黒羽織

四宮

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黒羽織その伍 顔なし女

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辺りは暗く、気がつけば五条に向かっていたらしい。
四条橋を捜そうと歩きながら鉄心は先ほどの掛け軸を思い出していた。
「家の者は皆、気味悪がってこの掛け軸は呪いだ何だと言っています。ですが、私には気味が悪いとは思えないのです。むしろ・・・このような姿にされてしまって・・・不憫でなりません・・・」
「出来る事なら・・・無くした顔を・・・か・・・」

四条橋を通り、四条通りを歩きながら源太が呟く。
誰かが何の目的で、どうやってその女の首を刎ねたのだろう。
分からない事だらけだと思いながら、暗い道を歩いた。
                 
「首の無い掛け軸だぁ?」
ぶほっと飲んでいた味噌汁を噴出しながら才蔵が顔をしかめた。
安静が必要と言われていても安静にしているはずの無い才蔵は、床から出て皆と一緒に食事を取っている。片手しか動かせないので本人はやや不満そうにしているが、寝ているよりは動く方が性に合っているからと篤之進の許しを得て、こうして過ごしているのだ。

「しかし不思議な事もあるものだなあ」
雫の作った大根の煮物を口にしながら、篤之進はのんびりと口を開いた。
雫の味付けは才蔵に比べるとやや薄味だと思う。
煮物もそうだけれど、どこか味が薄い気がする。
でも嫌いじゃないと思いながら、鉄心は湯気の香る味噌汁に口を付けた。

「掛け軸かぁ・・・」
ふと、才蔵の後ろの壁に視線を向けた。
才蔵が箸を源太の皿に突っ込もうとしているのを、彼に咎められている声を耳にしてふと思う。
昨日と何も変わらない、その穏やかな日々の中に、その掛け軸が飾られていたとしたら?
ちゃんと首から上の顔があって、その表情が穏やかなものであったとしたら?

「見つけてあげたいとは思うけれど・・・でもどうやって?」
「ん?どうした?食わねえのか?」
「へ?」
才蔵の声にふと我に返る、そこには首を傾げながら不安そうに眺める丁と、不思議そうに眺める才蔵たちの顔があった。
「ああ、いえ・・・ん?」
ふと自身の側に置かれていたはずの箱膳に視線を向ける、と、そこには空になっていた皿に三つほどの大根の煮物がちょこんと置かれていた。

「あれ?」
「余計なこと考えてないで食え」
「えっあっあっありがとうございます」
ふんと鼻を鳴らしては、あさっての方向に視線を向ける才蔵にお礼を言いながら、鉄心は急いで茶碗の中の飯を平らげることにした。
まずは何よりも食べなくては。

「慌てて食うなよぉ。また咽せるぞ?」
はははと笑う源太たちの声に嬉しくなりながら、鉄心はただ箸を動かしていた。


「・・・ん・・・?」
二日後の深夜、何かが動く物音で鉄心の瞼が動く。
ぎしい、ぎしい、と軋む音がする。
行灯の無い暗い部屋。
障子戸に伸びた才蔵の影に、鉄心は飛び起きて影を見た。

「才蔵さん?」
「起きたか・・・」
彼の片腕には妖刀、柳眉絶佳が握られている。
何時の間に目が覚めたのか、彼は障子戸から少し離れた場所で刀を構えたまま、ジッと前を見ているようだった。
才蔵の緊張が直に伝わって、鉄心も枕もとにあった妖刀に手を伸ばした。
膝を折ったまま構える。

「こっちに来る」
その声に鉄心の喉がごくりと音を立てた。
ぎしい、ぎしい、ゆっくりと近付いて来る足音。
二人は障子戸に視線を向けたまま、呼吸を止めた。
「来るぞ・・・」
閉めたままの障子戸をすり抜けるように蒼白い光がすうっと入ってくる。

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