青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第6章︰家族

第66話

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「な、何やあれ…。」

不思議な音に導かれ、私とアルトゥンは墓地の敷地外へやって来た。そこで目にしたのは、複数の住人達に囲まれるトムの姿だった。

ーキュキュー…キュィーン…

彼の手には細長い棒が握られていて、肩に乗せた茶色の道具に棒を擦り付けている。どうやらあの道具から、不思議な音が出ているようだ。

「そうか…!あれはヴァイオリンの音やったんやな!どっかで聞いた事あると思った訳や。」
「…アイオリン?」
「中央の弦を擦ると音が出る楽器や。音出すんは難しいって聞いた事あるけど…トムさんに、あんな特技があったとは知らんかったわぁ…。」
「…トム凄い。」
「って…感心しとる場合や無いな!はよ連れ戻して、墓地の調査をせんと!」

彼は周囲の住人をかき分け、トムの元へ歩み寄って行く。

「トムさん!急に居なくならんどいて下さい。俺等、心配し…」

アルトゥンは腕を伸ばし、彼の肩に手を触れる。すると、近くに立っていた住人達が次々と手を伸ばし、トムから彼を引き剥がしてしまう。

「ちょ…何すんねん!俺はこの人を連れ戻しに来ただけやで!」
「ぉぉぉ…ぁぁぁ…。」
「な、何や…?今、何て…ぉわあ!?」

迫り来る住人達の圧力に負け、アルトゥンが地面に倒れ込む。そんな彼には気にも留めず、トムは再び楽器を構えた。
音色が周囲に響き渡り、地面の土から人の形をした生き物が次々と姿を現す。その数は住人達の数倍にも及び、私達の周りをあっという間に取り囲んだ。

「アスール!俺は大丈夫やから、来た道戻ってローゼ達と合流するんや!」
「…分かった。」

地面で身動きが取れずにいるアルトゥンの声がけで、私はその場から走り出した。
パニの教えを思い出し、指先に魔力が流れるのを思い浮かべる。しかし、指先どころか手を光らせる事も出来なかった。

「…っ!」

暗闇のせいで、足元に転がっていた石に気が付かず、勢いよく地面に倒れ込む。後ろから迫り来る人影が、月明かりを反射して輝く剣のような武器を振り上げた。

「やめろ!」

剣と剣ががぶつかり合うような、甲高い音が頭上で響く。私の前に姿を現したのは、ビエントに帰ったはずのグリだった。

「…おかえり。」
「呑気に挨拶してる場合か!さっさと立て!」

地面に両手を着き、その場に立ち上がる。その瞬間、足首に激痛が走り、再びその場に座り込んだ。

「大丈夫か!?」
「…怪我した。」
「仕方ねぇ…危ないから暴れんなよ?」

すると彼は私の前にしゃがみ込み、私の身体を引き寄せた。肩の上に担がれ、彼はその場から走り出す。
しばらく走った先で再び彼はしゃがみ込み、墓地の広場に置かれた長椅子へ私を座らせた。

「あいつ等一体何だったんだ?何でお前を追いかけてた?」
「…土の中から出てきた。アルトが、ロゼの所行けって。」
「つ、土ぃ!?…お前、寝ぼけてる訳じゃねぇだろうな?」
「…寝てない。起きてる。」
「まぁ…襲いかかって来た所を見ると、友好的じゃねぇ事は確かだな。」
「…ロゼ探さないと。」
「その前に、怪我を治せ。俺にずっと担がせるつもりか?」
「…分かった。」

私は目を閉じ、足元に手を伸ばす。手の温かみを感じていると、私の隣に彼が腰を下ろす気配を感じた。

「さっき襲って来た奴等、暗くてよく見えなかったが…本当に人間だったか?」
「…多分。」
「人間が土から出てくるなんて事、起こりうるのか…?」

話をするうちに指先から冷えていくのを感じ、治療の手を止めた。その場に立ち上がり、足首の痛みが無い事を確認する。

「…トムが演奏したら出てきた。」
「演奏?楽器を奏でたって事か?」
「…アイオリン。」
「あー…ヴァイオリンか。何でそんなもん持ち込んで…と言うか、あいつが楽器を弾けるとは思わなかったな。」
「…怪我治った。」
「よし。じゃあ、ローゼ達を探…」

グリは勢いよく椅子から立ち上がり、私の方に向かって拳を振り上げる。彼の拳がこちらへ向かってくるのを目の当たりにし、私はその場にしゃがみ込みながら目を閉じた。

「ぅぉぁぁぁー!!!」

後ろから、悲鳴のような叫び声が聞こえてくる。恐る恐る後ろを振り返ると、グリの足元が視界に入った。

「光に当たって姿が消えた…。まさか、さっき襲って来た奴等が、祈祷師の言ってた霊じゃ…。」

私がしゃがみ込んだままでいる事に気付いた彼は、こちらへ向かってゆっくりと歩み寄る。

「わ、悪ぃ…驚かせたな。」
「…へーき。」
「…どこがだよ。」

私はその場に立ち上がり、手を差し伸べる彼の側を通り過ぎた。

「…ロゼ探そ。」
「あぁ…そうだな。」



グリの腰に吊るされたほのかな灯りを頼りに、墓地の敷地を歩き出す。

「あれ!?何でグリくんがここに居るのー?」

しばらく歩き進めた所で、パニとローゼを見つけた。居るはずの無いグリを見て、彼は驚きの表情を浮かべる。

「物資の搬送を他の騎士に手伝ってもらったので、予定より早く戻って来られました。合流出来て良かったです。」
「それは良いんだけど…アルは一緒じゃないの?」
「…土の人と一緒。」
「つ、土の人って…誰?」
「あいつなら大丈夫だと思いますが…安全とも限らないので、奴の所へ向かいましょう。歩きながら説明します。」

