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第5章︰帰る場所
第49話
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私は自分が記憶喪失であり、感情を失ってしまった事をアリルに話した。彼女が用意したお茶は、ガルセク王子が入れた紅茶と違い、口いっぱいに渋みが広がる。
「なるほどねぇ…。記憶と感情が無い…か。って事は、家族も分からないって事かい?」
「…そう。」
「で?なんでうちのアウルムと知り合いなんだい?あの子は、城の中で働いてるはずだろ?」
「…おーじさまと一緒にシュゾン来た。」
「シュゾン?どこだいそりゃ…」
「母ちゃーん。ただいまー。」
聞き覚えのある声が聞こえて後ろを振り返ると、目線の先にアルトゥンが立っていた。
「って、えぇ!?何でアスールが居るん!?」
「…アルト?」
私がここに居る事に驚いているようだが、私は彼と全く同じ疑問が浮かんだ。
「あんた達知り合いかい?」
「え?な…へ?あ…え…っと…。」
アルトゥンは言葉に詰まり、意味の分からない言葉を繰り返す。すると、後ろから背の高い男性が姿を現した。彼もまた、当たり前のように金髪だ。
「何やってんだ?アルトゥン…こんな所に突っ立って。」
「おかえりあんた。この子、アウルムが連れて来たのよ。」
「はぁ!?何でアウルムが連れて来んねん!」
「しばらく、うちで預かってくれって言われてねぇ。アルトゥンがこの子と知り合いなら、父ちゃんに紹介しとくれ。あたしは店の準備をしないといけないからさ。」
「りょ、了解やで…。」
アリルは席を立ち、代わりに2人が近くの椅子に腰を下ろす。記憶の事や感情の事、私が騎士達と仕事を共にしていた事などをアルトゥンが代わりに語ってくれた。
「で、こっちが俺の父ちゃん。」
「アウレイドや。よろしくなアスール。」
「…初めまして。」
「はっはっは!こりゃ可愛い嬢ちゃんやな!」
彼はアルトゥンと同じ喋り方で、アリルのように笑ってみせた。
「せやかて父ちゃん。アスールは男が怖いんやから、むやみやたらと触らんでよ?」
「分かっとる分かっとる。大丈夫やって!」
「ほんまに分かっとるんかなぁ?心配やわ…。」
いつも着ている騎士の制服では無いせいか、こうして面と向かって彼を見るのは、なんだか不思議な気分だった。
「ん?何やアスール。俺の顔に何かついとる?」
「…最近見てない。」
「あー…そうやね。ヴァハトゥンで俺が問題起こしてしもうたから…。」
「全く…。騎士になっても、何も変わらへんなぁお前は…。」
「俺が悪いんや無いって!食べた料理が悪かったんよ!」
「結局は同じ事やないか!」
アウレイドは彼の頭に手を乗せ、髪をくしゃくしゃと掻き乱した。
「あー!せっかく結ったんにー!」
「汗かいたやろ?まずは風呂に入らんとな!」
「父ちゃん先入ってええで。俺はアスールに聞きたい事あるんや。」
「そうか?ほんなら先に入らせてもらうわ。」
席を立った彼は、部屋の奥へと姿を消した。
アルトゥンは後頭部に手を伸ばし、髪を束ねていた紐を解いた。彼の髪がまとまっていない姿は初めて目にする。
「なぁアスール。お前は何でアウルムに連れてこられたん?」
「…ついほーされた。」
「な…!追放!?も、もーちょい詳しく教えてくれへん!?」
私はタナー神国で起こった出来事について、順を追って説明した。
「そんな事があったんやね…。」
「…おーじさま、怒ってる。シュゾン帰れない。」
