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黒羽織其の六 妖刀さがし
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以蔵はその時何も言わなかった。武市に反論できるわけが無い。
以蔵にとって武市半平太という男は絶対だったからだ。
何故、本間精一郎という人物を暗殺するのか。その理由を武市は以蔵には教えようとはしなかった。
ただ
「我々が振るうこの刀での暗殺は正しいものだ」
と、だけ言っていた事だけは確かだった。難しいことは分からない。
けれど新兵衛も、それには何も言わずに、ただ以蔵の肩をポンポンと叩いては
「不満じゃろうが、堪えてつかぁさい。以蔵さぁ」
と、言って、そのまま部屋を出ていってしまった。
ただ・・以蔵が立ち上がり部屋を出て行こうとした際に呟いた
「・・・わしは・・・・おまんを人斬りにしとうない・・・」
武市の声は悲しくも以蔵には、届かなかったのである。
「・・・・今日もよう晴れちゅう・・・・」
四条界隈を歩く。
空は快晴。
雲一つ無くジンジンと照りつける太陽が眩しい朝四つのことだった。
京の街は相変わらず人の往来が激しく忙しい。
皆が思い思いに働いては、動くその声が飛びかっている。
京の女たちも流行の着物や簪に身を包んでは優雅に道を歩いている姿がふと目に留まった。
居酒屋に入っていく者もいれば、茶屋の店先で団子を頬張る者もいる。
以蔵はその中を当ても無く歩きながら、ぼんやりと考えていた。
「・・・・・・・」
皆の顔は溌剌としていて生に満ち溢れている。自分といえば他から見れば、どんよりとした空気をそのままに俯いて歩く男にしか見えないだろう。
京に来たのだから、自分の身分が郷士だという事を後ろめたく感じる必要はないはずだ。
頭ではそう分かっている。ここは土佐ではないのだ。
しかし頭では分かっていても、染み付いた身分の壁というのはなかなか消えるものではなく
「わしは・・難しいことはなんちゃあわからんぜよ・・分かるように説明してつかぁさい・・・先生・・」
と、何度も武市に言いそうになったのを寸での一歩で止めるという事を、何度も繰り返してきたのも事実ではあった。
武市の前では何度も泣いた。以蔵は泣きっぽい男である。
感受性に富んでいるのか、根の素直さがそうさせるのか、嬉しくては泣き、悔しくても泣いた。
ボロボロと涙を流し、えぐえぐと泣きじゃくる以蔵に、武市は
「以蔵・・以蔵・・泣くなやぁ・・・もう・・仕様のない男じゃのう・・以蔵は・・。そんなに泣いちょったら・・子どもらぁに笑われるぜよ・・以蔵・・ほれ・・もーう・・堪忍しちょってくれ・・」
と、半ば呆れながらも剣術修行の旅をしている最中に、何度も武市に頭を撫でられては抱きしめられた事を思い出す。
それはまるで子どもをあやすように優しいものだっだが、以蔵にとっては満たされた時間だった。
武市に抱かれる今となっては嫌とは言えない。しかし、まるでこれでは・・・・。
不意に思う言葉を飲み込みながら暫くの間、彼は足を動かしていた。
「・・・・?」
目の前を歩く少年を見て不意に以蔵の足がピタリと止まった。
「・・・・・?」
首を前に突き出しながら止まる以蔵の眉間に皺が寄る。
「あの子・・・」
何て変わった目の色をしているのだろうと以蔵は思う。
あんな眼の色の人間は見た事がない。まるで紅のようだ。
一体何をすれば、あんな眼の色になるのだろう。
そんな事を思いながらも、人を軽く避けながら紙を見て歩く少年を見ていた。
その少年がこちらに向かって歩いてくる。
しかし当の本人は紙を見ている為、気付く様子はない。
不意に人の肩に押され、そのまま少年が以蔵の腹の辺りにポンッとぶつかったのは、それからすぐの事だった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
