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第15章︰夢のような時間
第138話
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「あっという間に着いちゃったね…。」
「思ったより短い旅だったな…。」
島に上陸した僕達は、桟橋を通って街の方へ歩き出した。
「何言ってんのさ。これから、鍵を持ってるサリエルっていう女の人を探すんだろ?」
「確か、シスターになる為に島に来たって言ってたよね?フェリ、心当たりはない?」
「うーん…そんな名前の人いなかったと思うけれど…。」
「とにかく教会に行ってみる?」
「ま、それしかなさそうだな。」
教会の大きな扉を開けて中に入ると、沢山の長椅子が並べられていた。床には赤い絨毯がしかれ、窓には鮮やかな色合いの絵が描かれている。思えばこの島に来て、何度この光景を見ただろうか。不思議と肩の力が抜け、心が落ち着くような気がした。
「さてと…手分けして人を探すかね。」
「私は資料室に行って、サリエルっていう人がシスターかどうか確認してくるわ。」
「なら、あたしとラズは1階を見て回るから、ルカは2階を見てきてくれるかい?」
「うん!わかった。」
階段を上り、言われた通りに2階へやって来た。何度も入った教会だが、2階へ上がるのは初めてでなんだか新鮮な気持ちになった。
「へぇ~…2階は部屋が少ないんだなぁ。もしかすると…ラヴィは気を遣って、2階を僕に任せたのかも…。後でお礼を言わな…」
ーキキィー…
「ひぇ!?」
前方にある部屋の扉が、音を立ててゆっくりと開いた。
「だ、誰か…。いるんですか…?」
声をかけるも反応は無く、恐る恐る扉に近づいて部屋の中へ足を踏み入れた。机や木箱、本棚などが部屋の半分程を埋めつくし、全体的に埃っぽく、長い間使われていない事が見てとれる。
「誰も…いないのかな…。」
「………あの…。」
「ぅわああ!?」
耳元でか細い女性の声が聞こえ、驚きのあまり声を上げた。
「ご、ごめんなさい…!驚かすつもりは…無かったんです…。」
声の持ち主は慌てて僕の側を離れると、部屋に置かれた物をすり抜けて距離をとった。その身体は机を貫通し、半身だけが机の上に乗っかっているように見える。
「あ、あなたは一体…。」
「申し遅れました…。私は、サリエルと申します。」
「あなたがサリエルさんですか…!?」
「え、えぇ…そうですが…。」
「僕、あなたの事を探してたんです!実は、ノースガルム港にある倉庫の扉の鍵を探してて…あなたがそれを持っていると、旦那さんから聞いて来たんです。」
「まぁ…そうだったのですか?どおりであなたから、懐かしい香りがすると思いました…。」
「その…鍵を貸してもらえませんか?倉庫の扉を、どうしても開けたいんです。」
「それは構いませんが…。今は鍵を持っていません。」
「じゃあ…どこにありますか?僕が取りに行きます!」
「森の先にある墓地に、私の墓があります。その裏に、埋めてあるはずです…。」
「亡くなってるんですね…。ごめんなさい…こんなお願いをして…。」
「いえ…。それでしたら、ついでで構いませんから私のお願いを聞いて貰えませんか?」
「あ、はい!もちろん喜んで!」
彼女のお願いと言うのは、掘り出した珊瑚の鍵を旦那さんに届けて欲しいというものだった。僕はそれを承諾すると、1階に戻ってみんなに話の内容を説明した。
「え~!?それってお化けじゃないか…!取り憑かれたりしないかい?」
「なんだよラヴィ。ビビってるのか?」
「そ、そんなんじゃないよ…!その話が、胡散臭いなと思ってるだけさ!」
「ところで、フェリの方はどうだった?」
「だいぶ前にシスターだったみたいだけど、もう亡くなってるって書いてあったわ。」
「これは胡散臭い話でもなさそうだぞ?次の目的地は、森の奥にある墓地かな。」
「行ってみよ!」
