青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第6章︰家族

第64話

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目的の宿屋へ辿り着き、私達は荷物を置いてベッドや椅子に腰を下ろした。役所へ行っていたグリとアルトゥンが合流したのは、外が暗くなり始めた頃の事だった。

「2人共おかえりー。随分遅かったけど...やっぱり大変だったー?」
「時間がかかったのは役所ではなく、変じ...あ、いえ…。祈祷師と名乗る男に、呼び止められたんです。」
「祈祷師って...霊とかを除霊する人の事だよねー?その人が、グリくん達に何の用で?」
「実はこの辺で、夜な夜な徘徊する霊の姿が目撃されてるらしいんです。んで...周りの住民からどうにかしてくれへんかって、その祈祷師に要望が来てるそうで...。」
「ま、まさかとは思うけど、それを僕達に手伝えって言ってるんじゃ...。」
「そのまさかだ。丁度役所に居た所を見られて、俺達ならと思ったらしい。」
「ぼ、僕は無理だよ!?霊とかそう言う類のものは、専門外だから!」

お化けや霊が苦手なローゼは、手と顔を大きく振りながら、身振り手振りで拒絶を示した。

「そんなん言うたら、俺等だって同じやと思うけど...。」
「ローゼはともかく、パニ様とアスールはここで待っていて下さい。これから祈祷師の所に行って、墓地の調査へ向かいます。」
「...私も行く。」「僕は行かない!」

共に調査へ向かいたい私と、絶対に向かいたく無いローゼの真逆の言葉が重なり合う。

「アスール。お前は行った所で、何も出来ないだろ。ローゼ。てめぇは来い。」
「来いって何!?行かないって言ってるのに!」
「うるせぇなぁ。ごちゃごちゃ言ってねぇで着いてくりゃあ良いんだよ。」
「嫌だってば!絶対に行かないからね!」

2人の口論を見兼ねたパニが、彼等の側へゆっくり歩み寄る。

「ねぇグリくん。苦手な事を強要するのは良くないよ。ローゼくんにはここに残ってもらって、アスールちゃんとボクが代わりに行くのはどうかなー?」
「え?いや...でも...。」
「ボク達は、光魔法で道を照らすくらいは出来るし...霊は光に弱いって聞くでしょ?そこそこ役に立てると思うんだけどなぁ。」
「役立たずだと言いたい訳ではなく...これは、俺とアルトゥンが引き受けた厄介事です。それにパニ様を巻き込みたくないんです。」
「それを言うなら、ボクだってガルセク様のお使いに皆を巻き込んでるんだよ?せっかく一緒に来たんだから、ボクにも何か手伝わせて欲しいなー。」
「...分かりました。パニ様がそこまで言って下さるなら...そうしましょう。」
「アルトゥンくんもそれで良い?」
「俺は構いませんけど...それやったら、ローゼが1人で留守番する事になるんよね?」
「えっ...?」
「確かにそうだな。この辺りで霊が徘徊するなら、宿屋に現れる可能性...」
「ぼ、僕も行くよ!パニ様が行くのに、僕だけ待つなんて出来ない...でしょ?」

こうして、祈祷師とやらの頼みで近くにある墓地を調査する事になった。



「ね、ねぇ...。街で見かける霊を、何で墓地まで探しに来る必要があるの...?」

隣を歩くローゼは私の手を握りながら、後から着いてくるグリに疑問を投げかける。

「祈祷師の話では、霊の発生源はここしか有り得ないって言ってた。...そいつの話が嘘じゃ無ければな。」

街の外なので周囲に建物の明かりや街灯は無く、足元がかなり見えづらい。前方を歩くパニとアルトゥンが、魔法の力で周囲を照らしながら慎重に奥へ進んで行く。
細長い石が規則正しく並べられているこの場所を、人々は墓地と呼ぶらしい。

「う、嘘だったら無駄足じゃん...!」
「けど...嘘つく必要はあらへんやろ?いつまでも解決せーへんかったら、困るのは俺等やなくて祈祷師の方なんやから。」
「で...その祈祷師くんは、先に来てるんだよね?今の所、姿が見えないけ...」
「墓地に集いしナイトさん!ミーをお探しですか!?」
「うわぁぁぁー!?」

後方から男性の声が聞こえ、ローゼは叫びながら私の背後に身を隠した。私達の元へやって来たのは、白いローブに身を包んだ1人の青年だった。

「驚かせてしまってソーリー!ユー達が、ナイトのチームですか?」
「...ソーリー?」
「おやおや?ユーのような、キッズが居るとは思わなかったですね!ユーもナイトなのですか?」
「...ナイト?」

彼の言葉は独特で、話の内容が全く頭に入って来ない。騎士達もどう返事を返すべきか分からず、困惑した表情を浮かべていた。

「彼女は騎士じゃないよ?でも、ボク達と一緒にここを調査しに来たんだー。彼女の魔法は頼りになるから、心配要らないよ。」
「オーケーオーケー!それじゃあ、一緒にゴーストバスターしちゃいましょう!」
「パニ様...この人の言葉、分かるんですか?」
「ヴァハトゥンに似たような言語で喋る人達が居たから、何となく分かるよ。」
「俺もグリも役所で会った時は、言葉がさっぱり分からんくて困っとったんですよー。パニ様が来て下さって、ほんまに助かりましたわ!」
「ミーのネームはトム。よろしくでーす!」
「よ、よう分からへんけど...よろしゅうな!」
「この人...本当に祈祷師なのかな...?」