「そらそうや。俺みたいな謹慎と違って、追放はそう簡単に戻られへんよ。」
「…きいしん?」
「少しの間、休んでろって事や。」
「…だからここいる?」
「せやで。ここは俺ん家やからな。」
「…家。」
私の家は…家族はどこにいるのだろう。シュヴァリエメゾンを追い出されても、彼には帰る場所がある。私の帰る場所は、どこなのだろう。
「そうや!せっかくの機会やから、家族捜索でもしよか!明日、一緒に街へ行ってみようや。」
「おーい!アルトゥーン!次入れー!」
「はいはーい!ほんなら、ちょっと風呂入って来るわ。アスールはその辺でゆっくりしとって。」
「…分かった。」
部屋の奥へ歩いて行く彼とすれ違い、アウレイドがこちらへ戻って来た。
「話は出来たんか?」
「…した。」
「なんや嬢ちゃんも色々と訳ありみたいやけど、うちに居る間は、なーんも考えんでええ。とにかく食って、沢山寝りゃあ良い!」
「…分かった。」
「その服のままやと、落ち着かへんやろ。ちょっとこっち来てみぃ。」
歩き出す彼の後に続き、さらに上へ続く階段を登っていく。廊下に並ぶ部屋の扉を開け、中へと足を踏み入れた。
「ここは、アイリスとアレリヴェの部屋や。今日からアスールはここで寝るとええ。」
「…ベッド、2つしかない。」
「アレリヴェは、アルトゥンの部屋で寝ればええんよ。新しい布団は後で用意しといたるから、まずは着替えやな。」
すると彼は、クローゼットを開いてハンガーを掴み取り、数枚の服をベッドの上に広げ始めた。
「何やいっぱい持っとるやん。こん中から、好きなの選んで着たらええ。俺は先に下へ戻っとるから、着替え終わったら降りて来るんやで?」
「…分かった。」
部屋を出ていく彼を見送り、私は着替えを始める。騎士の制服を脱ぎながら、どれを着ようか悩んでいると階段を登る足音が聞こえ、後ろの扉が開かれた。
「…え?わぁ!?す、すみません…!」
部屋にやって来た彼は、開いた扉をすぐに閉じた。着替えを終えて部屋を出ると、廊下で立っているアレリヴェの姿がある。
「ま、まさか着替えているとは…思わなくて…ご、ごめんなさい!」
「…何で謝る?」
「それは…その…。」
彼は他の家族と違い、大人しくて物静かだった。顔立ちや体型も、あまり似ていない様な気がする。
「…アエイベも家族?」
「ぼ、僕の事ですか?もちろんそうですけど…。」
「…髪しか似てない。」
「あはは…よく言われます。」
彼は、頭を掻きながら静かに笑った。その顔は、どこかアルトゥンに似ている様な気がした。
「…笑う顔、同じ。」
「そ、そう…ですか?あんまり自覚は無いですけど…。」
「…ーい!…リヴェー!…うよー!」
下の方から、彼を呼ぶ女性の声が聞こえてくる。恐らくこれはアリルの声だろう。
「僕、あなたを呼んで来るように言われたんです…。一緒に、1階へ行きましょう。」
「…分かった。」
彼と共に階段を降りて行くと、料理が並んだテーブルを囲むように全員が席に着いていた。私も座るように言われ、空いていたアルトゥンの隣の椅子に腰を下ろす。
「あれ?その服…。」
「お前の服借りたでーアイリス。別に構へんやろ?」
「そら構へんけど…一言言ってくれてもええやん!可愛すぎてびっくりしたわぁ!」
「ほんま似合っとるよなぁ!なぁ?アルトゥン。」
アウレイドは、私の服について彼に問いかける。
「何で俺に振るんよ…そんなん聞かれても分からへんって。」
「じゃあお前はどうや?アレリヴェ。」
「ぼ、僕…!?ア、アル兄が分からないのに、僕が分かる訳ないじゃん…!」