ここまでの経緯を彼等に話しながら、墓地の外へと歩みを進める。私はローゼの手を握り、魔力を供給してもらうと同時に…彼の恐怖を和らげる役目を担っていた。

「土の中から人が出てくるなんて、そんな地魔法は聞いた事無いけど…。」
「奴等は人の形をしていましたが、恐らく霊だと思います。アスールの光を浴びて、姿が消えました。」
「れ、霊って地面に埋まってるものなの!?」
「光で消えたなら、霊の可能性が高そうだねー。でも、そうなると…トムさんが魔族って事にならない?」
「何故ですか?」
「その人達、トムさんの演奏がきっかけで地面から出て来たんだよね?霊は闇…魔族に近い存在…。そんな霊を操れるんだとしたら、彼が魔族じゃないと辻褄が合わないよー。」

どうやらパニは、トムが魔族なのではないかと疑っているらしい。

「でも…トムさんの瞳の色は、黒じゃ無かったはず…ですよね?」
「瞳の色を、魔法の力で変える事が出来る魔族もいるらしいよー。ごく稀に…だけどね。」
「人間のフリして街に潜んでたなんて…胸糞悪ぃ話だな。」
「アル…1人で大丈夫かな?」
「…ーい!パ…まー!ロー…!…やー!」

離れた場所から、アルトゥンと思われる男性の声が聞こえて来る。しかし、暗さのせいで彼の姿はどこにも見当たらない。

「…声聞こえる。」
「え?声って…誰の?」
「…あっち。」
「待てアスール。俺が先頭を歩くから、後ろから着いて来い。」
「…分かった。」

声の聞こえた方向へ歩いて行くと、道の真ん中に人間の頭くらいの大きさの石が転がっていた。

「うわぁぁぁー!!!」

石を見たローゼが悲鳴を上げ、私の後ろに身を隠す。石かと思われたそれは、本当に人間の頭だったのだ。
地面から植物が生えるかのように、アルトゥンの頭が突き出ている。

「こ、これは…どういう状況だ…?」
「えっと…生きたまま埋められてるから、生き埋め?」
「生き埋めで生かされてるってのは、初めて見ました。」
「確かに…!ボクも初めて見たなー。」
「皆して眺めとらんで、早く助けてぇなぁ~。土ん中から出て来た、変な奴等に埋められてしもたんよ~。」
「それは災難だったな。ま、生き埋めくらいで済んで良かったじゃねぇか。」
「埋まってるのが地面なら、ボクの魔法で何とかなるかもー。」
「待って下さいパニ様。ここは、ローゼに任せてもらえませんか?」
「な、何で僕なの!?」

グリに名指しされた彼は、その場に立ち上がって驚いた表情を浮かべる。

「てめぇなら、これくらい出来るだろ?」
「そりゃあ出来るけど…。そう言う事が聞きたいんじゃなくて、どうしてパニ様じゃなくて僕なのかって事!」
「パニ様は、てめぇと行動してる間に魔法使ってただろ?光を宿してない俺等に出来んのは、これくらいしか無いじゃねぇか。」
「そこまで考えてくれるなんて、グリくんは相変わらず優しいねー。」
「わ、分かったよ…!じゃあ皆、少し離れてて。」

アルトゥンの側へ歩み寄り、ローゼが地面に手を触れる。すると、彼の魔法の力で地面にヒビが入り、頭の下に埋まっていたアルトゥンの身体が見え始めた。グリとパニの助けを借りながら、彼の身体を土の中から引き上げていく。

「ローゼに助けられたんは、ちょっと癪やけど…引き上げてくれて、ありがとうございますパニ様!」
「ちょっとそれどういう事!?この割れ目を閉じる前に、もう1度埋めてあげても良いけど?」
「じょ、冗談でも言って良い事と悪い事があるで!?」

言い合うアルトゥンとローゼの間にグリが歩み寄り、彼等の仲裁に入る。

「今のは、てめぇが悪ぃだろ。助けて貰ったなら、素直に感謝しときゃ良いんだよ。」
「…おおきに。助かったわ。」
「…今回だけだからね。次埋まってたら見捨てて行くから。」
「な!?」

再び言い争う雰囲気になり始め、今度はパニが彼等の元へ歩み寄って行く。

「まーまー2人共。こんな所で揉めてる場合じゃないよー。日が昇る前に、トムさんと合流しないと。」
「そうですね!トムさんの場所までは分からへんですが…地面から出て来た人達が、向こうの方に歩いて行くのは見ました。」
「アルの言葉に従うなんて癪だけど、今はそれしか手がかりも無いし…仕方ないっか。」
「さっきの言葉…めちゃくちゃ引きずっとるやん。」
「…じごーじとく。」
「んな…!?アスール!そんな言葉どこで覚えたんや!」

以前ビオレータから聞いた言葉だが、使い方が間違えていたのか、彼は驚きのような怒りのような表情を浮かべている。

「…間違い?」
「いいや。合ってる。」
「もっと言ってやってアスール!」
「…じごーじとく。」
「アスールに言われるとヘコむわぁ…。今度から、言動には気を付けんとな…。」

ヘコんでしまったアルトゥンを先頭に、私達はトムを探しに歩き出した。
ちなみに、ヘコむの意味はよく分かっていない。
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