黒羽織

四宮

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黒羽織其の六 妖刀さがし

06

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屋敷の門をくぐり、ここかと思いながら足を踏み入れれば、竹刀同士が打ち合い絡む音が遠くに聞こえた。
「・・・・・・・・・・・」
凛とした、迷いのないその音に以蔵の足が自然と止まる。
その姿に気が付いたのは、戸口の前に立っていた道着姿の男性であった。
男性が以蔵を見る。
「・・・・・・・・・」
以蔵は何も話すことなく、ただ黙って頭を下げた。
その姿に男性が何かを察したのだろう。そのまま離れていく音を耳にして、土に視線を向けたまま、以蔵は黙ってジッと耐えていた。
ザリザリと土を踏む音が微かに聞こえ、じっと頭を下げたままの彼の眼に先ほどの男の足が見えたのは、それから少し時間が経過しての事だった。

「入って来とおせ。先生が呼びちゅうがよ」
「・・・・・・・・」
その声に弾かれるように以蔵は前を見た。
「・・・・・・・・・・・・・」
打ち合いをする生徒に紛れたその奥にて、こちらを見やる顔がある。
道着に身を包み、色白ですらりと背も高く、整った顔つきの男がじっと以蔵を見ていた。
「・・・・・・・・・・」
ごくりと無意識に喉が鳴る。
真っ直ぐに射抜くようなその視線に、ぶるりと背筋が強張った。

道場で武市は以蔵に「まずは誰かと手合わせしてみろ」といい、腕を組んでそれを見守った。凛としたよく通るその声に、まずは心が震えた。
平伏しながら、ぶるぶると腕が震えて止まらなかった。
理由は他でもない。以蔵は眼前に座す武市の顔を、ただ見る事が出来なかったのだ。
以蔵は最初、木刀だけでの立ち合いかと思い込んでいたのだが、これがどうも違うようで、「防具を付けて立ち合いをするように」
と、命じられたその声に背の芯がまたぶるりと震え、ごくりと唾を何度も飲み込むその音だけが、大きく深く耳に響いた。

「・・・・・・・」
ぶるぶると震える手で竹刀を手にし、終始ぎこちない動作で防具をつけた。
別の道場でも身に着けるとはいえ、以蔵はこの防具があまり好きではなかった。
胴は丸くぶかぶかしている。籠手こてをつけると指が自由に動かない。
面に至っては頭をぎゅうぎゅうと締め付けて心地が悪かった。
窮屈だったが、彼は何も言わずに立ち上がった。

「・・・・・・・・・・」
何度もつけたことがあるとはいえ、なんて動きにくいものなんだろうと思いながらも、軽い竹刀を上下に動かしてその感触を確かめてみる。
使い慣れた木刀や竹刀とは異なり、若干の癖はあるものの、けして使いづらいわけではないその感触に以蔵の口がニヤリと動く。
「・・うん。ああ。悪くねぇ」
さて、つけたはいいが、いつ始めるのだろうと思いながら相手を見る。
軽く一礼して竹刀を構え、蹲踞そんきょという動作を取っている相手を見ながら、以蔵も同じ動作をした。
しかし緊張のせいか、竹刀を手に軽くしゃがみこんで立ち上がる一定の動作が、どうにもやり辛い。
その以蔵の構え方に顔をしかめたのは、他ならぬ武市だった。

「なんちゅう構え方をしとるんじゃ・・・」
あまりにも不恰好で美しさのかけらも無い。
ある人物を除いて彼は品の無い者が嫌いだった。
本人は無自覚なのだろうが、猫背が酷すぎる。
ピンと背筋を何故伸ばせないのか。
試合が始まり、眉を顰めていた彼を驚かせたのも以蔵だった。

以蔵には教えてくれる者がいたとはいえ、その殆どが我流で実践剣術。
どう撃って仕掛けてくるか、そんな事をぼんやりと考える余裕など、試合となれば相手から与えられるわけがない。
ごくりと唾を飲む。
緊張していたはずの震えは、いつの間にか無くなってしまっていた。
「はじめっ」
その号令で立ち上がった以蔵は、竹刀の剣先を揺らしながら少しずつ後退し、間合いを取っていく。それは相手も同じであった。

「・・・・・・」
瞬きをする一瞬、間合いの隙をつくかのように、ふっと飛び上がった相手の竹刀を横に叩き落とすと、彼は急に身体を丸めながら走り込んだ。
「・・・!」
近距離で、びょんっとウサギのように跳ね上がったかと思うと、相手の面にバシッと打ち込み、勢い余って横に倒れ込むようにグルグルと回転をするや否や、急にキュッと足首を捻って自身の向きを咄嗟に変えた。一瞬、何が起こったのかと誰もが思ったその刹那、以蔵は中腰の姿勢からダンッと強く踏み込んで走り出し、そのまま相手を捕らえると速度を落すことなく器用に左足の向きを変え、その勢いを止めてしまったのだ。

「・・・・・・・!」
相手の眼前には、急に以蔵が現れたように見えたのだろう。
面の奥の相手の目が、怯んだように丸くなった。
以蔵は、胴の幅などお構いなしとでもいうように、上体を屈ませると足元に勢いよく一撃を打ち込み、更に相手が怯んだ所を喉元目掛けて真っ直ぐに突きをくらわせたのである。
その威力や凄まじく、相手は彼の突きをまともに受けて、後ろへと跳ね飛ばされてしまった。
ドターンッと勢いよく飛ばされた音に弾かれるように立ち上がった門下生が慌てて駆け寄り面を外すと、その相手は白目を剥き出し口からは泡を吹いていた。
その動きに息を飲む様に武市の瞳が丸くなる。
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