青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第6章︰家族

第67話

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「居ったで!あそこや!」

アルトゥンが指さす先に、数人の群れが出来ていた。その中心に、トムと思われる人物の服が人々の隙間から垣間見える。

「馬鹿野郎!大きな声を出すな…!」
「もがもがもが…!」
「ぉぉぉぅぅぅ…。」
「ちょっ…!アルのせいでこっちに来てるよ!」
「アスール!」

グリは私に向かって手を伸ばし、私の身体を引き寄せた。突然の事に驚き、咄嗟に強く目を閉じる。

「ぅぉぁぁぁー!」
「ぁぁぁー!ぅぅぅ…。」

呻き声と共に、人の倒れる音が聞こえてくる。目を開くと、地面に倒れた複数の人と隣に立つグリの姿が映り込んだ。
彼に掴まれたままの腕を振り払い、ローゼの元へ駆け寄って行く。彼の背中に身体を寄せ、マントを両手で握りしめた。

「グリさん…!流石に今のは強引すぎない?アスールが怖がってるよ。」
「仕方ねぇだろ。アルトゥンが引き寄せちまったのが悪ぃ。」
「お、俺のせいなん!?」
「ナイトの皆さん!ミーのフレンドを消してしまうなんて、ノーセンキューですね!」

こちらへ歩み寄ったトムが、いつもの調子で話しかけて来た。一件すると変わった様子は無いが、パニの推測が正しければ彼は魔族という事になる。

「相変わらず何喋ってるか分からへんけど…祈祷師のフリして俺等を騙すなんて、お前は何者なんや!」
「ノーノー!ミーは、れっきとした祈祷師でーす!フリではありませーん!」
「じゃあ君が呼び出したお友達は、どうして霊なの?彼等を操れるなんて、君が魔族でも無い限り無理なはずだよー?」
「ミーは祈祷師。ゴーストとフレンドになって、話を聞く必要があるのでーす。」
「話を聞くとか言いながら、俺等を襲うように仕向けてんじゃねぇのか?」
「ノーノー!そんな事してませんよー!」
「嘘つくんやないで!そいつ等が土から出てきた所も、俺を地面に埋めた所もバッチリ見とるんや!」
「何の事だか、ミーにはよく分かりませんねー。」
「…話しした後、どうする?」
「また別のゴーストと話しまーす!ミーはフレンドを増やしたいのでーす。」
「やっぱり君…トムさんじゃないよねー?」

パニの言葉に、私は首を傾げる。どこからどう見てもトムにしか見えないのだが、彼は別人だと口にした。

「ノーノー!ミーはトムでーす!他の誰でもありませーん!」
「トムさんはボク達に、この墓地を調査してゴーストをバスターしようって言ってた。霊の友達を増やすなんて、真逆の行動するのはおかしいよー。」
「もしかして…そうやって霊を増やして、街に引き連れてたんじゃ…!」

彼等の指摘に、トムは黙り込んでしまった。彼の表情から、先程までの笑顔が消えていく。

「言い返せねぇって事は図星なんだな?どおりで、いくら調査しても原因が分からねぇ訳だ。」
「トムさんをどこにやったんや!俺と同じように、土に埋めたんやないやろうな!」
「…バレてしまったなら、仕方ないですねー。ユー達も、ミーのフレンドになってもらいまーす!」

すると彼は、手に握りしめたヴァイオリンを構え、棒を擦り付けて音色を奏で始めた。その瞬間、彼の側に立っていた霊達がこちらへ向かって走り出し、彼の足元から新たな霊が次々と姿を現し始める。

「うわぁぁぁー!なになに!?次から次へと湧いてくるんだけど!?」
「ローゼ!てめぇはアスールを守れ!アルトゥン!俺が足止めするから魔法を頼む!」
「了解やで!」
「守れって言われても!霊に槍が当たる訳無いじゃん!」
「大丈夫や!こいつ等、霊や言うても実体はあるみたいやから、牽制くらいにはなるはずやで!」
「それのどこが大丈夫なのー!?」

