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第6章︰エーリ学院【後編】
第49話
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「う…ん…。」
身体を起こすと、そこは日が沈んで暗くなってしまった森の中だった。側には焚き火があり、周りが木で囲まれたこの場所を明るく照らしている。何故ここで気を失っていたのか思い返していると、木々の間から見た事のある青年がやって来た。
「ルナちゃん!よかった、気が付いたんだね!」
“ルナちゃん”と呼ばれ、僕は目を丸くした。自分の手や来ている服を見ると、身体がルナのものになっていた。身体の中にいたはずのルカ・クラーレが、ルナソワレーヴェと入れ替わってしまっていた事を悟った。
目の前で心配そうにこちらを見ている彼は、確かフランという少年だったはずだ。
「…ルナちゃん?大丈夫?僕の事わかる?」
「あ、う、うん…。あの…わ、私…どうしてここに…。」
「覚えてない?ユイちゃんと残って、上級吸血鬼と戦ってくれたでしょ?」
そう言われ、ルナがユイと剣を持った青年と戦っていた様子を見ていた事を思い出した。
「そ、そうだったね…。ユイは?」
「後ろ。まだ意識が戻ってないみたい…。止血はしたけど…これ以上どうしたらいいか…。」
後ろを振り返ると、目を閉じたままのユイが横になっていた。彼女の太もも辺りに、男性の物と思われる上着がかけられている。
「フラン様。これだけあれば足りますか?」
フランが来た方と別の方向から、人の姿をしたミグが木の枝を抱えていた。
「ミグ!」
「ルナ…!どこも怪我してないか?頭は痛くないか?」
彼は駆け寄ると、手を取り頭をそっと撫でた。
「だ、大丈夫。」
「ミグくんが出てきてくれて助かったよ。僕1人じゃ手が回りきらなくて…。ありがとう。これくらいあれば足りると思うよ。」
「フラン、ララはあの後どうした?」
「ララちゃんには、ユノさんに付き添ってくれるように頼んだよ。ルナちゃん達がどうなったか心配で僕だけ戻って来たら、彼が1人で頑張ってたから僕が手伝ったんだ。」
フランが話す“彼”とは、ユイの隣で横になっている赤茶色の髪をした青年だった。彼も目を閉じ、寝息を立てている。
「上級吸血鬼の1人が深手を負ったから、3人揃って逃げていったよ。そしたら彼はその場で倒れちゃって、その時ミグくんが出てきてくれたんだ。」
「倒れてたあいつ…みてみたけど大きな怪我はなかったから、そのまま寝かせてる。ユイの止血はしといたから、ひとまずは大丈夫だと思う。」
「そっか…。」
「本当なら集合場所に戻るべきなんだろうけど…意識が戻るまで待つ事にしたんだ。」
「ルナ。お前もあんまり無理しないで、もう少し横になってたほうが…」
「へっ…くしゅん!!!」
突然のくしゃみに驚くと、横になっていた青年が身体を起こした。
「う…さぶ…。あれ…ここ…。」
「大丈夫ですか?」
ミグが青年に歩み寄り、自分の上着を差し出した。
「あ、大丈夫!ちょっと寝覚めしただけだから…。」
「そ、そうですか…。お身体の方はいかがですか?」
彼は自分の腕や脚を触り、感触を確かめるような仕草をしていた。
「うん…大丈夫みたい。えと…彼が来てくれた所までは覚えてるんだけど…。」
彼はフランの方を見ると、髪の毛をくしゃくしゃと指に絡めながら頭をかいた。
「僕、フランって言います。彼女はルナで、こっちは彼女の使い魔のミグくん。」
「つ、使い魔!?ごめん…てっきり吸血鬼かと…。」
「いえ。構いません。」
