しい動きを知る者は少ない。だからと言って舞を踊らない訳にもいかず、彼女の舞を見たと言うバイラールに協力を求めた訳だ。
「...分かった。」
「ボクも練習するから、一緒に頑張ろ!」
「...アニも踊る?」
「パニは踊るのが好きなんッスよ。貴族達には好評みたいッスけど...俺には上手いかどうか、さっぱりわかんないッス。」
「踊りに上手い下手は関係ないさ。どれだけ心が踊るか...だと思うよ。」
「無駄な話はいいから、さっさと教えろ。貴様にだらだら付き合う程暇では無い。」
「それなら...彼を虜にしてしまうような、みごとな舞を披露しようじゃないか。ね?アスールちゃん。」
彼女は私の手を取り、笑顔を浮かべてみせた。心を踊らせるという感情が、一体どんなものなのか...この舞を通して、私の心の曇りは晴れるのだろうか?
「どういう事だー!」
「ルムア様はどこ行ったー!」
数時間後、天族に感謝を伝える舞を捧げる儀式が始まった。ルムア様の代役を務める私が祭壇の前にやって来ると、それを見ていた周りの住人達がざわつき始める。
「誰?ルムア様じゃないの?」
「あの子は何なの?」
「神官様じゃ意味無いだろ!」
次々に聞こえる声は、私の動きを止める程のものでは無かった。バイラールに教わった通り、祭壇の周りで頭を下げていく。
儀式は順調…かと思いきや、私に襲いかかったのは、大きめの石だった。数人の住人が投げ込んだ石が私の脚に当たり、バランスを崩してその場に倒れ込む。
「アスールちゃん…!」
遠くから、舞を見守るパニの声が聞こえた。しかし、今は儀式の真っ最中。この儀式は神聖なものであり、神官の舞を妨害する事は許されない。
いくら他国からやって来た王子の世話係でも、先程石を投げた住人と同じように、兵士によって取り押さえられてしまう。彼は胸元で手を握りしめ、こちらを見守る事しか出来なかった。
私はその場に立ち上がり、舞を再開する。しかし、脚の1部が赤く腫れ上がり、歩く度に痛みが全身を駆け巡る。神官の儀式を妨害する事はダメでも、神官が儀式に関係の無い行動をする事はダメだと言われてはいない。そこで私は、自分自身に治癒魔法をかけることにした。
舞の最中で目を閉じ、光に包まれながら舞を踊る。
その光景を見た住人達は、次第に言葉を失い始めた。
こうして儀式は無事に終了し、テントに戻った私はしばらく眠りについた。
「…ん。」
目が覚めた時、私の周りで騎士達の寝息が聞こえて来た。全員眠っている所を見る限り、まだ朝は訪れていないらしい。私は身体を起こし、服を着込んでテントの外へ出た。
辺りはすっかり暗くなり、空には月が浮かんでいる。すると、そんな月明かりの下で動く、2つの人影を見つけた。1人は髪の長さからバイラールである事が分かるが、もう1人は分からない。私は興味の赴くままに、彼女達の後をついて行く事にした。
しばらくして、2人は薄暗い路地へ入っていく。私は物陰に身を潜めて、様子を伺った。
「こんな時間にこんな所で…一体何の話をするつもりだい?」
「貴様に喋る許可を与えたつもりは無いが?」
「せっかく気持ちよく寝てたのに…。急に起こされたら、流石の俺だって機嫌が悪く…」
すると、正体不明の人影が、腰に下げていた銃を彼女に突き付けた。
「俺は一度警告したはずだ。貴様の命は俺達が握っているとな。」
その言葉は、捕らえられていた彼女を外へ出す時に、ガルセク王子が口にした言葉だった。私は銃を握りしめている人物が、王子だった事に気付く。
「でも約束してくれたよね?アスールちゃんに舞を教えたら、牢から出してくれるって。」
