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第7章:移りゆく季節
第77話
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「おーい...アスール...。朝やでー...。」
何も見えない暗闇の中で、微かにアルトゥンの声が聞こえた。瞼を開くと、腕に抱かれたクロマの耳が視界に映り込む。
身体を起こした視線の先に、窓辺に立つ彼の姿を見つけた。
「...おはよう。」
「ぐっすり眠ったみたいやなぁ。髪の毛が凄い事になっとるわ。」
「...ありがとう。」
「今のは褒めとらんで…?こりゃあ...食事の前に寝癖直しやな。」
すると彼は窓辺を離れ、クローゼットに手を伸ばす。丁寧に並べられた服の中から、私が着替える服を選び始めた。
「...出かける?」
「せやから俺が起こしに来たんよ。昨日、ビオレータに頼まれとってな。」
「...ビオレタと外行く?」
「そうみたいやで。どこ行くかまでは聞いとらんけど...アスール、この服はどうや?」
「...着る。」
彼の選んだ服に着替えを済ませ、寝ぐせを直しに風呂場へ向かう。
「おはようアーちゃん。今日は早起きだね。」
階段を降りようとした所で、部屋から出て来たヴィーズと朝の挨拶を交わした。
「...おはよう。アルト起こした。」
「その言い方やと、俺が起こされたみたいやん...!ビオレータが、はよ起こせって言うから俺が部屋まで起こしに行ったんやで?」
「3人でお出かけかぁ。どこに行く予定なの?」
「...分からない。」
「そうなの?アルくんも知らないって事?」
「せや。俺も聞いてへんで。」
「ふーん...。後でビオくんに、こっそり聞いてみようかな。」
「休みやからって、俺等の後をついて来る気やないやろな?」
「アルくんじゃあるまいし、そんな事しないよ。」
「うっ...。」
ヴィーズの言葉に反論出来ず、彼は言葉を詰まらせる。
階段を降りきって廊下を歩いていると、前を歩いていたヴィーズが、窓の外に視線を移した。
「あ、ユーく...」
「団長!?おはようございます!」
ユオダスの名前に反応し、アルトゥンは弾けるような笑顔を浮かべた。中庭でトレーニングをしていた彼が、私達の存在に気が付き、こちらへ歩み寄る。
「お前達がこんな時間に起きるなんて、揃いも揃って珍しいな。」
「...おはよう。」
「あれ?今日はユーくんも休みなの?僕達が両方休みなんて、それこそ珍しいね。」
「言われてみるとそうやな...。」
ユオダスとヴィーズと共に仕事をした事はあったが、2人が揃って休む事は珍しいようだ。
「...一緒休みならない?」
「俺とヴィーズは、休みが被らないように仕事を振り分けられている...はずなんだが。後でビオレータに聞いてみるか。」
「...またビオレタ。」
「お、おはようございますヴィーズ様...!」
ユオダスの後ろから、ルスケアの声が聞こえて来た。彼は濡れた手を小さな布で拭きながら、こちらへ駆け寄って来る。
「...おはよう。」
「ルーくんおはよう。朝の水やり?」
「はい。皆さんは...こんな所で一体何を?」
「団長とヴィーズが、揃って休みなのは珍しいなー思って話しとった所や。まさか...ルスケアも休みなんか?」
「そうだけど...。さっき、ジンガくんとも会ったよ?馬の世話をするみたいだった。」
「え?ジンくんも?」
「...ジガとも挨拶。」
「ちょい待ちアスール...!早く支度せんと、起こした意味が...」
アルトゥンの呼びかけを振り切り、私は馬小屋へと歩みを進めた。
「...おはよう。」
「ん?あぁ...治癒士か。おはよう。」
ジンガの手にはバケツが握られていて、中には溢れんばかりの人参が入っている。彼は仕事が休みの日でも、動物達の世話を欠かさない。
「...ジガも休み?」
「俺も...と言うと、治癒士もか?」
「...アルトもビズも、ユオアスもルスキャも。」
「そんなに大勢か?もしや昨日、書士に渡した伝令...」
「おーい...アスールー...!」
彼がポツリと呟いた言葉が、大きな声に掻き消される。後方から、私の名前を呼ぶアルトゥンの声が聞こえてきた。
