青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第5章︰帰る場所

第50話

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翌日。私はアルトゥンと共に家を出て、街中へと歩き出した。

「…で?何でお前まで着いて来るんや!」

私の家族を探す為、街へ行こうと約束していたが…まさかアウルムまで着いて来るとは思ってもみなかった。

「別に良いじゃないッスか。たまたま休みなんッスから。」
「ほんまに、たまたまなんか?仕事サボって、クビになっても知らへんからな。」
「…首?」

私は自分の首元に手を当て、首を傾げる。

「それも首ッスけど、そっちの首とは違うんッスよ。任されてる仕事を辞めさせられる事ッス。」
「…ついほーと同じ?」
「まぁ…似た様なもんッスかね。」
「ほんまに休みなんやろうな…。」
「もしかして、心配してくれてるんッスか?」
「な…!んな訳あらへんやろ!クビでも追放でもされたらええんよ!」

通りを歩くアルトゥンの歩幅が大きくなり、どんどん距離が離れていく。私は彼を追いかけようと、その場から駆け出した。

「アスール…!そんな急いで歩いたら、危な…」

後ろからアウルムの声が聞こえたかと思ったら、横からやって来た女性と身体をぶつけ合った。

「ちょっと!どこ見て歩いてんのよ!」

地面に倒れ込んだ私の元へ彼が駆け寄り、背中にそっと手を添えた。

「ごめんなさいッスお姉さん。俺が目を離したのが悪かったッス。」
「お、お姉さん?あたし…そんな歳じゃないわよ…。」
「そうなんッスか?肌が綺麗だから、てっきり20代かと思ったッス。」
「やだもー!あなた、褒めるのが上手いのね。ごめんなさいお嬢ちゃん…。よく前を見てなかった、あたしも悪かったわ。」
「…へーき。」

彼女が差し出した手を握り、私はその場に立ち上がる。謝罪の言葉を口にした女性は、私達の元を去って行った。

「優しいお姉さんで良かったッスね。」
「…ありがとう。」
「アスール…!大丈夫やった!?」

前を歩いていたアルトゥンが私の異変に気付き、駆け足でこちらに戻って来た。

「心配なら、ちゃんと見てないとダメじゃないッスか。」
「ぅぐ…。」

彼は表情を歪めながら、唇を噛み締める。その顔は、嫌悪の感情が読み取れる表情をしていた。

「で?一体どこへ向かってるんッスか?」
「前に、ヴィーズが聞き込みしとった家や。海の近くに住んどって、変わった船を見かけたんやって。」
「船?それがアスールの家族と、どう繋がるんッスか?」
「そんなの知らへんよ。けど、他にも何か知っとるかもやし、話を聞きに行こうかと思っただけや。」
「…話聞きたい。」
「なら、まずはそこからッスね。」

私達は再び歩き出したアルトゥンを追いかけ、海の方向へ向かった。
ヴィーズが知らない間に聞き込みをしていた事に私は驚いたが、訪れた家で耳にした話に彼等は衝撃を受けていた。

「丸木舟って…今の時代に存在するんッスね…。」
「…今無い?」
「全く無いとは言いきれないッスけど、今どきの船と言ったら、組木船が主流ッスからね。」
「それはビエントでの話やろ?ヴァハトゥンやと、植物のツタで編んだ船とか…泥舟なんかもあるやん。」
「って事は、その丸木舟もヴァハトゥンから流れて来たんッスかね?とはいえ…それがアスールとどう繋が…」
「…ル。」

波の音と共に、どこからか女性の声が聞こえた。微かだが、私の名前を呼んでいる。
彼女の声が聞こえる方へ、ゆっくり足を踏み出す。押し寄せる波が、私の足元に打ち付ける。

「…お母…さ…。」
「アスール!」

突然腕を捕まれ、恐怖を感じた私は強く目を閉じた。

「嫌ぁ!!!」
「うわぁぁぁー!」
「アウルム!」

アウルムの叫び声と彼の名前を呼ぶアルトゥンの声を最後に、私の意識は遠退いていった。



「お、お呼びですか...?お兄...様...。」
「テメェ...来るのがおせーんだよぉ!さっさとこっち来い!」
「は、はい...!」

彼の元へ歩み寄ろうと、私は足を踏み出した。すると何かが足にぶつかり、バランスを崩した私は床に倒れ込む。

「きゃははー!何も無い所で転んでやんのー!」
「おいセアル!今のはテメェが足掛けやがったからだろ!邪魔すんじゃねーよ!」
「はー?別にあんただけの玩具じゃないでしょー?少しくらい、うちにも遊ばせてよー。」
「オレがわざわざ呼んでやったんだよぉ!テメェは引っ込んでろ!」
「ひゃー。ピリピリしちゃって怖ーい。」

セアルは腰まで伸びる長い髪を揺らしながら、扉の方へ向かって歩き出した。その途中で、何の躊躇いも無く私の手を踏みつける。

「痛っ...!」
「あ、ごっめーん。あまりにも薄汚くて、床と見間違えちゃったー。」

彼女は私の側にしゃがみ込み、私の口元にそっと手を添える。切れて腫れ上がった唇の端を指でなぞりながら、彼女は不敵な笑みを浮かべた。

「今日は気絶しないといーね。きゃははー!」

高らかな笑い声が部屋に響き渡り、背筋が凍る様な鋭い視線が背中に突き刺さる。恐る恐る後ろを振り返ると、離れた場所に座っている青年の鋭い眼光が、私を睨みつけていた。
彼はその場に立ち上がり、私の元へじわじわと歩み寄る。