「あぁ。だから今、こうして出ているのだろう?貴様のその約束とやらは、もう達せられている。」
「そうか…これが君のやり方なんだね。」
「魔族を生かしておく訳にはいかない。それが俺の使…」
私はすぐさま物陰を飛び出し、彼等の元に駆け寄った。
「なっ!?貴様…!」
「…バイラル!」
私は上着のマントを取り外し、彼女の顔に向かって投げ飛ばした。王子に向かって手を伸ばし、強く目を閉じる。
「っ…!」
暗がりに突如放たれた光で、彼が怯んだ隙に私はバイラールの腕を掴んで走り出した。
「なんで君がこんな事を…!」
「…早く逃げて!」
「わ、分かった。ありがとうアスールちゃん!また会おう!」
彼女は私の腕を振り払い、クルクルとその場に回転して姿を消した。その場に座り込んだ私の元に、足音が近付いてくる。
「貴様…自分が何をしたか分かっているんだろうな?」
「…約束した。約束は守るもの。」
「あんなものは約束では無い!魔族の味方をするなど、貴様は人間じゃない!」
彼は握りしめた銃を、私に向けた。彼が引き金を引けば怪我をする…それが分かっていても、私は恐怖を感じなかった。
「…何で殺す?バイラルは反省した。」
「何故そんな事が貴様に分かる。」
「…悪い事決める、おーじさまに権利無い。」
「黙れ!!!」
引き金を引いた彼の銃弾は、大きな音を立てて私の横を通り過ぎた。あまりの音の大きさに、私は両手で耳を塞ぐ。
「次に口を開いたら、息の根を止める。」
再び銃口を向けられ、開きかけた口を閉じる。
「裁きの権利は無いと言ったな。だが、貴様を騎士団から追い出す権利は俺にある。今この場で、貴様を騎士団から追放する。」
彼はそう言い捨て、私をその場に置き去りにした。
私は身支度を整えてテントを出ると、隣に建てられたテントをそっと覗き込んだ。そこに居るはずのパニやアウルム、ガルセク王子までもが居なくなっていて、私は頭を悩ませる。
ここで待つべきか、彼等を探しに行くべきか...。私の考えは、思いの外すぐにまとまった。
「おはようございます。何かご用ですか?」
私はテントを離れ、役所へ足を運んだ。
騎士達が居ない事も気になるが、私の興味は彼等よりもバイラールへ向いていた。受付と思われる女性に、声をかける。
「...昨日連れてきた、バイラルに会いたい。」
「申し訳ありません。彼は罪人ですので、お会いする事は出来ないのです。」
「...何で?」
「何故と申されましても...。それが決まりで...」
「あ...あなたは、昨日いらっしゃった騎士様のお連れ様ですよね?」
私の元へ、一人の男性が現れた。彼は昨日、バイラールを奥の部屋へ連れて行った人だ。
「え?そうなんですか?」
「お会いしたいのでしたら、私がご案内しますよ。こちらへどうぞ。」
男性の案内で奥の部屋へ向かうと、鉄の棒で仕切られた小さな部屋が沢山並んでいた。中には人の影があり、ベッドに横たわる者や静かにこちらを眺める者など...様々だった。
「彼の部屋はこちらです。中には入れませんが、お話するくらいなら出来ると思います。」
「...ありがとう。」
男性は私をその場に残し、立ち去って行った。棒の奥で横たわるバイラールの姿をみつけ、私は声をかける。
「...バイラル。」
「ん?あ...アスールちゃん...!何でここに...。」
「...様子見に来た。」
「もしかして、俺の事を心配してくれたのかい?」
「...心配?」
「違うのか...。まぁ...最後に君の顔が見られただけで良かったよ。」
彼女の言葉の意味が分からず、私は首を傾げる。
「...最後?」
「もうすぐ俺は死ぬからね。」
「...怪我してる?」
「いいや?至って元気だよ。」
