青女と8人のシュヴァリエ

りくあ

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第8章︰成長

第85話

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「それじゃあまずは、聞き込みからだね。」

様々な乗り物をを乗り継ぎ、事件が起こっている街に辿り着いた私達は、調査をするべく広場に集まった。

「治癒士はどうする?」
「話を聞くだけだから、3手に別れようと思うけど…アーちゃんは、誰と一緒に行きたい?」
「…ビオレタ。」

私は迷うことなく、彼の名前を口にした。すると、ヴィーズとジンガの視線が私から彼の方へ移動する。

「な、何故俺なんですか?」
「…心配。」
「俺からしたら、1番心配なのはあなたですよ。」
「アーちゃんは、どうしてビオくんが心配なの?」

彼の事は、まだまだ分からない事も多い。以前、彼が魔族かもしれないと思った事があり、その考えが完全に消えた訳ではなかった。

「…何となく。」
「何となくは理由になっていません...!」
「まぁまぁ。アーちゃんがそうしたいなら、そうさせてあげようよ。ちゃんとビオくんの言う事は聞くでしょ?」
「…聞く。」
「全く…仕方ないですね。」
「じゃあ、昼時になったらまたここに集まろう。それまでは別行動で。」
「分かった。」



「アスールさん。俺が心配だと思った理由、何故皆さんには言えなかったんですか?」

人で賑わう通りを進んでいると、隣を歩くビオレータが口を開いた。

「…何で分かる?」
「あなたが理由もなく、俺を選ぶとは思えないからですよ。嘘をつける程、口が上手くもないでしょうし…心配だと思う根拠が、しっかりあるのだと思いました。」
「…ちゃんと見てる。へーき。」

彼の顔を見上げると、深く被ったフードに隠れた黄色の瞳と目が合った。その瞬間、足がもつれて身体が前に倒れかかる。
すかさず伸びた彼の腕に支えられ、倒れる事無くその場に留まった。

「俺の心配をする前に、自分の心配をして下さい。」
「...分かった。」

彼の腕が身体を離れ、再び歩き出す。
彼の知られざる一面はいくつもありそうだが、不思議と彼に触れられる事は怖いと感じない。その理由を知りたいというのも、彼を選んだ理由の一つだ。
しばらく通りを歩いていると、気になる物が目に飛び込んで来た。

「おや?お嬢ちゃん。こいつが気になるのかい?」
「...これ石?」
「石は石でも、これは石像さ。見るのは初めてかい?」
「アスールさん...!勝手に歩き回らないで下さい!」

慌てて駆け寄る彼に顔を向け、店先に並んだ石の塊を指さす。

「...石あった。」
「お兄さん達、石を探してるのかい?」
「石を...では無く、最近この辺りで起きている石化事件について調べています。」
「あぁ...あの事件かい。お客さんが話してるのを聞いた事あるよ。」
「何か知っている事があれば、お聞きしたいのですが...。」
「悪いけど、聞いた事あるってだけで詳しい事はなーんにも知らないよ。」
「そうですか...。」
「...この石、作った?」
「いんや。この石像は、近くの遺跡から掘り出したもんだよ。うちの旦那が探検家をやっててね。色々とガラクタを拾ってくんのさ。」
「旦那様は、今どちらに?」
「店の奥に居るけど...買い物客じゃ無いんなら、そろそろ帰ってくれないかい?こっちも遊びじゃないんだよ。」
「...分かりました。では、これを1つ下さい。」

彼は店主にお金を払い、私が先程指差した石像を購入した。

「まいどあり!...おーいあんたー!お客さんが話を聞きたいそうだよー!」

店主の呼び掛けに応えるように、奥の部屋からやって来た男性に事件の話を問いかける。

「あー...悪いけど、オラも詳しい話は知らんなぁ。」
「そうですか。わざわざお呼びだてしてすみません。」
「...ありがとう。」

購入した石像を両腕で抱え、再び通りを歩き出す。

「俺の言う事を聞くと言いましたよね?何故あんな勝手な真似をしたんですか?」
「...ごめんなさい。」
「謝れば良いという問題ではありません。軽率な行動には危険が伴いますし、余計な出費もしました。」
「...ありがとう?」
「感謝しろとは言ってません。我々は、危険な仕事をしているのだという自覚を持って下さい。」
「...分かった。」
「...はぁ。」

ため息を漏らす彼の背中を、駆け足で追いかける。事件の真相を明らかにする為の聞き込みは、太陽が空高く昇るまで続いた。



「そっか...。じゃあ皆、これと言った情報は得られなかった訳だね。」
「どの話も、不確かなものが多い。一つ一つ確認してまわるのは、骨が折れそうだ。」
「...怪我する?」
「そのくらい大変だという比喩です。真に受けないで下さい。」
「ところで...アーちゃんが持ってる、その置物は何?」

ヴィーズが私の胸元を指さすと、彼等の視線は腕に抱えた石像へと集まる。

「話を聞こうとしたら、商品を買うよう言われて...仕方なくです。」
「これは...兎の石像か。よく出来ている。」
「この長い耳とか、本物そっくりだね。」
「そんな事より、この後はどうするんですか?また別れて聞き込みを?」
「聞き込みは聞き込みなんだけど...石化してしまった人達が、病院に集められてるらしいんだ。その人達の様子を見つつ、家族に話を聞くのはどうかなと思って。」
「石化の治療は、出来ないものなのか?」
「えぇ。石化は、怪我とは違いますからね。魔法や呪いの術者しか、元に戻す方法は分からないと言われています。」
「治療は無理でも、何か手掛かりは掴めるかもしれない。とにかく行ってみよう。」



