青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第7章:移りゆく季節

第74話

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「位置について…始め!」

ジンガの掛け声に合わせ、2人は勢いよく駆け出した。まず先頭に立ったのはローゼで、そのすぐ後ろをアルトゥンが追いかけて行く。
私はジンガの前で馬に跨り、彼等の背中を離れた所で見守る。

「この勝負、何が目的だ?」
「…買い出し、どっち行くか。」
「なるほど。それなら俺もこの間、隊長と模擬戦をしたな。」
「…どっち勝った?」
「俺が苦戦するのは、団長くらいだ。整備士や調理師と模擬戦をする事もあるが、あまり負けた記憶が無い。」
「…ジガ強い。」
「俺は皆より武器が多い分、手数も多い。しかし、どうしても団長だけには勝てないんだ。」
「…ルスキャは?」
「庭師とは、した事が無い。副団長から、模擬戦をしないよう言われている。」
「…ビズは?」
「副団長は、何度か声をかけた事があるが…いつも誘いを断られる。いつか手合わせしたいと思うんだがな。」
「…ビオレタは?」
「書士か?…彼は忙しいからな。声をかける暇も無い。」
「…模擬戦、何でする?」
「強くなる為だ。剣を振ったり、走り込みをしたりする事も大事だが…実際に戦ってみるのが1番だ。」
「…どうして強く…」

ーゴゴゴ!

次々と質問を投げかけていると、前方から地響きの様な音が聞こえた。
地面に手をついたローゼの足元から、大きな岩が現れる。まるで生きているかのような大岩は、彼の身体を上へ上へと運んで行く。

「んな…!?おいローゼ!魔法を使うのは卑怯やぞ!」
「使っちゃダメなんて言われないしー!悔しかったら、アルも魔法使いなー?」
「俺の魔法でそんなん出来る訳無いやろー!待てー!」
「あのままゴールしそうな勢いだな…。急いで馬を走らせる。しっかり腕に掴まってくれ治癒士。」
「…分かった。」

結果は言うまでも無く、ローゼの圧勝だった。それぞれ一勝一敗ずつになり、次の第3種目で負けた方が買い出しへ行く事になる。

「次の勝負は何にする?」
「せやなぁ…。前にやった、大食い対決…」
「調理場の食材を根こそぎ使って、グリさんに怒られた事忘れたの?そもそも買い出しに行けって言われてるのに、食べたらダメでしょ。」
「そう言うローゼはどうなんよ?」
「うーん…。あ!彫刻対決とかどう?お題に沿った形に木を削っ…」
「そんなん俺が出来るわけないやろ!」
「あー…それもっか。」
「お前…分かっててわざと言ったやろ…。」
「まだ勝負するつもりなのか?」

これが3本勝負だという事を知らないジンガは、2人の会話に首を傾げていた。

「あー…ありがとうジンガさん!後は僕達で何とかするから、気にしなくていーよ。」
「せやせや。まだ、仕事も残っとるやろ?付き合わせてしもうてすまへんなぁ。」
「それは構わないが…勝敗を決めるなら、模擬戦はどうだ?」
「あ、そっか!その手があったか!」
「何でもっと早く気付けへんかったんやろなぁ!」
「俺は見届けられないが、頑張ってくれ。」

ジンガはそう言い残すと、馬を引連れて小屋の中へ姿を消した。
私達は建物の中へ戻り、廊下を通って中庭へと移動する。

「ねぇアル。ずっと疑問に思ってたんだけど…何であんなに走ったのに、ピンピンしてる訳?」
「何でやろなぁ?ローゼの鍛え方が甘いんとちゃう?」
「確実に僕より訓練さぼってるじゃん!アルがトレーニングしてる所なんて見た事ないよ!?」
「失敬な!俺やて、ちゃんと鍛えとるで!雑巾持って廊下を走り回ったり、洗濯物持ったまま階段を駆け上がったり、ルームランナーで発電したり…」
「あー…アルの仕事全般が、体力強化に役立ってるって事か…。」
 「なんよ。また休憩したいんか?さっきは俺より走っとらんかったやろ。」
「ち、違うし…!アスールに模擬戦を見ててもらうのは、危ないかもって思っただけで…。」
「…模擬戦、危ない?」
「まー…絶対安全では無いやろなぁ。前に、団長がへし折った剣が壁まで飛んでったこともあったし。」
「けど、見ててくれる人も居ないと、勝敗の付けようが無いんだよね…。」
「…ビオレタ、呼んでくる。」
「え?あ、ちょ…」

