青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第8章︰成長

第86話

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すっかり日も落ち、腹の虫が空腹を訴え始める。

「あはは。お腹空いたよね。そろそろご飯にしよっか。」
「もうそんな時間か?時間が経つのは早いな。」

ベッドの上で剣の手入れをしていたジンガが、剣を鞘に収め、持っていた布を畳みだす。

「ビオくん呼んで来るね。そのテーブル、中央に運んでおいてくれる?」
「分かった。」

部屋を出て行くヴィーズを見送り、ベッドから降りてジンガの側に歩み寄る。

「どうした?」
「...手伝う。」
「そうか?なら、治癒士は椅子を運んでくれ。」
「...分かった。」

彼の指示に従い、近くの椅子に手をかける。

「持てるか?」
「...へーき。」

身長とほぼ同じ背丈の椅子を両手で掴み、床を擦るように移動させて行く。

「治癒士。どうして俺なんだ?」
「...何?」
「相部屋を希望しただろう?副団長でも書士でも無く、何故俺なんだ?」
「...ビズうるさい。ビオレタ嫌がる。」
「そうなのか?俺はてっきり、2人のどちらかを選ぶと思っていた。」
「...ジガも嫌?」
「いいや。俺は誰と一緒でも構わない。寝ている間は、何も気にならないからな。」
「...いびきも?」
「あぁ。どうやら俺は、死んだように寝ているらしい。」
「...寝ると死ぬ?」
「俺の寝ている様子が、死んだ様に見えるというだけだ。息はしている。」

彼と同室で寝たのは、初めてアリファーンへ行った時だが、あの時は全く気にも止めなかった。それは、彼の睡眠があまりにも静かだったからかもしれない。
部屋の外から足音が聞こえ始め、ゆっくりと扉が開かれた。

「あ、2人で準備してくれたんだね。ありがとう。」
「あなたが持つには大きいでしょう?後は俺が運びます。」

両手で握った椅子をビオレータに奪われ、ヴィーズがテーブルの上に料理を並べ始める。ジンガの隣に置かれた椅子へ腰を下ろし、全員がテーブルを囲むように着席した。

「それじゃあ、いただきます。」
「いただきます。」
「いただきます。」
「...いただきます。」

ヴィーズが用意した食事は、近くの店から買ってきた麺料理だ。細長い麺に白色のソースがかかっていて、別の容器に盛り付けられたサラダとスープが添えられている。

「...甘い。」
「カルボナーラは初めて食べる?」
「...カウボアー?」
「ミルクと卵を使ったパスタだよ。甘めの味付けだから、アーちゃんの口に合うかなー?と思って。」
「...ジガとビオレタは?」
「俺は、嫌いな物も好きな物も特に無い。」
「このくらいの甘さなら、俺も平気です。」
「...ビズは?」
「僕は甘いの結構好きだけど、これは絶対に食べられない!って程、嫌いな物も無いかな?他のみんなも、それ程大きな好き嫌いは無いよね。」
「食事は、バランスよく食べるのが大事ですからね。」
「ビオくんがそれ言う?」
「お、俺は食べる時間がバラバラだと言うだけで、食べていない訳ではありません。」
「そうなの?あんまり食堂に来ないから、ちゃんと食べてるのか心配だったんだ。」
「ご心配ありがとうございます。ですが...俺の心配よりも、アスールさんがサラダに手をつけていない事を気にした方が良いと思いますよ。」

苦手な野菜を食べずにいたら、ビオレータにその事がバレてしまった。慌ててサラダの容器に手を伸ばすと、隣に置かれたスープに腕がぶつかり、容器が床に転がり落ちてしまった。

「わっ...!アーちゃん大丈夫?」
「...へーき。」
「どこがですか...。このハンカチで、濡れた服を拭...」

ビオレータから布を受け取ろうと腕を伸ばすと、どこからともなく現れた兎が、テーブルの上に姿を現した。その時、膝に乗せていた石像が無くなっている事に気が付く。
そう思った矢先、空いた窓に飛び移った兎は、そのまま外へと姿を消してしまった。

「...せきぞー...行っちゃった。」
「ど、どういう事?ただの石像じゃ無かったの?」
「あれは、店主の旦那様が遺跡から見つけて来たと言っていました。」
「なら...石像では無く、石化した兎だったのか?」
「その遺跡、明日調査しに行こうよ。」
「あぁ。人間だけじゃなく、動物まで事件に巻き込まれているなら、尚更見過ごせない。」

食事を終え、移動の疲れを癒す為、明日に備えて休む事にした。



翌日。石像を買った店で詳しい話を聞き、街から少し離れた場所にある遺跡と呼ばれる建物へとやって来た。

「思ったより、小さな遺跡だね。」
「...遺跡、大きい?」
「大きいとも小さいとも限りません。過去に建てられ、現在は使われなくなった建物の事をそう呼びます。」
「副団長!こっちに、石化した人が倒れている!」

