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黒羽織其の六 妖刀さがし
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「なんて剣だ・・・」
無意識に武市は呟いた。
「なんて素早さだ・・・」
以蔵を見た。大柄な男である。
防具を着けていることすらも感じさせないその動き。
以前に彼の親族から文を受け取った事があるとはいえ、返事を保留にしてはいたが・・。
「この者・・・天賦の才がある。修行させれば必ず強くなる」
一瞬にして、武市は以蔵を門に入れることを決めた。
一方、そんな事なぞ想像すらしていなかった以蔵は
「勝った・・」
ハアハアゼイゼイと息を切らせながらも、彼の脳裏には勝利したという事実だけが残り、手ごたえを感じずにはいられなかったのである。
ほとばしる昂揚感。
それらはやがて確実なものへと変わっていったのだった。
不意に脳裏を横切るのは道場に向かうまでの記憶。何も意味を持たないはずだった。
苛立ちを、ただ振りかざしていただけの腕に、この人は意味をくれたのだ。
これ以上の喜びを、どう他で表せというのだろう・・?
不意に眼前から迫る気配に、フッと以蔵の顔が上がった。
目の前に座る半平太の視線が左右に何度も揺れている。
彼は何かをううんと考えていたようだったが、その眼はやがて以蔵を見た。
「この絵。どうじゃろう・・」
「絵・・ですか・・」
「そうじゃ。この前の雀に比べると・・些か下手な気もするがのう・・」
そう言いながら、半平太は半紙を以蔵に見せた。途端に以蔵の目が丸くなる。
シトシトという雨の音が壁越しに聞こえ、やがて本格的に降り出したらしく、その音は一層強くなった。
「・・・正直・・よぅ分からんけんど・・いい絵じゃと思いますき」
うーんと首を捻りながら、ぽつりぽつりと呟く以蔵の声に、フッと微笑む半平太は半紙を横にずらしながら静かに彼に近付いていく。不意に伸びた影に以蔵の眼が丸くなった。
「・・・先生・・?」
「この前・・先斗町じゃったか。そこで女子を泣かせたそうじゃのう・・」
「・・・え・・」
くすりと笑いながら半平太がそっと以蔵の顎に手を添えた。それはゆっくりと上がっていき、気がつけば以蔵の顔は半平太の目の前にある。
「・・・っ」
カッと赤くなる以蔵の表情に笑みを絶やさないまま、彼の唇はそのまま以蔵のそれへと重なっていく。
「・・ふっ・・う・・っ」
呼吸が出来ないまま、もがく以蔵の腕を取り何度も何度も角度を変えながら、咥内へと侵食していく半平太の舌とは別に、着物の中へと滑り込んで来る指の動きに、無意識ながらも、以蔵の身体がビクンと反応していく。
同時にぐいぐいと押し付けられていく半平太の膝の動きがもどかしい。
唇を離した途端、無意識に半平太から顔を背けた。息が上がったままの以蔵は、どうにも気恥ずかしくなって目の前に迫る半平太を見る事が出来ないままだ。
「・・・ゃ・・せんせ・・・」
「・・ん・・?・何が・・いや・・・?」
くすくすと愉しむかのように、半平太の指は肌に触れるか触れないかのところで、止まりながら以蔵の反応を待っている。その度に彼の身体はびくびくと反応し、何度も左右に跳ね上がっていった。
「まさか・・以蔵が女子を泣かすとはのう・・意外じゃった・・」
くすくすと笑みを含めながら耳元でそう囁かれ、ジンジンと頭が痺れて真っ白になっていく。その先にある顔は、なおも穏やかで優しいままだ。
「・・・せんせ・・」
くいっと半平太の袖を引く以蔵に、くすりと笑うと彼は以蔵の袴の帯をするりと解いた。
「・・・・・・・・そろそろ・・起きやったもんせ。以蔵さぁ」
以蔵がその声に反応し目を覚ます頃には、部屋はもうすでに真っ暗で、いつの間にか雨音も止んでしまっている。
「・・ん・・・?」
やけに肌寒く感じて、彼はゆっくりと起き上がった。と同時に、肌蹴ている自分の着物にも気がついた。
「・・・・・・・・・・」
何度も瞬きを繰り返す。髪をガシガシと掻きながら、彼は散乱している着物に手を伸ばすとゆっくりと袖を通していく。その様子を黙って見ている人物が隣にいる。新兵衛だ。
以蔵が袴の帯を締めなおしている様子を横目に見ながら、彼は開かれたままの格子窓に顔を向けた。
「雨・・・上がりもんしたなあ。以蔵さぁ」
「・・ああ」
「・・そん・・・腰は・・・・・・」
「・・・・・・・」
以蔵は何も言わず。新兵衛は格子の先を見ながら、あん人は加減を知らんから・・と呟いた後、黙した。
雨は上がり、澄んだ空気が部屋へと入ってくる。
同時に満月が薄闇に光る畳を照らしていた。
無意識に武市は呟いた。
「なんて素早さだ・・・」
以蔵を見た。大柄な男である。
防具を着けていることすらも感じさせないその動き。
以前に彼の親族から文を受け取った事があるとはいえ、返事を保留にしてはいたが・・。
「この者・・・天賦の才がある。修行させれば必ず強くなる」
一瞬にして、武市は以蔵を門に入れることを決めた。
一方、そんな事なぞ想像すらしていなかった以蔵は
「勝った・・」
ハアハアゼイゼイと息を切らせながらも、彼の脳裏には勝利したという事実だけが残り、手ごたえを感じずにはいられなかったのである。
ほとばしる昂揚感。
それらはやがて確実なものへと変わっていったのだった。
不意に脳裏を横切るのは道場に向かうまでの記憶。何も意味を持たないはずだった。
苛立ちを、ただ振りかざしていただけの腕に、この人は意味をくれたのだ。
これ以上の喜びを、どう他で表せというのだろう・・?