廊下を駆け出し、一直線に書庫へ向かう。2人が楽しそうに走っている様子を見たからか、私も風を切りたくなったのだ。



「い、一体何事ですか?」

走ってやって来た私を見て、ビオレータは作業の手を止めた。

「…ロゼとアルト、しょーぶ。」
「あの2人が勝負?それは…喧嘩という事ですか?」
「…一緒来て。」
「全くあの人達は…。…分かりました。あなたでは手に負えないでしょうから、俺が見に行きましょう。彼等の場所に案内して下さい。」

彼を連れて中庭へ戻ると、模擬戦で使用する武器を準備している所の様だった。

「あなた達!喧嘩など、いい大人がみっともな…」

声を荒らげたビオレータが、2人の姿を交互に見て首を傾げる。

「…喧嘩では無いのですか?」
「ちゃうちゃう!これから模擬戦をやるから、ビオレータに見てもらおうって話になって…。」
「て、てっきり…アスールが説明したのかと…。」
「…ロゼとアルト、しょーぶ。」
「勝負では無く、模擬戦と言って下さい…!あなたが走ってやって来るから、喧嘩の仲裁かと思ったじゃないですか!」
「…ごめんなさい。」
「っ…。まぁ…喧嘩で無いのなら構いません。俺は仕事に戻…」

書庫へ戻ろうとする彼の背中に手を伸ばし、服の裾を握りしめた。

「な、何ですか?」
「…模擬戦、見てて。」
「アスール…!それは…」
「なぜ俺が見なければならないんですか?何の勝負だか知りませんが、俺には関係ないですよね?」
「…私見てる危ない。ビオレタ見てる危ない無い。見てくれる人、他居ない。」
「すまへんなぁビオレータ。ちょっとだけ、付き合ってくれへんかな…?」
「また仕事を手伝うなどと言うんじゃないでしょうね?」
「なんや…もうバレとったか。せやけど今回は、俺とアスールの他に、ローゼの手伝いも付いてくるで!」
「はぁ!?何で僕まで…」
「…お願いビオレタ。」

 彼の黄色い瞳を真っ直ぐ見つめ、願いを訴えかける。初めは眉間に皺を寄せていたが、次第に呆れた表情へと変わっていった。

「…今回だけですからね。それと、手伝いならアスールさんだけで十分です。あなた達には、普段通りの仕事をしてもらう方が、こちらとしては助かりますから。」
「おおきに!そう言って貰えると、めっちゃありがたいわぁ~。」
「前から思ってたけど…ビオレータさんって、アスールには甘いよね。」
「…俺では不満ですか?」
「無い無い無い!全然そんな事ないよ!さ、さぁ…始めよっか!」

再び眉間に皺を寄せたビオレータが、彼等の模擬戦を見守る事になった。彼の背中越しに、大きな斧と長い槍がぶつかり合っているのが見える。

「一応お聞きしますが、この勝負は何の為ですか?」
「…負けた方、買い出し行く。」
「はぁ…。そんな理由なら、聞かなければ良かったですね。」
「…聞いたのに、聞きたくなかった?」
「えぇ。こんな事になるなら、喧嘩の仲裁の方がマシでした。」
「…ビオレタ、喧嘩好き?」
「好きな様に見えますか?」
「…分からないから聞いた。」
「マシと言うのは…どちらかを選ばなければいけない場合に、仕方なく選んだと言うだけです。好きだから選んだ訳ではありません。」
「…模擬戦より喧嘩良い?」
「喧嘩は原因が明確なので、解決するのは簡単です。しかし模擬戦は、明確な終わりがありません。」
「…めーかく?」
「喧嘩は終わりが分かりやすく、模擬戦は終わりが分かりづらいという事です。俺は、勝負の勝ち負けよりも、早く事を済ませて欲しいんですよ。」

深くため息をつく彼の視線の先に、武器を交える2人の姿がある。
ビオレータは、模擬戦の終わりが分かりづらいと言っていたが、勝敗はどのように決まるのだろう?戦いにおいて素人である私が分かるはずもなく、ただただ2人の攻防を見守るしかなかった。
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