黒羽織

四宮

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黒羽織其の六 妖刀さがし

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「もう、その辺になされませ」
華月の足が地面についた頃、奇襲をかけようとしたのだろう。
数にして二・三十はいたと思われる頭上からの攻撃部部隊の男達は皆、華月によって絶命してしまった後だったのだ。

高く透き通るようなその声に兆斎と華月の動きがピタリと止まる。
そこには着物に身を包み包帯を顔にぐるぐると巻いた姿の少女が、ひっそりと佇んでいる姿が見えた。だが、その者の姿にギョッとしたのは華月の方だった。

片足と片腕がない。一体この者の身体はどうなっているのだろう。
やめておけばいいのにと頭では分かっているのだが、無意識に視線は少女へと向かってしまう。
失ったのであろう片足の先からは、木の棒で造った義足が見えた。
着物の袖から出ている手は片方しかなく、その隣の腕はというと、だらんと肩から先が細くなっている。
顔に巻かれた包帯からは、瞼の無い片目がぎょろりと見えた。

「・・・舞矢」
褐色の男が口を開く。
「もう・・おやめなされ。闇夜の方が我らを狙うはこれ如何に」
「何故・・・?面白いことを問われますな。姫」
くけけと笑いながら、兆斎が少女を見た。
声は笑っているが、その顔は笑ってはいない。
「猫又を現世に放つは何事か」
「猫又を放つことと、この闇夜の訪問と、どう関係が御座いますのか・・まずはそれをお聞かせ願いたい」
舞矢と呼ばれた少女が、兆斎と華月を見る。
その溌剌とした声に怯えは無かった。

「俺の父上が大層お怒りのご様子。理由を問いただしてみれば、冥府殿に来られる全ての魂が生気を抜かれたまま、彷徨った状態で身動きが取れぬと申す。抜け殻のままでは冥府に送ること叶わず。この事態を引き起こしたるや何事かと思いまして、現世に向かってみたところ、その原因を作られたるはそちらの一族が放った猫又であることが分かり、まずは猫又の暴走を止めて頂きたく、このように参上仕った次第に御座ります」
「ほほう・・卯月殿が・・」
ほほほと袖で口元を隠しながら、妖艶な笑みを浮かべる舞矢はニコリともしない。
なんとも薄気味の悪い女だと華月は思った。
「ほほほ・・猫又一匹で狼狽なさるとは・・・闇夜の一族も耄碌もうろくされましたなあ」
「なに・・・?」
ぴくりと華月の腕が動く。

「まるで暴れる馬のごとく駆け抜ける鬼神の一族が、たかが一匹の妖怪に手こずっておられるとは・・・ほほほ・・愉快愉快」
「・・・・・」
ぎりりと唇を噛みながら華月が押し黙っている。
闇夜の者にとって、これ以上の屈辱はない。その事を分かって敢えて口に出しているのだから、不愉快きわまりない言動である。
さすがの華月も、これには堪忍袋の緒が切れた。

「貴様・・・我々を愚弄するも大概にして頂きたい」
華月の声が一層低くなる。
「丁度いい機会だ。闇夜の者を相打ちにして我らが天下を頂きましょうぞ!」
二匹を取り囲むように、バサッと背後から声が響き、軽く百を超えるだろう数の男たちが姿を現した。
「まだこんなにいたのか・・」
ビリビリと緊張感が走るその場を破ったのは、兆斎の静かな声であった。
「・・・なあ。華月はん」
「何だ」
「ちょっとお願いがありますねん」
「時世の句なら後にしてくれ」
「ここは・・わしにまかせては貰えませんやろか」
「何?」
「わしなあ・・ずっと思ってた事がありますのんや・・」
そう呟く兆斎の声は珍しく真面目で、華月は構えていた長棍を下ろすと、目の前にいる兆斎を見た。

彼は振り返ることなく背を向けたまま、微動だにしていない。
「・・大丈夫なんだな」
「はい。すぐに追いつきますよって・・ちょっと時間をもらえませんやろか」
「・・ここで待っていてやる。好きにしろ」
「ええんですか?」
「構わねえよ」
「恩に着ます。ほな」
それだけを言うと兆斎は、華月から離れるように静かに一歩、また一歩と歩いて行く。
そうして手にしていた牙の如く先の尖った武器を持ち直すと、一瞬にしてその武器はじゃらりと鎖に変わり、兆斎はその鎖を鞭のようにバシンと叩いては「唸れ!蛇口牙ジャコウガ!」と叫びを上げたのだ。

その瞬間、それは蛇のように長くウネウネと飛び上がり、蛇の口のように尖った牙がまるで獲物を見つけたかのように、周囲を取り囲む男達を一瞬にして食い漁り始めたのである。
それは生きた蛇のように動き、同時にギャアアァアッとおびただしい悲鳴の波を作り出していった。
その真ん中で腰間の刀に手をかけた兆斎は、素早く刀を抜くと少女に向かって斬りつける。しかしその刹那、それを守るように褐色の男が前に出た。

その男も同じように刀を手にしている。ガチガチと互いの刀が何度もかち合い、ぶつかっては離れ、ぶつかっては離れていった。
「リイヤ・・」
ギリリと目を見開いた兆斎の目は、猫のように大きくなり、口からは牙が出ている。
「兆斎・・」
リイヤと呼ばれた男も兆斎から視線を逸らすことなく、兆斎の刀を押し返そうと腕に力を込めると、兆斎もまた同じように腕に力を込めた。
ガタガタと刀が交わって腕が揺れる。
「同じ猫目一族のお前が何故、我々につかず闇夜に行く!?」
ガキンと一際大きくうねった刀が兆斎の腕を弾き飛ばす。と同時に宙を舞う刀の持ち手を素早く変えた兆斎が刃先を下にしたまま、リイヤの肩に向かって袈裟がけに斬りつけたのは、それからすぐの事であった。
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