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第5章︰エーリ学院【前編】
第40話
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「はぁ…はぁ…。ま、間に合った…。」
ミグにも手伝ってもらい、猛スピードで支度を済ませてなんとか遅刻は免れた。隣で心配そうにララが話しかけてくる。
「ルナちゃん…大丈夫?」
「おはよう…ララ…だ、大丈夫!ちょっと寝坊しちゃって…!」
「昨日、遅くまで夜更かししちゃった…とか?」
「そ、そうなの!あはは…。」
ガラリと扉が開き、ニム先生が教室に入ってくると生徒達はそれぞれの席についた。
「みなさん、おはようございまーす。昨日の実習で調べた魔力の量と適正属性をまとめた紙をお渡しします~。」
次々と生徒の名前が呼び出され、渡された紙を手に取る。私が手にした紙には、魔力:測定不可、適正属性:なし…と明記してあった。
「なにこれ…。」
「ルナちゃんどうだった?」
横から身体を乗り出し、ララが私の紙に目を通した。
「え…測定不可で…適正属性は…なしだったんだ…。」
「水晶壊しちゃったからかも…。はぁ…ちょっとへこむ…。」
「だ…大丈夫だよ!私だって大した事ないし…!ほら!」
彼女が差し出した紙を見てみると、魔力:並、適正属性:闇と書いてあった。小さくため息をつくと、彼女は申し訳なさそうに紙を自分の鞄にしまった。
「げ、元気だしてルナちゃん…。」
「はいはい!それじゃあ、今日の授業進めていきますよ~。」
はっきりとしない結果にモヤモヤしつつ、いつも通り授業が始まった。
「さてと…今日の授業も終わったし部屋に戻…」
鞄に荷物を詰めていると、1枚の紙が手をすり抜けて床に落ちた。それを拾おうと手を伸ばすと、前から他の手が伸びてきて紙を掴んだ。
「あっ…。」
「これ、ルナの結果?」
目の前には、さらさらとした金の髪…ユイの姿があった。
「そ、そうだけど…。」
「え、嘘…!魔力が測定不可で適正属性なしなの!?」
彼女は、他の生徒にも聞こえるようにわざと大きめの声で話し始めた。
「か、返…」
「測定不可なんて結果あるのね!周りの子にも見せてもらったけど、みんな並か優だったのに。しかも、適した属性がないなんて…凄い事よルナ!」
「っ…。」
周りで聞いていた生徒達がくすくすと笑い始め、惨めな気持ちにどんどん押しつぶされていく。
「やめなよ、ユイちゃん。」
その生徒の中から、1人の男子生徒が私達2人の間に割って入った。ふんわりとしたクリーム色の髪で優しい雰囲気の細身の彼は、私を背にして彼女の前に立った。
「何よ?あなた誰?」
「酷いなぁ。同じ教室で勉強してる仲間の名前も知らないの?僕は君の事、よく知ってるのに。」
「何それ…気味悪いんだけど…。」
「ユイナールスイナ。双子の姉で、君は下級吸血鬼なのに、妹は上級吸血鬼。」
「な…!?ちょっ」
「魔力はそこそこあるけど、火属性だけが取り柄で他の属性魔法は一切使えないし、魔力も持続しない。それに比べて出来のいい妹は、魔力は姉を上回り、火、水、闇の属性に適してる。」
「そ、それがどうしたっていうの?そんな私よりも、この子は劣ってるって事になるけど!?」
彼女が私を指さし、彼を睨みつけた。
「それはどうかな?」
「…はぁ?」
「魔力が測定不可なのは、魔力が全く無いのとは違う。測り知れない程の大きな魔力を持っている…僕ならそう解釈するよ。」
「それはあんたの解釈でしょ?確証はあるの?」
「魔力を測る水晶…あれを破壊する程の威力だよ?ニム先生が言ってたけど、あれが壊れた所は見た所がないって。」
「魔力の制御が出来てないから壊したんでしょ?たとえ魔力があっても、制御しきれないなら全く無い様なものよ!」
彼が私の方に身体を向けると、真っ直ぐ私の目を見た。彼の綺麗な青い瞳に吸い込まれそうになっていると、彼は軽く微笑んだ。