アレリヴェが浮かべた表情は、アリルと話をしていた時のアウルムに似ていた。しかしそれは、当惑でも無く困惑とも違う…不思議な表情だ。
「せやでー父ちゃん。うちの男共は、女心っちゅうのが分からへんのよ。」
「アイリスも人の事言えへんやろ!」
「そんな事あらへんもん!うち目当てで、店に来てくれるお客さんも居るんやで!?」
「ほんまかー?母ちゃんの料理が、目当てで来た客の間違いちゃうの?」
「僕もそう思う…!」
「なんやてー!?もういっぺん言…」
「騒がしくすんじゃないよあんた達!黙ってさっさと飯を食いな!」
奥の部屋からやって来たアリルが、彼等に向かって声を荒らげる。すると彼等は一斉に口を閉じ、黙って食事をし始めた。
「騒がしくてすまないねぇアスール。ほら!これがあんたのご飯だよ!」
すると彼女は私の前に、山盛りの白米を置いた。
「…ご飯いっぱい。」
「これくらい食べないと、大きくなれないよ!」
「母ちゃん…さすがにこれは多すぎるで…。」
「そうかい?なら、多い分はあんたが食べてやりな!」
「しゃーないなぁ。そしたら…残った分は俺が食べたるから、アスールは気にせんで好きなだけ食べたらええで。」
「…分かった。」
彼女の料理はどれも美味しく、多いと思っていたご飯を全て平らげてしまった。
食事後にゆっくりする間もなく動き始める彼等に、私はとある疑問を投げかける。
「…皆忙しい?」
「せやね。これから店を開けないとやし…。」
「…店?」
「俺ん家、酒場をやっとるんよ。あ、酒場っちゅうんは…夜に食事を食べられる店の事や。」
「…今食事した。」
「詳しい話は上で話そうや。」
再びリビングへ戻って来ると、窓際に置かれたソファーに座るよう促され、彼と共に腰を下ろした。
「母ちゃんの料理、美味かったやろ?」
「…美味い。」
「せやろー?母ちゃんは料理上手なんよ。だから、街の人達を家に呼んで食事してもらうんや。」
「…アルト手伝いしない?」
「俺は手伝っても、邪魔になるだけなんよ…。料理が上手い訳や無…」
階段を登る足音が聞こえ、私達の元へアウルムがやって来た。
「ただいまッス~。アスー…」
「な、何でお前まで帰って来るんよ!」
「帰って来るのに、理由が必要なんッスか?ここ、俺ん家ッスよ?」
彼は近くの椅子を掴み、私達の前に腰を下ろした。いつも来ている黒い服ではなく、鮮やかな橙色の服を身に纏っている。
「あれだけガルセク王子にこき使われてたら、仕事抜けるんは大変やったやろ?…無理せんでも良かったのに。」
「まぁ、抜け出すのはそれなりに大変だったッスね。でも、アスールの事が気になったんで…早めに切り上げて来たッス。」
「わざわざそこまでせんでも、俺が居るのは分かっとったやろ!?」
「アルトゥンが居ても居なくても、関係ないッスよ。俺がアスールに会いたかったんッスから。ところで…その服はどうしたんッスか?」
「…アイリスの服や。ずっと制服着とる訳にはいかんへんやろ?」
「あぁ~!どおりで見た事あると思ったッス。可愛いッスね。」
アウルムは私に向かって、可愛いという言葉を口にした。先程アイリスも同じ事を言っていたが、どういう意味かはよく分からない。
「…可愛い?」
「まぁ…要するに、似合ってるって事ッス。」
「もう十分やろ!アスールは疲れとるんやから、風呂入ってはよ寝んと!」
「そうッスね…今日は色々あったッスから、ゆっくり休んで欲しいッス。」
「アスール!風呂場はこっちやで!」
ソファーから立ち上がり、部屋の奥へ向かうアルトゥンの後ろを追いかける。その時、背筋が凍るような視線を感じて後ろを振り返った。
