青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第7章:移りゆく季節

第75話

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「はぁー…。結局、買い出しに来る事になるとは思わへんかったなぁー…。」

私の右側を歩くアルトゥンが、ため息混じりに言葉を呟く。彼の手には、買った野菜を入れた袋が握られている。

「それはこっちの台詞だし。アルと互角の勝負なんて…もっとジンガさんに鍛えてもらわないと。」

私の左側を歩くローゼが、同じようにため息をついた。彼は食材の入った袋を、大事そうに両腕で抱えている。

「鍛えてもらうって…何でジンガなん?」
「自分より強い相手に教わりたいでしょ?それに、真面目に訓練してる人の方が珍しいし。」
「せやなぁ。団長とビオレータは忙しくて訓練どころじゃ無さそうやし、ヴィーズとルスケアは訓練しとる所を見た事も無いわ。」
「グリさんもアルも、訓練サボりがちだしねー。」
「面倒くさがりのグリと一緒にせーへんでよ!俺もやる事多くて、訓練どころやないんやから!」
「はいはい。突っ込むとめんどそうだから、そういう事にしておくよ。」
「…くんえん、皆嫌い?」
「嫌いって訳じゃないと思うけど…。皆、訓練しなくても強い人達ばっかりだしね。騎士になる前は鍛えてたんだろうけど…騎士になっちゃったら、自分をもっと鍛えよう!って気持ちにならないんじゃない?」
「あれやろ?ビオレータは、運動するの嫌いやったと思うから…訓練も嫌やと思うなーあいつは。」

彼等と話をしていると、他の騎士達の話題が多いように感じる。それだけ2人が、周りの騎士達を見ていると言う事だ。

「おや?アルトゥンじゃないか!」
「ん?あ、かーちゃん!」

後ろを振り返ると、こちらを見ているアリルの姿があった。こうして会うのは、随分久しぶりな気がする。

「あんた等も買い物かい?」
「せやでー。そういうかーちゃんこそ、随分買い込んだんやなぁ…。」

彼女は両腕に、大量の買い物袋を抱えていた。彼女は街の人達に料理を提供しているので、その為の材料なのだろう。

「団体客の予約があるのさ。じゃ無かったら、こんなに沢山仕入れないよ。」
「こんな沢山あったら、重くて大変やろ?家まで運んだるわ。」
「あ、じゃあ…アルの荷物は僕が持つよ。」
「良いのかい?助かるねぇ。」
「…私も手伝う。」
「ありがとねアスール。じゃあ…これを1つ持ってもらおうか。」

彼女から小さめの紙袋を受け取り、右腕に抱える。残りの袋を全てアルトゥンに渡したアリルは、空いた右手で私の左手を包み込んだ。
彼女の手は、以前と変わらず温かい。その温かさが、とても心地よかった。



「いやー助かったよ。皆ありがとうね!」

食材の入った紙袋をテーブルに並べると、彼女は感謝の言葉を口にした。

「…どいたまして。」
「あ、そうだ…!まだ時間はあるかい?ちょっと座って、茶でも飲んで行きな。」
「あー…。これから帰って食事の準備せなあかんから、また今度にするわ。」
「そうかい?じゃ、ちょっと待っとくれ。」

奥の調理場から戻って来た彼女の手に、小さな布袋が握られていた。

「これ、あんたにあげるよアスール。」
「…何?」
「今朝あたしが作ったクッキーさ。余りもんで悪いけどね。」
「…ありがとう?」
「手伝ってくれた礼さ。また今度、ゆっくり出来る時に飯を食べにおいで。」
「…分かった。」



シュヴァリエメゾンに帰って来た私達は、買い込んだ食材を調理場へと運び込んだ。

「僕はもう部屋に戻るからね?」
「おおきになー。」
「…ムカつく。」

ポツリと言葉を呟いたローゼが、一足先に部屋を出て行った。

「せや、アスール。さっき貰ったクッキー、食べてみたらどうや?」
「…食べる。」
「俺は飯の準備しとるから、その辺座っとき?」
「…分かった。」

アルトゥンが示した椅子の上に腰を下ろし、布の包みを開く。その中に入っている、様々な形をした板状の食べ物を1つ、つまみ上げた。

「…これがクキー?」
「せやで。食べるんは初めてか?」
「…多分。」
「サクサクしてて甘いから、好きな味やと思うで。」

見るからに硬そうな見た目をしていて、正直あまり食欲をそそられる物では無かったが…彼の言葉を信じて、口へ放り込んだ。
噛めば噛むほど小さく砕け、ホットミルクのような甘い香りが鼻を抜ける。