「隊長が呼んでいるぞ?」
「...じんじんあげるしたい。」
「もうすぐ終わるから、餌やりはまた今度だ。先に食堂へ向かってくれ。」
「...分かった。」
建物の中へ戻り、アルトゥンに連れられて再び風呂場を目指す。身支度を整えるはずが、随分沢山の寄り道をしてしまった。
「ん?あれ…アスール?」
扉を開けた先に、先客が居た。上半身の服を脱いだ状態のローゼが、鏡の前でドライヤーを握りしめている。
「…おはよう。何で裸?」
「汗を流したからに決まってるでしょ?じゃなきゃ脱がないよ。」
「随分早い風呂やな。昨日入らなかったんか?」
「昨日は昨日!今日は今日!…そういう2人こそ、何しに来たの?珍しく早起きじゃん。」
「アスールの寝癖が酷くてなぁ。あ!丁度ええからローゼが直したってくれん?」
「はぁ!?何で僕が...」
彼の側に歩み寄り、服の裾を握りしめる。
「...前みたい、編むして。」
「えー...めんど...」
「どうせこれから自分のもするんやろ?だったら、ついでにしてあげたらええやん。せっかくの機会やし、俺も見て覚えるわ!」
「アルに真似出来るとは思え...んー。ま、いっか。」
「ん?何か言うた?」
「別にー?はいはい。アスールはここに座ってねー。」
鏡の前に座った私の髪を、ローゼが優しくすくい上げた。仮面舞踏会に潜入した時も、同じように編んでもらった事を思い出す。
身支度を整えてもらった私は、彼等と共に食堂へ向かった。
「え...。何で皆揃ってるの...?」
テーブルを囲む人数分の椅子の約半分が埋まっている光景に、ローゼが驚きの表情を浮かべた。
階段で出会ったヴィーズ、中庭で出会ったユオダスとルスケア、馬小屋で出会ったジンガが、それぞれ思い思いの席に座っている。
「みーんな休みなんやって。ここにグリとビオレータも来れば勢揃いやな。」
「俺が何だって?」
奥の調理場から、料理を運ぶグリが現れた。
「...おはよう。」
「おはようさんグリ。グリとビオレータがおったら、全員集まるなーって話をしとったんよ。」
「んな事どうでもいいから、てめぇも運ぶの手伝え。」
「えー!?他にも手伝えそうな奴おったやろ!?何で俺が名指しなんよ!」
「...手伝う。」
「お前は座ってろ。動いてる方が邪魔だ。」
「アーちゃんこっちこっち。僕の隣空いてるよ。」
ヴィーズに座るよう促され、彼が引いた椅子に腰を下ろす。すると、彼の視線は私の頭に向けられた。
「その髪、ローくんにしてもらったの?」
「鍛冶師は器用だな。俺には真似出来ない。」
「アルには無理だと思うけど、ジンガさんなら出来そうじゃない?この間、僕の作業を手伝ってくれたし。」
私の髪型を真似したいのか、ジンガは編まれた髪に興味を示した。
「ねぇローくん。今度やり方教えてよ。」
「そんなの覚えてどうするつもりだ?」
ヴィーズの申し出に、ユオダスが首を傾げる。すると彼は、私の顔を見て笑みを浮かべた。
「もちろん、アーちゃんとの時間を増やす為だよ!」
「うわー…理由が不順…。」
「わ、私も今度教えて貰おうかな?」
彼の言い分を聞いて呆れるローゼに、今度はルスケアが教えを乞う。ヴィーズが知りたい理由は分かったが、彼が知ろうとする意図はさっぱり読めなかった。
「もちろん良いよ。あ、ついでにユオダスさんにも教えようか?」
「俺は遠慮しておく。」
「あはは。ユーくんは髪に触れるだけでも緊張しそうだよね。」
「髪くらい触れる。ただ、興味が無いと言うだ…」
ユオダスの発言を遮るように、食堂の扉が開かれた。
「おはようございます。皆さんお揃いですね?」
「え!?ビオレータさん!?」
普段食堂に姿を見せない彼を見て、ローゼは声を荒らげる。
「何をそんなに驚いているんですか?」
「そりゃ驚くよ!普段食べに来ない人が来…」
「お!ほんまにビオレータも来たやな。」
料理を持ったアルトゥンが、奥の調理場から戻って来た。食事を待つ騎士達の前に、次々と皿を並べていく。
「アルは知ってたの!?」
「俺がアスールさんを起こすよう、彼にお願いしたんです。」
「...おはよう。」
「今日は3人で出掛けるんでしょー?どこに行くのか教えてよ。」
「いいえ。3人ではありません。」