「目を見ればわかるよ。…君にはわからないみたいだけど。」
「そんなの…。じゃ、じゃあ、適正属性がないのは?どの属性も扱えないっ事よね?」
「それも違う。適した属性っていうのは、扱える属性とは別物だからね。適した属性が無いというのは、逆にどの属性でも扱えるって事になる。」
「は?意味がわからな…」
「うーん。どう説明したら君に理解してもらえるかな?」
「っ…。もういい!属性があろうが無かろうが関係ないわ!」
彼女がしびれを切らして教室から出ていくと、それを見ていた周りの生徒達も次第にバラけ始めた。
「あ、あの…ありがとう。」
「どういたしまして。あ…でも、お節介だったかな?」
「ううん…!すごく助かったよ!えっと…
」
「僕は、フラン。フランドルフルクだよ。よろしくね、ルナちゃん。」
「ありがとうフラン!今度、何かお礼をさせて!」
「お礼?なんの?」
「なんのって…さっき助けてくれたお礼!」
「別に大した事してないよ。僕が勝手にした事だしね。」
「それでも嬉しかったから、この恩を返したいの!」
「そこまで言うなら…僕のお願い、1個聞いてくれる?」
「え?お願い?」
「ど、どうぞ…!」
「お邪魔します。」
彼の要望により、私の部屋に招待することになった。少し前まで殺風景だった部屋は、魔法によって白を基調とした部屋に作り替えていた。
「綺麗な部屋だね。」
「そ、そうかな?自分が使いやすいように作っただけだよっ。」
必要最低限の家具を短時間で作った為、かなりシンプルで簡素な部屋になっている。その中央にあるソファーに彼が腰を下ろすと、不思議そうにこちらを見た。
「作った?備え付けの家具じゃないのかい?」
「え、うん…。あれ?フランは自分で作らないの?」
彼は、興味津々にソファーを手で触ったり、叩いたりしている。
「どうやって作ればいいの?」
「どうやってって…魔法で…」
「へ~。魔法でそんな事も出来るんだね。知らなかったよ。」
「ご、ごめん…!その…。」
「いやぁ…僕が勉強不足なだけだから気にしないで?魔法すごく苦手なんだよね。」
「へぇ~…あんまり吸血鬼で魔法が苦手なんて見たことないなぁ…。」
「魔法が苦手な人間なら見たことある?」
「え!?」
魔法が使えない人間と言われて、私はルカの事を思い浮かべていた。彼の発言は、まるで心の中を見透かした様だった。
「どうかした?」
「あ、いや…なんでも…!…そういえば、フランのお願いって部屋に来るだけで良かったの?」
「他にも何かお願い聞いてくれるの?」
「もちろん!だって助けて貰ったんだし…。」
「じゃあ…。」
彼が何か言いかけると、その場に立ち上がり私の隣に腰をおろした。状況を飲み込めずにいると、彼が私の手を握りしめた。
「え、フラン…?」
彼はこちらをじっと見つめ、にっこりと微笑んだ。
「僕と友達になってくれる?」
「…え?」
予想していなかった言葉が彼の口から発せられ、しばらく口を開けたまま放心していると、握ったままの手が上下に動かされた。
「あれ?おーい。ルナちゃん?」
「え、あ!ごめん!」
「だめかな?」
「ううん!もちろんいいよ!」
「よかった。よろしくねルナちゃん。」
「うん…よろしくフラン。」
「…おい。いつまで握ってる。」
フランと握っていた手を強引に引き離されると、機嫌が悪そうなミグが隣に立っていた。
「わ、ミグ…。」
「あ!もしかして、君がミグ君?初めまして。僕はフラ…」
「フランドルフルク様。既に存じ上げておりますので、自己紹介は結構です。」
「あれ?そう?」
「急にどうしたの?ミグ…。」
「ルナ様の身の危険を感じたので出て参りました。」
「え?危険?」
「危険を察知して出てきてくれるんだ。凄いね使い魔って。」
「それが役目ですから。」
「いいなぁ。僕も、ミグ君みたいな使い魔が欲しいな。」
「…申し訳ありませんが、仕える主は1人だけと決まっていますので。」
