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第7章:移りゆく季節
第79話
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「ん…。」
花の甘い香りに包まれながら、私は目を覚ました。朝の日差しが窓から降り注ぎ、落ち着いた茶色が毛先の橙色と同じくらい鮮やかに見える。
「…ルスキャ?」
私の視界に映っていたのは、同じベッドで横たわるルスケアの後頭部だった。上手く状況を呑み込めず、昨日の出来事を思い返す。
昨晩、行方不明になった少女を探し出し、数日間寝泊まりする別荘に帰ってきた。その後、ユオダスがそれぞれの部屋を指示し、私はルスケアとヴィーズの2人と同じ部屋で寝る事になったのだ。
寝る前に食事や入浴を済ませ、彼が用意したアロマと子守唄によって眠りについた。そして、今に至る。
「うー…ん…。」
彼は寝返りを打ち、私の方に身体を向けた。そして、瞼がゆっくりと開かれる。
しばらく私の頭上をぼんやりと眺めた後、彼の視線と私の視線が交わった。
「あ、あれ…?」
「…おはようルスキャ。」
「お…はよ…う…?」
状況が呑み込めていないのか、彼は言葉を詰まらせながら身体を起こした。両手を使って目元を擦り、部屋の様子を見回した後、私の服に視線を落とす。
「う…。」
「…う?」
「うわぁぁぁー!!!?」
突然の大声に驚き、目をつぶって耳を抑える。身体に掛けられていた布団が勢いよく飛ばされ、微かに扉の開く音が聞こえた。
目を開けるとそこに彼の姿はなく、扉が開いたままの部屋に私だけが取り残された。すると今度は、階段を駆け上がる足音と共に、別室の扉が開く音が聞こえてくる。
「な、なんや今の声!」
「アスールさん!大丈夫ですか!?」
慌てた様子のアルトゥンとビオレータが部屋へ駆け込み、私に声をかける。
「…へーき。」
「ルスケアが叫んどったけど、一体何があったんや?」
「…分からない。」
「ひとまず、怪我などは無いようですし…。食事をしながら、話しましょう。着替えて降りてきて下さい。」
「ほんなら俺も一緒に飯食うわ!ちゃちゃっと着替えてくるから、待っとってな?」
「…分かった。」
「なんかうるせぇと思ったら、ルスケアが叫んだのか。あいつが大声出すなんて珍しいな。」
別荘1階の窓際に置かれた大きなテーブルで、グリが用意した食事を頬張った。昨日の買い出しで購入した、野菜や果物を中心とした料理が並んでいる。
「彼が叫んだ理由は分からないそうですが…アスールさんに状況を聞けば、何か分かるかもしれません。」
「なんでこいつなんだよ。本人に聞きゃあ良いだろ?」
「彼に聞いた所で、まともに答えてくれるとは思えません。叫ぶなんて、余程の事だったでしょうから。」
「何があったんか知りたいから、アスールが目ぇ覚めた所から順番に教えてくれへん?」
花の香りで目が覚め、ルスケアが隣で寝返りを打ち、朝の挨拶を交わした後、彼が叫び声をあげながら部屋を出て行った。今朝の出来事を簡潔に伝えると、3人はそれぞれ違った表情を見せた。
「っはは!何やー。そんな事で叫んどったんかー。」
「何が面白ぇのか分かんねぇけど…そんな事ってのは同感だな。」
「話を聞いた所で、彼の心情までは分かりませんが…まぁ、おおよその状況は分かりました。」
一通り話終え、再び食事に手を伸ばす。野菜はあまり好きではないが、一緒に混ぜてある果物のおかげで、野菜の苦味が抑えられている。グリが私の好き嫌いを理解し、食べやすく料理しているのだろう。
「ルスケアと同じ部屋がええって言ったのは、アスールやったよね?一緒に寝たかったんか?」
「…歌、欲しかった。」
「歌?もしかして、前に言ってた子守唄か?」
「子守唄って、子供を寝かしつけたりする時に歌うやつやんな?」