「え!?もしかして、俺はまた置いていかれ…」
「ここに居る全員で、別荘へ行きます。」
「…べっそー?」
何も見えない暗闇の中で、微かにアルトゥンの声が聞こえた。瞼を開くと、腕に抱かれたクロマの耳が視界に映り込む。
身体を起こした視線の先に、窓辺に立つ彼の姿を見つけた。
「...おはよう。」
「ぐっすり眠ったみたいやなぁ。髪の毛が凄い事になっとるわ。」
「...ありがとう。」
「今のは褒めとらんで…?こりゃあ...食事の前に寝癖直しやな。」
すると彼は窓辺を離れ、クローゼットに手を伸ばす。丁寧に並べられた服の中から、私が着替える服を選び始めた。
「...出かける?」
「せやから俺が起こしに来たんよ。昨日、ビオレータに頼まれとってな。」
「...ビオレタと外行く?」
「そうみたいやで。どこ行くかまでは聞いとらんけど...アスール、この服はどうや?」
「...着る。」
彼の選んだ服に着替えを済ませ、寝ぐせを直しに風呂場へ向かう。
「おはようアーちゃん。今日は早起きだね。」
階段を降りようとした所で、部屋から出て来たヴィーズと朝の挨拶を交わした。
「...おはよう。アルト起こした。」
「その言い方やと、俺が起こされたみたいやん...!ビオレータが、はよ起こせって言うから俺が部屋まで起こしに行ったんやで?」
「3人でお出かけかぁ。どこに行く予定なの?」
「...分からない。」
「そうなの?アルくんも知らないって事?」
「せや。俺も聞いてへんで。」
「ふーん...。後でビオくんに、こっそり聞いてみようかな。」
「休みやからって、俺等の後をついて来る気やないやろな?」
「アルくんじゃあるまいし、そんな事しないよ。」
「うっ...。」
ヴィーズの言葉に反論出来ず、彼は言葉を詰まらせる。
階段を降りきって廊下を歩いていると、前を歩いていたヴィーズが、窓の外に視線を移した。
「あ、ユーく...」
「団長!?おはようございます!」
ユオダスの名前に反応し、アルトゥンは弾けるような笑顔を浮かべた。中庭でトレーニングをしていた彼が、私達の存在に気が付き、こちらへ歩み寄る。
「お前達がこんな時間に起きるなんて、揃いも揃って珍しいな。」
「...おはよう。」
「あれ?今日はユーくんも休みなの?僕達が両方休みなんて、それこそ珍しいね。」
「言われてみるとそうやな...。」
ユオダスとヴィーズと共に仕事をした事はあったが、2人が揃って休む事は珍しいようだ。
「...一緒休みならない?」
「俺とヴィーズは、休みが被らないように仕事を振り分けられている...はずなんだが。後でビオレータに聞いてみるか。」
「...またビオレタ。」
「お、おはようございますヴィーズ様...!」
ユオダスの後ろから、ルスケアの声が聞こえて来た。彼は濡れた手を小さな布で拭きながら、こちらへ駆け寄って来る。
「...おはよう。」
「ルーくんおはよう。朝の水やり?」
「はい。皆さんは...こんな所で一体何を?」
「団長とヴィーズが、揃って休みなのは珍しいなー思って話しとった所や。まさか...ルスケアも休みなんか?」
「そうだけど...。さっき、ジンガくんとも会ったよ?馬の世話をするみたいだった。」
「え?ジンくんも?」
「...ジガとも挨拶。」
「ちょい待ちアスール...!早く支度せんと、起こした意味が...」
アルトゥンの呼びかけを振り切り、私は馬小屋へと歩みを進めた。
「...おはよう。」
「ん?あぁ...治癒士か。おはよう。」
ジンガの手にはバケツが握られていて、中には溢れんばかりの人参が入っている。彼は仕事が休みの日でも、動物達の世話を欠かさない。
「...ジガも休み?」
「俺も...と言うと、治癒士もか?」
「...アルトもビズも、ユオアスもルスキャも。」
「そんなに大勢か?もしや昨日、書士に渡した伝令...」
「おーい...アスールー...!」
彼がポツリと呟いた言葉が、大きな声に掻き消される。後方から、私の名前を呼ぶアルトゥンの声が聞こえてきた。
「隊長が呼んでいるぞ?」
「...じんじんあげるしたい。」
「もうすぐ終わるから、餌やりはまた今度だ。先に食堂へ向かってくれ。」
「...分かった。」