「あはは。それくらいは知ってるよ。じゃあ…せめて友達にはなれないかな?」
「と、友達…ですか…?」
「他の人の使い魔でも、友達くらいならいいよね?ルナちゃん。」
「あ、うん。私はいいと思うけど…。」
「やった。じゃあ、2人共よろしくね。」
「は、はい…。」
「僕は…そろそろ戻ろうかな。今日はありがとう。」
「ううん!こっちこそ助けてくれてありがとう!」
「また遊びに来るね。」
彼が手を振りながら部屋を出ていくと、立ったままだったミグがソファーに座った。
「おいルナ…。なんなんだ?あいつ…。」
「わ、わかんない…。ちょっと変わってるよね…。」
「いやいや…ちょっとじゃなくてかなりだろ!」
「あ、あはは…。」
「今日の実習は、武器を作る魔法を勉強しますよ~。」
「魔法の実習…嫌だなぁ。」
もうすっかり馴染んでしまったフランが、隣に座りボヤいていた。
「ルナちゃんは魔法得意だよね?」
「ま、まぁ…得意って程じゃないけど…。」
「ララちゃんは?」
「え、えっと…私も…得意って程じゃ…。」
フランの反対側に座っているララが、少し恥ずかしそうに答えた。
「確か、自分の使いたい武器をイメージするんだったよね?」
「あれもこれもって何個もイメージしちゃうと上手くいかないから、1つに絞った方がいいよ!どんな武器を作りたいかは決まってる?」
「それはもう決めてるよ。」
「えっと…教科書では、作りたい物の成分とか性質とかをイメージするのが大事…だったはずだよ。」
「作りたい物の成分…性質…か。うーん…。“血の盟約は…」
彼は、その場に立ち上がり、ぶつぶつと呪文を唱えながら親指を噛むと、そこから流れ出る血で2本の剣を作り出した。
「凄いよフラン!出来てるよ!」
「あれ?ほんとだ。剣作ろうって思っただけだったのにな。意外と簡単だったね。」
「凄いですね…いきなり作り出すなんて…。しかも2本も。」
「2本だったのは予想外だったけど…扱えない事もないかな。」
床に突き刺さった2本の剣を右手と左手でそれぞれ手に取ると、パチパチと手を叩く音が近づいてきた。
「へ~。あんた、結構凄かったのね。」
ユイがこちらにやって来るのを見て、右側にいたララがほんの少し後ろに後ずさった。それに対して左側に立っていたフランは1歩前に出た。
「お褒め頂いて嬉しいよ。頑張った甲斐があるね。」
「別に褒めてないわよ。」
「あれ?そうだった?」
「ユイの方はどうなの?」
「もちろん出来たわ。こんなの魔法の基礎中の基礎よ?」
彼女は得意そうに右手の上にオーブを出してみせた。
「それが君の武器?ただの玉にみえるけど。」
「オーブよオーブ!知らないの!?」
「ごめんごめん。魔法の事よく知らないからさ。」
フランが爽やかな笑顔で笑ってみせた。それを見たユイが小さく咳払いをした。
「そ、それより…あんた達はまだ出せてないの?」
私とララが何も手に持っていないのを見て、彼女がそう言った。
「ま、まだ…だよ。」
「ま、そりゃそうよね。“並”と“測定不可”じゃ難しいわよ。」
あきらかに落ち込んでいるララを見て、苛立ちの感情が湧き出てきていた。
「なら今から私が…」
「ユイちゃん。」
魔法が使える事を証明しようと1歩足を踏み出そうとすると、それよりも早くフランの腕が私の前に伸びた。
「何よ。」
「君、何しにきたの?」
「え…わかるでしょ?からかいに来たのよ。」
「からかうって楽しい?僕、した事ないからわからないんだけど。」
「はぁ…?」
「それぞれ、魔法を使えるようになるのは時間差があるのは知ってるよね?ユイちゃんが使いこなせてるのは見ればわかるよ。でも、他の子が使えないのをわざわざからかいに来るなんて、何がしたいのか僕には理解できない。」
「別にあんたに理解して貰いたい訳じゃないわよ!」
「じゃあ…友達になりたいって事?」
「ますます意味がわからないわよ!はぁ…あんたと話すのは疲れるわ。」
