エテルノ・レガーメ

りくあ

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第12章︰出会いと別れの先

第105話

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翌日、ガゼルの提案通り、家を増築する作業を手伝う事になった。地面に杭を打ち付けている彼の元に、材料となる木材を運んでいく。

「悪いな。来たばっかりでこんなこと押し付けて。」
「そんなことないよ。何かしてた方が、余計な事考えなくて済むし…疲れたら適当に休むよ。」
「イルムもいいのか?薬草摘みとかの方が、慣れてるんじゃないか?」

彼女は僕と同じ様に、木材を運ぶ作業を手伝っていた。女の子には重労働なのではないかと、ガゼルは心配している様子だった。

「私、ギルドの仕事を1度もやったことなくて…。簡単な事をお手伝いするくらいしか、役に立てそうにないので…。」
「ギルドの仕事、したことなかったんだ?」
「同じ事を繰り返す作業は、割と得意なの!けど…いつも大事な所で失敗しちゃって…全部台無しになっちゃうんだよね…。」
「料理の手際は良かったよな。慣れた手つきだったし、味もよかったよ。…ドジさえしなければな。」
「返す言葉もありません…。」

彼女は申し訳なさそうな表情で、肩を落とした。

「そんなにイルムの事いじめないでよ!」
「別に…いじめてるわけじゃない。」
「いくらガゼルでも、イルムの事を悪く言うなら許さないからね!」
「わ、悪かったよ…。」
「ルカくん…。」
「さ、イルム。大変だけど頑張ろ!」
「うん!まずは、目の前の事を一生懸命頑張らないと!」

僕達2人がガゼルをサポートする形で、増築の作業は進められた。あっという間にガゼルがウナを迎えに行く時間になり、作業の続きは明日以降に持ち越された。
作業を終えた僕とイルムは、日暮れまで時間を持て余していたので、森へ薬草を詰みに行く事にした。

「ルカくんは物知りだね。私なんて…薬草の1つも知らないのに…。」
「本を読むのが好きだから、薬草の本を読んでたら自然と知識が身についたんだよね。けど…ギルドに拾われたばっかりの頃は、字の読み書きすら出来なかったよ?」
「そうなの?」
「うん。周りのみんなはそれでいいって言ってくれたけど…僕自身がそれじゃ駄目だってずっと思ってた。だから、僕に出来る事を何か見つけようと思って、色々試してみたんだ。」
「試しにやったら出来ちゃったんだ?器用だね…。」
「ううん。最初は失敗ばっかりで、上手くいかなかったよ。みんなに支えてもらったから、今の僕がいるんだと思う。だから…イルムの事は僕が支えてあげる。失敗しちゃっても、僕が何とかするよ!」
「え…?」

彼女は僕の方を向いて、ぽかーんと口を開いていた。

「な、なんて…。ごめん…偉そうな事言って。」
「そんな事ないよ!…ありがとう。」
「わからない事があったら、なんでも聞いてね。わかる範囲でなら教えられるから!」
「なら、ウナちゃんの事聞いてもいい?」
「ウナの事?うん…いいけど…。」

イルムは彼女と仲良くなる為、ギルドに来た時の事や彼女の食べ物の好みなどを質問してきた。話をしている僕自身が、彼女と過ごした日々を思い返しているようで、懐かしい気持ちになった。

「ありがとうルカくん。ウナちゃんの事少しわかった気がする!」
「ならよかった。…あ、そろそろ日が暮れるね。家に戻ろっか。」
「うん!」

僕達は詰んだ薬草を入れた籠を持って、家に帰って行った。



「増築…だっけ?進んだ?」
「土台部分しか出来てない。まだまだかかるぞ。」
「えー…。なら…」

夕食後に調理場の近くを通ると、椅子に座ったウナが後片付けをしているガゼルと話をしていた。増築があまり進んでいない事を知ると、彼女は残念そうな表情でテーブルの上に寝そべった。