こちらを見ていたアウルムと目が合うと、彼は目を細めて笑みを浮かべる。先程感じた冷たい視線が、嘘のような温かい笑顔だった。
「なるほどねぇ…。記憶と感情が無い…か。って事は、家族も分からないって事かい?」
「…そう。」
「で?なんでうちのアウルムと知り合いなんだい?あの子は、城の中で働いてるはずだろ?」
「…おーじさまと一緒にシュゾン来た。」
「シュゾン?どこだいそりゃ…」
「母ちゃーん。ただいまー。」
聞き覚えのある声が聞こえて後ろを振り返ると、目線の先にアルトゥンが立っていた。
「って、えぇ!?何でアスールが居るん!?」
「…アルト?」
私がここに居る事に驚いているようだが、私は彼と全く同じ疑問が浮かんだ。
「あんた達知り合いかい?」
「え?な…へ?あ…え…っと…。」
アルトゥンは言葉に詰まり、意味の分からない言葉を繰り返す。すると、後ろから背の高い男性が姿を現した。彼もまた、当たり前のように金髪だ。
「何やってんだ?アルトゥン…こんな所に突っ立って。」
「おかえりあんた。この子、アウルムが連れて来たのよ。」
「はぁ!?何でアウルムが連れて来んねん!」
「しばらく、うちで預かってくれって言われてねぇ。アルトゥンがこの子と知り合いなら、父ちゃんに紹介しとくれ。あたしは店の準備をしないといけないからさ。」
「りょ、了解やで…。」
アリルは席を立ち、代わりに2人が近くの椅子に腰を下ろす。記憶の事や感情の事、私が騎士達と仕事を共にしていた事などをアルトゥンが代わりに語ってくれた。
「で、こっちが俺の父ちゃん。」
「アウレイドや。よろしくなアスール。」
「…初めまして。」
「はっはっは!こりゃ可愛い嬢ちゃんやな!」
彼はアルトゥンと同じ喋り方で、アリルのように笑ってみせた。
「せやかて父ちゃん。アスールは男が怖いんやから、むやみやたらと触らんでよ?」
「分かっとる分かっとる。大丈夫やって!」
「ほんまに分かっとるんかなぁ?心配やわ…。」
いつも着ている騎士の制服では無いせいか、こうして面と向かって彼を見るのは、なんだか不思議な気分だった。
「ん?何やアスール。俺の顔に何かついとる?」
「…最近見てない。」
「あー…そうやね。ヴァハトゥンで俺が問題起こしてしもうたから…。」
「全く…。騎士になっても、何も変わらへんなぁお前は…。」
「俺が悪いんや無いって!食べた料理が悪かったんよ!」
「結局は同じ事やないか!」
アウレイドは彼の頭に手を乗せ、髪をくしゃくしゃと掻き乱した。
「あー!せっかく結ったんにー!」
「汗かいたやろ?まずは風呂に入らんとな!」
「父ちゃん先入ってええで。俺はアスールに聞きたい事あるんや。」
「そうか?ほんなら先に入らせてもらうわ。」
席を立った彼は、部屋の奥へと姿を消した。
アルトゥンは後頭部に手を伸ばし、髪を束ねていた紐を解いた。彼の髪がまとまっていない姿は初めて目にする。
「なぁアスール。お前は何でアウルムに連れてこられたん?」
「…ついほーされた。」
「な…!追放!?も、もーちょい詳しく教えてくれへん!?」
私はタナー神国で起こった出来事について、順を追って説明した。
「そんな事があったんやね…。」
「…おーじさま、怒ってる。シュゾン帰れない。」
「そらそうや。俺みたいな謹慎と違って、追放はそう簡単に戻られへんよ。」
「…きいしん?」
「少しの間、休んでろって事や。」
「…だからここいる?」
「せやで。ここは俺ん家やからな。」
「…家。」
