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黒羽織其の六 妖刀さがし
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しおりを挟む「・・・・・・・う・・・ぐ・・」
――――――――・・・こえが、きこえる。
「・・・・・っ・・・っあ・・」
―――――――・・どこか、くぐもったような、へんなこえがきこえてくる・・・。
「・・・ままで・・・ざん・・らしてくれたよなぁ」
―――――――・・・だれかが、なにかをはなすこえがする・・・。
「・・ら・・・ちゃんと・・・わえてろよ・・」
「・・う・・ぐ・・・」
―――・・ん?・・・???
「ら・・へばってんじゃねえよ!」
――――――・・・・・・・ん?????
声と共に響くのはくぐもったような鈍い声と、ぐちゅっと響く粘着質の妙な音。
荒い息遣い。下卑た笑い声。悲鳴にも似た妙な呻き声が遠くに聞こえる。
―――――・・・んんん?????????
「・・っら、孕めよ!」
・・・笑い声と共に一際大きな悲鳴が、耳に届いた。
その声に遠かったはずの視界が、段々とぼやけて見えてくる。
白い幕がかかったようなその眼の先に見えたもの。
その視界の先に見える景色に、兆斎の全身がガクガクと震えはじめる。
じんじんと痺れたような痛みを確かに感じながら、瞬きひとつ出来ぬまま、前を見た。
「・・・・・・・・・・・・」
・・・そこからは、もう無茶苦茶だった。
カッと全身が沸騰したように熱くなる。頭を殴られた衝撃を振り払うように、ガバッと立ち上がると姉に群がる男たちに向かって行ったのはそれからすぐの事だった。
男たちに代わる代わる殴られ蹴られながらも、兆斎は何度も向かって行った。
髪を千切られようが何度も噛みつき、その度に蹴られたとしても、そんな事はどうでも良かった。
羽交い絞めにされながら殴られるその度に、揺れる姉の髪が見えた。
その度にカッと熱が上がり、何度も立ち上がって男の腕に噛みつく度に、男の膝が兆斎の腹部を容赦なく蹴り上げる。
「おらっ!そんなに見てぇなら見せてやるよ!」
そう言いながら、頭を何度も踏まれたとしても。足や腕を折られたとしても。
『ちぐしょう・・・ちぐしょう』
と、何度出せない声を繰り返したか知れない。
そこにあった感情。それは悔しさだけだった。
「残念だったなぁ・・坊主」
「・・う・・」
その時、自分を羽交い絞めにしていた男の腕が、だらりと落ちた。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
焦げて割れた木の破片が散らばる視界の先に、ずるずると何かを引きずるように歩く影がそこにはあった。
それは、だらんとした腕で誰かが何かを背負って歩いている光景だった。
片足を引きずりながら歩く影が、やがてふたつに重なったのはそれからすぐの事で。
兆斎は焦げた木材を杖代わりに、息絶えた姉の躯を背負って、ただ歩いた。
砂埃に混ざって、どこか生臭くもある甘い花の残り香が何度も突き刺さるように匂ってくる。地面を見ればこと切れた亡骸がそこかしこに並んでいた。
「・・・・・・・・・・・・」
殴られて腫れあがった視界の隙間を縫うように、ふと前を見る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
自分よりもひとまわり大きな体の少年が、刀を肩に乗せたまま歩いて行く。
歩く速度を兆斎に合わせてくれているのか、その足取りは酷くゆったりとしたものに見えた。
裂かれた着物から覗かせる肩甲骨から腰に掛けて袈裟懸けに斬られた生々しい傷跡から、どくどくと流れ落ちる赤い血は、止まることなく少年のふくらはぎを通り、やがて土をも染めていった。
それを見て兆斎は何かを告げようとしたのだが、何と言って良いものか分からず、何も話すことが出来なかった。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「おい」
不意に前を歩く少年が振り返ると、後ろを歩く兆斎を見た。
その声に、無意識に兆斎の身体がびくりと強張る。
「・・・・・・・・・・」
歯をガチガチと鳴らしながら、どこか怯えた様に顔を上げた兆斎が見たもの。
それは――・・
「・・よく頑張ったな」
手を伸ばし兆斎の頭を優しく撫でる少年の笑顔だった。
「・・・・・・・ぅ・・・・・・・・・」
その表情に。その声に。張りつめていた糸が解けるように、兆斎の視界がぶわりと歪む。
「う・・・ぐ・・」
少年は軽くため息を吐くと、えぐえぐと泣きじゃくる兆斎の顔を自身の胸に押し付けた。
「・・見つかって、良かった」
少年はそれだけを呟くと、心から安堵したと言わんばかりの溜息をまた吐いたのである。
それから、少年は自らの名を『闇夜 華月』と名乗った。
兆斎は
「僕は闇夜やない。猫目やねん・・」
と、言いかけたのだが、華月はそれを耳にした後に
「ばっかだなぁ・・こうなっちまったらもう、闇夜も猫目も関係ねえよ」
と言ったきり、何も話さなかった。
ただ
「姉ちゃんの体。せめて川で洗って綺麗にしてやろうぜ」
と、そう話しただけであった。
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