そう言い残すと彼女は立ち去って行った。
「最近ユイの絡みがキツくなってきたな。」
「そうだね…。」
テーブルを挟んだ向こう側にあるソファーには、ミグとルカが座っている。ミグは腕と脚を組み、眉間に皺を寄せている。一方ルカは両手でカップを包むようにして持ち、不安そうな表情を浮かべている。
「ルナが力を抑えてるのをいい事に、自分が主導権を握ろうとしてる…って事なのかな?どうしてそこまでして他人を貶めたいんだろう…。」
「それは私にもわからないけど…。」
「自分が1番強いって思ってるんだろ?使い魔すら使役出来ないくせに…。」
ミグが、組んでいる脚を小刻みに揺らし始めた。彼がイライラした時によくやる仕草である。
「私よりも、ララが心配だよ…。私は出来るけどやらないだけで、ララは出来ない訳だし…。」
「そうだな。ルナは何かされそうになっても俺が出ていけば済むけど、ララに使い魔を使役出来る程の力があるようには見えないしな。」
「ミグがニム先生みたいに分裂出来たらいいのにね。」
「それはさすがに無理だよルナ…。」
「いや!もしかしたら出来…」
「無理だ。俺はスライムじゃないんだぞ?」
「だよね~。うーん…。」
ーゴーン…ゴーン…
部屋に飾ってある時計が鐘の音を鳴らした。
「これ、何の音?」
「あ、これね!ルナが目覚める時間に、鐘がなるようにしたんだ!ミグが作ってくれたんだよ。」
「俺はルカの言われた通り組み立てただけだ。考案したのはルカだ。」
「そうなんだ…ありがとう2人共!」
「そんな…お礼を言われる程じゃ…。」
「いえいえ。どういたしまして。」
ルカは謙遜し、ミグは自信満々に答えた。2人の性格がハッキリ別れているのを見て、思わずくすりと笑った。
ミグにも手伝ってもらい、猛スピードで支度を済ませてなんとか遅刻は免れた。隣で心配そうにララが話しかけてくる。
「ルナちゃん…大丈夫?」
「おはよう…ララ…だ、大丈夫!ちょっと寝坊しちゃって…!」
「昨日、遅くまで夜更かししちゃった…とか?」
「そ、そうなの!あはは…。」
ガラリと扉が開き、ニム先生が教室に入ってくると生徒達はそれぞれの席についた。
「みなさん、おはようございまーす。昨日の実習で調べた魔力の量と適正属性をまとめた紙をお渡しします~。」
次々と生徒の名前が呼び出され、渡された紙を手に取る。私が手にした紙には、魔力:測定不可、適正属性:なし…と明記してあった。
「なにこれ…。」
「ルナちゃんどうだった?」
横から身体を乗り出し、ララが私の紙に目を通した。
「え…測定不可で…適正属性は…なしだったんだ…。」
「水晶壊しちゃったからかも…。はぁ…ちょっとへこむ…。」
「だ…大丈夫だよ!私だって大した事ないし…!ほら!」
彼女が差し出した紙を見てみると、魔力:並、適正属性:闇と書いてあった。小さくため息をつくと、彼女は申し訳なさそうに紙を自分の鞄にしまった。
「げ、元気だしてルナちゃん…。」
「はいはい!それじゃあ、今日の授業進めていきますよ~。」
はっきりとしない結果にモヤモヤしつつ、いつも通り授業が始まった。
「さてと…今日の授業も終わったし部屋に戻…」
鞄に荷物を詰めていると、1枚の紙が手をすり抜けて床に落ちた。それを拾おうと手を伸ばすと、前から他の手が伸びてきて紙を掴んだ。
「あっ…。」
「これ、ルナの結果?」
目の前には、さらさらとした金の髪…ユイの姿があった。
「そ、そうだけど…。」
「え、嘘…!魔力が測定不可で適正属性なしなの!?」
彼女は、他の生徒にも聞こえるようにわざと大きめの声で話し始めた。
「か、返…」
「測定不可なんて結果あるのね!周りの子にも見せてもらったけど、みんな並か優だったのに。しかも、適した属性がないなんて…凄い事よルナ!」
「っ…。」
周りで聞いていた生徒達がくすくすと笑い始め、惨めな気持ちにどんどん押しつぶされていく。
「やめなよ、ユイちゃん。」