「こりゃ思ったより数が多いねぇ…。」
森を抜けて墓地にやって来ると、その墓石の多さにラズが驚きの声を漏らした。
「手分けして探してみるしかないわね…。」
「あたし、こんな所で1人になるのやだよー!」
彼女はフェリの服の裾を掴み、目元に涙を浮かべている。どうやら墓地が苦手なのか、森を通っている間も彼女の側に寄り添って歩いていた事を思い出した。
「ならラヴィは僕と一緒に探そ?ね?」
「ありがとうルカ~。そうしてもらえると助かるよぉ~。」
「全く…情けないやつだなぁ。」
「ラズは上の方をお願い。フェリは下の方からでいい?」
「わかったわ。」
「んじゃ、見つけたら声かけるわ。」
「ラヴィ。僕達は中段から、一緒にお墓の名前を確認しよ?」
「う、うん…。」
僕は彼女と手を握り、墓地の中を歩き出した。
墓に掘られた名前を確認しながら、以前ルナが港からカナ村へ洞窟を通って移動した時の事を思い返していた。暗い場所が苦手なルナを気遣い、ラヴィは彼女の手を握ってくれた。僕がこうして共に行動する事を志願したのは、彼女がルナにしてくれたように、少しでも恐怖を和らげてあげたいと思ったからだ。
「おーいルカ~。あったぞ~。」
「わかったー!フェリー!上の方にあったってー!」
「すぐ行くわー!」
彼が見つけた墓石には、サリエルの文字が刻まれていた。その裏を手で掘り返すと、鍵の形をした白い珊瑚のネックレスが見つかった。掘った地面を元に戻し、墓の前で手を合わせて彼女の冥福を静かに祈った。
そして、見つけた鍵を持って海辺へ戻ると、再びノースガルム港へ向かって船を走らせた。
「なぁルカ。ちょっと聞いてもいいか?」
「なぁに?」
船室で椅子に座り窓から海を眺めていると、部屋にやってきたラズが近くの壁にもたれかかった。
「ちゃんと聞いた事なかったんだけどさ、君がギルドに入った理由は何なんだ?」
「入ったっていうか…森で倒れてる所を、クラーレさんに拾われたんだ。記憶を無くしてたから、帰るに帰れない僕を見てクラーレさんがギルドにおいでって誘ってくれたの。」
「…誘いを断る選択肢は無かったのか?」
「え?」
彼の意外な一言に、驚いて思わず顔をあげた。隣に立っている彼は、どこか冴えない表情をしている。
「俺の場合、色んな仕事を転々としてる時にマスターから声をかけられたんだ。」
「ラズはそれでギルドに?」
「ま、最終的にはそうなったわけだけど…初めのうちは何度か断ってたんだよ。けどあいつ、かなりしつこくてさ。断り切れなくなって、渋々了承したってとこかな。」
「なんで…断ったの?」
「誘い文句が「吸血鬼を殺してくれないか?」だぞ?あの頃のマスターは、ちょっと正常じゃなかったのかもしれないな。」
彼は、冗談交じりにそう言った。しかしそれが笑えるような冗談ではなく、本当の事だと言う事が彼の目から伝わって来る。
「けど…あいつも俺も吸血鬼に両親を殺られて、下の兄弟を残された似た者同士だった。それを知ったから、ギルドに入る事を決めたんだ。ま、お金が稼げるって事も理由の1つなんだがな。」
「ラズにも…兄弟がいるんだね。」
「あぁ。病気の妹が1人な。…もう死んじまったけど。」
「あ…ごめん…。」
「そんなに気負いするなって。元々長く無いことは、病気になった時点でわかってた。それでも俺は意地になって、とにかく仕事ばっかりやってただけだ。自分が楽になりたい一心でな。」
「そんな事…。」
「ギルドに入って、後悔した時もあった。正直お金なんてどうでもいいから、妹の側にいてやった方があいつは幸せだったんじゃないか…とか思ったりしてさ。」
「吸血鬼のせいで、ラズは人生が狂わされたって思ってる…?」
「んー…。それは、なんとも言えないな。もちろん吸血鬼の事は憎んでるけど、妹が病気になったのは関係ないし…俺は元々、どういう風に生きたいかなんて考えずに生きてたからな。ある意味、ギルドで働く事が俺の生きがいになってるとも言えるし…今はこれでよかったと思ってる。」