すっかり怯えた様子の彼は、私の手を強く握りしめる。そんな私達の元へ、パニが駆け寄って来た。

「ローゼくん!ボクが魔法で何とかするから、襲いかかってくる人達を食い止めて!」
「わ、分かりました…!」
「アスールちゃんも、ボクの真似をして手伝ってくれるー?一緒にゴーストをバスターしよう!」
「…分かった。」

こちらへ走り寄る霊に向かって、ローゼは大きく槍を振り払う。すると彼等は揃って地面に倒れ込み、身体が重なり合ったせいで身動きが取れなくなった。

「キミ達の弱点はこれだー!」

パニは彼等に向かって手を伸ばし、眩い光を放つ。地面に折り重なった霊達は、呻き声と共に姿を消した。

「よっしゃ!次はお前等や!」

離れた場所から、アルトゥンの声が聞こえてくる。彼等の方も、順調に霊を消せているようだった。

「アスールちゃん!」

パニの声が聞こえた方を振り返ると、1人の霊が私の方へ向かって来た。走り寄ったローゼが私と霊の間に入り、槍を使って彼の身体を押さえ付ける。

「パニ様と訓練したんでしょ!?魔力供給なら僕がいくらでもするから、早くこいつを何とかしてよ!」

訓練では指先を光らせる事は出来なかったが…怪我人を治療する要領で魔法を使えば、きっと光を放てるはず。そう考えた私は目を閉じ、前方に両手を伸ばした。

「ぉぉぉぁぁぁー!」
「やったー!訓練の成果が出てるよアスールちゃん!」

パニの声で目を開くと霊の姿は既に無く、目の前にローゼが座り込んでいた。

「…ロゼへーき?」
「見たら分かるでしょ!?全然平気じゃない!」
「…ごめんなさい。」
「おーい!こっちは全員やっつけたでー!」

アルトゥンが手を振りながらこちらへ駆け寄り、座り込む彼を見下ろした。

「…ローゼは、そんな所に座って何しとるん?」
「うるさい!こんな依頼、やっぱり断るんだったー!」
「依頼…。あー!肝心のトムさんを捕まえとらんやん!」

周囲を見回すと、霊の姿と共にトムの姿もすっかり消えてしまっていた。

「祈祷師ならここだ。」

後ろを振り返ると、足取りの重いトムを引き連れるグリの姿があった。彼は両腕を縄で縛られ、身動きが取れない状態になっている。

「流石グリくん!縄を用意してるなんて、用意周到だねー。」
「…よーいしゅーとー?」
「準備してて偉い!って事ー。」
「随分時間がかかっちまったが、こいつを役所に突き出せば、俺等の仕事も終わりだ。」
「ま、待って下さーい!ミーの…いえ、僕の話を聞いて貰えませんか…?」

いつもと違う話し方をするトムに、全員の視線が集まった。彼の違和感に気付いたのは、どうやら私だけでは無いらしい。

「なんや…トムさん普通に喋れるやん。」
「って言うか…まるで別人みたい…。」
「僕、コルドって言います…。今は、この人の身体を…借りています…。」
「つまり、乗っ取ったって事?いつの間に?」
「あなた方が…カラスの話をしていた辺り…です。」
「なるほど…トムさんの姿が見えんくなった時やな。」
「コルドくんは、どうしてトムさんの身体を乗っ取ったりしたのー?」
「妹を…探したかったんです…。」

自分よりも年下の女性の家族を、妹と呼ぶ事は知っていた。彼も私と同じように、家族とはぐれてしまったと言う事だ。

「それだけの為に、霊を叩き起して探させてたのか?てめぇの都合で、どんだけの人が迷惑したと…」
「だけじゃないです…!妹は…ソメイユは…!僕のたった1人の家族なんです…!」
「ソメイユ?確か…あの子の名前…。」
「妹を知ってるんですか!?居場所が分かるなら、教えて下さい!」
「そ、それは…。」
「…もう居ない。」
「…え?」