「...じゃあ何で?」
「人間に捕まった魔族がどうなるか、君は知らないのかい?」
「...お空行く。」
「なんだ...ちゃんと分かってるじゃないか。...それが死ぬって事だよ。」
ヴィーズから聞いた話では、捕まえた魔族は空へ見送ると言っていた。それが死とどう結び付くのか、私には全く理解出来ない。
「...空じゃ生きられない?」
「空に行くというのは、死後の魂が空に昇るという意味さ。」
「...天族も死んでる?」
「天族?空にはそんなものが居るのかい?」
「...多分。」
「それは興味深いね。その天族とやらが、踊り好きな種族だと良...」
「何故お前がここにいる!」
部屋中に、ユオダスのものと思われる男性の声が響き渡った。私は両耳を塞ぎ、声がした方を振り向く。彼の隣にはガルセク王子の姿もあり、2人は揃って私を睨みつけていた。
「貴様...何をしている?」
「...話してた。」
「俺達の不在に、勝手に出歩...」
こちらへ伸びる彼の手を避け、後ろに後退る。彼は手を引っ込めると、バイラールが閉じ込められている小部屋の扉に鍵を差し込んだ。
「おや...彼女を迎えに来たんじゃないのかい?」
「いいや。お前に用があって来た。」
「俺に?一体何の...」
「貴様は昨日、神官様と踊った...そう言ったそうだな?」
「そうだよ。儀式の舞を踊るって言うから、ご一緒しようと思ってね。」
「その舞を再現することは可能か?」
「まぁ...彼女の舞は一通り見たし...。出来ると思うけど?」
「ならば、その舞とやらをアスールに教えてくれ。」
ユオダスは、突然私の名前を口にした。何の事だかさっぱり分からない私は、何をどう問いかけていいのかすら分からず黙り込む。
「どうして俺がそんな事しなきゃいけないの?もうすぐ殺されるっていうのにさ。」
「我々に従うのであれば、ここから出してやってもいい。」
「なるほど...取引しようって訳か。」
「魔族と取引だと...?貴様の命は、俺達が握っているという事だ。履き違えるな。」
「おー怖い怖い...。なら、俺は君達の手の平の上で踊ってみせよう。このまま死ぬくらいなら、彼女に踊りの楽しさを...知ってもらってからが良いしね。」
私の知らない所で話は進められ、彼等と共に儀式の祭壇へと向かった。
「...という訳で、お前に神官様の代わりを務めてもらいたい。」
昨日、バイラールに連れされてしまったルムア様は、長時間踊り続けた疲労により気を失ってしまった。それが原因で彼女は眠り続け、未だに意識が戻らないのだと言う。
そこで、儀式の舞を踊る彼女の代役を私に任されたのだ。舞を踊る神官は、光の属性を宿す女性に限られている為、アウルムやパニでは代わりを果たせないらしい。
儀式の舞は、歴代の神官に受け継がれるもので、詳しい動きを知る者は少ない。だからと言って舞を踊らない訳にもいかず、彼女の舞を見たと言うバイラールに協力を求めた訳だ。
「...分かった。」
「ボクも練習するから、一緒に頑張ろ!」
「...アニも踊る?」
「パニは踊るのが好きなんッスよ。貴族達には好評みたいッスけど...俺には上手いかどうか、さっぱりわかんないッス。」
「踊りに上手い下手は関係ないさ。どれだけ心が踊るか...だと思うよ。」
「無駄な話はいいから、さっさと教えろ。貴様にだらだら付き合う程暇では無い。」
「それなら...彼を虜にしてしまうような、みごとな舞を披露しようじゃないか。ね?アスールちゃん。」
彼女は私の手を取り、笑顔を浮かべてみせた。心を踊らせるという感情が、一体どんなものなのか...この舞を通して、私の心の曇りは晴れるのだろうか?