長い沈黙が続く。恐る恐る顔を上げた少年は、申し訳なさそうに以蔵を見ると、小さな声で「すみません・・・」と呟きながら頭を下げた。
以蔵にとって武市半平太という男は絶対だったからだ。
何故、本間精一郎という人物を暗殺するのか。その理由を武市は以蔵には教えようとはしなかった。
ただ
「我々が振るうこの刀での暗殺は正しいものだ」
と、だけ言っていた事だけは確かだった。難しいことは分からない。
けれど新兵衛も、それには何も言わずに、ただ以蔵の肩をポンポンと叩いては
「不満じゃろうが、堪えてつかぁさい。以蔵さぁ」
と、言って、そのまま部屋を出ていってしまった。
ただ・・以蔵が立ち上がり部屋を出て行こうとした際に呟いた
「・・・わしは・・・・おまんを人斬りにしとうない・・・」
武市の声は悲しくも以蔵には、届かなかったのである。
「・・・・今日もよう晴れちゅう・・・・」
四条界隈を歩く。
空は快晴。
雲一つ無くジンジンと照りつける太陽が眩しい朝四つのことだった。
京の街は相変わらず人の往来が激しく忙しい。
皆が思い思いに働いては、動くその声が飛びかっている。
京の女たちも流行の着物や簪に身を包んでは優雅に道を歩いている姿がふと目に留まった。
居酒屋に入っていく者もいれば、茶屋の店先で団子を頬張る者もいる。
以蔵はその中を当ても無く歩きながら、ぼんやりと考えていた。
「・・・・・・・」
皆の顔は溌剌としていて生に満ち溢れている。自分といえば他から見れば、どんよりとした空気をそのままに俯いて歩く男にしか見えないだろう。
京に来たのだから、自分の身分が郷士だという事を後ろめたく感じる必要はないはずだ。
頭ではそう分かっている。ここは土佐ではないのだ。
しかし頭では分かっていても、染み付いた身分の壁というのはなかなか消えるものではなく
「わしは・・難しいことはなんちゃあわからんぜよ・・分かるように説明してつかぁさい・・・先生・・」
と、何度も武市に言いそうになったのを寸での一歩で止めるという事を、何度も繰り返してきたのも事実ではあった。
武市の前では何度も泣いた。以蔵は泣きっぽい男である。
感受性に富んでいるのか、根の素直さがそうさせるのか、嬉しくては泣き、悔しくても泣いた。
ボロボロと涙を流し、えぐえぐと泣きじゃくる以蔵に、武市は
「以蔵・・以蔵・・泣くなやぁ・・・もう・・仕様のない男じゃのう・・以蔵は・・。そんなに泣いちょったら・・子どもらぁに笑われるぜよ・・以蔵・・ほれ・・もーう・・堪忍しちょってくれ・・」
と、半ば呆れながらも剣術修行の旅をしている最中に、何度も武市に頭を撫でられては抱きしめられた事を思い出す。
それはまるで子どもをあやすように優しいものだっだが、以蔵にとっては満たされた時間だった。
武市に抱かれる今となっては嫌とは言えない。しかし、まるでこれでは・・・・。
不意に思う言葉を飲み込みながら暫くの間、彼は足を動かしていた。
「・・・・?」
目の前を歩く少年を見て不意に以蔵の足がピタリと止まった。
「・・・・・?」
首を前に突き出しながら止まる以蔵の眉間に皺が寄る。
「あの子・・・」
何て変わった目の色をしているのだろうと以蔵は思う。
あんな眼の色の人間は見た事がない。まるで紅のようだ。
一体何をすれば、あんな眼の色になるのだろう。
そんな事を思いながらも、人を軽く避けながら紙を見て歩く少年を見ていた。
その少年がこちらに向かって歩いてくる。
しかし当の本人は紙を見ている為、気付く様子はない。
不意に人の肩に押され、そのまま少年が以蔵の腹の辺りにポンッとぶつかったのは、それからすぐの事だった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
長い沈黙が続く。恐る恐る顔を上げた少年は、申し訳なさそうに以蔵を見ると、小さな声で「すみません・・・」と呟きながら頭を下げた。
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