「あ、俺はタクト。君達、下級吸血鬼だよね?凄いね使い魔がいるなんて。」
「そ、そうですか?」
「うん。上級吸血鬼でも使い魔を使ってる生徒は少ないって聞くよ。」
「へー…そうなんですね…。」
「それで…よかったらフランくんが来た所から、どうなったか教えてくれない?」
「では、僭越ながら私の方から説明させていただきます。」
先程2人が私にした説明を、タクトと名乗った青年に話し始めた。
「そっか…かなり寝てたんだね…俺…。」
「ユイちゃんはまだ目覚めないみたいですけど…。」
「彼女の事は私が見ています。皆さんはお休みになられてはどうですか?」
「俺起きたばっかりで、すぐは寝られなそうだからもう少し起きてるよ。」
「フランは寝た方がいいよ。疲れたでしょ?」
「じゃあ…そうしようかな。ミグくんも無理しないでね。」
「はい。ありがとうございます。」
彼はタクトの隣に座ると、こちらに背を向けて横になった。火がパチパチと音を立て、小さな火花を散らしている。
「あ、あの…タクトさん。」
「ん?なに?」
「ありがとうございました…私達の事助けてくれて。」
「え、あぁ…いいよそんなの。気にしないで。」
「それと…ごめんなさい、巻き込んじゃって…。」
「ま、巻き込まれたとは思ってないよ!ユノちゃんを助けなきゃと思ってたら、君達が先に彼女に手を差し伸べてくれたから…たまたまだよ。」
「ユノさんと知り合いなんですか?」
「うん。彼女とは中級クラスで一緒だったんだ。すぐに…進級しちゃったけどね…。」
彼はくしゃくしゃと頭をかいた。
「彼女…ユイちゃんだっけ?ユノちゃんのお姉さんだよね?」
「あ、はい。そうですね。」
「ユノちゃんから話を聞いた事あったけど、あんまり仲良くないらしいね。どうしてか知ってる?」
「いえ…それはぼ…わ、私も、聞いてないです。」
「そっか…。ユノちゃん、仲良くしたいみたいだったから…。俺も力になれればと思ったんだけど。」
ルナなら気づかなかっただろうが、男である僕は彼の内に秘めた想いを感じ取った。
「好きなんですね。ユノさんの事。」
「え!?…そ、そう見える?」
「ええ。私もそのように思いました。」
「ほ、他の人には秘密だよ?」
彼は照れながら、口の前に指を立てる仕草をしてみせた。
「ルナ様。そろそろお休みになられた方が…。」
「あー…うん。流石にもう少し寝なきゃね。タクトさんも寝ないとだめですよ?」
「だよね…。そうするよ。」
「何かあったら起こしてねミグ。」
「かしこまりました。」
草の上に横になると、ミグがそっと上着を掛けてくれた。そのまま目を閉じ、身体の持ち主であるルナに会いに行った。
目を開けると、室内の天井が視界に映った。そこは見覚えのある、ルナの部屋だった。
「そうだ…ル…」
身体を起こそうとすると、白い腕がゴロリとベッドの上に転がった。驚いて隣を見ると、ルナがすやすやと眠っていた。
「あ…ルナか…。」
彼女の身体を揺すってみたが、起きる気配はなかった。しかし、彼女の表情に苦しさは一切なく、心地よさそうに眠っている。
「うーん…。頭痛も無くなってたし、身体の調子は悪くないはずなのに…。」
彼女の手を取ると、手首に指を当てて脈をみた。さらに手を額に当て、温かさを確認してみた。知識は全くないが、自分の出来る事をやってみようと試みた。
しかし、いくら悩んでも答えは出ず、ひとまずベッドからおりると、彼女に布団をかけ直した。
「薬草以外の本はあったかな…?」
ルナの部屋の向かいにある自分の部屋へ向かうと、本棚から本を探し始めた。
この本は、ヴェラがここに来た時に少しづつ増やしてくれた本で、彼女の知識が書き記された写本がずらりと並べられている。
