エテルノ・レガーメ

りくあ

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第4章︰ルカとルナ

第33話

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「本当に…ルカ…なの?」
「はい。そうですけど…。」

僕はわけも分からず、クラーレさんの元に連れてこられた。

「…一体何があったの?」
「ちょっと…部屋でルナと揉めて…。」
「えっと…。ルカは、どうして部屋にいたのかわかる?」
「わからないです…。目を開けたら、目の前にミグさんがいて…。ここは…どこですか?」
「ここは、ギルドだよ。僕が変わらずマスターをしてるし、シェリアやリーガルも居るよ。」
「そう…なんですか?なんだか雰囲気が違うなぁ…。」
「ルカ…。ルナの事は知ってるか?」
「はい。友達ですから…!」
「これは…ヴェラに聞かないとわからなさそうだね…。」
「そうだな…。」
「呼んだか?」

猫が窓からぴょんと降りると、こちらに近寄ってきた。

「この猫はギルドで飼ってる猫ですか?」
「は?何言ってるんだルナ。」
「喋った!?」
「ルカ…落ち着いて。この猫はヴェラだよ。」
「ルカ!?どうしてルカが表に…。」
「なんだ~ヴェラだったんだ。びっくりした~。」
「なんだ~じゃない!どうやって出てきたの?ルナは?中?」
「出てきたって?ルナはここに居ないの?」
「状況を説明する…。」



「なるほど…。頭を打った後、突然ルカに変わったと…。」
「どうしてこうなったのか、僕達じゃ誰もわからなくて困ってたんだよ。」
「そうだな…考えられる可能性としては、ルナが気を失った事で中にいたルカが出てきた…のが1番有り得るだろうな。」
「その場合、ルナはどうなってるんだ?」
「おそらく、ルカと立場が逆転したんだろう。中で眠っているだろうな。」
「言われてみれば…何となくだけど、僕の中にルナが…居るような気がする…。多分だけど…。」 
「ところで、ルカはルナの事知ってるのにミグの事は知らないんだね?」
「ルナは度々ルカと夢の中で会っていたからな。だが、ルナが見ている物や考えている事までは、中にいるルカにはわからない。」
「ギルドの事もわからないみたいだけど…。どこまで覚えてる?」
「えっと…。クラーレさんとヴェラが口論になって…僕が床に沈んでいって…ガゼルの腕を掴んだけど、結局沈んじゃって…。その後は…。誰かと話をして…名前を名乗ったと思うけど…。この辺りは記憶が曖昧でよく思い出せないや…。」
「私が連れ去る所までで、記憶は止まっているようだな。」
「あ!その後に目が覚めたら、すごーく広い草原の中で横になってて、近くに家があったからそこに住んでたよ!」
「広い草原に…家?」
「それはルナの夢の中の話だな。私が見たから間違いない。」
「じゃあ…ルカがいなくなる前の記憶までしかないって事か…。」
「これ、他のやつに話すべきなのか?」
「どうしたらいいだろう…。身体はルナのままだから、絶対変だと思われるし…。」
「ルカが気を失えば…またルナに変わるんだろうが…。」
「それまで、僕はこのままなの!?」
「おそらくな…。」
「だ、大丈夫だよ…!2人ともそんなに喋り方違わないし!」
「それはそうかもしれないけど…。でも…僕、男だし…。」
「ルナの世話は俺がしてたから、出来る限り手伝うよ。」
「お、お願いします…。」
「私はしばらく留守にする。ちょっと調べたい事があるから。」
「うん。わかった。」



「…。」
「…。」

部屋に戻る途中、ミグさんと何を話していいのかわからずに気まづい空気が流れていた。

「なぁ…ルカ。」
「な、なんですか?ミグさん…。」
「横に並んで歩くとか、もう少し親密そうにしないと不自然じゃないか…?」
「ご、ごめんなさい…」
「それと、敬語もミグさんってのももやめてくれ。俺も出来る限り…ルナって呼ぶようにするから…。」
「は、はい…。」
「…会ったばかりなのに悪いな。慣れないだろうけど…なんだか、ルナが離れていったように感じるんだ…。」
「ミグさ…ミ、ミグは、ルナの事好きなんだね。」
「え!?いや、別にそんなんじゃ…!」
「見てたらわかるよ。心配してる様子とか不安になる気持ちとか、ルナの事大切にしてるって事でしょ?」
「そう…見えるか?」
「うん!」
「ルナは…俺の事何か喋ってたか?」
「ううん。ミグの名前は聞いた事なかったけど…。」
「そうか…。」