その生徒の中から、1人の男子生徒が私達2人の間に割って入った。ふんわりとしたクリーム色の髪で優しい雰囲気の細身の彼は、私を背にして彼女の前に立った。
「何よ?あなた誰?」
「酷いなぁ。同じ教室で勉強してる仲間の名前も知らないの?僕は君の事、よく知ってるのに。」
「何それ…気味悪いんだけど…。」
「ユイナールスイナ。双子の姉で、君は下級吸血鬼なのに、妹は上級吸血鬼。」
「な…!?ちょっ」
「魔力はそこそこあるけど、火属性だけが取り柄で他の属性魔法は一切使えないし、魔力も持続しない。それに比べて出来のいい妹は、魔力は姉を上回り、火、水、闇の属性に適してる。」
「そ、それがどうしたっていうの?そんな私よりも、この子は劣ってるって事になるけど!?」
彼女が私を指さし、彼を睨みつけた。
「それはどうかな?」
「…はぁ?」
「魔力が測定不可なのは、魔力が全く無いのとは違う。測り知れない程の大きな魔力を持っている…僕ならそう解釈するよ。」
「それはあんたの解釈でしょ?確証はあるの?」
「魔力を測る水晶…あれを破壊する程の威力だよ?ニム先生が言ってたけど、あれが壊れた所は見た所がないって。」
「魔力の制御が出来てないから壊したんでしょ?たとえ魔力があっても、制御しきれないなら全く無い様なものよ!」
彼が私の方に身体を向けると、真っ直ぐ私の目を見た。彼の綺麗な青い瞳に吸い込まれそうになっていると、彼は軽く微笑んだ。
「目を見ればわかるよ。…君にはわからないみたいだけど。」
「そんなの…。じゃ、じゃあ、適正属性がないのは?どの属性も扱えないっ事よね?」
「それも違う。適した属性っていうのは、扱える属性とは別物だからね。適した属性が無いというのは、逆にどの属性でも扱えるって事になる。」
「は?意味がわからな…」
「うーん。どう説明したら君に理解してもらえるかな?」
「っ…。もういい!属性があろうが無かろうが関係ないわ!」
彼女がしびれを切らして教室から出ていくと、それを見ていた周りの生徒達も次第にバラけ始めた。
「あ、あの…ありがとう。」
「どういたしまして。あ…でも、お節介だったかな?」
「ううん…!すごく助かったよ!えっと…
」
「僕は、フラン。フランドルフルクだよ。よろしくね、ルナちゃん。」
「ありがとうフラン!今度、何かお礼をさせて!」
「お礼?なんの?」
「なんのって…さっき助けてくれたお礼!」
「別に大した事してないよ。僕が勝手にした事だしね。」
「それでも嬉しかったから、この恩を返したいの!」
「そこまで言うなら…僕のお願い、1個聞いてくれる?」
「え?お願い?」
「ど、どうぞ…!」
「お邪魔します。」
彼の要望により、私の部屋に招待することになった。少し前まで殺風景だった部屋は、魔法によって白を基調とした部屋に作り替えていた。
「綺麗な部屋だね。」
「そ、そうかな?自分が使いやすいように作っただけだよっ。」
必要最低限の家具を短時間で作った為、かなりシンプルで簡素な部屋になっている。その中央にあるソファーに彼が腰を下ろすと、不思議そうにこちらを見た。
「作った?備え付けの家具じゃないのかい?」
「え、うん…。あれ?フランは自分で作らないの?」
彼は、興味津々にソファーを手で触ったり、叩いたりしている。
「どうやって作ればいいの?」
「どうやってって…魔法で…」
「へ~。魔法でそんな事も出来るんだね。知らなかったよ。」
「ご、ごめん…!その…。」
「いやぁ…僕が勉強不足なだけだから気にしないで?魔法すごく苦手なんだよね。」
「へぇ~…あんまり吸血鬼で魔法が苦手なんて見たことないなぁ…。」
「魔法が苦手な人間なら見たことある?」
「え!?」
魔法が使えない人間と言われて、私はルカの事を思い浮かべていた。彼の発言は、まるで心の中を見透かした様だった。
「どうかした?」
「あ、いや…なんでも…!…そういえば、フランのお願いって部屋に来るだけで良かったの?」