「吸血鬼の…身体の…仕組みとか……そういうのは…ない……の…かな…?」
書いてありそうな本を探し出して、それを抱えて彼女の部屋へ戻った。机を借りて椅子に座ると、山積みになった本を1冊ずつ手に取り、読み始めた。
「…ここじゃないなぁ…。こっちは…違うか…。」
「おーい。ルナ…」
部屋の扉が開き、ミグが顔を出した。
「あれ?ルカ、そんな所で本を読んでるのか?」
「あ、ミグ…それが…ルナが目を覚まさなくて…。」
「え!?」
彼はベッドに近寄ると、そこに眠る彼女を見て表情を曇らせた。
「さっきまで…話してたはずなのに…。」
「さっきは僕がルナになってたんだ。」
「ルカだったのか!?もしかして…頭を打ったから…。」
「多分…。何か異常が起きてるんじゃないかと思って、本を読んでたんだけど…。」
「ヴェラに聞くしか無さそうだな…。ひとまず起きよう、ルカ。ユイの意識が戻ったんだ。」
「ユイが!?わかった、行こう!」
自室のベッドに横になると目を閉じた。
「あれ…ユイは?」
「タクトも居ない…。どこか行ったのか…?」
「探してみよ!」
辺りを走り回ると、小川が流れている所で座って話をしている2人の姿があった。
「あ、居た…。」
「何か話してそうだな…しばらく様子をみるか…。」
草陰に身を潜め、耳をすました。
「本当に…ありがとうございました。」
「いいよいいよ。気にしないで。」
「タクトさんが来てくれなかったら、あたし達…どうなってたか…。」
「でも…俺は君達を守りきれなかった…。ごめん。」
「そ、そんな事…」
「ユイちゃん。君に聞きたいことがあるんだけど、聞いてもいい?」
「は、はい…。」
「君の妹…ユノちゃんだけど…。どうして仲が悪いのかな…って…。あ、でも、無理に言わなくていいからね?」
「それは…。あたしが子供だからです。」
「え…?」
「あたし、小さい頃はあの子より頭が良くて、魔法も早く使えるようになって、あの子に負けるものは何も無かった…。けど、時間が経つにつれてあの子の方が勉強が出来るようになって、魔法の威力もすごくなって、あたしが先だったのに…どんどん追い抜かれて行きました。」
「うん…。」
「そんなあの子が、妬ましくて羨ましかった。あの子に沢山意地悪な事をしました…。…知ってますか?双子の吸血鬼は、どちらかに力が偏る傾向があるんです。」
「それは知らなかった…。」
「あたしは、ちょっと先に産まれただけで、何もかもあの子に取られてしまった…そんな気がしてるんです。でも…それはただの甘えだって、わかってました…。あたしよりも、あの子が何倍も努力したから追い越されたんだって。」
「…ん。」
「小さい頃、意地悪した事をどう謝ったらいいのか…ずっとわからずに今まで引きずって来たんです…。姉なのに…情けない…。」
彼女は話を終えたのか、顔を下に向けて俯いた。
「ユイちゃんは素直じゃないんだね。」
「…はい。」
「でも、君なりに考えたんだよね?ユノちゃんに悪い事しちゃったんだって、ちゃんと自分と向き合えてる。」
「…そう…でしょうか?」
「うん。偉いよ。」
彼はユイの頭に手をのせると、彼女の頭を撫で始めた。
「…っ。」
彼女は手で顔を隠し、身体を震わせた。
「ユイ…。」
「あいつにも、胸の内に抱えてるものがあったんだな。誰にも話せなかったみたいだし…。」
「そうだね…。」
「戻るか。タクトがついてるから、しばらくすると戻ってくるだろうし。」
「うん。」
火を焚いていた場所に戻ると、すでに起きていたフランがぼーっとその場に座り込んでいた。彼としばらく話をしていると、ユイを連れてタクトが戻ってきた。