私の家は…家族はどこにいるのだろう。シュヴァリエメゾンを追い出されても、彼には帰る場所がある。私の帰る場所は、どこなのだろう。
「そうや!せっかくの機会やから、家族捜索でもしよか!明日、一緒に街へ行ってみようや。」
「おーい!アルトゥーン!次入れー!」
「はいはーい!ほんなら、ちょっと風呂入って来るわ。アスールはその辺でゆっくりしとって。」
「…分かった。」
部屋の奥へ歩いて行く彼とすれ違い、アウレイドがこちらへ戻って来た。
「話は出来たんか?」
「…した。」
「なんや嬢ちゃんも色々と訳ありみたいやけど、うちに居る間は、なーんも考えんでええ。とにかく食って、沢山寝りゃあ良い!」
「…分かった。」
「その服のままやと、落ち着かへんやろ。ちょっとこっち来てみぃ。」
歩き出す彼の後に続き、さらに上へ続く階段を登っていく。廊下に並ぶ部屋の扉を開け、中へと足を踏み入れた。
「ここは、アイリスとアレリヴェの部屋や。今日からアスールはここで寝るとええ。」
「…ベッド、2つしかない。」
「アレリヴェは、アルトゥンの部屋で寝ればええんよ。新しい布団は後で用意しといたるから、まずは着替えやな。」
すると彼は、クローゼットを開いてハンガーを掴み取り、数枚の服をベッドの上に広げ始めた。
「何やいっぱい持っとるやん。こん中から、好きなの選んで着たらええ。俺は先に下へ戻っとるから、着替え終わったら降りて来るんやで?」
「…分かった。」
部屋を出ていく彼を見送り、私は着替えを始める。騎士の制服を脱ぎながら、どれを着ようか悩んでいると階段を登る足音が聞こえ、後ろの扉が開かれた。
「…え?わぁ!?す、すみません…!」
部屋にやって来た彼は、開いた扉をすぐに閉じた。着替えを終えて部屋を出ると、廊下で立っているアレリヴェの姿がある。
「ま、まさか着替えているとは…思わなくて…ご、ごめんなさい!」
「…何で謝る?」
「それは…その…。」
彼は他の家族と違い、大人しくて物静かだった。顔立ちや体型も、あまり似ていない様な気がする。
「…アエイベも家族?」
「ぼ、僕の事ですか?もちろんそうですけど…。」
「…髪しか似てない。」
「あはは…よく言われます。」
彼は、頭を掻きながら静かに笑った。その顔は、どこかアルトゥンに似ている様な気がした。
「…笑う顔、同じ。」
「そ、そう…ですか?あんまり自覚は無いですけど…。」
「…ーい!…リヴェー!…うよー!」
下の方から、彼を呼ぶ女性の声が聞こえてくる。恐らくこれはアリルの声だろう。
「僕、あなたを呼んで来るように言われたんです…。一緒に、1階へ行きましょう。」
「…分かった。」
彼と共に階段を降りて行くと、料理が並んだテーブルを囲むように全員が席に着いていた。私も座るように言われ、空いていたアルトゥンの隣の椅子に腰を下ろす。
「あれ?その服…。」
「お前の服借りたでーアイリス。別に構へんやろ?」
「そら構へんけど…一言言ってくれてもええやん!可愛すぎてびっくりしたわぁ!」
「ほんま似合っとるよなぁ!なぁ?アルトゥン。」
アウレイドは、私の服について彼に問いかける。
「何で俺に振るんよ…そんなん聞かれても分からへんって。」
「じゃあお前はどうや?アレリヴェ。」
「ぼ、僕…!?ア、アル兄が分からないのに、僕が分かる訳ないじゃん…!」
アレリヴェが浮かべた表情は、アリルと話をしていた時のアウルムに似ていた。しかしそれは、当惑でも無く困惑とも違う…不思議な表情だ。
「せやでー父ちゃん。うちの男共は、女心っちゅうのが分からへんのよ。」
「アイリスも人の事言えへんやろ!」