奥の部屋へ向かったジンガが、慌てた様子でヴィーズを呼んだ。部屋の中へ足を踏み入れると、人間の形をした石が床に転がり落ちていた。

「こんなに沢山...どうして...。」
「こちらには、動物の石像...いえ、石化した動物も居ますね。」
「石化事件の犯人が、ここを拠点にしている可能性は?」
「有り得ますね。石化した人や動物を集め、石像と偽って店に売り払い、儲けているかもしれません。」
「ジンくんとビオくんで、石化した人と動物を外へ運び出してくれる?それから、運ぶ為の荷車の手配も。」
「分かりました。」
「アーちゃんは僕と一緒に、遺跡の調査をしよう。危ないから離れないようにね。」
「...分かった。」

2手に別れ、薄暗い遺跡の中を奥へ奥へと進んで行く。

「薄暗いから、足元に気を付けてね。」
「...灯りする。」

私は目を閉じ、前方に伸ばした手を光らせる。

「すごい...!いつの間に上達したの?」
「...アニ教えてくれた。」
「えっと...どうして目を閉じたままなの?」
「...閉じてないと、消えちゃう。」

理由は分からないが、目を閉じていないと魔法の力を維持する事が出来ない。パニに魔法の使い方を教わる過程で、その事実が判明したのだ。

「じゃあ、転ばないように手を繋がないとね?」
「...分かった。」

目を閉じたまま、伸ばしていない方の手を胸元まで持ち上げる。すると、彼の手がそっと触れ合い、手全体がゆっくりと包み込まれた。
歩き出す彼に手を引かれ、何も見えない暗闇の中を歩み進める。

「この辺りに石像は無いみたい。けど...誰かが住んでる様な痕跡も無さそう。」
「...誰も居ない?」
「もっと奥に進めそうだけど、入り組んでて迷子になりそうだなぁ...。」
「…歩いたとこ、パン落とす。」
「パン?今は持ってないから出来ないけど...落としてどうするの?」
「...来た道分かる。」
「あー...なるほどね。パンが置いている所は、1度通ったって分かるようになるんだ。その話は、誰かに聞いたの?」
「...本読んだ。」
「へぇー...そんな本があるんだ...。アーちゃんは勉強熱心...」

話の途中で、彼が歩みを止めた。状況が見えていない私は、ヴィーズの名前を呼びかける。

「しっ...。子供の足音がする。」

声を潜め、ゆっくりと歩き出す彼に合わせて一歩…一歩と踏みしめる。

「君...!こんな所で何してるの?」
「わっ!?だ、誰!?」

少年の声が聞こえ、目を開いた。前方に伸ばした手から光が消えていき、周囲に闇が広がっていく。
少年の近くに置かれた灯りが、彼の顔をほんのり照らしていた。見た目の幼い少年で、背丈は私と同じくらい。ヴィーズよりも短髪で、元気で活溌な男の子...宿屋で出会ったセアルが話していた特徴と一致している。

「もしかして...君がガルくん?」
「えっ...なんで俺の事知ってるの?」
「セアルちゃんに頼まれたんだ、君を探して欲しいって。まさかこんな所に居るとは思わなかったけど...。」
「セアルが俺を?そっか...それであんた達を寄越したんだ。」
「...何でここ居る?」
「あ、そうだ。君、遺跡の入口に転がってた石像に心当たりは無いかな?僕達、石化事件についての調査もしてるんだ。何か知ってる事があれば、教えて欲し...」
「ご、ごめんなさい!俺...が、やりました...。」
「え?やりましたって...君が?」

少年を先頭に、遺跡の入口へ歩みを進める。その道中で、彼は自分の行いを悔いている話を聞かせてくれた。

「俺、産まれた時から何の取り柄もなくて...最近になって、ようやく魔法が使えるようになったんだ。」
「それが、石化の魔法って事?」
「そう...。最初は皆に自慢したくて、リスとか兎とか...小さい動物を石化させて、プレゼントしたり店で売ったりしてたんだ。皆が喜んでくれるから、調子に乗って...。そしたら、いつの間にか...触れるだけで石化出来るようになってて...。動物だけじゃなくて、人まで石化させちゃって...段々...大事になっていって...。」
「それで言い出せなくなっちゃったんだね。」
「...うん。ごめんなさい...。」
「教えてくれてありがとう。ずっと言えなくて...辛かったよね。」

ヴィーズは少年の頭に手を伸ばし、彼の頭を撫でた。

「こ、子供扱いすんなよ...!どうして良いか...分かんなかっただけだし...。」
「君くらいの年齢なら、役所も大目に見てくれると思う。僕がちゃんと訳を話すから、安心して。」
「ありがとう...。でも、何でそこまで...」
「副団長...!犯人は見つかったか?」

暗がりから、ジンガの声と共に小さな明かりがやって来る。彼の後ろには、ビオレータの姿も見えた。

「その少年は...?」
「彼はガルくんだよ。ほら、宿を譲ってくれたセアルちゃんに探すよう頼まれてた。」
「あぁ。彼がそうか。」
「随分偶然ですね。ここへは、石化事件の調査に来たはずですが...行方不明の少年が居たと...。」
「事件の方も調べはついてるよ。役所へ報告に行こう。」
「そうなのか?」
「でしたら、後は石化した人達を治療する方法を探さないといけませんね。」
「その事については、彼を送り届けてからにしよっか。」

ヴィーズは、ガルが石化事件の犯人である事を明かさなかった。彼の考えは読めないが、余計な口出しをしないよう、私は黙って従う事にした。
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