「そうですね。歌詞や音程は住んでいる地域によって異なりますが…。ゆっくりとした速さで、優しく歌うものが多いですね。」
「へぇ~。ルスケアって、歌うんやなぁ。いつもみたいに恥ずかしがって、歌なんかせーへんかと思っとったわ。」
「そもそも、歌を聞く機会なんてねぇだろ。歌う機会もねぇしな。」
「彼は元々貴族ですから、そういった教育も受けていたのではないでしょうか?」
「そいや…ヴィーズも一緒の部屋やなかった?俺等が部屋行った時はおらんかったけど?」
アルトゥンの言葉を聞き、彼が部屋にいなかった事に気付く。
私がルスケアとの同室を希望したら、彼はヴィーズとの同室を希望していた。他の騎士達に異論もなく、すんなりと同室が決まったのだ。
「あいつなら、俺が飯作ってる時にユオダスと外に出てったぞ。昨日のガキが行方不明になった件で、役場に来いと言われたらしい。」
「はーん…。団長も副団長も大変やなぁ。」
「てめぇも少しは見習って、早起きしろよ。」
「ええやん休みなんやから!」
「てめぇ以外は全員起きてんだよ。」
「はぁ!?ローゼとジンガは!?」
「2人なら…2時間程前に起きてますね。外で訓練してますよ。」
窓の外に視線を移すと、少し離れた海辺に桃色と橙色の髪が見えた。彼等の鮮やかな髪色は、遠くからでもハッキリと存在が分かる。
「ビオレータも同じくらいに起きたんだろ?俺が降りてくる前から、その辺で本読んでたよな。」
「えぇ。せっかくの休みですからね。」
「嘘やろ…。休みやのに、訓練やら読書やらしてたら休まらへんやん!」
「何を言ってるんですか?本を読むのは、れっきとした休息です。仕事があったら出来ませんからね。」
「あいつ等も、休みの日はよく一緒に訓練してるぞ?」
「よーやるわ…。俺には考えられへん…。」
騎士達の休み方は、人によってそれぞれ違うらしい。私はふと、アルトゥンの休日の過ごし方について話した時の事を思い出した。
「…アルトは街、ブラブラする?」
「せやなぁ…。せっかくの休みやしそうしよかな!」
「てめぇ…またユオダスの尾行をするつもりじゃ…。」
「べ、別にええやん!誰にも迷惑かけとらんやろ!」
「…私もブラブラ、したい。」
「お?ほんなら一緒に街行こか?せや!せっかくなら、食べ歩きとかしてもええなぁ…!」
「おい…。今食べ終わったばっかで、まだ食う気か?」
「別にええやろー?ほんならアスール!準備して出かけよか!」
「昨日のガキみたいに、迷子になんじゃねぇぞ?また探す事になったら、めんどくせぇからな。」
「…分かった。」
「これからどんどん日差しが強くなりますから、帽子を被った方が良いですよ。」
「…そーする。」
「なんや2人共、過保護やなぁ。そんなに心配せんでも、俺がついとるから大丈夫やって!」
「うるせぇな…そんなんじゃねぇよ。行くならさっさと行って来い。ちんたらしてっと日が暮れっぞ?」
別荘の留守番を2人に任せ、アルトゥンと共に街へやって来た。
昨日ユオダスとグリに連れられて買い出しをした時にも感じたが、食材を買うお店よりも料理を提供する店の方が多いような気がする。
「…食べ物、いっぱい。」
「せやなぁ。貴族が沢山来る場所やから、料理屋も繁盛するやろな。」
「…アリルのお店より?」
「そらそうや!味はもちろん、母ちゃんのが美味いけど…客の量と値段で言ったら、こっちのが断然儲かるわ。」
周囲を見渡すと、どの店も沢山の人で賑わっていた。ビエントの貴族通りで見かけるような身なりをした客が多く、彼の考えは合っていそうだ。
「…お金、持ってない。」
「それなら心配せんでも大丈夫や。ああいう大きな店は無理やけど…あの辺の小さな出店なら、俺が奢ったる!」
彼は笑顔を浮かべながら、指し示した出店に向かって歩き出した。
「すみませーん。えーと…バニラを2つ下さい!」
「かしこまりました。今お作りしますので、少々お待ち下さい。」
「…食べ物?」
