黒羽織

四宮

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黒羽織其の六 妖刀さがし

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「・・・犬飼は?あいつも良く知る仲じゃないのか?」
「・・・先生に頼めると思うかい?先生には、指南の後の始末を頼んでる」
「・・・・いい表情かおしなかっただろ?」
「ああ。でも信頼できる医者と言やあ、先生しかいないからねえ」
「・・あえて悪役を買って出る・・か・・」
「・・仕方ありませんな。気は進みませんが受けましょう。その話・・」
と言いかけて、兆斎はふと疑問に思った事を口にした。

「ところで・・指南役て言いましたけど、ワシらは何をすればええんですか?」
「ああ。それはな・・」
それから、その行為が暗黙の了解のもとで行われて数年が経過した。
これまで沢山の娘を見て来たが、皆が皆、同じ反応だったような気がする。
だが、初通す数をこなすのは此方も同じ。
項垂れて、拒んで。叫んで。殺意と恐怖の目を向けられても、失敗した時の事を考えれば、こちらとて引く事も出来ない。
力の入らない手で掴まれていた腕も。腕に食い込んだ爪が肉を通しても。
こちらが引かないと分かると、最後には、どの娘も目に暗い影が伸びて観念したように、だらんと力を失ってしまう。嗚咽の上で、女を抱くのはもう何度目になるのだろうか。
そんな事を、華月は思う。耳にこびりついた嗚咽も、拒む悲鳴も。その表情も。
全て飲み込んで、お抱え医師の犬飼に支えられて、泣く娘の背を見るしかないのだ。

『ここの女達は、強ぇえなあ・・・』
顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくる狐月の表情が、ふと浮かぶ。
そうして。狐月にはという本当の理由も、少しばかり理解できたような気がした。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
短い沈黙が続く。目の前を、ひらひらと先ほどとは違う種の羽虫が数羽、並ぶように飛んで行った。
それにしても、どうにも引っかかるのは兆斎の方だ。
今日の兆斎は普段よりも冗舌で。逆に華月は、それが気になって仕様がなかった。
隣を歩く兆斎にちらりと視線を向けてみるも、彼は相変わらず飄々とした態度で時折、鼻歌を交えながら歩いて行く。
そんな彼を見て、ますます華月は首を捻った。

『何故、今日のこいつはこんなにも機嫌がいいんだ・・?』
と、華月が不思議がっているのを知ってか知らずか、兆斎は不意に立ち止まると、生い茂る木々をただジッと見つめ続けている。
「・・どうした・・?」
ぺろりと舌なめずりをしながら、目を見開いた兆斎が「くけけけ」と笑いはじめる。
そうして目を大きく見開いたまま、華月を見た。
その表情は長年共に過ごしている華月でさえも、ぞくりと背筋が凍るほどの異彩さを放ち、口からは牙が生えていた。

「・・・・そうか・・ここか・・」
華月が呟くと同時に地面が揺れる。
ぐにゃりと揺れた先はアリ地獄のように先が細く奥の方まで見ることが出来ない。
二匹の身体もまた、ふわりと宙に浮いたままだ。
二匹は何も言わずにそのまま、闇の待つ先へと落ちて行ってしまったのである。

地面に足が着いた二匹を待っていたのは先ほどとは違う光景であった。
目の前に赤い鳥居が見える。その鳥居は年期がかかって、やや褪せていたが、その先に見える社は神々しい光を放っているように見える。
「・・・・・・・・・・・」
二匹は、妙な気配を感じながらも、眼前に立つ一匹の青年に視線を向けた。

背の高さは華月よりもやや高いくらいだろうか。
着流し姿の若者の褐色の肌には、いくつもの古傷が痕を残し、袈裟懸けに抉られたような顔の刀傷がどこか痛々しい。
伸ばしきった髪はそのままに、無駄な贅肉のない逞しい肉体を着物に巻きつけているその様は、女性ならばほうっと見惚れる姿に相違ないだろうが、迎え撃つ相手は同じ男である。
二匹は持っていた武器を手にして構えると、男を見た。

男は腰間の刀には触れずに一律不動のまま、此方を見ている。
じりじりと足元の砂が揺れた。
「久しいのう。猫目野郎」
兆斎が目を見開いたまま、男を見ている。
男もまた何も話すことなく視線を受け止めた。

二匹の間に戦慄が走ったその時、頭上から何かがものすごい速さで落ちてくるものが見える。
不意に、華月が構えていた紅色の長棍を振り回した。それは見事にバタバタと落ちてくるものに触れ、それを打ち落としながら器用に長棍を振り回していく。
華月の棍棒術の腕は確かなもので、側にいる兆斎でさえも見惚れるほどに、その動きは舞うように速かった。
とんっと地面に足が着く。と、同時に遠心力でグルンと回った棍棒が、落ちてくる相手の腹部に直撃するやいなや、それをすり抜けて別の者の頭部へわき腹へと、一直線へ突き出した。

前へ、後ろへ、横へ、斜めへ。舞うように華月の足は飛び跳ねてはグルンと回り、地面へ着いていく。打った相手の背中を踏み台にして飛び上がり蹴落とすと、今度は左右に棍棒を揺らして、落ちようとする者を片っ端から討ち果たしていったのだ。

木の枝に止まり、不意に背後から気配を感じ取ると、腕は長棍を手にしたままビョンッと飛び降り、クルンクルンと横方向に回っては何度も左右に打ち出し、正面背後へと勢いをつけながら素早く突いて出た。
同時に緑の落ち葉がサワサワといくつも舞い上がる。
動きは速く、舞うように踊りながら相手の身体と頭を潰していく華月の腕も、長棍と同じように紅色に染まっていく。
「これはこれはご大層な歓迎。恐悦至極に存じ奉り候」
にやりと笑うその頬に返り血がつたう。一筋の赤い水滴が顎の下へと滑って行った。
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