部屋の中に入ると、彼女が使っていた物があちこちに散らばっていた。

「またあいつは…片付けもしないで散らかして…。」
「あはは…ルナって片付けが苦手なんだなぁ。」
「片付けだけじゃなく、掃除や料理も苦手だぞ。」
「そうなんだ…。あ、僕やるよ!こういうの、結構好きなんだぁ。」
「そうか。じゃあ俺は…報告書の続きでも書くか…。」

ふと鏡に写った自分の姿が、可愛らしい少女になっている事に違和感を感じつつ、部屋の片付けを黙々と進めた。



「なールナ。」

後ろにいたミグに突然声をかけられ、始めは自分の事だと気づかず、遅れて返事を返した。

「な、なーに?ミグ…。」
「あ、悪い…ルカだったな…。」
「いいよいいよ!むしろそう呼ばないと不自然だし…。僕…わ、私も…慣れないと…!」
「性別まで違うってのは、大変そうだな…。」
「それで…どうかしたの?」
「あぁ。ヴェラから吸血鬼の体調管理の方法を簡単に聞いておいたんだ。ほら、それ赤くなってるだろ?」
「なに?これ。」
「血の量が分かるリングだそうだ。紫以外は身体に良くない。」
「あのさ…ミグ…。吸血鬼って…誰の事?」
「え…?ルナから聞いてないのか?」
「ル、ルナが吸血鬼なの?」
「てっきりルナかヴェラが話してると思ったんだが…。」
「じゃあ…今の僕は吸血鬼って事なんだ…。」
「知ってるのは、クラーレさんとヴェラと俺くらいだ。他の奴には言わないようにしてくれって、クラーレさんが言ってた。」
「そ、そう…。わかった。」
「で、リングが赤い時の対処法なんだけど…。指を少し切って血を出すか、血の魔法を使うか…なんだが…。魔法の使い方わからない…よな?」
「うん…わからない…。」
「じゃあ…痛いかもしれないけど…少し切るしかないな。リングが紫色になるまで血を出して、止血は傷口を舐めれば大丈夫らしい。」
「わ、わかった…。」



「ルナ~いる~?」
「い、いるよ~。」

夕飯を食べ終えた後、部屋でくつろいでいると1人の女の子が扉を開けて部屋にやってきた。

「どうした?ソルティ。」

『 この子はソルティって言うのか…。』
ミグが起点を聞かせて、わざと彼女の名前を口にした。

「一緒にお風呂!入らないかなー?って思って。」
「!?」
「あー…。こいつ、ちょっと風邪気味だから、明日入るって…言ってたよな?ルナ。」
「あ、うん!そうなの!ごめんね…ソルティ…。」
「そうなんだ…それなら仕方ないね!また今度はいろ~。」
「うん…!」

話を終えると、彼女は部屋を出ていった。

「ありがとうミグ…助かったよ…。」
「いや…いいけど…。そういえば、風呂の事考えてなかったな…。1人で平気か?もしあれだったら俺が一緒に…。」
「うーん…1人じゃどうしていいかわからないし…。お願いしよう…かな。」
「じゃあ、もう少し経ってから入りに行くか。」
「うん。」



「なんかこれ…自分の身体を見られるよりも恥ずかしい…!」
「そうか?俺は一緒に入った事あるし、なんとも思わないけど?」
「ミグとルナって兄妹なの?」
「一応そういう事になってる…けど、本当は違うんだ。一部のメンバーしか知らないんだけど…俺はルナの執事。」
「え、執事…ってことは…?」
「その辺話してなかったよな…。身体洗いながら色々話すよ。」 
「お、お願いします…。」

誰かに身体を洗ってもらうのは産まれて初めてで、途中くすぐったくて声が出てしまいそうになるのを必死に我慢しながら、なんとか事を済ませた。
お風呂からあがって部屋に戻ると、彼が話の続きをしてくれた。テト王子と彼自身の事や、ソルティ達との事、このギルドの様子など彼が知っている範囲の事を教えてくれた。

「こんなもんかな…。他になんか聞きたいことあるか?」
「今の所は…ないかな!ありがとう!」
「いいよこれくらい。」
「そうだ…明日って仕事ある?」
「あぁ…あるな。いつもはルナとやってたけど…それも一緒にやりながら教えるよ。」
「何から何までごめんね…。」
「いいって。」
「何か僕にして欲しい事、あったらなんでも言ってね!」
「して欲しい事…か。…なんか考えとくよ。」
「うん!じゃあ、おやすみミグ。」
「おやすみ。」
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