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序章・一話
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「・・あの・・」
と、遠慮がちに影虎が声をかけると、源太は何も言わずにポンポンと彼の頭を撫でている。
その手は心配いらないと言っているようにも見えたので、彼は何も言わずに視線を前に戻すことにした。
「篤之進様が呼んでいます」
と、そう言って知らない少年が二人の前に来たのは、それから暫らく経っての事だった。
誰だろうと首を傾げる影虎をよそに、源太は「分かった」と言うと、影虎を連れてまた篤之進の部屋を訪れる事にしたのだった。
「急に呼び出してすまなかったね」と、部屋に入った瞬間に言われた二人は、黙したままその場に腰を下ろすことにした。
静まり返った部屋の中で、篤之進は「さて。本題に入ろうか」と話すと側に置いていた巻物をスルスルと紐解き始めた。
「?」
巻物はかなり古い物のようで、紙がいくつもひび割れを起こしており、色褪せたその紙の表面には小さな染みがいくつも浮き出ている。
「??」
首を傾げる影虎の前に広げられたその巻物には、人物のような絵が墨で描かれており、篤之進は自身の眼鏡に手を添えると、二人を見た。
「少し、話が長くなるんだけどね・・」
そう言って笑った彼の笑顔は、最初にこの部屋で出会った時に比べると、やや堅いような気がする。気のせいかもしれないけれど。
篤之進は巻物に視線を落したまま
「どうしても夕餉の時刻までに話しておきたかったんだ」
と、影虎に視線を向けた。その表情は先程よりも、穏やかでとても優しい。
何だか不思議な雰囲気の人だと、座していて思う。
「何処から話をしよう・・まずは君の眼について話をしようか・・」
その言葉に、影虎の心の臓がドクンと一際高い音を立てた。
「・・・・・」
それを悟られまいと、彼はゴクンと唾を飲み込んで一度深く息を吸い吐くことにしたのだった。
君の目は実に不思議な力を宿している。
そう言って、篤之進は話を切り出した。
この京の町は、平安の時代。
今とは違って、人間や妖怪や鬼と呼ばれる異形の者が同じように生活をしていた。
人間も妖怪も鬼も外見は変わらず、皆が理解しあって暮らしていたんだ。
勿論、そうじゃない者も数多くいたのは事実だし、それは今の時代も変わらない。
でも、互いに理解をしようと歩み寄る者達がいたのは、けして嘘じゃない。
ただ、人間と違い彼らの寿命は長く、人間には無い力を宿している者もいた。
それを、いつか我々に向けられるんじゃないかと考えた者達がいたんだ。
妖怪狩りや鬼狩りは繰り返され、その者達の思念はやがて大きな悪霊を生み出した。
その悪霊を安倍晴明と呼ばれる一人の陰陽師が、木・火・土・金・水の五行を最大限に使い封印した。
悪霊達は、この五行を無理やりに乱すことによって、この地を滅ぼそうと考えていたらしい。
この京の町は都と呼ばれていて、あらゆる権力を持った者がこの地に終結していてね、そこを支配すればたちまち他の場所も支配する事が出来ると考えたのだろう。
雨の降らぬ木々は乾き、火を生み出し、木々は火によって燃えてしまい灰になってしまう。
風は灰を運び人々の空気を汚す。水は雨になって降り続けたせいで全てのものを流すだろう。
けして、駄目だと言うわけじゃないんだ。
自然界に位置するその全てが相重なることで、我々が住むこの世界が創られてきたのだから。しかしそれが別の者の手によって乱されてしまい、この世は阿鼻叫喚の世界となった。
一つの器に、全てのものが止まることなく溢れ出てしまえば、やがて器は朽ちていく。
その世界を救おうと、安倍清明は南方の朱雀、東方の青竜、西方の白虎、北方の玄武といった四神の力を借りて五行の乱れを正し、悪霊を封印したんだ。
しかし、その封印が何者かによって解かれてしまった。
そこまで話して篤之進は、ふうと溜息を吐いた。
封印が解かれたのは、もう一年も前になる。
外に出てみると何やら赤黒い雲が轟いていてね。胸騒ぎが治まらなかった。
その・・次の日だったかな。嫌な予感がして屋敷から出てみたら、驚いたよ。
町中は幽霊達で溢れかえっているのだもの。
君が見たという景色と、多分同じものだ。
彼らは他の人には見えていないんだろう。見えていたらそれこそ騒ぎが大きくなる。
その幽霊達は人に憑いて、ゆっくりとその人の持つ生気を奪ってしまう。
君のいた里が襲われたという話も、はっきりとは言えないけれど、封印が解かれたせいもあるのかもしれない。
全くなんてことだ・・と彼は俯いた。
村にいた時、赤黒い影に掴まれたと言ったね。
君は、その妖かしの力を何らかの衝撃と共に眼に受けたのだろう。
実際のところ、君の眼は私達とは違い、紅色だ。
その言葉に、影虎は一瞬、言葉を失ってしまった。
君の目は人間のそれとは違う。幽霊を見ると言ったね。
恐らく君は我々には出来ない力を持っている。