ローゼが覚えていたソメイユと言う人物は、以前私達が訪れた村で死んでいた。言葉を詰まらせる彼の代わりに、私は彼女の死を告げる。

「…ソメイウ死んだ。川の近くで。」
「し、死んだ…?そんな…。」
「僕達がたまたま訪れた、ソコラタっていう村に居たんだ。でも、僕達が見つけた時には、もう…。」
「うぅっ…。ソメイユ…。生きてる内に…会いたかった…。」

トムの姿をしたコルドはその場に崩れ落ち、地面に膝を着く。悲しみの感情を知ってから、人が悲しむ姿を初めて目の当たりにした。

「…話は済んだか?とっとと役所に行くぞ。」
「ストップでーす!」
「おわ!?なんや!?」

地面に座り込んでいた彼が、勢いよくその場に立ち上がった。喋り方がいつものトムに戻っている。

「あ、あれ?トムさん?身体…乗っ取られたんじゃ…。」
「役所へ行く必要はありませーん!ミーは、ボーイと共に存在していまーす。」
「彼と共に存在…って、どういう事?」
「コルドは確かに魔族ですが、今はもう魔族ではありませーん。既に死んで、ゴーストとなっていまーす。しかし、シスターに会えず…成仏出来なかったのでしょう…。」
「成仏って、霊が天に帰るとか言われてるあれか?」
「そうでーす!この世の未練を無くす事で、ゴーストは成仏する事が出来まーす。しかし、ミーはゴーストの言葉が分かりませーん。故に、祈祷師としてまだまだ未熟でーす。ミーとコルドがビジネスパートナーになれれば、沢山のゴーストを成仏…つまり、バスター出来まーす!」
「ええっと…何が言いたいの…?」

トムの言葉はコルドだけでなく、私達にも理解出来なかった。彼の言葉を理解したパニが、首を傾げる私達に分かりやすく言葉を噛み砕く。

「簡単に言うと…霊達の願いを叶えて、天に送ってあげたいみたい。でも、トムさんは霊と話す事が出来ないから…コルドくんに仲介役を頼みたいって事だねー。」
「その、ビジネスパートナー…?になれば…ソメイユの事も、天に送る事が出来る…って事ですか?」
「もちろんでーす!」
「でも…良いんでしょうか…?色んな人に、迷惑をかけてしまったのに…。」
「迷惑かけた償いなら、霊の成仏を手伝ったらええんよ。街の人達も霊に困らんくなるし、霊は願いが叶うしで良いことづくしや!」
「もう死んでるなら、役所に突き出す必要も無ぇし、こいつも祈祷師として仕事が出来んなら文句ねぇだろ。」
「みなさん…ありがとうございます…!」

コルドの代わりにトムが頭を下げる姿は、どこか変な感じがした。しかし、彼が楽器の演奏をやめれば、街に霊が押し寄せる事も無くなるだろう。

「一件落着かなー?」
「良かった~…。ようやく帰れそう~…。」
「今日はもう遅いし、帰るのは明日にしよー。まだ温泉も入ってないしー。」
「それならミーが、スペシャル温泉にご案内しまーす!」
「…スペシアル?」
「特別な温泉…って事だねー。」
「良いですね!行きましょートムさん!」

アルトゥンは手元を光らせ、トムの行く先を明るく照らし歩き出した。

「へ、変な所に連れて行ったりしないよね…?」
「誰も人が来ないような秘湯…とかだったりしてな。」
「じょ、冗談でしょ!?トムさん!普通で…普通でお願いしますー!」

先頭を歩く2人の元へ駆け寄るローゼを見て、グリは呆れ、パニは笑顔を浮かべていた。
    
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