ミグは身体の中に戻り、ルナの様子を見に行き、僕達4人は明るくなった森の中を引き返して行った。
身体を起こすと、そこは日が沈んで暗くなってしまった森の中だった。側には焚き火があり、周りが木で囲まれたこの場所を明るく照らしている。何故ここで気を失っていたのか思い返していると、木々の間から見た事のある青年がやって来た。
「ルナちゃん!よかった、気が付いたんだね!」
“ルナちゃん”と呼ばれ、僕は目を丸くした。自分の手や来ている服を見ると、身体がルナのものになっていた。身体の中にいたはずのルカ・クラーレが、ルナソワレーヴェと入れ替わってしまっていた事を悟った。
目の前で心配そうにこちらを見ている彼は、確かフランという少年だったはずだ。
「…ルナちゃん?大丈夫?僕の事わかる?」
「あ、う、うん…。あの…わ、私…どうしてここに…。」
「覚えてない?ユイちゃんと残って、上級吸血鬼と戦ってくれたでしょ?」
そう言われ、ルナがユイと剣を持った青年と戦っていた様子を見ていた事を思い出した。
「そ、そうだったね…。ユイは?」
「後ろ。まだ意識が戻ってないみたい…。止血はしたけど…これ以上どうしたらいいか…。」
後ろを振り返ると、目を閉じたままのユイが横になっていた。彼女の太もも辺りに、男性の物と思われる上着がかけられている。
「フラン様。これだけあれば足りますか?」
フランが来た方と別の方向から、人の姿をしたミグが木の枝を抱えていた。
「ミグ!」
「ルナ…!どこも怪我してないか?頭は痛くないか?」
彼は駆け寄ると、手を取り頭をそっと撫でた。
「だ、大丈夫。」
「ミグくんが出てきてくれて助かったよ。僕1人じゃ手が回りきらなくて…。ありがとう。これくらいあれば足りると思うよ。」
「フラン、ララはあの後どうした?」
「ララちゃんには、ユノさんに付き添ってくれるように頼んだよ。ルナちゃん達がどうなったか心配で僕だけ戻って来たら、彼が1人で頑張ってたから僕が手伝ったんだ。」
フランが話す“彼”とは、ユイの隣で横になっている赤茶色の髪をした青年だった。彼も目を閉じ、寝息を立てている。
「上級吸血鬼の1人が深手を負ったから、3人揃って逃げていったよ。そしたら彼はその場で倒れちゃって、その時ミグくんが出てきてくれたんだ。」
「倒れてたあいつ…みてみたけど大きな怪我はなかったから、そのまま寝かせてる。ユイの止血はしといたから、ひとまずは大丈夫だと思う。」
「そっか…。」
「本当なら集合場所に戻るべきなんだろうけど…意識が戻るまで待つ事にしたんだ。」
「ルナ。お前もあんまり無理しないで、もう少し横になってたほうが…」
「へっ…くしゅん!!!」
突然のくしゃみに驚くと、横になっていた青年が身体を起こした。
「う…さぶ…。あれ…ここ…。」
「大丈夫ですか?」
ミグが青年に歩み寄り、自分の上着を差し出した。
「あ、大丈夫!ちょっと寝覚めしただけだから…。」
「そ、そうですか…。お身体の方はいかがですか?」
彼は自分の腕や脚を触り、感触を確かめるような仕草をしていた。
「うん…大丈夫みたい。えと…彼が来てくれた所までは覚えてるんだけど…。」
彼はフランの方を見ると、髪の毛をくしゃくしゃと指に絡めながら頭をかいた。
「僕、フランって言います。彼女はルナで、こっちは彼女の使い魔のミグくん。」
「つ、使い魔!?ごめん…てっきり吸血鬼かと…。」
「いえ。構いません。」
「あ、俺はタクト。君達、下級吸血鬼だよね?凄いね使い魔がいるなんて。」
「そ、そうですか?」
「うん。上級吸血鬼でも使い魔を使ってる生徒は少ないって聞くよ。」