幽霊と話すことも、触れる事も君なら出来るはずだ。
「それじゃあ・・篤先生」
源太が問う。
と、遠慮がちに影虎が声をかけると、源太は何も言わずにポンポンと彼の頭を撫でている。
その手は心配いらないと言っているようにも見えたので、彼は何も言わずに視線を前に戻すことにした。
「篤之進様が呼んでいます」
と、そう言って知らない少年が二人の前に来たのは、それから暫らく経っての事だった。
誰だろうと首を傾げる影虎をよそに、源太は「分かった」と言うと、影虎を連れてまた篤之進の部屋を訪れる事にしたのだった。
「急に呼び出してすまなかったね」と、部屋に入った瞬間に言われた二人は、黙したままその場に腰を下ろすことにした。
静まり返った部屋の中で、篤之進は「さて。本題に入ろうか」と話すと側に置いていた巻物をスルスルと紐解き始めた。
「?」
巻物はかなり古い物のようで、紙がいくつもひび割れを起こしており、色褪せたその紙の表面には小さな染みがいくつも浮き出ている。
「??」
首を傾げる影虎の前に広げられたその巻物には、人物のような絵が墨で描かれており、篤之進は自身の眼鏡に手を添えると、二人を見た。
「少し、話が長くなるんだけどね・・」
そう言って笑った彼の笑顔は、最初にこの部屋で出会った時に比べると、やや堅いような気がする。気のせいかもしれないけれど。
篤之進は巻物に視線を落したまま
「どうしても夕餉の時刻までに話しておきたかったんだ」
と、影虎に視線を向けた。その表情は先程よりも、穏やかでとても優しい。
何だか不思議な雰囲気の人だと、座していて思う。
「何処から話をしよう・・まずは君の眼について話をしようか・・」
その言葉に、影虎の心の臓がドクンと一際高い音を立てた。
「・・・・・」
それを悟られまいと、彼はゴクンと唾を飲み込んで一度深く息を吸い吐くことにしたのだった。
君の目は実に不思議な力を宿している。
そう言って、篤之進は話を切り出した。
この京の町は、平安の時代。
今とは違って、人間や妖怪や鬼と呼ばれる異形の者が同じように生活をしていた。
人間も妖怪も鬼も外見は変わらず、皆が理解しあって暮らしていたんだ。
勿論、そうじゃない者も数多くいたのは事実だし、それは今の時代も変わらない。
でも、互いに理解をしようと歩み寄る者達がいたのは、けして嘘じゃない。
ただ、人間と違い彼らの寿命は長く、人間には無い力を宿している者もいた。
それを、いつか我々に向けられるんじゃないかと考えた者達がいたんだ。
妖怪狩りや鬼狩りは繰り返され、その者達の思念はやがて大きな悪霊を生み出した。
その悪霊を安倍晴明と呼ばれる一人の陰陽師が、木・火・土・金・水の五行を最大限に使い封印した。
悪霊達は、この五行を無理やりに乱すことによって、この地を滅ぼそうと考えていたらしい。
この京の町は都と呼ばれていて、あらゆる権力を持った者がこの地に終結していてね、そこを支配すればたちまち他の場所も支配する事が出来ると考えたのだろう。
雨の降らぬ木々は乾き、火を生み出し、木々は火によって燃えてしまい灰になってしまう。
風は灰を運び人々の空気を汚す。水は雨になって降り続けたせいで全てのものを流すだろう。
けして、駄目だと言うわけじゃないんだ。
自然界に位置するその全てが相重なることで、我々が住むこの世界が創られてきたのだから。しかしそれが別の者の手によって乱されてしまい、この世は阿鼻叫喚の世界となった。
一つの器に、全てのものが止まることなく溢れ出てしまえば、やがて器は朽ちていく。
その世界を救おうと、安倍清明は南方の朱雀、東方の青竜、西方の白虎、北方の玄武といった四神の力を借りて五行の乱れを正し、悪霊を封印したんだ。
しかし、その封印が何者かによって解かれてしまった。
そこまで話して篤之進は、ふうと溜息を吐いた。
封印が解かれたのは、もう一年も前になる。
外に出てみると何やら赤黒い雲が轟いていてね。胸騒ぎが治まらなかった。
その・・次の日だったかな。嫌な予感がして屋敷から出てみたら、驚いたよ。
町中は幽霊達で溢れかえっているのだもの。
君が見たという景色と、多分同じものだ。
彼らは他の人には見えていないんだろう。見えていたらそれこそ騒ぎが大きくなる。
その幽霊達は人に憑いて、ゆっくりとその人の持つ生気を奪ってしまう。
君のいた里が襲われたという話も、はっきりとは言えないけれど、封印が解かれたせいもあるのかもしれない。
全くなんてことだ・・と彼は俯いた。
村にいた時、赤黒い影に掴まれたと言ったね。
君は、その妖かしの力を何らかの衝撃と共に眼に受けたのだろう。
実際のところ、君の眼は私達とは違い、紅色だ。
その言葉に、影虎は一瞬、言葉を失ってしまった。
君の目は人間のそれとは違う。幽霊を見ると言ったね。
恐らく君は我々には出来ない力を持っている。
幽霊と話すことも、触れる事も君なら出来るはずだ。
「それじゃあ・・篤先生」
源太が問う。
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