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黒羽織其の六 妖刀さがし
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「なんや、赤い目ぇしたけったいな餓鬼が目の前におって、こっちを見るもんやさかい、その隙に猫又が逃げてしまいよったんですわ」
「赤い目の・・餓鬼・・?・・」
「まさか・・・」
夜月と狐月が顔を見合わせながら同時に呟く。その声にうん?と兆斎の視線が向かった。
「なんや。ご存知やったんですか?」
「詳しくは知らないがな。・・・・・俺達の仲間だ」
「・・・仲間・・・?」
華月の表情が険しくなる。
「なんのつもりか知らねえが、お前と同じ闇夜のもんが、人間と一緒にいたんだよ」
狐月がガリガリと首の辺りを掻き、部屋の行灯の火は、ゆらりと揺れた。
「闇夜一族は今現在、俺と兆斎。そして父上の三名だけだと聞いていたが・・・」
ううんと華月が唸り、どこか納得のいかないといった表情で目線を畳に向けた。
「・・・どういうことだ・・・?」
「それ・・もしかすると・・・」
兆斎がううんと考えながら天井をジッと見つめている。
「なんだ?言ってみろよ」
華月が兆斎を見た。
「まがいもんとちゃいますやろか・・?」
「紛い物?」
「そうどす。純な闇夜のもんやったら、人間とやなんて一緒にいるわけありゃしまへんやろ?それか・・子飼いか稚児はんか・・・何よりも人間が我々に何をしよったなんて、言うまでもないですやろう?」
違いますか?そう言いながら華月を見た。
「確かにな・・だが決め付けるのは性にあわねえ。何よりもこの闇夜と天屋の休戦協定はいつまで続くんだろうな・・」
「出来る事なら、戦は避けたい。それが天屋の意思だ」
夜月が言う。
「こっちだって、同じ妖怪同士で争いごとだなんて望んでねえよ・・ただな・・」
そうまで言って華月は黙った。
「・・・・・卯月はんの事ですか?」
兆斎の声に黙って頷く華月の脳裏に、父である卯月の背が映し出される。
「俺は父上に架せられた呪を解いてやりたい。いつまで煮え湯を飲ませれば気が済むんだ・・っ・・・鬼の奴らめ・・・」
握りしめた拳がギリリと唸る。肉に食い込んだ爪を見てか、兆斎が華月の腕にそっと手を添えた。
「・・兆斎」
「人間は・・嫌いや・・」
「兆斎さん・・・」
葉月が呟く。
「なんでもかんでも邪魔や邪魔やと除けもんにしよる・・あの狩りでどれだけの一族の女子はんらが犯られたと思うとるんじゃ・・もう無茶苦茶や・・・酷いやなんてもんやない・・・」
「・・・それは・・・天屋も孤も・・同じだ・・・ここの女たちだって・・・」
狐月が立てていた片膝に顔を押し付ける。
「しまいには・・父上までも・・」
華月の目が、暗く澱む。
過去に消えたはずの悲鳴と硝煙が、燻るように華月の足元にすり寄ってくる。
「・・・いつか・・我々が天下を取る・・・人間なんぞに負けてたまるか・・・!」
そう呟いた兆斎の拳は、静かに揺れていた。
「兆斎・・・」
皆の声が一瞬重なる。しかし、その先は誰も話そうとはしなかった。
その沈黙が華月によって破られたのは、数秒経っての事だった。
「それにしても・・」
「?」
「・・その餓鬼・・気になるな」
「・・ほぉう・・華月はんにしては珍しい」
「・・ん?・・どういう意味だ?」
「なああんでも」
そう呟いた兆斎の顔は物珍しいと言わんばかりの表情で笑っている。
「さて、ほいじゃあ、ちょいと別嬪さんらに相手してもらおかな」
「・・え・・?」
るんるんと浮き足立つ兆斎のその声に、華月の眉間の皺が濃くなった。
「なぁなぁ。夜月はん。君形はん・・空いてますやろか?」
「申し訳ないが・・君形は太夫で・・」
少々、申し訳ないと言った表情で夜月が兆斎を見た。
「ああ。そうどしたなあ。ここ島原は太夫の床入りはご法度でしたな」
「でも、兆斎さんなら、君形は床に入るんじゃないかな」
葉月が夜月を見る。
「ああ。ええって。ええって。太夫に床入りをさせるやなんて、この闇夜の血が許しまへんわ。ほな、それやったら、浦直か鈴白は空いてますやろか?君菊もええんやけど、あいつ性格がきっつうてなぁ、なんや合わんのですわ」
「ああ。それでしたら、浦直が丁度手すきです」
紙を手に話す夜月の声に、ああと頷くと兆斎は華月を見た。
うん?と首を傾げる彼に
「どうです?華月はんも」
「俺はいい。好いた女以外は興味が無い」
「まあ。・・おなごを知らん華月はんらしい・・・でも・・君形は、ほんまにええ女ですわ。夜月はん。わしが、もうちいっとだけ偉いさんやったら間違いなく身請けします。ほんで隠居や」
「兆斎さん・・・」
葉月の呟く声に、ふっと兆斎が笑う。その表情は猫のようである。
襖が開かれ、迎えの禿に連れられて兆斎の姿が廊下へと消えていく。ひっそりと静まり返る室内に兆斎の衣に忍ばせた残り香がふわりと匂った。