「そっか…。」
「…ーい!港…たよー!」
部屋の外から、ラヴィが叫んでいる声が聞こえた。どうやら港に着いたらしい。
「っと…悪いな。話を聞くはずが、俺の話ばっかりしちまって…行くか。」
「うん…そうだね。」
「無事鍵も見つかって、これで次の階に進めるわね。」
「あ、それなんだけど…ちょっとみんなに相談したい事があって…。」
教会で話をしたサリエルさんが、使用した鍵を旦那さんに渡して欲しいと言っていた事を説明して、改めて彼等の意見を聞いた。
「鍵を使ったら、すぐにでも次に行きたい所なんだけど…。サリエルさんと約束しちゃったから、施錠だけ解いてサリアちゃんの家に寄ってもいいかな?」
「もちろん私は構わないわ。もしかすると、奥様が亡くなった事も知らないかもしれないし…。」
「そんな面倒な事して、何になる?別にする必要ないと思うな俺は。」
「ちょっとラズ!いくらなんでも、それじゃサリアが可哀想だと思わないのかい?」
「別に思わないけど?だって夢だろ?夢が冷めたら、現実に戻るだけだ。ここで何をしたって、何も変わりゃしないさ。」
「僕はそれでも…ちゃんとすべきだと思う。」
僕は彼の瞳を真っ直ぐ見つめ、率直な気持ちを伝えた。
「…はいはいわかったよ。最後まで、ルカの夢に付き合えって事だろ?好きにしてくれ。」
「…ありがとうラズ。」
「おや…あなた方でしたか。今度はどういった御用で…。」
「何度も尋ねてすいません!その…これを…。」
僕はポケットから鍵を取り出すと、彼の前に差し出した。
「これは…先程お話した倉庫の鍵ですね。もう必要ないのですか?」
「はい!扉の施錠は外したので、それは旦那さんにお返しすべきだと思ったんです。」
「そうですか…。これを持っているという事は、妻に会われたんですよね?妻は元気だったでしょうか?」
「それが…。」
もう既に亡くなっている事を伝えようと、意を決して口を開いた。その瞬間、隣に立っていたラズが僕の前に立ち、僕の代わりに喋り始めた。
「えぇもう。そりゃあ元気にやってましたよ?とても優しい方で、快く俺達に協力してくれました。」
「ちょっとラズ…!」
突然嘘の話を始めた彼を制止しようと手を伸ばすと、逆にそれを掴まれてしまいそのまま外へ引きずり出されてしまった。
「なんであんな嘘…は、離してよ…っ!」
「何も正直に話す事ないだろ?さっきも言ったけど、これは夢の中なんだぜ?本当の事を言って傷付けるより、嘘をついた方がマシだと思わないか?」
「嘘をつく事がいいはずない!ラズは平気で嘘をつけるのかもしれないけど、僕にそんな器用な事は出来ないよ!」
「当たり前だ。俺とルカとじゃ育った環境が違うんだからな。…悪かったな、平気で嘘をつける人間で。」
すると彼は僕に背を向け、真っ直ぐ歩き出した。
「ど…どこ行くの…!?」
「もう扉の場所もわかるんだし、俺は用済みだろ?宿屋に戻ってもっかい寝るわ~。」
「ちょっとラズ!」
ラズがその場から立ち去った後、しばらくして家に残されていたラヴィとフェリがやって来た。
「あ、いたいた。も~急に居なくなるからびっくりしたよ~。」
「あれ…ラズさんは?」
「…怒って宿屋に行っちゃった。僕が言い過ぎたからかも…。」
「放っておけば、そのうち機嫌も直るさ。気にする事ないよ。」
「ルカくんが言い過ぎるなんて…一体何の話をしたの?」
「それが…。」
僕はラズと話した内容を、彼女達に説明した。
「そうねぇ…。ラズさんの言い方も良くないけれど、ルカくんもちょっと言い過ぎちゃったわね。」
「そう…だよね…。」
「ラズとは付き合い長いから、昔の事を聞いた事あるんだけどさ。あいつ、何でもかんでもとにかく仕事を受けるもんだから、危ない仕事にもしょっちゅう手を出してたんだよね。」
「危ない仕事って…?」
「詳しくは話せないけど…生きていく為には、そういう事もしなきゃいけなかったのさ。そんな生活を続けてたせいで、性格ねじ曲がったのかもしれないねぇ。」
