青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第7章:移りゆく季節

第72話

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「さ、着きましたよ。」

馬車と船を乗り継ぎ、ヴァハトゥンへやって来た。フードを深く被ったビオレータと、大きな袋を担いだユオダスの後に続いて船を降りる。
いつも書庫で仕事をしている彼が外を出歩く様子は、随分久しぶりに見た気がする。

「どうかしましたか?」
「…ビオレタ外いる珍しい。」
「好きで引きこもっている訳ではありません。外に出る事だってありますよ。」
「…引きこも?」
「家や建物の中で過ごし、外へ全く出ない人の事です。俺は必要があれば外に出ますし、それが仕事なら尚更です。」

港を離れ、街へ向かって歩き出す。

「ビオレータは、中での仕事が多いから仕方ない。逆に俺は、外での仕事が多いしな。」
「そこは適材適所でしょう。俺は頭を使い、あなたは身体を動かす事に適しているという事です。」
「…何でビオレタ来た?」
「あなたに言われるのは、少々変な感じもしますが…。ガルセク王子の指示で、薬草の買い付けに来た話は先程しましたよね?薬草の善し悪しを見分けるには、それなりの知識が必要になります。」
「ルスケアは城の警備を任されているから、今回はビオレータが呼ばれた訳だ。」
「…ユオアスは?」
「俺は…荷物持ちだ。」

どこか悲しそうな表情をしている彼を見て、私も共に手伝う事を申し出る。

「いや…気持ちだけで十分だ。お前に仕事を奪われたら、俺がここへ来た意味が無くなってしまう。」
「こちらが目的の店です。行きましょう。」

それからビオレータが必要な薬草を選び、ユオダスが持ってきた袋にそれらを詰め込んだ。
店を出て、どこへも寄らずに港に戻る。

「…薬草、何使う?」
「主に傷薬ですね。やはり、外傷を治す為の薬が1番重宝しますから。」
「…魔法より良い?」
「扱う側の技量によりますが…どちらかと言えば、魔法の方が有能でしょうか?即効性がありますし、材料を準備する必要も無いので。」
「だが、皆がお前のように魔法を扱える訳では無い。光の属性を宿していても、治癒魔法を扱えるとは限らないからな。」
「…私、凄い?」
「自分で言うのはどうかと思…」
「きゃっ…!」

私の方に顔を向け、前をよく見ていなかったユオダスが、通りを歩く女性にぶつかった。彼女はバランスを崩し、地面に倒れ込む。

「すみません!お怪我はありませんか?」
「えぇ…大丈夫よ。」

薬草の入った袋を地面に置き、女性の元へ歩み寄る。彼が手を出そうとした瞬間、ほんの少し躊躇った様に見えた。
それを見かねたビオレータが女性の元へ駆け寄り、膝を着いて彼女の手を取る。

「大変失礼致しました。彼の不注意をどうかお許し下さい。」
「私の方こそ…ごめんなさいね。お互い怪我もない事だし、ここは水に流しましょう?」
「ありがとうございます。立てますか?」

彼女はその場に立たされ、彼に向かって笑みを浮かべた。そのまま静かに背中を向け、淡い色をした長髪を揺らしながら、私達の元を去って行く。

「お前の丁寧な対応のおかげで助かった。ありがとう。」
「…。」
「ビオレータ?」
「え?あ…はい。行きましょう。」

言葉を詰まらせる彼の目線は、先程の女性に向いていた。何か気になる事でもあるのかと不思議に思いつつ、帰りの船に乗り込んだ。



「…ビオレ…」

先程の疑問を問う為、海を眺めていた彼に声をかける。すると彼は、ローブの中へ手を伸ばし、腰に下げていた銃を引き抜いた。

ーバーン!

彼の銃弾が私の頬を掠める。銃声を聞きつけたユオダスが、慌ててこちらへ駆け寄った。

「どうした!何事だ!?」

ーバーン!

彼の姿が見えていないのか、何の躊躇いも無く私に向かって引き金を引く。ユオダスに腕を引かれ、目の前に迫った銃弾が身体の側を通り過ぎて行った。

「アスール!お前は中に入れ!」

彼の指示に従い、船の中央にある部屋へ駆け出す。その瞬間、ビオレータは3発目の銃弾を放った。

ーバーン!