建物の中へ戻り、アルトゥンに連れられて再び風呂場を目指す。身支度を整えるはずが、随分沢山の寄り道をしてしまった。
「ん?あれ…アスール?」
扉を開けた先に、先客が居た。上半身の服を脱いだ状態のローゼが、鏡の前でドライヤーを握りしめている。
「…おはよう。何で裸?」
「汗を流したからに決まってるでしょ?じゃなきゃ脱がないよ。」
「随分早い風呂やな。昨日入らなかったんか?」
「昨日は昨日!今日は今日!…そういう2人こそ、何しに来たの?珍しく早起きじゃん。」
「アスールの寝癖が酷くてなぁ。あ!丁度ええからローゼが直したってくれん?」
「はぁ!?何で僕が...」
彼の側に歩み寄り、服の裾を握りしめる。
「...前みたい、編むして。」
「えー...めんど...」
「どうせこれから自分のもするんやろ?だったら、ついでにしてあげたらええやん。せっかくの機会やし、俺も見て覚えるわ!」
「アルに真似出来るとは思え...んー。ま、いっか。」
「ん?何か言うた?」
「別にー?はいはい。アスールはここに座ってねー。」
鏡の前に座った私の髪を、ローゼが優しくすくい上げた。仮面舞踏会に潜入した時も、同じように編んでもらった事を思い出す。
身支度を整えてもらった私は、彼等と共に食堂へ向かった。
「え...。何で皆揃ってるの...?」
テーブルを囲む人数分の椅子の約半分が埋まっている光景に、ローゼが驚きの表情を浮かべた。
階段で出会ったヴィーズ、中庭で出会ったユオダスとルスケア、馬小屋で出会ったジンガが、それぞれ思い思いの席に座っている。
「みーんな休みなんやって。ここにグリとビオレータも来れば勢揃いやな。」
「俺が何だって?」
奥の調理場から、料理を運ぶグリが現れた。
「...おはよう。」
「おはようさんグリ。グリとビオレータがおったら、全員集まるなーって話をしとったんよ。」
「んな事どうでもいいから、てめぇも運ぶの手伝え。」
「えー!?他にも手伝えそうな奴おったやろ!?何で俺が名指しなんよ!」
「...手伝う。」
「お前は座ってろ。動いてる方が邪魔だ。」
「アーちゃんこっちこっち。僕の隣空いてるよ。」
ヴィーズに座るよう促され、彼が引いた椅子に腰を下ろす。すると、彼の視線は私の頭に向けられた。
「その髪、ローくんにしてもらったの?」
「鍛冶師は器用だな。俺には真似出来ない。」
「アルには無理だと思うけど、ジンガさんなら出来そうじゃない?この間、僕の作業を手伝ってくれたし。」
私の髪型を真似したいのか、ジンガは編まれた髪に興味を示した。
「ねぇローくん。今度やり方教えてよ。」
「そんなの覚えてどうするつもりだ?」
ヴィーズの申し出に、ユオダスが首を傾げる。すると彼は、私の顔を見て笑みを浮かべた。
「もちろん、アーちゃんとの時間を増やす為だよ!」
「うわー…理由が不順…。」
「わ、私も今度教えて貰おうかな?」
彼の言い分を聞いて呆れるローゼに、今度はルスケアが教えを乞う。ヴィーズが知りたい理由は分かったが、彼が知ろうとする意図はさっぱり読めなかった。
「もちろん良いよ。あ、ついでにユオダスさんにも教えようか?」
「俺は遠慮しておく。」
「あはは。ユーくんは髪に触れるだけでも緊張しそうだよね。」
「髪くらい触れる。ただ、興味が無いと言うだ…」
ユオダスの発言を遮るように、食堂の扉が開かれた。
「おはようございます。皆さんお揃いですね?」
「え!?ビオレータさん!?」
普段食堂に姿を見せない彼を見て、ローゼは声を荒らげる。
「何をそんなに驚いているんですか?」
「そりゃ驚くよ!普段食べに来ない人が来…」
「お!ほんまにビオレータも来たやな。」
料理を持ったアルトゥンが、奥の調理場から戻って来た。食事を待つ騎士達の前に、次々と皿を並べていく。
「アルは知ってたの!?」
「俺がアスールさんを起こすよう、彼にお願いしたんです。」
「...おはよう。」
「今日は3人で出掛けるんでしょー?どこに行くのか教えてよ。」
「いいえ。3人ではありません。」
「え!?もしかして、俺はまた置いていかれ…」
「ここに居る全員で、別荘へ行きます。」
「…べっそー?」
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