「へー…そうなんですね…。」
「それで…よかったらフランくんが来た所から、どうなったか教えてくれない?」
「では、僭越ながら私の方から説明させていただきます。」
先程2人が私にした説明を、タクトと名乗った青年に話し始めた。
「そっか…かなり寝てたんだね…俺…。」
「ユイちゃんはまだ目覚めないみたいですけど…。」
「彼女の事は私が見ています。皆さんはお休みになられてはどうですか?」
「俺起きたばっかりで、すぐは寝られなそうだからもう少し起きてるよ。」
「フランは寝た方がいいよ。疲れたでしょ?」
「じゃあ…そうしようかな。ミグくんも無理しないでね。」
「はい。ありがとうございます。」
彼はタクトの隣に座ると、こちらに背を向けて横になった。火がパチパチと音を立て、小さな火花を散らしている。
「あ、あの…タクトさん。」
「ん?なに?」
「ありがとうございました…私達の事助けてくれて。」
「え、あぁ…いいよそんなの。気にしないで。」
「それと…ごめんなさい、巻き込んじゃって…。」
「ま、巻き込まれたとは思ってないよ!ユノちゃんを助けなきゃと思ってたら、君達が先に彼女に手を差し伸べてくれたから…たまたまだよ。」
「ユノさんと知り合いなんですか?」
「うん。彼女とは中級クラスで一緒だったんだ。すぐに…進級しちゃったけどね…。」
彼はくしゃくしゃと頭をかいた。
「彼女…ユイちゃんだっけ?ユノちゃんのお姉さんだよね?」
「あ、はい。そうですね。」
「ユノちゃんから話を聞いた事あったけど、あんまり仲良くないらしいね。どうしてか知ってる?」
「いえ…それはぼ…わ、私も、聞いてないです。」
「そっか…。ユノちゃん、仲良くしたいみたいだったから…。俺も力になれればと思ったんだけど。」
ルナなら気づかなかっただろうが、男である僕は彼の内に秘めた想いを感じ取った。
「好きなんですね。ユノさんの事。」
「え!?…そ、そう見える?」
「ええ。私もそのように思いました。」
「ほ、他の人には秘密だよ?」
彼は照れながら、口の前に指を立てる仕草をしてみせた。
「ルナ様。そろそろお休みになられた方が…。」
「あー…うん。流石にもう少し寝なきゃね。タクトさんも寝ないとだめですよ?」
「だよね…。そうするよ。」
「何かあったら起こしてねミグ。」
「かしこまりました。」
草の上に横になると、ミグがそっと上着を掛けてくれた。そのまま目を閉じ、身体の持ち主であるルナに会いに行った。
目を開けると、室内の天井が視界に映った。そこは見覚えのある、ルナの部屋だった。
「そうだ…ル…」
身体を起こそうとすると、白い腕がゴロリとベッドの上に転がった。驚いて隣を見ると、ルナがすやすやと眠っていた。
「あ…ルナか…。」
彼女の身体を揺すってみたが、起きる気配はなかった。しかし、彼女の表情に苦しさは一切なく、心地よさそうに眠っている。
「うーん…。頭痛も無くなってたし、身体の調子は悪くないはずなのに…。」
彼女の手を取ると、手首に指を当てて脈をみた。さらに手を額に当て、温かさを確認してみた。知識は全くないが、自分の出来る事をやってみようと試みた。
しかし、いくら悩んでも答えは出ず、ひとまずベッドからおりると、彼女に布団をかけ直した。
「薬草以外の本はあったかな…?」
ルナの部屋の向かいにある自分の部屋へ向かうと、本棚から本を探し始めた。
この本は、ヴェラがここに来た時に少しづつ増やしてくれた本で、彼女の知識が書き記された写本がずらりと並べられている。
「吸血鬼の…身体の…仕組みとか……そういうのは…ない……の…かな…?」