「ん?あぁ…アイスは初めてか!せやなぁ…冷たくて甘いデザートやな。今日みたいな暑い日に食べると、格別美味いんや!」
「お待たせしました。こちら、バニラアイスになります。」
お金と引き換えに、彼は店員から透明なコップを受け取った。中には白い塊が入っていて、ボウルをひっくり返したような丸みを帯びた形をしている。
「アイスは氷から作られとるから、早く食べんと溶けてしまうんや。そんでもって、食べた後は腹も冷えてまうから、食べ過ぎには注意やで?」
「…分かった。」
アイスに突き立てられたスプーンを握りしめ、白い塊をすくい取る。見た目以上に柔らかく、スプーンに触れた場所から少しずつ溶け始めた。慌てて口の中に放り込むと、甘みが広がってすぐに塊が無くなってしまった。
「どや?美味しいやろ?」
「…すぐ無いなる。」
「それはそういう食べ物なんや。アスールは甘いの好きやから、嫌いじゃないやろ?」
「…美味い。」
「せやろせやろー。次は何食べ…」
「あ、おーい!アルくん!アーちゃん!」
遠くの方から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。今朝から姿を見ていなかったヴィーズが、こちらに手を振りながら駆け寄ってくる。
「おーヴィーズやん。なんや慌てて…どないしたん?」
「今、不審者を追ってて…。ユーくんと探してるんだけど、こっちの方に男性が走って来なかった?」
「んー…。見とらんと思うけど…。アスールも見てないやんな?」
「…無い。」
「休みを楽しんでる所で申し訳ないんだけど、2人も不審者を探すの手伝ってくれないかな?身長は低めで、体格が大きい…短髪の男性なんだ。僕の見間違いじゃ無ければ、彼は…魔族だった。」
「なっ…!何でこんなとこに魔…」
「しーっ!あんまり騒ぎを大きくしたくないんだ。見つけ次第…対処するのは構わないけど、穏便に頼むよ。」
「りょ、了解や…。」
「僕はあっちの方を探すから、2人は向こうをお願い。気をつけてね。」
人混みに向かって掛けていく彼の背中を見送り、私はアルトゥンと共に不審者を探す事になった。
花の甘い香りに包まれながら、私は目を覚ました。朝の日差しが窓から降り注ぎ、落ち着いた茶色が毛先の橙色と同じくらい鮮やかに見える。
「…ルスキャ?」
私の視界に映っていたのは、同じベッドで横たわるルスケアの後頭部だった。上手く状況を呑み込めず、昨日の出来事を思い返す。
昨晩、行方不明になった少女を探し出し、数日間寝泊まりする別荘に帰ってきた。その後、ユオダスがそれぞれの部屋を指示し、私はルスケアとヴィーズの2人と同じ部屋で寝る事になったのだ。
寝る前に食事や入浴を済ませ、彼が用意したアロマと子守唄によって眠りについた。そして、今に至る。
「うー…ん…。」
彼は寝返りを打ち、私の方に身体を向けた。そして、瞼がゆっくりと開かれる。
しばらく私の頭上をぼんやりと眺めた後、彼の視線と私の視線が交わった。
「あ、あれ…?」
「…おはようルスキャ。」
「お…はよ…う…?」
状況が呑み込めていないのか、彼は言葉を詰まらせながら身体を起こした。両手を使って目元を擦り、部屋の様子を見回した後、私の服に視線を落とす。
「う…。」
「…う?」
「うわぁぁぁー!!!?」
突然の大声に驚き、目をつぶって耳を抑える。身体に掛けられていた布団が勢いよく飛ばされ、微かに扉の開く音が聞こえた。
目を開けるとそこに彼の姿はなく、扉が開いたままの部屋に私だけが取り残された。すると今度は、階段を駆け上がる足音と共に、別室の扉が開く音が聞こえてくる。
「な、なんや今の声!」
「アスールさん!大丈夫ですか!?」
慌てた様子のアルトゥンとビオレータが部屋へ駆け込み、私に声をかける。
「…へーき。」
「ルスケアが叫んどったけど、一体何があったんや?」
「…分からない。」
