青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第5章︰帰る場所

第48話

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「アスール様、こちらで少々お待ち下さい。」

ガルセク王子が発射した銃の音を聞きつけた住人に保護された私は、役所へ連れてこられた。受付の男性に促され、近くのソファーに腰を下ろす。窓の外を眺めると、外はすっかり明るくなっていた。
王子が口にした、追放の意味が私にはよく分からなかったが…ここで待てと言う、男性の言葉の意味もよく分からなかった。
私は何故ここに座っているのだろう?…そう思っていると、後ろの方で扉の開く音が聞こえた。

「アスール!」

私の名前を呼んだのは、アウルムだった。私の元へ一目散に駆け寄る彼の腕が、首元に向かって伸びてくる。

「嫌!」

私は極度の恐怖を感じ、叫びながら彼の身体を両手で押し退けた。

「あ…。悪いッス…つい…。」
「あなたがアウルム様…ですね?」
「あ、はい。彼女を迎えに来たッス。」
「では、僕は仕事に戻りますね。」
「…さようなら。」

役所を出てすぐ、アウルムは私の前にしゃがみ込んだ。

「どこも怪我してなかったッスか?」
「…ない。」
「はぁ…。ガルセク様は、本当に容赦ないッスね…。」

彼はその場に立ち上がり、大きなため息をついた。

「…よーしゃ?」
「手加減しないって事ッスよ。怒っちゃうと、周りが見えなくなるタイプッスからねぇ…ガルセク様は。」

足を踏み出す彼の後ろをついていき、大通りを歩き進める。

「大体の事情は聞いたッスけど…何で魔族を逃がしたりしたんッスか?」
「…殺そうとしたから。」
「アスールは、魔族に死んで欲しくないんッスね。」
「…人間と魔族…どう違う?」
「住んでる場所とか生き方とか…色々と違うと思うッスけど…。」
「…悪い事しても、人間は殺さない。でも魔族は殺す。何が違うの?」
「俺が思うに、ここは俺達人間が住んでるからじゃないッスかね。自分の住処に違う種族が来たら、人間だけじゃなくて、動物だって嫌がるッス。」
「…そうなの?」
「殺すのはやりすぎかもって思う時もあるッスけど…ガルセク様の場合、お兄様を殺した仇ッスからね…。」
「…仇?」
「殺したいと思う程の、憎しみを感じる相手…って言われても、アスールには分かんないッスよね。まぁ…お兄様を殺した魔族を、許せないって感じッス。」
「…怒ってる?」
「簡単に言うとそうッスね。」

彼の話で、ガルセク王子が抱えている【憎しみ】の感情について知った。
私がまだ感じた事の無い、謎の多い感覚だ。
話をしているうちに、私達は寝泊まりしたテントに戻って来た。しかしそこに人影は無く、騎士も王子も姿が見えない。

「…他の皆は?」
「まさか…本当に帰るとは思わなかったッスね。」
「…帰った?」
「先にビエントへ帰っちゃったみたいッス。俺はもう、慣れっ子ッスけどね!」
「…なれこ?」

彼はテントから自分の荷物と私の荷物を持ち上げると、再び街の方へと歩き出した。

「いつも置いて行かれるから、慣れたんッスよ。前にアリファーンへ行った時、俺だけ後から帰ったのを覚えてないッスか?」

帰りの馬車での出来事を思い返し、彼が乗っていなかった事に気が付いた。

「あの時はローゼもアスールも寝てたから、仕方なかったッスけどね。この前ヴァハトゥンへ行った時なんて、重量オーバーで帰りの船に乗せてもらえなかったんッスよ?酷くないッスか?」
「…多分。」
「この悲しみを共感出来ないなんて、残念ッスねー。あ、すいません!ちょっといいッスかー?」

彼は笑いながら、街の出入口付近で見知らぬ女性に声をかけた。すると、彼女から1冊の本を受け取り、街の門をくぐり抜ける。

「…ラクダ乗らない?」
「そうッスね。代わりに、こいつに乗るッスよ。」

手に握られた本を開き、彼は無造作にページの1枚を破り取る。すると紙は光り出し、瞬く間に馬のような生き物が現れた。

「…馬?」
「これは、ペガサスって言うッス。魔法で作られた生物で、実際に生きてる訳じゃないんッスけど…移動も楽だし、結構早いんッスよ。」
「…何で皆これ乗らない?」
「これは、2人までしか乗れないうえに…借りるのに結構金がかかるんッス。あ…ガルセク様には、内緒っすよ?」
「…分かった。」

彼は手に持った本を上へ向かって投げ飛ばすと、本は背表紙を大きく広げ、鳥のように羽ばたいていった。

「アスール。怖いかもしれないッスけど…俺が抱えて乗せても大丈夫ッスか?」
「…へーき。」
「それじゃあ、乗せるッスよ?」

私はアウルムと共にペガサスの背中に跨り、砂の上を駆け出した。

「こっから空を飛ぶから、しっかり紐を握ってるんッスよ?」
「…空?」

馬のように地面を駆けていたペガサスは、前脚の付け根辺りから生えている羽を羽ばたかせ、宙に浮き上がった。どんどん地面が離れていき、大きかった宮殿も徐々に小さくなっていく。