トムと名乗る青年と共に、私達は墓地の敷地内を歩き回る事にした。

「ねぇトムさん。霊が出るようになったのは、どのくらい前からなの?」
「ツーウィーク...くらいでしょうか?」
「...ツーイーク?」
「2週間前だってー。」
「随分前だな...。それまでずっと放っておいたのか?」
「ミーに話が来たのは、イエスタデイなのでーす。」
「イエス…タデイ...?」
「昨日聞いたばっかりって事だねー。じゃあ...ここへ調査に来たのは、今日が初めて?」
「イエス!ですが、この墓地がゴーストの発生源である事はミーがつきとめました!」
「じゃあ、実際に霊が居るのを見た訳じゃないんだねー。」

強ばっていたローゼの表情が、ほんの少し緩んだ様に見えた。かすかに感じていた手の震えも無くなったように感じる。

「おい。何でホッとしてんだよ。霊を見つけない事には、どうしようもねぇだろうが。」
「トムさんは、霊の姿が見えるんですよね?」
「ノー!見えませーん!」
「え?」

彼の一言に、前を歩いていたアルトゥンとパニが歩みを止めた。

「う、嘘やろ!?そしたら、どうやって調査したらええんよ!」
「それじゃあ…どうしてここが霊の発生源だって分かったの?」
「ゴーストのハウスと言えば、墓地!そうに決まってまーす!」

私達の歩みは完全に止まり、沈黙が流れる。

「なぁ…今、俺達が歩いてた意味ってあったのか?」
「意味…無いかも…?」
「ノーノー!意味ありまーす!ミーは、ゴーストを見る事は出来ないですが…ボディに宿す事が出来るのでーす。」
「身体に宿すって…霊に取り憑かれるって事…?」
「おいおい。あんたが取り憑かれちまったら、誰が除霊するんだ?」
「ユー達です!」

トムは前方を歩くアルトゥンとパニの方を指さし、得意げな表情を浮かべた。どうやら彼等に、やって欲しい事があるらしい。

「お、俺とパニ様?でも俺…除霊なんて、した事あらへんよ?」
「やり方は、とってもイージーです!霊を宿したミーに、強い光を浴びせて下さーい。そうする事でゴーストをバスター出来まーす!」
「なるほど…!トムさんが身体の中に霊を吸収して、ボク達が浄化すれば良いんだね。」
「イエス!こうして墓地をウォークしていれば、いずれゴーストの方から来てくれるでしょう。」
「そういう事なら、もう少し歩く必要がありそうだな。」
「えぇー!まだ歩くの!?」
「仕方ねぇだろ。どう見てもこいつに霊が宿ってるとは思えねぇからな。」

彼等はトムの話を理解しているようだが、私にはどうしたらいいか分からなかった。

「トムさんトムさん。霊ってやっぱり、夜じゃないと姿を現さないものなの?」
「オフコース!ゴーストは光に弱いですから、日没から日の出までの時間しか現れませーん。」
「となると…霊が見つかるまで、この辺を歩き回らなあかんって事?」
「俺等は構わねぇけど、こいつに徹夜はキツイだろ。」

グリの発言で、彼等の視線が私に集まる。

「…徹夜?」
「夜になっても寝ないで、朝まで起きてるって事。子供のアスールには大変だろうって、みんなが心配してるんだ。」
「…徹夜、へーき。」
「流石に無理はさせられないよー。ボクとローゼくんでここに残るから、アルトゥンくんとグリくんは先に宿屋に戻ってて。」
「え、でもパニ様…。」
「さっきは、2人が率先して役所に運んでくれたでしょ?だから、ここから先はボク達に任せて。」
「…だとよローゼ。てめぇは良いのか?」
「よ、良くは無いけど…。パニ様1人に任せる訳にもいかないし…。」

するとパニはローゼの手を握り、胸の辺りへ持ち上げた。

「ずっと一緒に居るから大丈夫!ね?ローゼくん。」
「え?あ…は、はい…。」
「むしろ、俺等は邪魔になりそうやね…。」
「では、よろしくお願いします。…アスール。お前も帰るぞ。」
「…分かった。」



宿屋へ戻って来た私達は普段着に着替え、1階にある食堂で食事をする事にした。受付の女性に料理を頼むと、しばらくしてテーブルの上に人数分の料理が並べられた。

「ん?餃子なんて、メニューにあったか?」
「…さっきパニが買った。アルトとグイにお礼って。」
「え、そうなん?餃子なんて久しぶりや~!あ、アスールは食べるの初めてなんちゃう?」
「…初めて。」
「熱いだろうから、気を付けて食べろよ?」
「…分かった。」

フォークを使って餃子を口に運ぶと、中から肉の油が溢れ出した。シャキシャキとした野菜の食感と、モチモチとした食感が口の中に広がる。

「どや?美味しいか?」
「…美味しい。」
「その割には反応薄くねぇか?」
「そうかぁ…?いつもこんなもんやと思うけどなぁ。」
「…グイのご飯の方が美味しい。」
「は…?」

驚いた表情を浮かべ、彼の食事の手が止まった。聞こえなかったのだろうと思い、私は再び口を開く。

「…グイのごは…」
「聞こえなかったんじゃねぇよ!…冗談かと思っただけだ。」
「ほんまか?実は照れ…」
「てめぇは黙って飯を食え。」
「別にええやん!褒められたら、嬉しいに決まっとるもんなぁ?」
「うるせぇ!そんなんじゃねぇよ…!」

グリはその場から立ち上がり、手に持ったフォークをテーブルに叩きつけるように置いた。

「え?もう食べへんの?」
「パニ様の所へ行ってくる。向こうは何も食べてねぇだろ?適当にその辺で買って届けてくるから、お前等は先に寝てろ。」

彼は食事を途中で切り上げ、足早に私達の元を去って行ってしまった。
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