「ひとまず、怪我などは無いようですし…。食事をしながら、話しましょう。着替えて降りてきて下さい。」
「ほんなら俺も一緒に飯食うわ!ちゃちゃっと着替えてくるから、待っとってな?」
「…分かった。」
「なんかうるせぇと思ったら、ルスケアが叫んだのか。あいつが大声出すなんて珍しいな。」
別荘1階の窓際に置かれた大きなテーブルで、グリが用意した食事を頬張った。昨日の買い出しで購入した、野菜や果物を中心とした料理が並んでいる。
「彼が叫んだ理由は分からないそうですが…アスールさんに状況を聞けば、何か分かるかもしれません。」
「なんでこいつなんだよ。本人に聞きゃあ良いだろ?」
「彼に聞いた所で、まともに答えてくれるとは思えません。叫ぶなんて、余程の事だったでしょうから。」
「何があったんか知りたいから、アスールが目ぇ覚めた所から順番に教えてくれへん?」
花の香りで目が覚め、ルスケアが隣で寝返りを打ち、朝の挨拶を交わした後、彼が叫び声をあげながら部屋を出て行った。今朝の出来事を簡潔に伝えると、3人はそれぞれ違った表情を見せた。
「っはは!何やー。そんな事で叫んどったんかー。」
「何が面白ぇのか分かんねぇけど…そんな事ってのは同感だな。」
「話を聞いた所で、彼の心情までは分かりませんが…まぁ、おおよその状況は分かりました。」
一通り話終え、再び食事に手を伸ばす。野菜はあまり好きではないが、一緒に混ぜてある果物のおかげで、野菜の苦味が抑えられている。グリが私の好き嫌いを理解し、食べやすく料理しているのだろう。
「ルスケアと同じ部屋がええって言ったのは、アスールやったよね?一緒に寝たかったんか?」
「…歌、欲しかった。」
「歌?もしかして、前に言ってた子守唄か?」
「子守唄って、子供を寝かしつけたりする時に歌うやつやんな?」
「そうですね。歌詞や音程は住んでいる地域によって異なりますが…。ゆっくりとした速さで、優しく歌うものが多いですね。」
「へぇ~。ルスケアって、歌うんやなぁ。いつもみたいに恥ずかしがって、歌なんかせーへんかと思っとったわ。」
「そもそも、歌を聞く機会なんてねぇだろ。歌う機会もねぇしな。」
「彼は元々貴族ですから、そういった教育も受けていたのではないでしょうか?」
「そいや…ヴィーズも一緒の部屋やなかった?俺等が部屋行った時はおらんかったけど?」
アルトゥンの言葉を聞き、彼が部屋にいなかった事に気付く。
私がルスケアとの同室を希望したら、彼はヴィーズとの同室を希望していた。他の騎士達に異論もなく、すんなりと同室が決まったのだ。
「あいつなら、俺が飯作ってる時にユオダスと外に出てったぞ。昨日のガキが行方不明になった件で、役場に来いと言われたらしい。」
「はーん…。団長も副団長も大変やなぁ。」
「てめぇも少しは見習って、早起きしろよ。」
「ええやん休みなんやから!」
「てめぇ以外は全員起きてんだよ。」
「はぁ!?ローゼとジンガは!?」
「2人なら…2時間程前に起きてますね。外で訓練してますよ。」
窓の外に視線を移すと、少し離れた海辺に桃色と橙色の髪が見えた。彼等の鮮やかな髪色は、遠くからでもハッキリと存在が分かる。
「ビオレータも同じくらいに起きたんだろ?俺が降りてくる前から、その辺で本読んでたよな。」
「えぇ。せっかくの休みですからね。」
「嘘やろ…。休みやのに、訓練やら読書やらしてたら休まらへんやん!」
「何を言ってるんですか?本を読むのは、れっきとした休息です。仕事があったら出来ませんからね。」
「あいつ等も、休みの日はよく一緒に訓練してるぞ?」
「よーやるわ…。俺には考えられへん…。」
騎士達の休み方は、人によってそれぞれ違うらしい。私はふと、アルトゥンの休日の過ごし方について話した時の事を思い出した。
「…アルトは街、ブラブラする?」
「せやなぁ…。せっかくの休みやしそうしよかな!」
「てめぇ…またユオダスの尾行をするつもりじゃ…。」