「でも、嘘をついていい事なんて…。」
「私は、嘘をついた方がいい時もあるって思うわ。もちろん嘘はいけない事よ?出来る事なら、嘘はつかない方がいいけど…。」
「嘘をついた方がいい時ってどんな時?」
「さっきラズさんが嘘をついたのは、相手の事を想って言った事なのよ。嘘には、良い嘘と悪い嘘があると思うわ。」
「…僕、ラズに謝ってくる!」
「あ、ちょっとルカ…!」
引き止めようとするラヴィの制止を振り切り、宿屋へ向かって駆け出した。
「ラズ…!」
「ん…?ルカ…一体何しに…」
「さっきは言い過ぎて…ごめんなさい…!」
ソファーに寝転んでいた彼に向かって、僕は深く頭を下げた。彼は身体を起こし、驚いた表情を浮かべている。
「な、なんだよ急に…。」
「ラズは平気で嘘つけるなんて…酷い事言たから…。」
「そんな事で、わざわざ謝りに来たのか?…別に気にしてないのに。」
「謝るのもそうだけど…ちゃんとお礼も言いたかったから!」
「は?お礼?」
「港で扉を探して、教会ではサリエルさんを探して、墓地では鍵を探してくれたでしょ?どれもラズがいなかったら、出来なかった事だよ。だからありがとう!」
僕はお礼の言葉と共に、精一杯の笑顔をしてみせた。それを見た彼は、笑うどころか表情を曇らせた。
「…俺は、ルカみたいに真っ直ぐは生きられない。」
「でも僕は、ラズみたいに機転が利かないよ。嘘つくの下手だから…さっきみたいに、誰かを気遣った嘘だって思いつかないし…。」
「そんな風に言ってくれるやつ、初めてみたな。」
「え?そうなの?」
「…それよりさ。こんな所で油売ってていいのか?」
「…あ!」
「全く…世話のかかる奴だな~。扉の前まで見送らないと、安心して寝れないなこりゃあ。」
「ご、ごめん…。」
宿屋の入口で待っていたラヴィとフェリの2人と合流し、3人に見送られながら扉の奥にある次の階へと向かった。
「思ったより短い旅だったな…。」
島に上陸した僕達は、桟橋を通って街の方へ歩き出した。
「何言ってんのさ。これから、鍵を持ってるサリエルっていう女の人を探すんだろ?」
「確か、シスターになる為に島に来たって言ってたよね?フェリ、心当たりはない?」
「うーん…そんな名前の人いなかったと思うけれど…。」
「とにかく教会に行ってみる?」
「ま、それしかなさそうだな。」
教会の大きな扉を開けて中に入ると、沢山の長椅子が並べられていた。床には赤い絨毯がしかれ、窓には鮮やかな色合いの絵が描かれている。思えばこの島に来て、何度この光景を見ただろうか。不思議と肩の力が抜け、心が落ち着くような気がした。
「さてと…手分けして人を探すかね。」
「私は資料室に行って、サリエルっていう人がシスターかどうか確認してくるわ。」
「なら、あたしとラズは1階を見て回るから、ルカは2階を見てきてくれるかい?」
「うん!わかった。」
階段を上り、言われた通りに2階へやって来た。何度も入った教会だが、2階へ上がるのは初めてでなんだか新鮮な気持ちになった。
「へぇ~…2階は部屋が少ないんだなぁ。もしかすると…ラヴィは気を遣って、2階を僕に任せたのかも…。後でお礼を言わな…」
ーキキィー…
「ひぇ!?」
前方にある部屋の扉が、音を立ててゆっくりと開いた。
「だ、誰か…。いるんですか…?」
声をかけるも反応は無く、恐る恐る扉に近づいて部屋の中へ足を踏み入れた。机や木箱、本棚などが部屋の半分程を埋めつくし、全体的に埃っぽく、長い間使われていない事が見てとれる。
「誰も…いないのかな…。」
「………あの…。」
「ぅわああ!?」
耳元でか細い女性の声が聞こえ、驚きのあまり声を上げた。
「ご、ごめんなさい…!驚かすつもりは…無かったんです…。」
声の持ち主は慌てて僕の側を離れると、部屋に置かれた物をすり抜けて距離をとった。その身体は机を貫通し、半身だけが机の上に乗っかっているように見える。