「気に入ったみたいやな。」
「…気に入った?」
「好きなもん食べて、嬉しいって事や。最初はあんまり食べたそうにしとらんかったけど、今は目が輝いとるで?」
「…目、光らない。」
「せやなぁ…実際には光らんのやけど…。好きな物を食べたり、楽しい事をしたりする時、人はイキイキした表情になるんよ。さっきのアスールが、そんな顔しとったわ。」

自分では全く自覚が無いが…彼が言うには、これが【嬉しい】という感情なのだろう。



その日の夜。眠りについた私はふと目が覚め、ベッドの上で身体を起こした。
窓の外に浮かぶ細い月が、隣で横たわるクロマの顔をほんのり照らしている。寝ている彼を起こさぬよう、その場からゆっくり立ち上がり、部屋を出た。
トイレを済ませ、廊下を歩いていると…ふと、ビオレータの事が頭に浮かんだ。彼は日中、アルトゥンとローゼの模擬戦に付き合い、仕事に大きな遅れが生じたに違いない。部屋に戻ろうとする足を止め、書庫へ向かって階段を降りた。

「…ビオレタ?」

彼はいつもの定位置に座り、机に顔を突っ伏していた。手にはペンが握られたままになっていて、どうやら仕事の途中で眠ってしまったらしい。
ビオレータの肩に手を乗せ、身体を揺らす。すると彼は顔を上げ、中途半端に開いた瞳でこちらを向いた。

「アーブル…?なんで…ここ。」
「…アーブル?」
「どこ…行ってたの?僕にもっ…と…顔を…みせ…」

彼は席を立ち、私に向かって両腕を伸ばした。いつもより顔の距離が近く感じ、驚きのあまり彼の身体を突き飛ばす。その場から逃げる様に走り出し、急いで部屋に戻った。



「…はぁ…はぁ。」

乱れた呼吸を整えようと、大きく息を吸い込んだ。部屋中に広がるアロマの匂いが、身体の隅々まで行き渡り、徐々に落ち着きを取り戻す。

「ウーン…?あれ…アスール?そんな所に立って…何してるノ?」

ベッドに横たわっていたクロマが身体を起こし、扉の前に立つ私の方をゆっくり振り向いた。

「…起こした、ごめんなさい。トイレ行った。」
「アスールは、もう暗い所…怖くないノ?」

彼の発した言葉に、どこか違和感を感じた。しかし…それが何なのかまでは、よく分からない。
私は彼に、暗闇に対して恐怖が無い事を告げた。

「それなら良いんダ。あんなに小さかったキミが…こーんなに大きく…なるなんテ…。」

今にも消えそうなか細い声で、彼は言葉を呟く。
まるで、今の私が以前より大きくなっているかの様な言い方だ。

「…大きい?」

質問を投げかけるが、その返事はいつまでたっても返って来ない。彼の元へ歩み寄って身体に触れると、布団の上に横たわってしまった。どうやら、話の途中で再び眠ってしまったらしい。
その時、彼に向かって伸ばした手が、いつもより大きくなっている違和感に気が付いた。ベッドを離れ、壁に掛けられた鏡を覗き込む。
視線が高くなったせいで肩から上が見えなくなり、寝巻きの裾がいつもより短くなっていた。手の半分が隠れる程だった袖丈も、手首が見える程の長さに変化している。
急激な身体の成長に、頭の処理が追いつかない。私は夢を見ているのだろうか?そんな考えが頭をよぎった。



気が付けば、朝を迎えていた。ベッドの上で身体を起こし、昨日の出来事を思い出す。
慌てて鏡の前に走り寄ると、私の全身が写し出された。頭の先からつま先までが全て収まっていて、膝が隠れる長さの裾に、手の半分が隠れる袖丈。
いつもと変わらない、私の姿がそこにあった。
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