「べ、別にええやん!誰にも迷惑かけとらんやろ!」
「…私もブラブラ、したい。」
「お?ほんなら一緒に街行こか?せや!せっかくなら、食べ歩きとかしてもええなぁ…!」
「おい…。今食べ終わったばっかで、まだ食う気か?」
「別にええやろー?ほんならアスール!準備して出かけよか!」
「昨日のガキみたいに、迷子になんじゃねぇぞ?また探す事になったら、めんどくせぇからな。」
「…分かった。」
「これからどんどん日差しが強くなりますから、帽子を被った方が良いですよ。」
「…そーする。」
「なんや2人共、過保護やなぁ。そんなに心配せんでも、俺がついとるから大丈夫やって!」
「うるせぇな…そんなんじゃねぇよ。行くならさっさと行って来い。ちんたらしてっと日が暮れっぞ?」
別荘の留守番を2人に任せ、アルトゥンと共に街へやって来た。
昨日ユオダスとグリに連れられて買い出しをした時にも感じたが、食材を買うお店よりも料理を提供する店の方が多いような気がする。
「…食べ物、いっぱい。」
「せやなぁ。貴族が沢山来る場所やから、料理屋も繁盛するやろな。」
「…アリルのお店より?」
「そらそうや!味はもちろん、母ちゃんのが美味いけど…客の量と値段で言ったら、こっちのが断然儲かるわ。」
周囲を見渡すと、どの店も沢山の人で賑わっていた。ビエントの貴族通りで見かけるような身なりをした客が多く、彼の考えは合っていそうだ。
「…お金、持ってない。」
「それなら心配せんでも大丈夫や。ああいう大きな店は無理やけど…あの辺の小さな出店なら、俺が奢ったる!」
彼は笑顔を浮かべながら、指し示した出店に向かって歩き出した。
「すみませーん。えーと…バニラを2つ下さい!」
「かしこまりました。今お作りしますので、少々お待ち下さい。」
「…食べ物?」
「ん?あぁ…アイスは初めてか!せやなぁ…冷たくて甘いデザートやな。今日みたいな暑い日に食べると、格別美味いんや!」
「お待たせしました。こちら、バニラアイスになります。」
お金と引き換えに、彼は店員から透明なコップを受け取った。中には白い塊が入っていて、ボウルをひっくり返したような丸みを帯びた形をしている。
「アイスは氷から作られとるから、早く食べんと溶けてしまうんや。そんでもって、食べた後は腹も冷えてまうから、食べ過ぎには注意やで?」
「…分かった。」
アイスに突き立てられたスプーンを握りしめ、白い塊をすくい取る。見た目以上に柔らかく、スプーンに触れた場所から少しずつ溶け始めた。慌てて口の中に放り込むと、甘みが広がってすぐに塊が無くなってしまった。
「どや?美味しいやろ?」
「…すぐ無いなる。」
「それはそういう食べ物なんや。アスールは甘いの好きやから、嫌いじゃないやろ?」
「…美味い。」
「せやろせやろー。次は何食べ…」
「あ、おーい!アルくん!アーちゃん!」
遠くの方から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。今朝から姿を見ていなかったヴィーズが、こちらに手を振りながら駆け寄ってくる。
「おーヴィーズやん。なんや慌てて…どないしたん?」
「今、不審者を追ってて…。ユーくんと探してるんだけど、こっちの方に男性が走って来なかった?」
「んー…。見とらんと思うけど…。アスールも見てないやんな?」
「…無い。」
「休みを楽しんでる所で申し訳ないんだけど、2人も不審者を探すの手伝ってくれないかな?身長は低めで、体格が大きい…短髪の男性なんだ。僕の見間違いじゃ無ければ、彼は…魔族だった。」
「なっ…!何でこんなとこに魔…」
「しーっ!あんまり騒ぎを大きくしたくないんだ。見つけ次第…対処するのは構わないけど、穏便に頼むよ。」
「りょ、了解や…。」
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