「そんな事あらへんもん!うち目当てで、店に来てくれるお客さんも居るんやで!?」
「ほんまかー?母ちゃんの料理が、目当てで来た客の間違いちゃうの?」
「僕もそう思う…!」
「なんやてー!?もういっぺん言…」
「騒がしくすんじゃないよあんた達!黙ってさっさと飯を食いな!」
奥の部屋からやって来たアリルが、彼等に向かって声を荒らげる。すると彼等は一斉に口を閉じ、黙って食事をし始めた。
「騒がしくてすまないねぇアスール。ほら!これがあんたのご飯だよ!」
すると彼女は私の前に、山盛りの白米を置いた。
「…ご飯いっぱい。」
「これくらい食べないと、大きくなれないよ!」
「母ちゃん…さすがにこれは多すぎるで…。」
「そうかい?なら、多い分はあんたが食べてやりな!」
「しゃーないなぁ。そしたら…残った分は俺が食べたるから、アスールは気にせんで好きなだけ食べたらええで。」
「…分かった。」
彼女の料理はどれも美味しく、多いと思っていたご飯を全て平らげてしまった。
食事後にゆっくりする間もなく動き始める彼等に、私はとある疑問を投げかける。
「…皆忙しい?」
「せやね。これから店を開けないとやし…。」
「…店?」
「俺ん家、酒場をやっとるんよ。あ、酒場っちゅうんは…夜に食事を食べられる店の事や。」
「…今食事した。」
「詳しい話は上で話そうや。」
再びリビングへ戻って来ると、窓際に置かれたソファーに座るよう促され、彼と共に腰を下ろした。
「母ちゃんの料理、美味かったやろ?」
「…美味い。」
「せやろー?母ちゃんは料理上手なんよ。だから、街の人達を家に呼んで食事してもらうんや。」
「…アルト手伝いしない?」
「俺は手伝っても、邪魔になるだけなんよ…。料理が上手い訳や無…」
階段を登る足音が聞こえ、私達の元へアウルムがやって来た。
「ただいまッス~。アスー…」
「な、何でお前まで帰って来るんよ!」
「帰って来るのに、理由が必要なんッスか?ここ、俺ん家ッスよ?」
彼は近くの椅子を掴み、私達の前に腰を下ろした。いつも来ている黒い服ではなく、鮮やかな橙色の服を身に纏っている。
「あれだけガルセク王子にこき使われてたら、仕事抜けるんは大変やったやろ?…無理せんでも良かったのに。」
「まぁ、抜け出すのはそれなりに大変だったッスね。でも、アスールの事が気になったんで…早めに切り上げて来たッス。」
「わざわざそこまでせんでも、俺が居るのは分かっとったやろ!?」
「アルトゥンが居ても居なくても、関係ないッスよ。俺がアスールに会いたかったんッスから。ところで…その服はどうしたんッスか?」
「…アイリスの服や。ずっと制服着とる訳にはいかんへんやろ?」
「あぁ~!どおりで見た事あると思ったッス。可愛いッスね。」
アウルムは私に向かって、可愛いという言葉を口にした。先程アイリスも同じ事を言っていたが、どういう意味かはよく分からない。
「…可愛い?」
「まぁ…要するに、似合ってるって事ッス。」
「もう十分やろ!アスールは疲れとるんやから、風呂入ってはよ寝んと!」
「そうッスね…今日は色々あったッスから、ゆっくり休んで欲しいッス。」
「アスール!風呂場はこっちやで!」
ソファーから立ち上がり、部屋の奥へ向かうアルトゥンの後ろを追いかける。その時、背筋が凍るような視線を感じて後ろを振り返った。
こちらを見ていたアウルムと目が合うと、彼は目を細めて笑みを浮かべる。先程感じた冷たい視線が、嘘のような温かい笑顔だった。
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