「他にも何かお願い聞いてくれるの?」
「もちろん!だって助けて貰ったんだし…。」
「じゃあ…。」
彼が何か言いかけると、その場に立ち上がり私の隣に腰をおろした。状況を飲み込めずにいると、彼が私の手を握りしめた。
「え、フラン…?」
彼はこちらをじっと見つめ、にっこりと微笑んだ。
「僕と友達になってくれる?」
「…え?」
予想していなかった言葉が彼の口から発せられ、しばらく口を開けたまま放心していると、握ったままの手が上下に動かされた。
「あれ?おーい。ルナちゃん?」
「え、あ!ごめん!」
「だめかな?」
「ううん!もちろんいいよ!」
「よかった。よろしくねルナちゃん。」
「うん…よろしくフラン。」
「…おい。いつまで握ってる。」
フランと握っていた手を強引に引き離されると、機嫌が悪そうなミグが隣に立っていた。
「わ、ミグ…。」
「あ!もしかして、君がミグ君?初めまして。僕はフラ…」
「フランドルフルク様。既に存じ上げておりますので、自己紹介は結構です。」
「あれ?そう?」
「急にどうしたの?ミグ…。」
「ルナ様の身の危険を感じたので出て参りました。」
「え?危険?」
「危険を察知して出てきてくれるんだ。凄いね使い魔って。」
「それが役目ですから。」
「いいなぁ。僕も、ミグ君みたいな使い魔が欲しいな。」
「…申し訳ありませんが、仕える主は1人だけと決まっていますので。」
「あはは。それくらいは知ってるよ。じゃあ…せめて友達にはなれないかな?」
「と、友達…ですか…?」
「他の人の使い魔でも、友達くらいならいいよね?ルナちゃん。」
「あ、うん。私はいいと思うけど…。」
「やった。じゃあ、2人共よろしくね。」
「は、はい…。」
「僕は…そろそろ戻ろうかな。今日はありがとう。」
「ううん!こっちこそ助けてくれてありがとう!」
「また遊びに来るね。」
彼が手を振りながら部屋を出ていくと、立ったままだったミグがソファーに座った。
「おいルナ…。なんなんだ?あいつ…。」
「わ、わかんない…。ちょっと変わってるよね…。」
「いやいや…ちょっとじゃなくてかなりだろ!」
「あ、あはは…。」
「今日の実習は、武器を作る魔法を勉強しますよ~。」
「魔法の実習…嫌だなぁ。」
もうすっかり馴染んでしまったフランが、隣に座りボヤいていた。
「ルナちゃんは魔法得意だよね?」
「ま、まぁ…得意って程じゃないけど…。」
「ララちゃんは?」
「え、えっと…私も…得意って程じゃ…。」
フランの反対側に座っているララが、少し恥ずかしそうに答えた。
「確か、自分の使いたい武器をイメージするんだったよね?」
「あれもこれもって何個もイメージしちゃうと上手くいかないから、1つに絞った方がいいよ!どんな武器を作りたいかは決まってる?」
「それはもう決めてるよ。」
「えっと…教科書では、作りたい物の成分とか性質とかをイメージするのが大事…だったはずだよ。」
「作りたい物の成分…性質…か。うーん…。“血の盟約は…」
彼は、その場に立ち上がり、ぶつぶつと呪文を唱えながら親指を噛むと、そこから流れ出る血で2本の剣を作り出した。
「凄いよフラン!出来てるよ!」
「あれ?ほんとだ。剣作ろうって思っただけだったのにな。意外と簡単だったね。」
「凄いですね…いきなり作り出すなんて…。しかも2本も。」
「2本だったのは予想外だったけど…扱えない事もないかな。」
床に突き刺さった2本の剣を右手と左手でそれぞれ手に取ると、パチパチと手を叩く音が近づいてきた。
「へ~。あんた、結構凄かったのね。」
ユイがこちらにやって来るのを見て、右側にいたララがほんの少し後ろに後ずさった。それに対して左側に立っていたフランは1歩前に出た。
「お褒め頂いて嬉しいよ。頑張った甲斐があるね。」
「別に褒めてないわよ。」
「あれ?そうだった?」
「ユイの方はどうなの?」
