青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第7章:移りゆく季節

第73話

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「お!おはようさんアスール。」
「…おはよう。」
「随分早起きなんだね。今日はアスールも休みじゃないの?」

食堂へやって来ると、既に食事をしているアルトゥンとローゼの姿があった。

「…早いのダメ?」
「や…別にダメじゃ無いけど…。」
「俺なんか、早く起きんでええ時は、夕方まで寝とる事もあるで?」
「それは寝過ぎ。」
「ちょっと待っとってな?今、アスールの分の食事も取って来たるわ。」
「…ありがとう。」

グリの料理を食べながら、私は彼等に質問を投げかける。

「…2人仕事?」
「ううん。僕もアルも休みだよ。」
「…何で早起き?」
「僕はアルと違って、やりたい事が色々あるから…この時間に起きてるってだけ。早起きって程じゃないよ。」
「俺はグリがこれから仕事やから、食後の後片付けを頼まれとるんよ。」
「…休み、何する?」
「せやなぁ…。街をブラブラしたりするかなぁ?」
「それ…いつもの尾行じゃないの?」
「尾行ちゃうわ!団長を見つけるのはたまたまで…。し、仕事以外で街の警備しとっても、文句はあらへんやろ!?」
「…ロゼは?」
「僕は材料を買いに行くつもりだよ。色々作ってたら、足りなくなってきちゃって。」
「休みの日まで仕事の延長してるなんて、疲れへんの?」
「アルにだけは言われたくないんですけど?」
「な、なんやと…」
「おいアルトゥン。後の片付け任せたぞ?」

食堂の奥から現れたグリが、身につけていたエプロンを彼に向かって投げつけた。

「お、おう!任しとき!」
「あ、それと…買い出しのメモは冷蔵庫に貼っといたから、よろしくな。」
「え…?買い出し…?」

思いがけない彼の言葉に、目を丸くするアルトゥン。気の抜けた様な、困惑している様な…何とも不思議な表情をしている。

「買い出しも頼まれてたんだ?でも、ちょうど良かったじゃん。ユオダスさんの尾行するんでしょ?その帰りに買っ…」
「なぁローゼ。俺の代わりに買い出し行って来てくれへん?」
「はぁ!?何で僕が!嫌に決まってるじゃん!」
「お前は買い物する予定なんやろ!?そのついでに2、3件回ってくれればそれで済むやん!」
「それを言うなら、何の用事も無いアルが行けば良いじゃん!そもそも、買い出しはそっちに頼まれた事で…」
「…喧嘩しない。」

彼等の間に割って入ると、2人は顔を見合せて黙り込んでしまった。

「ほんなら…3本勝負しようや。」
「負けた方が買い出しね。…望むところだよ。」

2人の間に、再び沈黙が流れる。喧嘩をしている様には見えないが、いつもとどこか様子が違っていた。

「…しょーぶ?」
「丁度ええから、アスールに立会い人をしてもらおうや。これから俺等が、色んな種目で競い合うから、どっちが勝ったか判断してくれへんか?」
「…分かった。」
「で?第1種目は何にするの?」
「まずは…片付けや!」



食事の片付けを終え、私達は廊下の掃除をしているルスケアの元へやって来た。

「第1種目は、廊下の雑巾がけや!」
「え、雑巾がけ…?」
「手伝ってくれるのは有難いけど…。私まで喧嘩に巻き込まないでね…?」
「これは喧嘩やないで!正々堂々真剣勝負や!」
「…床掃除でしょーぶ?」

何をどう競うのか分からず首を傾げると、アルトゥンが遠く離れた廊下の先を指さした。

「この壁から向こうの壁まで行って、帰って来るまでの速さを競うんや。」
「えぇ!?この長さの廊下を往復するの!?」
「なんよ。自信ないんか?」
「そ、そうとは言ってないでしょ!雑巾がけくらい僕にだって出来るし!」
「ほんなら始めよか?ルスケア。少しの間、雑巾借りるで。」
「う、うん。頑張ってね…。」

不安そうな表情を浮かべるルスケアと共に、彼等の対決を見守る事になった。

「それじゃあ2人共行くよ?」
「おう!いつでもええで!」
「うぅ…何でこんな事に…。」
「よーい…どん!」

ルスケアの合図で、2人は同時に駆け出した。床に雑巾を擦りながら、足の力だけで廊下を進んで行く。

「なんやローゼ…!もうバテとるんか?」
「うるさい…!今…話しかけないでよ…っ!」
「そんなんやったら、簡単に追い抜けてまうなぁ?」

ほぼ同じだった2人の距離が、みるみるうちに離れて行く。

「よっしゃー!俺の勝ちー!」
「なんなの…この、体力…バカ…。」
「…アルトすごい。」
「へへっ!ここの雑巾がけなんて、なんべんもやっとるから慣れたもんや。」
「ローゼくん…大丈夫?」
「つ…次の勝負は、裏山までの競走ね…!」
「ええの?体力勝負なら、俺は負けへんよ?」
「その前に休憩!…10分後、馬小屋に集合ね。」