「あ、あなたは一体…。」
「申し遅れました…。私は、サリエルと申します。」
「あなたがサリエルさんですか…!?」
「え、えぇ…そうですが…。」
「僕、あなたの事を探してたんです!実は、ノースガルム港にある倉庫の扉の鍵を探してて…あなたがそれを持っていると、旦那さんから聞いて来たんです。」
「まぁ…そうだったのですか?どおりであなたから、懐かしい香りがすると思いました…。」
「その…鍵を貸してもらえませんか?倉庫の扉を、どうしても開けたいんです。」
「それは構いませんが…。今は鍵を持っていません。」
「じゃあ…どこにありますか?僕が取りに行きます!」
「森の先にある墓地に、私の墓があります。その裏に、埋めてあるはずです…。」
「亡くなってるんですね…。ごめんなさい…こんなお願いをして…。」
「いえ…。それでしたら、ついでで構いませんから私のお願いを聞いて貰えませんか?」
「あ、はい!もちろん喜んで!」
彼女のお願いと言うのは、掘り出した珊瑚の鍵を旦那さんに届けて欲しいというものだった。僕はそれを承諾すると、1階に戻ってみんなに話の内容を説明した。
「え~!?それってお化けじゃないか…!取り憑かれたりしないかい?」
「なんだよラヴィ。ビビってるのか?」
「そ、そんなんじゃないよ…!その話が、胡散臭いなと思ってるだけさ!」
「ところで、フェリの方はどうだった?」
「だいぶ前にシスターだったみたいだけど、もう亡くなってるって書いてあったわ。」
「これは胡散臭い話でもなさそうだぞ?次の目的地は、森の奥にある墓地かな。」
「行ってみよ!」
「こりゃ思ったより数が多いねぇ…。」
森を抜けて墓地にやって来ると、その墓石の多さにラズが驚きの声を漏らした。
「手分けして探してみるしかないわね…。」
「あたし、こんな所で1人になるのやだよー!」
彼女はフェリの服の裾を掴み、目元に涙を浮かべている。どうやら墓地が苦手なのか、森を通っている間も彼女の側に寄り添って歩いていた事を思い出した。
「ならラヴィは僕と一緒に探そ?ね?」
「ありがとうルカ~。そうしてもらえると助かるよぉ~。」
「全く…情けないやつだなぁ。」
「ラズは上の方をお願い。フェリは下の方からでいい?」
「わかったわ。」
「んじゃ、見つけたら声かけるわ。」
「ラヴィ。僕達は中段から、一緒にお墓の名前を確認しよ?」
「う、うん…。」
僕は彼女と手を握り、墓地の中を歩き出した。
墓に掘られた名前を確認しながら、以前ルナが港からカナ村へ洞窟を通って移動した時の事を思い返していた。暗い場所が苦手なルナを気遣い、ラヴィは彼女の手を握ってくれた。僕がこうして共に行動する事を志願したのは、彼女がルナにしてくれたように、少しでも恐怖を和らげてあげたいと思ったからだ。
「おーいルカ~。あったぞ~。」
「わかったー!フェリー!上の方にあったってー!」
「すぐ行くわー!」
彼が見つけた墓石には、サリエルの文字が刻まれていた。その裏を手で掘り返すと、鍵の形をした白い珊瑚のネックレスが見つかった。掘った地面を元に戻し、墓の前で手を合わせて彼女の冥福を静かに祈った。
そして、見つけた鍵を持って海辺へ戻ると、再びノースガルム港へ向かって船を走らせた。
「なぁルカ。ちょっと聞いてもいいか?」
「なぁに?」
船室で椅子に座り窓から海を眺めていると、部屋にやってきたラズが近くの壁にもたれかかった。
「ちゃんと聞いた事なかったんだけどさ、君がギルドに入った理由は何なんだ?」
「入ったっていうか…森で倒れてる所を、クラーレさんに拾われたんだ。記憶を無くしてたから、帰るに帰れない僕を見てクラーレさんがギルドにおいでって誘ってくれたの。」
「…誘いを断る選択肢は無かったのか?」
「え?」
彼の意外な一言に、驚いて思わず顔をあげた。隣に立っている彼は、どこか冴えない表情をしている。
「俺の場合、色んな仕事を転々としてる時にマスターから声をかけられたんだ。」