病院の中は多くの人が行き交い、それなりに賑わっていた。受付の女性に案内され、石化した患者を集めた部屋へと通される。
敷き詰められるように置かれたベッドに、人型の石が1つずつ横たわっていた。

「こんなに沢山...。」
「はい...。それほど頻度は多くないのですが、治す方法が分からないので...どんどん増える一方でして...。」
「あなたがここの患者を見ているのか?」
「いいえ。この部屋へは、お医者様しか出入りしていません。石化してしまっては、食事などのお世話も必要ありませんので。」
「この部屋を担当している医者に話を聞きたいのですが、今いらっしゃいますか?」
「はい。探して来ますので、少々お待ち下さい。」

女性は深々と頭を下げ、部屋を出て行った。
ビオレータが窓際へ歩み寄り、患者の1人に視線を落とす。

「石化した人間を見るのは初めてですね...。」
「...人間以外はある?」
「そういう意味ではありません。本で見ただけで、実物を見た事は無かったという話です。」
「僕も初めて見たよ。話にしか聞いた事無かったなぁ...。」
「俺もだ。これは、一応生きているんだよな?」
「恐らくそのはずです。石化と言っても、石になったのは表面だけで、体内の臓器は動いているらしいですから。」
「けど、ずっとこのままだったら、いつかは死ぬって事だよね...。」
「...そうです。栄養も水分も、取れない状態ですからね。」
「彼等の命は、俺達の調査にかっている訳だな。」

彼等の険しい表情から、事の重大さが伝わってくる。
後からやって来た医者の話は、ビオレータの話を復唱するかのように一致していた。私は改めて、彼の博識ぶりに驚かされるのだった。



「じゃあ、僕達は先に宿屋へ向かってるね。」
「話が済み次第、合流します。」

ヴィーズと私、ジンガとビオレータが2手に別れて行動する事になった。病院で患者の家族について情報を得たので、彼等で話を聞きに行くと言う。

「...ビズは行かない?」
「うん。僕が居なくても、2人ならちゃんと聞き込みしてくれるだろうからね。」

彼と並んでしばらく歩き、宿屋と思われる建物に足を踏み入れる。

「あー...1部屋しか空いてないんですね。うーん...どうしようかな...。」

宿屋の店主を目の前に、ヴィーズは戸惑いを見せた。

「...部屋2ついる?」
「僕とアーちゃんの2人だったら、1部屋でも良かったけど...。4人じゃ流石に狭いと思うんだ。すみません。2部屋必要なので...別の所に泊まる事にします。行こうアーちゃん。」

店主に背を向け、出口へ向かう。

「あんた達!ちょっと待って!」

背後から声をかけられ、後ろを振り向く。すると、見知らぬ女性が長い髪を揺らしながら、こちらへ駆け寄って来た。

「僕達に、何か御用ですか?」
「ちょっと話があるんだけどー...今って時間ある?」
「あ、はい。構いませんよ。」
「じゃー...とりあえず、そこの椅子に座って話そ?」

彼女はセアルと名乗り、私達に取引話を持ちかけてきた。彼女が泊まる部屋を私達に譲る代わりに、行方不明の友達を探して欲しいのだと言う。

「分かりました。お引き受けします。」
「え、マジ?そんなあっさり引き受けてくれんのー?」
「ビエント騎士団は、人々の役に立つのが仕事ですからね。」
「え?この子もそーなの?」

彼女の視線が、驚きの表情と共に私へ向けられる。

「ええ。彼女も僕達の大切な仲間です。」
「ふーん...。」

何かを疑うような青い眼差しに、私は思わず目を逸らした。

「...すみません。彼女はちょっと訳ありで...言葉や感情を上手く表現出来なくて。」
「別に気にしないしー。で、そのガルって子なんだけどー...。」

それからセアルは、自身の友達のガルについて語り出した。
彼女よりも幼い少年で、背丈は私と同じくらい。ヴィーズよりも短髪で、元気で活溌な男の子だと言う。

「じゃ、お願いねー。」

話を終えたセアルはその場から立ち上がり、長い髪を揺らしながら宿屋を去って行った。

「宿は確保出来たけど...余計な首を突っ込んじゃったかなぁ...。」
「...首?」
「彼女の話を聞く限り...そのガルって子は、かなり動き回ってそうなんだよね。同じ場所に留まってる可能性が低いと、探すのが大変そうだなって。」
「...でも約束。」
「うん。話を聞いたからには無視出来ないよね。後で、ビオくんとジンくんにも相談してみるよ。...ところでアーちゃん。」
「...何?」
「さっきの女性、怖かった?」
「...何で?」
「...ううん。僕の気のせいかも。それじゃ、宿も取れた事だし...みんなの分の食事を買いに行こうか。」

ヴィーズの違和感が少々気になったが、今の私では彼の後をついていく事しか出来なかった。
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