「なんだか変わった奴だ」
狐月が言う。
「・・・・赤目か・・・」
格子戸に腰を下ろしたまま華月が見上げた空は暗く、星がいくつも光っては消えていった。
「赤い目の・・餓鬼・・?・・」
「まさか・・・」
夜月と狐月が顔を見合わせながら同時に呟く。その声にうん?と兆斎の視線が向かった。
「なんや。ご存知やったんですか?」
「詳しくは知らないがな。・・・・・俺達の仲間だ」
「・・・仲間・・・?」
華月の表情が険しくなる。
「なんのつもりか知らねえが、お前と同じ闇夜のもんが、人間と一緒にいたんだよ」
狐月がガリガリと首の辺りを掻き、部屋の行灯の火は、ゆらりと揺れた。
「闇夜一族は今現在、俺と兆斎。そして父上の三名だけだと聞いていたが・・・」
ううんと華月が唸り、どこか納得のいかないといった表情で目線を畳に向けた。
「・・・どういうことだ・・・?」
「それ・・もしかすると・・・」
兆斎がううんと考えながら天井をジッと見つめている。
「なんだ?言ってみろよ」
華月が兆斎を見た。
「まがいもんとちゃいますやろか・・?」
「紛い物?」
「そうどす。純な闇夜のもんやったら、人間とやなんて一緒にいるわけありゃしまへんやろ?それか・・子飼いか稚児はんか・・・何よりも人間が我々に何をしよったなんて、言うまでもないですやろう?」
違いますか?そう言いながら華月を見た。
「確かにな・・だが決め付けるのは性にあわねえ。何よりもこの闇夜と天屋の休戦協定はいつまで続くんだろうな・・」
「出来る事なら、戦は避けたい。それが天屋の意思だ」
夜月が言う。
「こっちだって、同じ妖怪同士で争いごとだなんて望んでねえよ・・ただな・・」
そうまで言って華月は黙った。
「・・・・・卯月はんの事ですか?」
兆斎の声に黙って頷く華月の脳裏に、父である卯月の背が映し出される。
「俺は父上に架せられた呪を解いてやりたい。いつまで煮え湯を飲ませれば気が済むんだ・・っ・・・鬼の奴らめ・・・」
握りしめた拳がギリリと唸る。肉に食い込んだ爪を見てか、兆斎が華月の腕にそっと手を添えた。
「・・兆斎」
「人間は・・嫌いや・・」
「兆斎さん・・・」
葉月が呟く。
「なんでもかんでも邪魔や邪魔やと除けもんにしよる・・あの狩りでどれだけの一族の女子はんらが犯られたと思うとるんじゃ・・もう無茶苦茶や・・・酷いやなんてもんやない・・・」
「・・・それは・・・天屋も孤も・・同じだ・・・ここの女たちだって・・・」
狐月が立てていた片膝に顔を押し付ける。
「しまいには・・父上までも・・」
華月の目が、暗く澱む。
過去に消えたはずの悲鳴と硝煙が、燻るように華月の足元にすり寄ってくる。
「・・・いつか・・我々が天下を取る・・・人間なんぞに負けてたまるか・・・!」
そう呟いた兆斎の拳は、静かに揺れていた。
「兆斎・・・」
皆の声が一瞬重なる。しかし、その先は誰も話そうとはしなかった。
その沈黙が華月によって破られたのは、数秒経っての事だった。
「それにしても・・」
「?」
「・・その餓鬼・・気になるな」
「・・ほぉう・・華月はんにしては珍しい」
「・・ん?・・どういう意味だ?」
「なああんでも」
そう呟いた兆斎の顔は物珍しいと言わんばかりの表情で笑っている。
「さて、ほいじゃあ、ちょいと別嬪さんらに相手してもらおかな」
「・・え・・?」
るんるんと浮き足立つ兆斎のその声に、華月の眉間の皺が濃くなった。
「なぁなぁ。夜月はん。君形はん・・空いてますやろか?」
「申し訳ないが・・君形は太夫で・・」
少々、申し訳ないと言った表情で夜月が兆斎を見た。
「ああ。そうどしたなあ。ここ島原は太夫の床入りはご法度でしたな」
「でも、兆斎さんなら、君形は床に入るんじゃないかな」
葉月が夜月を見る。
「ああ。ええって。ええって。太夫に床入りをさせるやなんて、この闇夜の血が許しまへんわ。ほな、それやったら、浦直か鈴白は空いてますやろか?君菊もええんやけど、あいつ性格がきっつうてなぁ、なんや合わんのですわ」
「ああ。それでしたら、浦直が丁度手すきです」
紙を手に話す夜月の声に、ああと頷くと兆斎は華月を見た。
うん?と首を傾げる彼に
「どうです?華月はんも」
「俺はいい。好いた女以外は興味が無い」
「まあ。・・おなごを知らん華月はんらしい・・・でも・・君形は、ほんまにええ女ですわ。夜月はん。わしが、もうちいっとだけ偉いさんやったら間違いなく身請けします。ほんで隠居や」
「兆斎さん・・・」
葉月の呟く声に、ふっと兆斎が笑う。その表情は猫のようである。
襖が開かれ、迎えの禿に連れられて兆斎の姿が廊下へと消えていく。ひっそりと静まり返る室内に兆斎の衣に忍ばせた残り香がふわりと匂った。
「なんだか変わった奴だ」
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