「ラズはそれでギルドに?」
「ま、最終的にはそうなったわけだけど…初めのうちは何度か断ってたんだよ。けどあいつ、かなりしつこくてさ。断り切れなくなって、渋々了承したってとこかな。」
「なんで…断ったの?」
「誘い文句が「吸血鬼を殺してくれないか?」だぞ?あの頃のマスターは、ちょっと正常じゃなかったのかもしれないな。」
彼は、冗談交じりにそう言った。しかしそれが笑えるような冗談ではなく、本当の事だと言う事が彼の目から伝わって来る。
「けど…あいつも俺も吸血鬼に両親を殺られて、下の兄弟を残された似た者同士だった。それを知ったから、ギルドに入る事を決めたんだ。ま、お金が稼げるって事も理由の1つなんだがな。」
「ラズにも…兄弟がいるんだね。」
「あぁ。病気の妹が1人な。…もう死んじまったけど。」
「あ…ごめん…。」
「そんなに気負いするなって。元々長く無いことは、病気になった時点でわかってた。それでも俺は意地になって、とにかく仕事ばっかりやってただけだ。自分が楽になりたい一心でな。」
「そんな事…。」
「ギルドに入って、後悔した時もあった。正直お金なんてどうでもいいから、妹の側にいてやった方があいつは幸せだったんじゃないか…とか思ったりしてさ。」
「吸血鬼のせいで、ラズは人生が狂わされたって思ってる…?」
「んー…。それは、なんとも言えないな。もちろん吸血鬼の事は憎んでるけど、妹が病気になったのは関係ないし…俺は元々、どういう風に生きたいかなんて考えずに生きてたからな。ある意味、ギルドで働く事が俺の生きがいになってるとも言えるし…今はこれでよかったと思ってる。」
「そっか…。」
「…ーい!港…たよー!」
部屋の外から、ラヴィが叫んでいる声が聞こえた。どうやら港に着いたらしい。
「っと…悪いな。話を聞くはずが、俺の話ばっかりしちまって…行くか。」
「うん…そうだね。」
「無事鍵も見つかって、これで次の階に進めるわね。」
「あ、それなんだけど…ちょっとみんなに相談したい事があって…。」
教会で話をしたサリエルさんが、使用した鍵を旦那さんに渡して欲しいと言っていた事を説明して、改めて彼等の意見を聞いた。
「鍵を使ったら、すぐにでも次に行きたい所なんだけど…。サリエルさんと約束しちゃったから、施錠だけ解いてサリアちゃんの家に寄ってもいいかな?」
「もちろん私は構わないわ。もしかすると、奥様が亡くなった事も知らないかもしれないし…。」
「そんな面倒な事して、何になる?別にする必要ないと思うな俺は。」
「ちょっとラズ!いくらなんでも、それじゃサリアが可哀想だと思わないのかい?」
「別に思わないけど?だって夢だろ?夢が冷めたら、現実に戻るだけだ。ここで何をしたって、何も変わりゃしないさ。」
「僕はそれでも…ちゃんとすべきだと思う。」
僕は彼の瞳を真っ直ぐ見つめ、率直な気持ちを伝えた。
「…はいはいわかったよ。最後まで、ルカの夢に付き合えって事だろ?好きにしてくれ。」
「…ありがとうラズ。」
「おや…あなた方でしたか。今度はどういった御用で…。」
「何度も尋ねてすいません!その…これを…。」
僕はポケットから鍵を取り出すと、彼の前に差し出した。
「これは…先程お話した倉庫の鍵ですね。もう必要ないのですか?」
「はい!扉の施錠は外したので、それは旦那さんにお返しすべきだと思ったんです。」
「そうですか…。これを持っているという事は、妻に会われたんですよね?妻は元気だったでしょうか?」
「それが…。」
もう既に亡くなっている事を伝えようと、意を決して口を開いた。その瞬間、隣に立っていたラズが僕の前に立ち、僕の代わりに喋り始めた。
「えぇもう。そりゃあ元気にやってましたよ?とても優しい方で、快く俺達に協力してくれました。」
「ちょっとラズ…!」
突然嘘の話を始めた彼を制止しようと手を伸ばすと、逆にそれを掴まれてしまいそのまま外へ引きずり出されてしまった。
「なんであんな嘘…は、離してよ…っ!」