「いつまでそこで座ってる気だぁ!」

彼の足が、私の脇腹に叩きつけられる。再び床に倒れ込み、身体全体に痛みが走った。

「ゔっ...!」
「ただでさえイライラしてんのに、セアルの奴に好き放題されてんじゃねーぞ!」
「ごめん...なさ...」

胸元の服を掴まれ、首が締め付けられる。

「テメェはオレの所有物だって言ったよなぁ?物は物らしく、黙って殴られてりゃ良いんだよぉ!」

彼は拳を握りしめ、私に向かって腕を振りあげる。私は強く目をつぶり、次々と襲いかかる痛みにひたすら耐え続けた。
地獄のようなこの日々から、早く開放されたいと切に願いながら...。



瞼を開くと、白い天井が視界に広がった。柔らかい布の上に手を付き、ゆっくりと身体を起こす。
白い壁に白い床、足元には白いテーブルが置かれている。全てが白に包まれた不思議な部屋で目覚めた私は、窓の外に視線を向けた。
ここはシュヴァリエメゾンでもなければ、アルトゥン達の家でもない。もしかすると、空の上の世界かもしれないと思ったが、視線の先に歩く人の姿を見つけ、その考えは一瞬のうちに崩れ去った。

「あ、お目覚めになりましたか?」

部屋の扉が開き、見知らぬ女性がやって来た。彼女もまた白い服に身を包んでいる。頭に乗った白い帽子が、どこかアリルに似ているなと思っていると、彼女の後ろから見慣れた金髪の青年が姿を現した。

「アスール!いつの間に起きたんや...!もう身体は大丈夫なんか?」
「先生を呼んで来ますので、少々お待ち下さい。」
「あ...はい。お願いします。」

それからしばらくして、部屋へやって来た男性の話を聞き、私はアイリスに借りていた服に着替えた。

「ただの魔力切れで良かったわぁ...。溺れたかと思ってヒヤヒヤしとったんよ。」
「...溺れた?」
「覚えてへんか?俺とアウルムが話しとったら、急にアスールが海の方へ歩いて行くから、あいつが腕掴んで引き止めたんよ。そしたらアスールが全身からビリビリー!って電気を放って...2人共一緒に気を失ってしもうたんよ。」
「...全身ビリビリ...?」
「あれは光魔法の一種やね。前に、フォンミィで食い逃げした男が居ったやろ?あいつも使っとったのを覚えとらんか?」
「...覚えてる。」

彼の場合、身体の一部を擦って手から電気を放っていたが、私にも同じ様な事が出来るとは知らなかった。

「難しくて俺には出来ひん芸当やけど、アスールには魔法の才能があるんやろね。」
「...アウムは?」
「あいつは...まだ寝とる。一緒に見に行こか?」
「...行く。」

私達は部屋を出ると、白い廊下を歩いてアウルムの元へ向かった。彼が寝ている部屋も、私と同じ白に囲まれた奇妙な空間だった。

「...真っ白。」
「病院はそういう所なんよ。アスールも来た事あったやろ?あ...でもあん時は、気絶しとったんやっけ?」
「...覚えてない。」
「なぁアスール。海の方へ歩いてったんは、何か気になる物があったからやろ?一体何があったん?」

私は近くの椅子に座り、海の向こうから私の名前を呼ぶ女性の声が聞こえた事を彼に話した。

「名前を呼ぶ女性か...。聞き覚えはあるん?」
「...分からない。」
「住民が見た丸木舟と言い...女性の声と言い...アスールは海の向こうから流れて来た可能性が高そうやな...。」
「...あの向こう、何ある?」
「地図を見てみんと分からんなぁ。沖には潮の流れっちゅうもんがあるし、真っ直ぐ辿り着くとは限ら...」
「ん...?あれ?」

話をしていると、ベッドに横たわるアウルムがゆっくりと瞼を開いた。

「あ...目、覚めたんやね。」
「アルトゥン...?ここは...。」
「ここは病院や。アスール掴んで気絶したんよ。」
「...ごめんなさい。」

私は彼に向かって、頭を下げながら謝罪の言葉を口にした。

「何でアスールが謝るんッスか。俺が急に腕を掴んだのが悪いんッスよ。お互い、大した事無くて良かったッス。」
「じゃあ...俺、先生呼んで来るわ。ちょっと待っとって。」

アルトゥンはその場から逃げるように駆け出し、部屋を出て行った。静かになった部屋の中で、アウルムがポツリと言葉を呟く。

「また...助けられちゃったッスね。」
「...また?」
「子供の頃、俺が川で溺れた事があるんッスよ。その時も、アルトゥンが病院まで連れて来てくれて...。後でちゃんと、お礼を言わないとッスね。」

温かい部屋で寝ていたからだろうか?扉の方を眺める彼の頬が、ほんのり赤く染まっていた様な気がした。
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