「もちろん出来たわ。こんなの魔法の基礎中の基礎よ?」
彼女は得意そうに右手の上にオーブを出してみせた。
「それが君の武器?ただの玉にみえるけど。」
「オーブよオーブ!知らないの!?」
「ごめんごめん。魔法の事よく知らないからさ。」
フランが爽やかな笑顔で笑ってみせた。それを見たユイが小さく咳払いをした。
「そ、それより…あんた達はまだ出せてないの?」
私とララが何も手に持っていないのを見て、彼女がそう言った。
「ま、まだ…だよ。」
「ま、そりゃそうよね。“並”と“測定不可”じゃ難しいわよ。」
あきらかに落ち込んでいるララを見て、苛立ちの感情が湧き出てきていた。
「なら今から私が…」
「ユイちゃん。」
魔法が使える事を証明しようと1歩足を踏み出そうとすると、それよりも早くフランの腕が私の前に伸びた。
「何よ。」
「君、何しにきたの?」
「え…わかるでしょ?からかいに来たのよ。」
「からかうって楽しい?僕、した事ないからわからないんだけど。」
「はぁ…?」
「それぞれ、魔法を使えるようになるのは時間差があるのは知ってるよね?ユイちゃんが使いこなせてるのは見ればわかるよ。でも、他の子が使えないのをわざわざからかいに来るなんて、何がしたいのか僕には理解できない。」
「別にあんたに理解して貰いたい訳じゃないわよ!」
「じゃあ…友達になりたいって事?」
「ますます意味がわからないわよ!はぁ…あんたと話すのは疲れるわ。」
そう言い残すと彼女は立ち去って行った。
「最近ユイの絡みがキツくなってきたな。」
「そうだね…。」
テーブルを挟んだ向こう側にあるソファーには、ミグとルカが座っている。ミグは腕と脚を組み、眉間に皺を寄せている。一方ルカは両手でカップを包むようにして持ち、不安そうな表情を浮かべている。
「ルナが力を抑えてるのをいい事に、自分が主導権を握ろうとしてる…って事なのかな?どうしてそこまでして他人を貶めたいんだろう…。」
「それは私にもわからないけど…。」
「自分が1番強いって思ってるんだろ?使い魔すら使役出来ないくせに…。」
ミグが、組んでいる脚を小刻みに揺らし始めた。彼がイライラした時によくやる仕草である。
「私よりも、ララが心配だよ…。私は出来るけどやらないだけで、ララは出来ない訳だし…。」
「そうだな。ルナは何かされそうになっても俺が出ていけば済むけど、ララに使い魔を使役出来る程の力があるようには見えないしな。」
「ミグがニム先生みたいに分裂出来たらいいのにね。」
「それはさすがに無理だよルナ…。」
「いや!もしかしたら出来…」
「無理だ。俺はスライムじゃないんだぞ?」
「だよね~。うーん…。」
ーゴーン…ゴーン…
部屋に飾ってある時計が鐘の音を鳴らした。
「これ、何の音?」
「あ、これね!ルナが目覚める時間に、鐘がなるようにしたんだ!ミグが作ってくれたんだよ。」
「俺はルカの言われた通り組み立てただけだ。考案したのはルカだ。」
「そうなんだ…ありがとう2人共!」
「そんな…お礼を言われる程じゃ…。」
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いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
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小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
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夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
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