そう言い残し、ローゼは自室へと戻って行った。

「ほんならアスール。俺等は先に行っとこか?馬でも眺めながら待とうや。」
「…分かった。」

あれだけの距離を走ったと言うのに、何事も無かったかのように歩き出すアルトゥンを見て、彼の底力を思い知ったのだった。 



「隊長と…治癒士か?今日も手伝いに来てくれたのか?」
「や…今日は、ちゃうんよ。ローゼと裏山まで競走する事になって、ここで待つよう言われたんや。」
「そうだったか。」
「…世話してた?」
「あぁ。これからブラッシングをする所だ。」
「まだローゼも、こーへんやろうし…。せっかく来たからちょっとだけ手伝うわ。」
「いいのか?だが…隊長は生き物が苦手だっただろ?」
「いつまでも苦手にはしておけへんし、アスールが手伝ってくれるからそこは大丈夫や!」
「なら、お願いしよう。」
「アスールも、それでええか?」
「…ええ。」

ローゼを待つ間、彼と共にジンガの手伝いをする事にした。アルトゥンに抱えられ、馬の身体にブラシを擦り付ける。

「アスールは、どうやって怖いのを克服したんや?」
「…怖いものは怖い。」
「え?俺に抱えられとる割には、平気そうやけど…。」
「…馬の世話したい。」
「アスールが恐怖を乗り越えられるのは、興味や好奇心が勝っとるからか…。」
「…こーきしん?」
「色んな事を知りたい!って思う気持ちの事やな。」
「…じゃあそれ。」
「うーん…それやとあんまり参考にならへんなぁ。」
「…何で?」
「俺は生き物に対して、気になる!知りたい!って気持ちにならへんのよ。あいつ等、何してくるか分からへんからなぁ…。」
「…生き物も人間分からない。怖がってると怖い。」
「そうか…。怖いと思っとるんは、俺だけやないんやな。怖いと思わない事が大事なんか…。」
「ちょっとー?まだ勝負は終わってないんだけどー?」

休憩を終えたローゼが、私達の元へやって来る。

「休憩中なんやから、何しとっても俺等の勝手やろ。なーアスール?」
「…勝手。」
「ふーん?ま、とにかく第2種目を始めようよ。」
「ほんなら、ジンガを呼んで来るわ。この馬をそのままにはしておけへんから…ちょっと待っとって。」

アルトゥンの手を離れ、持っていたブラシを渡して彼の背中を見送る。

「2人で何の話をしてたの?」 
「…克服。」
「克服?アルの動物恐怖症をどう克服したら良いかって事?」 
「…私の怖いの、どうしたかって。」
「あー…そっちか。」
「…アルトの怖い、何でか分かる?」
「さぁね。少なくとも僕には教えないでしょ。」
「…何で?」
「こうして競い合ってる相手に、自分の弱点を教えるような事はしないよ。どうせ、馬鹿にされるに決まってるんだから。」
「…ロゼは何で、お化け怖い?」
「それは子供の頃…い、いや!やっぱりアスールには言わない!」
「…何で?」
「口が軽そうだから言わない。」
「…口…軽い…?」
「教えたら、すぐ他の皆に言っちゃいそうって事!とにかく教える気はないから。」
「…残念。」

彼が恐怖を感じる理由を知りたかったが、教えてもらえず肩を落とす。これが悲しいという感情なのだろう。

「そ…そんな顔したって、教えな…」
「おいローゼ!お前、アスールに何の話をしたんや!」
「ぅわ…!?急に大声出さないでよ!ビックリするじゃん…!」
「こんなに悲しそうな治癒士は、今まで見た事が無いな…。一体何事だ?」
「ほんまやで!可哀想やと思わへんのか!」

私の感情を読み取った2人は、ローゼの元へ歩み寄り、彼を責め立てる。

「ちょ…ちょっと!アスールのせいで変な誤解を招いてるんだけど!?」
「…お化け怖い、何でか教えない。」
「だって、アスールに話したら皆にに言いふらしそうなんだもん。その気持ちは分かるでしょ?」
「俺には分からないが…隊長はどうだ?」
「せやなぁ…。秘密事は誰しもあるもんやから、教えへんって言われたら、あんまり詳しく聞かん方がええと思うで。」
「…分かった。」

知りたい事を問いかけるのは、悪い事では無い。しかし、話したくない事を聞こうとするのは悪い事だと学んだ。

「ふーん…アルにしては良い事言うじゃん。」
「俺にしてはって何やねん!」
「それはそうと、勝負は良いのか?」
「あ!そうだった!早く済ませようよ。」
「なぁ。ゴールは裏山の頂上やろ?どっちが先やったかをアスールに判断してもらうんは、難しくないか?」
「あー…そっか。うーん…どうしたら良いかな…?」
「俺が馬に乗って、治癒士を連れて行くのはどうだ?」
「それええな!ジンガと一緒に馬に乗るんは出来るやろ?アスール。」
「…出来る。」
「僕等は有難いけど、ジンガさんは仕事の途中でしょ?良いの?」
「さっき、2人に手伝って貰ったからな。俺も手伝う。」
「それじゃ、あっちの出口からスタートね。先にゴールの頂上に辿り着いた方が勝ちだよ?」
「了解やで。この勝負も俺が勝ったるわ!」

速さを競うという点では、第1種目の雑巾がけと対して変わらない勝負に見えるが…先程勝負に負けてしまったローゼの表情は、どこか得意げだった。
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