「何も正直に話す事ないだろ?さっきも言ったけど、これは夢の中なんだぜ?本当の事を言って傷付けるより、嘘をついた方がマシだと思わないか?」
「嘘をつく事がいいはずない!ラズは平気で嘘をつけるのかもしれないけど、僕にそんな器用な事は出来ないよ!」
「当たり前だ。俺とルカとじゃ育った環境が違うんだからな。…悪かったな、平気で嘘をつける人間で。」
すると彼は僕に背を向け、真っ直ぐ歩き出した。
「ど…どこ行くの…!?」
「もう扉の場所もわかるんだし、俺は用済みだろ?宿屋に戻ってもっかい寝るわ~。」
「ちょっとラズ!」
ラズがその場から立ち去った後、しばらくして家に残されていたラヴィとフェリがやって来た。
「あ、いたいた。も~急に居なくなるからびっくりしたよ~。」
「あれ…ラズさんは?」
「…怒って宿屋に行っちゃった。僕が言い過ぎたからかも…。」
「放っておけば、そのうち機嫌も直るさ。気にする事ないよ。」
「ルカくんが言い過ぎるなんて…一体何の話をしたの?」
「それが…。」
僕はラズと話した内容を、彼女達に説明した。
「そうねぇ…。ラズさんの言い方も良くないけれど、ルカくんもちょっと言い過ぎちゃったわね。」
「そう…だよね…。」
「ラズとは付き合い長いから、昔の事を聞いた事あるんだけどさ。あいつ、何でもかんでもとにかく仕事を受けるもんだから、危ない仕事にもしょっちゅう手を出してたんだよね。」
「危ない仕事って…?」
「詳しくは話せないけど…生きていく為には、そういう事もしなきゃいけなかったのさ。そんな生活を続けてたせいで、性格ねじ曲がったのかもしれないねぇ。」
「でも、嘘をついていい事なんて…。」
「私は、嘘をついた方がいい時もあるって思うわ。もちろん嘘はいけない事よ?出来る事なら、嘘はつかない方がいいけど…。」
「嘘をついた方がいい時ってどんな時?」
「さっきラズさんが嘘をついたのは、相手の事を想って言った事なのよ。嘘には、良い嘘と悪い嘘があると思うわ。」
「…僕、ラズに謝ってくる!」
「あ、ちょっとルカ…!」
引き止めようとするラヴィの制止を振り切り、宿屋へ向かって駆け出した。
「ラズ…!」
「ん…?ルカ…一体何しに…」
「さっきは言い過ぎて…ごめんなさい…!」
ソファーに寝転んでいた彼に向かって、僕は深く頭を下げた。彼は身体を起こし、驚いた表情を浮かべている。
「な、なんだよ急に…。」
「ラズは平気で嘘つけるなんて…酷い事言たから…。」
「そんな事で、わざわざ謝りに来たのか?…別に気にしてないのに。」
「謝るのもそうだけど…ちゃんとお礼も言いたかったから!」
「は?お礼?」
「港で扉を探して、教会ではサリエルさんを探して、墓地では鍵を探してくれたでしょ?どれもラズがいなかったら、出来なかった事だよ。だからありがとう!」
僕はお礼の言葉と共に、精一杯の笑顔をしてみせた。それを見た彼は、笑うどころか表情を曇らせた。
「…俺は、ルカみたいに真っ直ぐは生きられない。」
「でも僕は、ラズみたいに機転が利かないよ。嘘つくの下手だから…さっきみたいに、誰かを気遣った嘘だって思いつかないし…。」
「そんな風に言ってくれるやつ、初めてみたな。」
「え?そうなの?」
「…それよりさ。こんな所で油売ってていいのか?」
「…あ!」
「全く…世話のかかる奴だな~。扉の前まで見送らないと、安心して寝れないなこりゃあ。」
「ご、ごめん…。」
宿屋の入口で待っていたラヴィとフェリの2人と合流し、3人に見送られながら扉の奥にある次の階へと向かった。
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99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
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