不意に眼前から迫る気配に、フッと以蔵の顔が上がった。
目の前に座る半平太の視線が左右に何度も揺れている。
彼は何かをううんと考えていたようだったが、その眼はやがて以蔵を見た。
「この絵。どうじゃろう・・」
「絵・・ですか・・」
「そうじゃ。この前の雀に比べると・・些か下手な気もするがのう・・」
そう言いながら、半平太は半紙を以蔵に見せた。途端に以蔵の目が丸くなる。
シトシトという雨の音が壁越しに聞こえ、やがて本格的に降り出したらしく、その音は一層強くなった。
「・・・正直・・よぅ分からんけんど・・いい絵じゃと思いますき」
うーんと首を捻りながら、ぽつりぽつりと呟く以蔵の声に、フッと微笑む半平太は半紙を横にずらしながら静かに彼に近付いていく。不意に伸びた影に以蔵の眼が丸くなった。
「・・・先生・・?」
「この前・・先斗町じゃったか。そこで女子を泣かせたそうじゃのう・・」
「・・・え・・」
くすりと笑いながら半平太がそっと以蔵の顎に手を添えた。それはゆっくりと上がっていき、気がつけば以蔵の顔は半平太の目の前にある。
「・・・っ」
カッと赤くなる以蔵の表情に笑みを絶やさないまま、彼の唇はそのまま以蔵のそれへと重なっていく。
「・・ふっ・・う・・っ」
呼吸が出来ないまま、もがく以蔵の腕を取り何度も何度も角度を変えながら、咥内へと侵食していく半平太の舌とは別に、着物の中へと滑り込んで来る指の動きに、無意識ながらも、以蔵の身体がビクンと反応していく。
同時にぐいぐいと押し付けられていく半平太の膝の動きがもどかしい。
唇を離した途端、無意識に半平太から顔を背けた。息が上がったままの以蔵は、どうにも気恥ずかしくなって目の前に迫る半平太を見る事が出来ないままだ。
「・・・ゃ・・せんせ・・・」
「・・ん・・?・何が・・いや・・・?」
くすくすと愉しむかのように、半平太の指は肌に触れるか触れないかのところで、止まりながら以蔵の反応を待っている。その度に彼の身体はびくびくと反応し、何度も左右に跳ね上がっていった。
「まさか・・以蔵が女子を泣かすとはのう・・意外じゃった・・」
くすくすと笑みを含めながら耳元でそう囁かれ、ジンジンと頭が痺れて真っ白になっていく。その先にある顔は、なおも穏やかで優しいままだ。
「・・・せんせ・・」
くいっと半平太の袖を引く以蔵に、くすりと笑うと彼は以蔵の袴の帯をするりと解いた。
「・・・・・・・・そろそろ・・起きやったもんせ。以蔵さぁ」
以蔵がその声に反応し目を覚ます頃には、部屋はもうすでに真っ暗で、いつの間にか雨音も止んでしまっている。
「・・ん・・・?」
やけに肌寒く感じて、彼はゆっくりと起き上がった。と同時に、肌蹴ている自分の着物にも気がついた。
「・・・・・・・・・・」
何度も瞬きを繰り返す。髪をガシガシと掻きながら、彼は散乱している着物に手を伸ばすとゆっくりと袖を通していく。その様子を黙って見ている人物が隣にいる。新兵衛だ。
以蔵が袴の帯を締めなおしている様子を横目に見ながら、彼は開かれたままの格子窓に顔を向けた。
「雨・・・上がりもんしたなあ。以蔵さぁ」
「・・ああ」
「・・そん・・・腰は・・・・・・」
「・・・・・・・」
以蔵は何も言わず。新兵衛は格子の先を見ながら、あん人は加減を知らんから・・と呟いた後、黙した。
雨は上がり、澄んだ空気が部屋へと入ってくる。
同時に満月が薄闇に光る畳を照らしていた。
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