「どうしたの?ウナ。」
「なんでもない…!ウナ、寝るね!」

彼女は慌てて椅子から立ち上がると、僕から逃げるように自分の部屋へ行ってしまった。

「ねぇガゼル。ウナは、なんで増築を急いで欲しいのかな?」
「お前と寝たいからじゃないか?」
「えぇ!?」
「何驚いてるんだよ。毎日のように一緒に寝てたくせに。」
「ま、毎日は寝てないよ!」
「どうして焦ってるんだ?」
「別に…焦ってなんか…」
「明日も増築、手伝ってくれるだろ?疲れただろうから早く寝とけ。」
「うん…。」

ガゼルの部屋に布団を敷き、その上に横になった。
窓から風が吹き込み、白いカーテンを静かに揺らしている。そんな様子をぼんやりと眺める事が、僕にとってそれほど珍しい事ではなかった。
僕はつい最近まで、ルナの夢の中で生活していた。彼女が眠りにつく時間、僕は彼女と会う事が出来る。ルナが寝ている時は僕が起き、僕が寝ている時にルナは起きている。身体の中と外では、昼夜が逆転しているのだ。
彼女が居なくなった夜、僕は1人で眠りにつく。揺れるカーテンを見つめながら、僕は何度同じ事を考えただろうか。
『明日はルナとどんな話をしよう』と。



「ん…。」

窓から日が差し込み、明るくなった部屋の中で僕は目を覚ました。服を着替えて部屋を出ると、階段を下りていった。

「あ、ルカ!おはよう。」
「あれ?おはよう…ルナ。今日は随分早いね?」

いつもなら、ミグが紅茶を入れて待っていてくれるはずなのだが、今日は何故か彼女が紅茶を用意していた。

「そうかな?普通だと思うけど?」
「うーん…僕が起きるの遅かったのかなぁ…。」
「もー。そんな事どうでもいいから早く座りなよ!折角作ったパンが、冷たくなっちゃうよ?」

彼女に手を引かれてソファーに座らされると、目の前に紅茶が入ったカップとパンの入った籠が置かれた。

「え?これ、ルナが作ったの?」
「私以外に誰が作るの?」
「いつもは…ミグが作ってくれるから…。」
「…ミグって誰?」
「ぇ…?」



「っ…!?」

目を開き、勢いよく身体を起こした。窓の外は薄らと明るくなり、夜が明け始めているようだった。激しく波打つ胸に手を当て、大きく深呼吸をした。
もう1度眠ろうと目を閉じたが、色々とおかしな夢だったせいで寝付く事が出来なかった。寝る事を諦め、薄暗い部屋からそっと抜け出すとリビングの方へ向かった。

「あら…。おはようルカくん。随分早起きね。」
「わ!フェリ…もう起きてたの?」

既に食事を終えたのか、椅子に座ってお茶を飲みながらくつろいでいる様子だった。僕はテーブルの側へやって来ると、彼女の向かいの椅子に腰を下ろした。

「これから仕事なのよ。」
「シスターの仕事って朝早いんだね。」
「そうね。朝のお祈りがあるから…でも、もう慣れたわ。」
「そっか…。」
「ルカくんはどうして起きちゃったの?」
「あー…えっと…。変な夢を見たんだよね。」
「変な夢って?」
「あんまりよく覚えてないけど…。普段そこにいない人が居て、普段やらないような事をしてたから、驚きのあまり飛び起きちゃって…。」
「へぇー…。私は、あんまり驚いて目を覚ますような夢は見た事ないわね。」
「そう?僕は結構あるかなぁ…。」
「不思議な夢ならよく見るわよ。ギルドの建物が昔のままなのに、サトラテールに居たり…。この島に居るはずないリアーナが家に居たり…ね。」
「夢って不思議だよね。」
「ほとんど覚えてないっていうのが1番不思議よね。」
「そう…だね。」

ルナが出てきた夢は、どれもしっかりと覚えている。初めて出会った時の事、銃を教えた事、一緒に薬草を詰んだ事、マッサージをしてあげた事…どれも僕の大切な記憶の1部だ。

「あれ?ルカ…早いね。」

着替えを済ませたウナが、眠そうに目を擦りながらやって来た。

「おはようウナ。」
「早く朝ごはん食べないと遅れるわよ?私は先に行ってるわ。」
「はぁい。」

フェリはその場から立ち上がり、扉を開けて家から出ていった。

「ルカも一緒に食べよ?」
「あ、うん。じゃあそうしようかな。」
「パンとご飯、どっちがいい?」
「うーん…パンかな…。」
「じゃあ、卵あったと思うから…フレンチトースト作る。」