「っぐ…!」

私目掛けて放たれた弾が、ユオダスの腕を掠めた。私は来た道を引き返し、彼の元へ歩み寄る。

「あいつの狙いはお前だ!俺の事は良いから、早く中に…」

ビオレータが私を狙う理由は分からないが、私は目の前で怪我をしたユオダスを見過ごす事が出来なかった。傷口に手を添え、目を閉じる。すると、離れた所で何かが叩きつけられる様な音が聞こえた。
私を押し退けてユオダスがその場から駆け出し、地面に落ちていた銃を船の外へ蹴り出す。その流れで彼の腕を掴み、背中に回してビオレータを押し倒した。

「アスール!俺のマントを取れ!」
「…分かった。」

マントで腕を縛る状況は、何度か見た事がある。彼の動きを封じるのに、それ程苦労はしなかった。

「ビオレータ。何故アスールに銃を向けた?」
「…。」
「こいつに危害を加えて、お前に一体何の得がある?」
「…。」
「おい!黙っていたら、何も分からないだろう!」

ユオダスの問いに、彼は全く口を開こうとしなかった。言葉だけでなく、感情までも失ってしまったのか、瞳に生気が宿っていない様に見える。その時、ふと彼の瞳が普段よりも黒っぽくなっている事に気が付いた。
騎士の誰かが、瞳の色について話していた事を思い出す。魔族の中には、魔法の力で瞳の色を変える者がいる…しかしそれは、とても高度な魔法なのだと。
彼がもし魔族である事を隠していた場合、ユオダスに知られるのは都合が悪いはずだ。私はビオレータの秘密を隠す為、彼の目を両手で覆い隠す。

「おいアスール。どうした?」
「…目、怪我してる。」
「目を怪我…?」
「…あの。アスールさん。冷たいです。」

ビオレータの声が聞こえ、私はそっと彼の顔から手を離す。すると、瞳の色がいつものシトリンアイに戻り、それと同時に輝きも取り戻していた。

「っ…!な、何故俺は縛られて居るんですか?」
「覚えていないのか?」
「え?えぇ…。薬草を買って、通りで女性にぶつかった所までしか…。」
「まさか魔族に操られていたのか?だとすると…あの女が?」
「彼女が魔族だとは、全く気付きませんでした。例の、瞳の色を変えられる魔族でしょうか?」
「不明な事ばかりだが…とにかく、戻ったなら良かった。今解いてやるから、ちょっと待っていろ。」

2人の推測によると、ヴァハトゥンで出会った女性が魔族で、ビオレータは彼女の力によって操られていたのでは無いかという結論に至った。
彼が魔族かもしれないという私の推測は、彼等の結論によって消え去ったのだった。



「アスールさん。少し良いですか?」

その日の夜。自室で本を読んでいると、ビオレータが私の元を訪ねた。

「…何?」
「その…今日はすみませんでした。」
 
頭を下げる彼に、私は首を傾げる。

「…何で?」
「ユオダスさんから聞きました。あなたに銃を撃ったそうですね…。怖い思いをさせてしまったのでは無いかと、深く反省しています。」
「…銃、怖くない。」
「本当ですか…?以前、ガルセク王子にも、銃を向けられた事があったはずです。その時の事を思い出して、嫌な気持ちにはなりませんでしたか?」
「…嘘ない。」
「それなら…良いんですが…。」
「…ビオレタ。聞きたい。」
「何でしょうか?その本で何か分からない所でも…」
「…ビオレタは魔族違う?」
「…何故俺が魔族だと?そう思う根拠は何ですか?」
「…船で見た時、目が黒だった。」
「俺の瞳が黒色に…?気の所為では?」
「…違うなら良い。」
「あなたにどう映ったのかのかは分かりませんが、俺はもちろん魔族ではありません。…俺の言葉を、信じてもらえればの話ですが。」
「…信じる。」
「では、俺の要件は済んだので、これで失礼します。おやすみなさい。」

部屋を出て行くビオレータを、ベッドの上のクロマが静かに見送った。私は読みかけの本を机に置き、彼の元へ歩み寄る。

「…クオマ。」

彼の名前を呼びかけるが、応答は無い。部屋に戻って来てから、彼はまだ一言も喋っていなかった。
喋る事が当たり前で、喋らない事に対して疑問を持つ程だ。それから何度か名前を呼んだが、彼が返事をする事は無かった。
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