書いてありそうな本を探し出して、それを抱えて彼女の部屋へ戻った。机を借りて椅子に座ると、山積みになった本を1冊ずつ手に取り、読み始めた。
「…ここじゃないなぁ…。こっちは…違うか…。」
「おーい。ルナ…」
部屋の扉が開き、ミグが顔を出した。
「あれ?ルカ、そんな所で本を読んでるのか?」
「あ、ミグ…それが…ルナが目を覚まさなくて…。」
「え!?」
彼はベッドに近寄ると、そこに眠る彼女を見て表情を曇らせた。
「さっきまで…話してたはずなのに…。」
「さっきは僕がルナになってたんだ。」
「ルカだったのか!?もしかして…頭を打ったから…。」
「多分…。何か異常が起きてるんじゃないかと思って、本を読んでたんだけど…。」
「ヴェラに聞くしか無さそうだな…。ひとまず起きよう、ルカ。ユイの意識が戻ったんだ。」
「ユイが!?わかった、行こう!」
自室のベッドに横になると目を閉じた。
「あれ…ユイは?」
「タクトも居ない…。どこか行ったのか…?」
「探してみよ!」
辺りを走り回ると、小川が流れている所で座って話をしている2人の姿があった。
「あ、居た…。」
「何か話してそうだな…しばらく様子をみるか…。」
草陰に身を潜め、耳をすました。
「本当に…ありがとうございました。」
「いいよいいよ。気にしないで。」
「タクトさんが来てくれなかったら、あたし達…どうなってたか…。」
「でも…俺は君達を守りきれなかった…。ごめん。」
「そ、そんな事…」
「ユイちゃん。君に聞きたいことがあるんだけど、聞いてもいい?」
「は、はい…。」
「君の妹…ユノちゃんだけど…。どうして仲が悪いのかな…って…。あ、でも、無理に言わなくていいからね?」
「それは…。あたしが子供だからです。」
「え…?」
「あたし、小さい頃はあの子より頭が良くて、魔法も早く使えるようになって、あの子に負けるものは何も無かった…。けど、時間が経つにつれてあの子の方が勉強が出来るようになって、魔法の威力もすごくなって、あたしが先だったのに…どんどん追い抜かれて行きました。」
「うん…。」
「そんなあの子が、妬ましくて羨ましかった。あの子に沢山意地悪な事をしました…。…知ってますか?双子の吸血鬼は、どちらかに力が偏る傾向があるんです。」
「それは知らなかった…。」
「あたしは、ちょっと先に産まれただけで、何もかもあの子に取られてしまった…そんな気がしてるんです。でも…それはただの甘えだって、わかってました…。あたしよりも、あの子が何倍も努力したから追い越されたんだって。」
「…ん。」
「小さい頃、意地悪した事をどう謝ったらいいのか…ずっとわからずに今まで引きずって来たんです…。姉なのに…情けない…。」
彼女は話を終えたのか、顔を下に向けて俯いた。
「ユイちゃんは素直じゃないんだね。」
「…はい。」
「でも、君なりに考えたんだよね?ユノちゃんに悪い事しちゃったんだって、ちゃんと自分と向き合えてる。」
「…そう…でしょうか?」
「うん。偉いよ。」
彼はユイの頭に手をのせると、彼女の頭を撫で始めた。
「…っ。」
彼女は手で顔を隠し、身体を震わせた。
「ユイ…。」
「あいつにも、胸の内に抱えてるものがあったんだな。誰にも話せなかったみたいだし…。」
「そうだね…。」
「戻るか。タクトがついてるから、しばらくすると戻ってくるだろうし。」
「うん。」
火を焚いていた場所に戻ると、すでに起きていたフランがぼーっとその場に座り込んでいた。彼としばらく話をしていると、ユイを連れてタクトが戻ってきた。
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