彼女は僕の後ろを通り過ぎ、調理場の方へ向かった。テーブルに手を付き、慌ててその場に立ち上がる。

「僕も手伝…」
「1人で出来るから大丈夫。ルカは座ってて。」 
「いやでも…!ウナだけに任せられ…」
「座ってて。」
「う、うん…。」

彼女に座るように強く言われ、言い返す事が出来なくなってしまった僕は再び腰を下ろした。会わないうちに成長していた彼女を見て、何だか誇らしく感じた。



「昔からガゼルは器用だよね。」
「なんだよいきなり。」

材料を運び終えて木の側に腰を下ろした僕は、増築の作業している彼の後ろ姿をぼんやりと眺めていた。

「そのままの意味だよ。なんでも作れちゃうでしょ?改めて凄いなぁと思って。」
「なんでもって訳じゃないぞ。作れないものだってある。」
「例えば?」
「………。」

彼は右手に持ったトンカチを振り上げたまま、しばらくの間動きを止めた。

「…無さそうじゃない?」
「思いつかなかっただけだ…!」

彼は声を発するのと同時に、強く釘を打ち付けた。

「そ、そんなに怒らないでよ…。」
「見られてると集中出来ねぇんだよ!イルムとどっか散歩でもしてこい!」
「はーい…。」

飲み物を取りに戻ったイルムを誘う為、その場から立ち上がって家の中に入っていった。

「イルムー。」
「あれー?どうしたの?」

彼女の前にはコップが並べられ、右手には麦茶の入った容器を持っていた。

「見られてるとやりにくいから、どこか散歩にでも行ってこいってガゼルに言われちゃった。一緒に海でも見に行かない?」
「そうなの?なら、飲み物持って行ったら海に行こっか!」
「あ、僕持つよ!」

彼女が用意した飲み物をガゼルの元に届けると、僕達は2人で近くの浜辺にやって来た。

「いいなぁ~。こんな近くに海があるなんて羨ましい!」
「イルムは海が好きなの?」
「うん!なんだか、開放的な気分にならない?気持ちがスッキリするって言うか…!」
「うーん…確かに広くて開放的ではあるけど…。」

僕は砂浜に腰を下ろすと、彼女もその隣に並んで座った。

「ルカくんは海が嫌い?」
「海がって言うか…1度溺れた事があるから、それ以来ちょっと怖くて…。」
「あ…そうなんだ…。」
「顔を洗ったり、お風呂に入ったりするのは特に問題ないから、別にいいかなって思ったんだけど…。本当は泳げるようになりたいんだよね。」
「え?どうして?」
「この間、イルムが溺れかけた時…何も出来なかったから。出来ない事を、そのままにしておくのが嫌なんだ。」
「…ルカくんと話してるといつも思うけど、努力家だよね。どんな事でもとにかくチャレンジして、出来るようになるまで諦めずに何度も挑戦してる。それって凄い事だよ!」
「後悔したくないだけだよ。あの時ああしてれば…とか、あれが僕に出来てたら…って思いたくないんだ。出来なかったじゃ済まない事があると思ってるから…。」

ふと、ルナの顔を頭の中で思い描いた。
彼女を守る為の知識と行動力が、僕には足りなかった。そのせいで彼女は死んでしまった。この後悔は、ずっと僕に付いて回る心の傷だ。
負の感情に押し潰されそうになっていた僕の手を、彼女は自らの手で包み込んだ。

「ルカくん!」
「な、何…!?」
「私が、泳ぎ方を教えてあげる!一緒に練習しよ!」
「え?でも…」
「大丈夫!こんな事もあろうかと、ちゃんと水着も持ってきてるから!」
「いや…そういう事じゃなくて…」
「あー…いきなりじゃ戸惑うよね!ルカくんの心の準備が出来たらでいいよ!私はいつでも付き合うから!」
「う、うん…。ありがとう…イルム。」

彼女の嬉しいような嬉しくないような心遣いに、僕は思わず苦笑いしてしまった。
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