「どういう事だー!」
「ルムア様はどこ行ったー!」
数時間後、天族に感謝を伝える舞を捧げる儀式が始まった。ルムア様の代役を務める私が祭壇の前にやって来ると、それを見ていた周りの住人達がざわつき始める。
「誰?ルムア様じゃないの?」
「あの子は何なの?」
「神官様じゃ意味無いだろ!」
次々に聞こえる声は、私の動きを止める程のものでは無かった。バイラールに教わった通り、祭壇の周りで頭を下げていく。
儀式は順調…かと思いきや、私に襲いかかったのは、大きめの石だった。数人の住人が投げ込んだ石が私の脚に当たり、バランスを崩してその場に倒れ込む。
「アスールちゃん…!」
遠くから、舞を見守るパニの声が聞こえた。しかし、今は儀式の真っ最中。この儀式は神聖なものであり、神官の舞を妨害する事は許されない。
いくら他国からやって来た王子の世話係でも、先程石を投げた住人と同じように、兵士によって取り押さえられてしまう。彼は胸元で手を握りしめ、こちらを見守る事しか出来なかった。
私はその場に立ち上がり、舞を再開する。しかし、脚の1部が赤く腫れ上がり、歩く度に痛みが全身を駆け巡る。神官の儀式を妨害する事はダメでも、神官が儀式に関係の無い行動をする事はダメだと言われてはいない。そこで私は、自分自身に治癒魔法をかけることにした。
舞の最中で目を閉じ、光に包まれながら舞を踊る。
その光景を見た住人達は、次第に言葉を失い始めた。
こうして儀式は無事に終了し、テントに戻った私はしばらく眠りについた。
「…ん。」
目が覚めた時、私の周りで騎士達の寝息が聞こえて来た。全員眠っている所を見る限り、まだ朝は訪れていないらしい。私は身体を起こし、服を着込んでテントの外へ出た。
辺りはすっかり暗くなり、空には月が浮かんでいる。すると、そんな月明かりの下で動く、2つの人影を見つけた。1人は髪の長さからバイラールである事が分かるが、もう1人は分からない。私は興味の赴くままに、彼女達の後をついて行く事にした。
しばらくして、2人は薄暗い路地へ入っていく。私は物陰に身を潜めて、様子を伺った。
「こんな時間にこんな所で…一体何の話をするつもりだい?」
「貴様に喋る許可を与えたつもりは無いが?」
「せっかく気持ちよく寝てたのに…。急に起こされたら、流石の俺だって機嫌が悪く…」
すると、正体不明の人影が、腰に下げていた銃を彼女に突き付けた。
「俺は一度警告したはずだ。貴様の命は俺達が握っているとな。」
その言葉は、捕らえられていた彼女を外へ出す時に、ガルセク王子が口にした言葉だった。私は銃を握りしめている人物が、王子だった事に気付く。
「でも約束してくれたよね?アスールちゃんに舞を教えたら、牢から出してくれるって。」
「あぁ。だから今、こうして出ているのだろう?貴様のその約束とやらは、もう達せられている。」
「そうか…これが君のやり方なんだね。」
「魔族を生かしておく訳にはいかない。それが俺の使…」
私はすぐさま物陰を飛び出し、彼等の元に駆け寄った。
「なっ!?貴様…!」
「…バイラル!」
私は上着のマントを取り外し、彼女の顔に向かって投げ飛ばした。王子に向かって手を伸ばし、強く目を閉じる。
「っ…!」
暗がりに突如放たれた光で、彼が怯んだ隙に私はバイラールの腕を掴んで走り出した。
「なんで君がこんな事を…!」
「…早く逃げて!」
「わ、分かった。ありがとうアスールちゃん!また会おう!」
彼女は私の腕を振り払い、クルクルとその場に回転して姿を消した。その場に座り込んだ私の元に、足音が近付いてくる。
「貴様…自分が何をしたか分かっているんだろうな?」
「…約束した。約束は守るもの。」
「あんなものは約束では無い!魔族の味方をするなど、貴様は人間じゃない!」
彼は握りしめた銃を、私に向けた。彼が引き金を引けば怪我をする…それが分かっていても、私は恐怖を感じなかった。
「…何で殺す?バイラルは反省した。」
「何故そんな事が貴様に分かる。」
「…悪い事決める、おーじさまに権利無い。」
「黙れ!!!」
引き金を引いた彼の銃弾は、大きな音を立てて私の横を通り過ぎた。あまりの音の大きさに、私は両手で耳を塞ぐ。
「次に口を開いたら、息の根を止める。」
再び銃口を向けられ、開きかけた口を閉じる。
「裁きの権利は無いと言ったな。だが、貴様を騎士団から追い出す権利は俺にある。今この場で、貴様を騎士団から追放する。」
彼はそう言い捨て、私をその場に置き去りにした。
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