「高い所は平気ッスか?」
「…へーき。」
「なら良かった。パニは高所恐怖症だから、高い所が嫌いなんッスよね。」
「…シュゾン見える。」
「それ、前にも聞いたッスけど…どこの事なんッスか?」
「…騎士が暮らしてる家。」
「え!?あそこ、そんな名前なんッスか?って言うか…ここから見える事に驚きッスね…。」

空の旅はあっという間に終わり、ビエントの近くで地面に降り立った。役目を終えたペガサスは光の粒となり、姿を消した。

「こっからは歩きッスね。」
「…アウルム。ついほーって何?」
「あー…ガルセク様に、そう言われたんッスよね?追放の意味としては、今いる場所から出ていけって事なんッスけど…あれはきっと本心じゃなかったと思うッス。なんて言うか…勢いで言っちゃったって感じで…。」
「…シュゾン帰れない?」
「そうッスね。すぐには帰らない方が良いと思うッス。俺からガルセク様に話をしておくから、まずは別の場所に居るのが良いんじゃないッスかね?」
「…別の場所?」



しばらくして、街中にある大きな建物の前にやって来た。周りの家よりは大きいが、シュヴァリエメゾン程の広さは無さそうだ。中へ入って行くアウルムの後に続き、建物の中へ足を踏み入れる。

「いらっしゃ…あれぇー!?アウ兄やん!」

中に居たのは、金髪の少女だった。彼女は白いエプロンを身につけ、手に箒を握りしめている。アウルムの名前を呼んでいるところを見る限り、どうやら彼等は知り合いらしい。

「ただいまッス。母ちゃんはどこにいるッスか?」
「呼んで来るから、ちょっと待っとって!かーちゃーん!アウ兄が帰って来たでー!」

彼女の独特な喋り方は、どこかアルトゥンに似ている様な気がした。

「…誰?」
「あいつは俺の妹ッス。1階で酒場をやってて、上の階に寝泊まりしてるんッスよ。」
「アウルム!あんた、何でこんな時間に帰って来たんだい!?」

建物の奥の部屋から、身体の大きな女性が現れた。彼女は頭に白い布を被っているが、後ろに垂れる編み込まれた髪が彼等と同じ金色をしている。
同じ様な髪色の人物が集まり、並んで話をしている光景にどこか違和感を感じた。

「ここは俺ん家なんッスから、別にいつ帰って来ても良いじゃないッスか~。それより母ちゃん。しばらく、この子を預かってて欲しいッス。」

彼が私を指さすと、彼女は私を見て驚いた表情を浮かべた。

「この子…まさか、あんたの子供…」
「んな訳ないじゃないッスか!誰とつくるんッスよ!」

声を荒らげる彼の頬が、ほんの少し赤くなっている様な気がした。

「ははは!冗談だよ!んで、あんたの名前は?」
「…アスール。」
「アスール?うちの子達とそっくりな名前だねぇ!うちの子にしちゃいたいくらいだよ。」
「母ちゃん…冗談はその身体だけにして欲しいッス…。」
「何か言ったかい?」
「こ、この子をよろしくって言ったッスよ!俺は城に戻るから、後は頼んだッスよ?」
「はいよ!母ちゃんに、どーんと任せなさい!」
「じゃあアスール。夜になったらまた帰って来るから、それまでここで大人しくしてるッスよ?」
「…分かった。」

去っていく彼の背中を見送ると、女性は私に向かって手を差し出した。

「あたしはアリルさ。よろしくねアスール。」
「…初めまして。」
「ちゃんと挨拶出来て偉いねぇ~。小さい頃のアイリスにそっくりだわ。」
「あたしが何?」

奥の部屋から姿を現したのは、先程出会った少女だった。彼女は木の桶を床に置き、私達の元へ歩み寄る。

「丁度良かった。この子はアスール。しばらくうちで預かる事になったから、面倒見てあげるんだよ?」
「あんた、ちっこくて可愛いなぁ~!うちはアイリス!よろしゅうね!」
「…よろしゅー?」
「妹が出来たみたいで嬉しいわぁ~。なぁ母ちゃん!うち、アスールと一緒に寝…」
「ちょっと姉ちゃん…!雑巾持って行かないで、どうす…」

奥の部屋から、またしても金髪の人物がやって来た。髪の長さから、男性である事が分かる。

「だ、誰…?」
「今日から、しばらくうちで暮らすアスールだよ。あんたも挨拶しな。」
「あ…えっと…アレリヴェです。よろしく…。」

彼は自分の名前を、ボソボソと呟いた。先程アイリスに話しかけた時と、まるで別人のようだった。

「あはは!アレリは、ほんま人見知りやねー。」
「わ、笑わないでよ…!雑巾置いてくから、ちゃんと掃除してよね!」
「あたしはアスールと上に行ってくるから、サボらないでくれよ?」
「はいはーい。行ってらっしゃーい。」

アリルに連れられ、部屋の奥にある階段を登っていく。すると、中央に大きなテーブルが置かれたリビングへやって来た。

「うちには、もう2人デカイのがいるんだけどねぇ。今は外にいるから、帰って来たら紹介するわ。」
「…大きい?」
「そーさ。ま、あたしと違って、横にじゃなくて縦にだけどね!ははは!」

彼女は、口を大きく開けて笑った。その様子をぼんやり眺めていると、彼女から少しずつ笑みが消え始める。

「あんた…あんまり笑わないんだねぇ。」
「…笑う?」
「ちょっとそこに座りな。茶でも飲みながら、あんたの話を聞かせておくれ。」
「…分かった。」
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